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コンクリートジャングルオブハザード  作者: バッド
14章 北海道に行こう

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226話 おっさん少女の避難民暮らし

 そよそよと風が部屋に入ってきて、夏になったら風鈴があるとチリンチリンと鳴って風情があるだろうなと、淡い微笑みを見せて謎の避難民なマヤと言い張る少女は思った。


 数日間暮らしてわかったことと、わからなかったことが随分増えたので、下々の者の暮らしがわかりましたねと、城を抜け出したお姫様気分の少女である。


 ショートヘアは艷やかで綺麗な黒髪で、眠そうな目も宝石のような美しさをもち、桜の色の小さい唇と可愛らしい顔だちは皆が振り向くだろうし、小柄な子猫を思わせる身体は母性本能を喚起させて、頭を撫でても良いですか?と思わず人々が尋ねるレベルの美しい少女なので、お姫様でも間違いはない。


 おっさん?なんのことかわかりません、なにしろ謎の避難民なので。謎の避難民はおっさんから避難してきたに違いない。きっとそうに違いない。


「この間やった仕事は一番安い仕事だったんだね〜。あの学生たちもいつもあれをしているわけじゃないのね」


 この間やった格安仕事を思い出して呟きながら苦笑する。あれは最低額の仕事だったらしく、滅多にないらしい。なんだ、同情して損したよと唇を尖らせてブーブーと文句を言う可愛らしい少女。いったい何者なのだろうか?


 あれよりは全然マシな仕事を何回かした避難民の少女は、といやっと冷蔵庫を片手で持ち上げようとしてはサクヤに力持ちすぎですと注意されて、力がなさすぎて持てないですとノートパソコンを持ち上げられない演技をして、それは力が無さすぎですとナインに教えられたので、周りに疑われないという奇跡的な数日間を暮らしていたのだ。


 しばらくは大嵐になりそうな奇跡的な数日間であった。


 そろそろ夕闇が落ちてきて、夕飯を作らないとなぁと、てってこと歩いて団地を出ると、伏美さんの家族と出会った。


「こんにちわ、伏美さん。お出かけですか?」


 ニコリと微笑んで首を可愛らしく傾げながら尋ねる少女。


「えぇ、今日は夫が物資調達で実入りの良い物を見つけてね。そのお金で少しだけ贅沢しようと思って。なにしろ崩壊後から苦しい生活だったから」


 伏美さんの表情はこの間より穏やかで、その家族も顔色が良かったので、ここの生活が安全で安心できるものだと思い始めたのだろう。


 その幸せそうな姿に嬉しくなり、ニコニコと微笑んでパンと両手を顔の前で叩いて、返事をする。


「それは良かったです。この間より不安感が少なくなってきたんですね。幸せそうな様子で私も嬉しいです」


 ニコニコ笑顔の少女に伏美も癒やされて、この娘は崩壊後の苦しい生活を乗り越えてきたのに、優しい心を忘れない、とても良い娘なのねと微笑む。


「どうかしら、マヤちゃん。貴女も一緒に外食しない? ご馳走するわよ?」


 マヤちゃんって、誰かな? 私の後ろにいるのかなと後ろを振り向く少女。もう自分の名前を忘れた模様。


「ご主人様! ご主人様のことですよ! そう名乗りましたよね?」


 ハッとサクヤのツッコミに驚く少女。このままだとマヤちゃんって誰ですかと伏美に尋ねる勢いだったので、そのツッコミに安堵する。


「いえ、家族水入らずに入る程、野暮ではありませんよ。私も行きつけの店に行きますので」


 数日間しか住んでいないのに、行きつけの店にと言ってしまうフォローのしがいがないアホな少女がそこにいた。


「行きつけ?」


 首を傾げて不思議そうに疑問を返す伏美に、これはまずいと慌てて返事をする少女。


「いえ、美味しそうなおでん屋さんを見つけたので、行きつけの店にしたいなぁとおもっただけです。テヘへ」


 失敗失敗とペロリと小さく舌を出して、恥ずかしがる少女の言葉に納得して頷く伏美は


「あら、それじゃ、そのおでん屋さんに案内してくれるかしら? お礼にご馳走するから」


 この娘の愛らしさと優しさをすっかり気に入って、お誘いして、子供たちも少女の袖を引っ張りながら


「行こうよ、マヤちゃん」

「一緒にいこ〜」


 と愛らしく誘ってくるので、断りきれなかった少女である。



 ガヤガヤワイワイと騒がしいおでん屋さんの前で、少女はゴクリとつばを呑み込んで、緊張の汗を額にかく。大丈夫、バレない筈だと信じて、そぉっとガラス扉をガラガラと開けると少しの熱気が店から感じられて


「いらっしゃいませ〜!」

「いらっしゃいませ」

「ん、いらっしゃい」


 と三人娘の元気の良い掛け声がかけられる。


 伏美の家族は店を見て、値段を確認して驚く。


「ここ、他のお店よりも少し安いわね。美味しいのかしら?」


 テーブルへどうぞ〜と案内されるので、五人でぞろぞろと座って、見たメニュー表の金額はたしかに安いかもしれない。


「ここはレキちゃんの店だから、ちょっと仕入れ先が違うんですよ〜」


 トントンとお冷やをテーブルに置きながら晶が快活そうな笑顔で教えてくれる。


「レキちゃんって、救世主って呼ばれている娘よね? そんな娘がお店を?」


 不思議そうな表情で尋ねる伏美にウンウンと頷く晶。


「あはは、彼女は普通の優しい女の子ですよ。救世主って呼ばれると困るんじゃないかなぁ? あ、それと凄い可愛らしい美少女です」


「へ〜、私たちは見たことがないのよ。そんなに美少女なの?」


「きっと見たらすぐにわかる可愛らしい娘ですよ」


 チャカチャカとおでんを用意しながら穂香が優しい笑顔で教えてくれる。


「エヘヘ、そんなに可愛らしいですかね? たしかに可愛らしいですけど、褒め過ぎですよ」


 謎の避難民の少女が頭をかきながら、てれてれと照れる。


「見たらわかるよっ! そんでご注文は何にしましょうか?」


 なんで照れてるのかなと晶は疑問に思ったが、たいして気にせずに声をかけてくるので、皆は久しぶりの外食を楽しむべく注文をするのであった。


 注文してきたおでんをパクついて伏美たちは驚きながら感想を述べる。


「わぁ、美味しいわね。安いうえに美味しいなんて凄いお店ね」


「ありがとうございます。レキちゃんに習った作り方で作っているんですよ」


 穂香がお淑やかに言って、避難民の少女はドヤ顔で胸をはって答える。


「むふふ、秘伝の教えなので美味しいのです。なにしろ料理レベル2の創り方を真似ていますからね!」


「マスター! そこで発言してはいけないですよ!」


 ナインの言葉に、またもやアワワと小さいおててを口にあてて慌てる少女。


「そういう噂を聞いたんです。私はレキちゃんのファンなので……」


 かなり苦しい言い訳だが、伏美さんたちはクスクスと笑って頷いて納得した。アイドルのしていることを知っているミーハーな娘と思ったのだ。


 しかし、その発言に違和感を感じたのは伏美だけでは無かった。ここには三人娘もいたのであるかして。


 ジト目になり、晶が少女の顔を覗き込もうとするので、サッと顔を背けると、反対側にリィズがいて少女を見ていた。


「ん、ずるい! 妹はなにか楽しそうな遊びをしている! リィズも遊びに加えて欲しい!」


 フンフンと鼻息荒く尋ねてくるので、慌てた少女はリィズと晶へとこっそりと伝える。


「今の私は避難民のイチイマツマヤなんです。避難民目線で色々調べているので、気にしないでください」


 ほぉほぉと悪戯そうに笑う晶は頷く。


「あとでなにをしているか教えてよね、閉店後で良いから」


 リィズは椅子を持ってきて、フンスと鼻息荒く座り


「ん、私は避難民の少女の姉。今合流を…」


「はいはい、リィズちゃ〜ん。お仕事をしましょうね〜」


 ズルズルとリィズは晶に引きずられるのであった。



 おでん屋を出て、小柄な身体で、可愛らしくペコリと頭を下げて少女は伏美にお礼を言う。


「おでん、ありがとうございました。このお礼は必ずしますね。笠地蔵の地蔵のようにお礼をしますので」


「ふふっ、わたし達も子供たちも久しぶりに楽しかったわ。お互いにこれからも頑張りましょうね。それじゃあね」


「またね〜、おねえちゃん」

「またあそぼ〜」

「じゃあな、マヤちゃん」


 伏美家族が去っていくのを見てから、しばらくして閉店間際のおでん屋に再び戻る少女。


「お、戻ってきたね」


「ん、待っていた」


 誰も客がいないことを確認してから少女はカウンターに座り、キリッとキメ顔で三人娘に告げる。


「よく私が朝倉レキだとわかりましたね。完璧な偽装でしたのに!」


 なんと!謎の避難民の少女は朝倉レキだったのだ!ドドーン!アニメならここで壮大な音楽が入るところであるが、晶たちは苦笑しかしていなかった。


「タハハ……たしかに黙っていたらわからなかったけど、発言ですぐにわかったよ」


 頬をポリポリとかきながら、返事をする晶と、同意するように穂香もクスクスと笑いながら頷く。


「ん、で妹はいったいなにをしているの? 楽しそうだから混ぜるべき」


 リィズの興味津々な表情での質問におっさん少女はなにをしているか説明を開始するのであった。



 閉店して看板を仕舞ったおでん屋で穂香が難しそうに頷きながらおっさん少女へと視線を向ける。


「なるほど……。大樹への抗議活動、そしてレキさんの解放を求める人たちのリーダーとお金の流れですか」


「たしかに最近急に見るようになったよね、抗議活動。よくあんなことをする余裕があるなぁと思っていたけど、誰かが支援してるんだ。それって、ナナさんじゃない?」


 晶が遥が最初にした予想を言ってくるが、それは違うんですと否定して首を横に振る。


「言ってはなんですが、ナナさんは大樹にベッタリなんです。総合エネルギー会社は大樹ありきですので、もしそんなことをするなら、堂々と大樹に言うと思うんですよね」


「たしかにおっしゃるとおり、そんな裏で動くようなことをナナさんはやらないでしょう。恩を仇で返すことは彼女の気性ではやらないと思います」


 コクコクと頷き、穂香が答えてきて、リィズも頷く。


「ん、ナナはそんなことはしないと断言する。妹を解放するなら、絶対に何回もプロポーズをしてくると思うし」


「わわっ、やっぱり噂通りなんだ、ナナさんは」


 晶がリィズの発言を聞いて頬を赤らめて楽しそうな表情をした。穂香も興味津々な悪戯そうな笑顔だ。


「たしかにそのとおりですよね。ナナさんならウェディングドレスを用意して私にプロポーズすると思います」


 によによと口元をさせて、楽しそうな話なので、悪ノリするおっさん少女。


「そんなことは、まだしませ〜ん!」


 ガラガラと扉が開かれてナナが入ってくるのがわかっていたので。


 顔を赤らめながら、ズカズカと足音荒く照れているのを隠しながらナナが入ってくる。


「もぉ〜。リィズが帰ってくるのが遅いから心配して迎えに来てみたらなんの話をしているの!」


 そんなナナにも現状を説明する遥。ふ〜んと頬に人差し指をあてて、ナナも今の状況を思い出す。


「たしかに抗議活動をしている人たちをよく見るね。でも大樹が無くなったら、困るのはこっちだし、あの抗議活動は無意味だし困るって、今日の会議でも言ってたよ。しかもレキちゃんの解放が主みたいだしね」


「なので、私が謎の避難民になって、この仕掛け人を探しているんです。誰かはわかりますか、ナナさん?」


「う〜ん……解放しろって言う人たちはいつも別の人なんだよ。なんだか変だよね? ローテーションを組んで抗議活動をしているみたいだけど、そんな変な抗議活動ってある? まるで雇われているみたいだよね」


 むぅと腕を組んで、困り顔のナナなので、誰が動いているのかわからない模様。やっぱり静香さんの調査結果を待つしかないのかなと遥が思ったとき


「ん、なんで皆はわからないの? リィズはわかったよ?」


 ええっと予想外の人物からの言葉に注目の視線を向ける面々に気づいて、リィズはフンフンと息を吐いて得意げに言う。


「抗議活動をしている人たちは北海道からの避難民。そんな人たちにお金を支援できるのは、やっぱり北海道の人たちに決まっている。最近活躍している軍隊が大金を調達しているはず」


 ハッとその言葉に気づいて驚くおっさん少女たち。むむむと顎に手をあてて苦々しい表情で呟く。


「たしかにそのとおりです。戦車隊を使える彼らは関東全域で活動できて、なおかつ大量の物資を獲得できています。その物資は帳簿につけて、ある程度は若木シティと大樹に物納してもらっていますが………ちょろまかしていますね! あの昼行灯!」


 プンプンと頬を膨らませて、両手を掲げて怒るおっさん少女。怒る姿も愛らしいが、ナナが深刻そうな表情で尋ねてくる。


「もしかしなくても大樹が気にしているの? 問題になる前にレキちゃんが密かに動いているのかな?」


 むむっと静香と同じ推理をするナナに驚きの表情を浮かべてしまう。その表情に勘違いをして、ナナは優しい表情を浮かべてソッとおっさん少女を抱きしめてくるのだった。


「……もぉ、相変わらず優しいんだから。あんまり問題にしないつもりなんだね?」


「まぁ、問題にするつもりはありませんが、困るんで対処は必要なんですよね」


 ナナとおっさん少女を見ながら両手を頭の後ろにまわして、晶も言う。


「国は無いから違法行為とかもないもんね〜。そこらへんもどうかしないとね〜」


「たしかに、なぁなぁで暮らしていけるには人口が増えすぎましたものね」


「ん、レキ帝国を作る? 私は元帥で良い」


 三人娘がそれぞれ意見を言ってくるので、それらを思考する。


 サクヤがレキ帝国という響きに目を輝かせているが無視である。


 若木シティが抱えている問題をそろそろ正面から見ないといけない時期に入ったのかもしれないと、ナナのふくよかな胸の感触を感じて、照れながら、そして嬉しく思いながら遥は考える。


 国ねぇ。たぶん皆は日本に変わる国を求めているのだ。財団大樹管理下は少数の人々なら受け入れられたが、これだけ規模が大きくなると、あくまでも企業であり、国ではないとの不満が出てきたのだ。ハッキリとするときがやってきたのである。この抗議活動はそんな土壌も関係しているからこそ発生したのだろう。


 だが、選挙は厳しい環境だ。崩壊した世界では独裁者の方が上手く回っていくだろうと遥は考えていた。危険な考えではあるが、抑止できる力を大樹というか、くたびれたおっさんは持っている。本当に平和な世界となるまでは選挙での民主主義は無理であろう。即断即決が必要な世界であるので。


 那由多の出番になるかもしれないと思うが、それは豪族たちとの話し合いが必要になるし、難しい問題なので、四季やハカリにぶん投げよう、そうしようと決めるいつものおっさん少女がいた。決まったら偉そうにフンフンと頷けば良いのだよと、駄目な上司を体現する存在だ。


 でも、とりあえずは目下の目的である昼行灯たちへの対応だ。極めて面倒そうな話であり、殴って解決しない問題でもあるので、どうしようかと考えるが、まずはレキでの話し合いだ。


 とりあえず謎の避難民として、関東制圧隊に潜入できるか確かめるつもりである。たぶん学生たちが言っていた団体とは昼行灯たちのアンダーカバーなのだろうことが予想できるので。


 決まったら、即行動だけど、夜だしとりあえず団地に帰ろうかなと思う遥はヒョイと腰を掴まれてナナに持ち上げられた。


「謎の避難民のマヤちゃん。私とお友だちになろっか。とりあえず今日は私のおうちにお泊りしていきなよ」


 ニコニコ笑顔で提案をしてくるナナである。レキとのお泊まり会は絶対に逃さないナナであるからして、マヤちゃんを泊める気満々なのであった。


「ふふっ、では私たちもお泊まりしてよろしいでしょうか?」


「パジャマパーティーだね!」


「妹よ、今日は一緒にお風呂に入る」


 皆が嬉しそうにしているので、まぁいっかとナナの家にお泊りにいく謎の避難民の少女であった。

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