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コンクリートジャングルオブハザード  作者: バッド
14章 北海道に行こう

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217話 おっさん少女は地道に探索する

 薄暗い林の中から、斧を担いだ牛の化け物が現れる。そして足元に付き従うように犬が歩いていた。犬は背中からバズーカを生やしており、足元は玩具のような小さいバイクに乗っていた。ただバイクにのって直立しているだけなのに、玩具のようなバイクは犬の思考に合わせて移動して、ブルルとエンジン音がしているので本物のバイクの機能を持っているのであろう。


 2匹はうろうろと徘徊していたが、少し離れた場所から足音がして身構える。なにか人間の声が聞こえたために。己が主に命じられたとおりに敵を撃滅するために。


「たららら~。てーてんてんてー」


 鈴のような可愛らしい声音が聞こえてきて、3人の人間が現れる。2人は重厚な装甲に守られて、パワーアーマーを着込んでいる。最後の一人は一番脆弱そうな小柄な子供のような少女なのに、軽装でひらひらしたこれまた可愛らしい服装をしていた。


 だが、なにが相手だろうと関係ない。己が主に命じられたとおりに迎撃行動に移るのであった。





 レキは目の前にいる敵を見つめた。3メートルはある大柄な牛の化け物。有名すぎるモンスターであるミノタウロスとなぜかバイクに直立して乗っている犬である。背中からバズーカ砲を生やしており、すでに警戒行動を取っているのがわかる。どこかで見たことがある犬である。具体的には崩壊した世界のその後の世界を遊ぶゲームで。


 だが、ここで手出しするわけにはいかない。今回は検証を含めているので自分の戦闘はなし。なので一歩下がり横のパワーアーマーを着込んでいる二人へとちらりと視線を向ける。


 二人はすでに身構えており、背中のスラスターから青く光る粒子を噴出させてブーストダッシュの準備をしていた。


「はっ。また新種かよ! だけどあたしの敵じゃねぇ!」


「悪即斬ですね。お覚悟を」


 アインとシノブはすぐさまブーストダッシュをしかけて、キュインと機械音がして轟音とともに空気を切り裂くように水平に飛翔を始める。


 敵はミノタウロスが斧を持つ手と反対の手をつきだしており、犬の方もバズーカ砲を発射していた。


「ファイアボール」


 ミノタウロスが手から火球を生み出して、犬がバズーカ砲から砲弾をドシュンと煙と共に撃ちだす。


 それを見て、ミノタウロスが炎の超能力を使うのかよと、遥は困ったように叫ぶ。


「ミノタウロスがその技をつかっちゃ駄目~。それ主人公の技だから! いや、ぎりぎり違うけどさ! ミノタウロスが使っていい技じゃないから!」


 なにか気になることがあったので、とりあえず叫んだのであろうおっさん少女の声を合図に高速移動をする二人。たぶんどうせしょうもない内容であるので気にする必要はない。


 空中でバーニアを噴射しながら、直角に軌道を変えて、アインとシノブは飛んでくる火球と砲弾をするりと見事に回避していく。


「ご主人様! あの敵はミノタウロスとポチバイクと名付けました!」


「ポチバイクは味方だったよ! 毛並みを上げまくると戦車より強くなった仲間の犬だよ。その名前もだめ~!」


 喚き散らすおっさん少女を無視して、にこやかにサクヤは抗議、クレームは受け付けませんとボードを持っていた。どうやら遥の助けはないらしい。


 ドンドンとファイアボールとバズーカ砲を撃ちまくるミノタウロスとポチバイクだが、二人は3次元空間を上手く使い回避し続けて敵へと肉迫する。


 遠距離攻撃は無駄だと悟ったのだろう。ミノタウロスが斧を両手で握りしめて近接攻撃の準備にて迎撃せんと睨みつけていた。ポチバイクはブルルとその機動性を利用して、ちっこいバイクを発進させて林の中に激走して潜り込む。


「アイン殿。私は遠距離戦にてポチバイクを撃破します」


 シノブは肩からガションと変形して組み立てられたショルダーキャノンを構えて、腰にあるフォトンサブマシンガンを手に握る。


「おう! 牛は任せな! 焼き肉のたれで食べてやるぜ!」


 気合十分の返事をしてアインはさらにブーストを噴かせて速度を上げて、右拳を握りミノタウロスへと接近していく。


 アインが近づいてきたと見てとったミノタウロスは斧に超常の力を溜めていく。空気が震え斧が薄く光り始めていくのが見えた。


 アインは犬歯を見せるようににやりと獰猛な笑いをして、自分も力を発動させる。


「エンチャントサイキック」


 超常の力により、不可視の力が拳に宿り始めて空気が歪み始め超常の力を発揮させる土台を作っていき


「牛斬り!」


 先手をとったミノタウロスが自分がやられそうな超技を発動させる。轟音と突風が周囲に巻き起こりミノタウロスが大きく振りかぶった斧が振り下ろされる。


 地面に斧が振り下ろされた威力により斬られた亀裂がびしりと発生するが、右腕と右足のバーニアを噴かしてその攻撃をすれすれで横移動して回避するアイン。そしてアインは引き絞っていた右腕の力を解放した。


「超技サイキックブロー」


 グオンと空気が歪み、周囲の空間を歪ませてミノタウロスへと打ち出されていく。ミノタウロスはその攻撃を受けて体を歪ませて、バラバラと捩じられるように粉砕させたのであった。



 シノブの方はポチバイクと撃ち合いを行なっていた。ショルダーキャノンから次々とフォトンビームを放つがポチバイクは木へと飛び移りそのまま縦横無尽に走り抜けて上手く回避していく。犬とは思えない技巧の冴えである。たぶんマスクをしたシマウマよりも技巧が巧い。


 シノブは空中にてスラスターを小刻みに噴射させながら機動を行い、サブマシンガンで牽制をしながら、敵の予測位置へと攻撃を繰り返す。ポチバイクはバズーカをワンワンと撃ちながらそれらを回避していく。ドカンドカンと爆発音が響き木が次々と倒れていく。


 森林破壊で自然団体が抗議に来そうな戦闘であったが、ポチバイクは次の木に飛び移ろうとしたところで動きが止まる。足元に置かれた不可視の網に引っかかったのである。グイッと網が引っ張られてポチバイクの動きが阻害されたことを確認してシノブが静かに笑う。


「忍法念動網です。引っかかりましたね」


 得意げに言うが、実際はレベル4のサイキックウェポンだ。自由自在に武器を作り出せる念動力である。武器をほとんど使わないレキはあんまり使わない。というか普通の武器の方が強い。それをあるメイドに教えられて使い方を変えたのだ。


 すなわち網などに変形して一瞬だけ敵の動きを止める武器として使用したのである。スキルが無いので使いこなすことは不可能だが、高速戦闘で一瞬でも動きを止めることができれば充分であるからして。搦め手はほとんど使わない戦闘民族なレキでは使わない可能性の高い技であった。


「サイキックカノン」


 レベル3の念動力である砲弾と化した超常の塊を敵へと射出する。ポチバイクはその攻撃を受けて素早くバイクから飛び降りる。サイキックカノンにより空間ごとバイクが歪み、爆発を起こして破片が飛び散る。


 シュタンとバイクがなくなり、ただのポチへと化したミュータントはすでに負けていることを悟った。ショルダーキャノンのビーム砲が着地地点に撃ちだされていたのだ。すでにシノブはどう敵が逃げるかを予想して2段構えで高火力な攻撃をしていたのである。


 きゃいんと罪悪感を覚えそうな断末魔の悲鳴をあげて、ポチはビームに巻き込まれて吹き飛ばされていくのであった。




 多少の時間はかかったが、高速での戦闘であるから、数分も経過しなかった。


 その結果を確認しながら、うんうんと可愛く頷いてレキは感想を述べる。


「なんだか、私たちの戦闘よりも巧妙だったね。私たちの戦闘が脳筋だとわかるような格差があったよね?」


 アホな発言でレキではなく、謎のくたびれた生命体の発言だと判明した。がっくりと肩を落として今までの戦闘を思い出す遥。考えたが、ほとんどは殴ったり、超能力で正面から倒している。戦闘民族なレキなので仕方ないが、もう少し戦闘内容を考えようかなと反省するおっさん少女であった。


 そんなおっさん少女たちがいる場所は、引き続き第2層。次の解放地点である敵の強さを見定めている最中なのであるからして。


 レキが楽勝でも、解放時は雑魚敵の殲滅に手が回らないことは明らか。そのためにツヴァイたちが問題なく、ここの敵を撃破できるか確認のためにアインとシノブを連れてきたのであった。


 戻ってきた二人がおっさん少女の前に来て、それぞれ感想を述べる。


「ん~。たしかにパワーアーマーを装備しないと苦戦するかもなぁ。ボス、ちょっとここの敵はシャレにならないかも」


「ですね。あのポチなる忍犬はかなりの動きを見せました」


 アーマーのヘルム部分を解除させて、ふわりとポニーテールが外に出てきて風に揺れる。そうしてアインたちは予想以上の敵の強さに顔を顰める。


 アインは自信満々に楽勝だったぜと言うと思っていたけどと拍子抜けする。どうやら正確に敵との戦力差を確認している模様。そしてシノブよ、ポチはバイクに乗っていた。バイクに乗る忍犬はいないからね。


「でも、まぁ、なんとかやれるってことだね。戦車やヘリが支援すれば、大丈夫だということかな?」


 わかりきっていることだが、一応確認する遥。おっさんはちゃんと言葉にしないと不安なのである。なにしろ他人の気持ちはわからない。当たり前だと考えている内容は相手にとっては当たり前ではなく齟齬が発生することをサラリーマンとして知っている。崩壊前はそんなことがちょくちょくあったので、言葉にすることは絶対。文書化もしたいところだよねと用心すぎるおっさんである。


 いつも適当であるからこそ、確実な要所要所は押さえたい。


 遥の言葉に頷いて、荒っぽい笑顔を見せてアインは答える。


「大丈夫さ。これで負けるようなら、敵がそれだけ想定外の敵だったってことだぜ。解放後にそんな敵がいるわけないからなっ」


「支援があれば、まずダメージすら負うことは稀かと考えます。お館様。某らにお任せあれ」


 安心の言葉であるが、おっさん少女の顔は曇る。もう台風前の雲のように曇り始めた。


「………ねぇ、フラグにしか聞こえないんだけど? ちょっとフラグにしか聞こえないですよね、今の」


 ギィッと錆びた機械のように動いて二人を見るおっさん少女。小説やアニメだとそんな会話のあとに、なぜこんな敵がいるんだぁっ!とか叫んで、簡単なミッションのはずなのに友軍が死んでいくパターンを多く見てきたおっさんだ。間に合わなくてツヴァイたちが全滅していたら、発狂しちゃうかもしれない。


「マスター。空中戦艦にてサーチをかけながら移動します。間に合わない可能性は低いですよ?」


 もう心配性ですねと困った表情で見てくるナイン。ふふっと悪戯そうな微笑みも見せるが、珍しくおっさん少女の顔の曇りは消えなかった。いつもなら太陽みたいなナインの笑顔にあっという間に曇りは消えて、心配はデリートされるおっさんなのに。


「念を押すパターンもあるんだよね。もう完全にフラグがたったと私は判断しましたよ?」


 さすが石橋を壊し、鉄筋の橋を作成しても危なそうだからと帰宅するおっさんである。その心配も並みではなかった。


「新型ガーディアン的機動兵器を作ろう。そうしよう。最低でも時間稼ぎができるやつ」


 良いこと考えついたと、考えを口にする遥。ケチな遥には珍しく採算度外視での提案だった。今回はおっさんにしては珍しく本当に良い考えかもしれない。


 ふむと細くて綺麗な人差し指を顎にあてて、小首を可愛らしく傾げてその提案を考えるナイン。なるほど、それならば万が一もなくなるだろう。そしてクラフト系サポートキャラの腕がなりそうですねと嬉しくなった。


「なら、帰還して新型機動兵器を作成しましょう。適当な機動兵器をリストアップしておきますね」


 楽しそうな内容に、フンスと息を吐いてクラフト系のアイデンティティが活性化するナイン。それを見て遥も安堵の表情になり、ようやく曇った表情が消えるのであった。


「よし、それなら山間コミュニティにいったん帰還だね。素材をたくさん回収したし」


 晴れ晴れとしたひまわりのような笑顔を見せて、おっさん少女は帰還を選択した。


 そのまま空中戦艦に戻るか、ファストトラベルで家に帰ってもいいけど、一応山間コミュニティの様子を見ておこうと帰還するおっさん少女であった。




 てくてくと歩いて帰ると、山間コミュニティが見えてくる。もはや北海道大ダンジョンを囲むのは山間コミュニティ、牧場コミュニティ、そして一葉港だ。


 その一つ山間コミュニティは大型の超電導フィールドを維持できるバリケードが設置されている。


 蒼い光をはなつシールドが空高くまで防護柵として機能しており、各所に超電導砲が搭載されていて自動迎撃装置と化している。山間コミュニティはその位置的に最初に襲われそうな場所であるので重装備で守られていた。


 それを見て、額にたらりと一筋汗を垂らして遥は思う。


「ねぇ、要塞かな? 山間コミュニティの人々は要塞に住んでいるのかな? ちょっと可哀想な気がするのは気のせいかな?」


 監視所らしき場所にも自動迎撃バルカンが搭載されているのであるからして。


 どこからどう見ても要塞である。しかも難攻不落っぽい要塞だ。細々と暮らしていた髭もじゃたちが文句を言ってきてもおかしくない光景である。


 やはり重厚な合金製の大型扉の前に歩いていくおっさん少女一行。ちょっとやりすぎたかと後ろめたい。


 そんなおっさん少女たちを見つけたのだろう、監視所にいた男性がこちらを確認して叫ぶ。


「大樹の嬢ちゃんだ。開けてあげてくれ」

「了解。ゲートおーっぷん!」


 なんだかノリノリな声音が聞こえてきて、ウィーンと機械音がして分厚い装甲の扉が開くので、てってこと入る。


 入った中には静香製のアサルトライフルを担いだ山間コミュニティの猟師さんたちが立っていて、こちらへと手を振り笑顔を見せてきた。


「おぉ、嬢ちゃん。ダンジョンとやらはどうだった? マウンテンベースは平常運転。敵の影など見えないぞ」


 ん? なんだか変な呼称が聞こえたね。私の耳は故障したかなと疑問顔を見せる嫌な予感しかしないおっさん少女。


 疑問顔のおっさん少女へと、得意げに胸を反らして教えてくる猟師さん。


「あぁ、ここは化け物からの攻撃を防ぐ最前線。その名もマウンテンベースと名を変えたのだ。かっこいいだろう? 一般人は念のために若木コミュニティへと避難して、今は防衛兵のみだぞ」


「へ~。ソウナンデスカ。カッコイイナー、ヒューヒュー」


 棒読みで答える、演技ができないおっさん少女。まぁ、考えてみれば当たり前の話だ。細々と暮らしてきた山間コミュニティ。そこに凶悪なミュータントが解放されてくるので、要塞化しますねと提案したら、一般人は我先にと安全なコミュニティへと移動するに決まっている。牧場コミュニティや一葉港とは違い、そこまで資源価値はないのであるからして。


 はぁとため息を吐いて、弱々しい笑顔を見せる。なんだか疲れた感じがするよと思っていると、とどめをさす人間がやってきた。その人間はノシノシとそこへ防衛隊の戦闘服を着た髭もじゃであった。

 

 キリッとキメ顔で遥たちへと重々しい声音で、渋い笑顔を見せて声をかけてきた。


「ようこそ、マウンテンベースへ。ここの司令官である富良野だ。よくぞ来たソルジャーたちよ」


 どこの司令官だよ。あんたタダの猟師だったでしょと内心でツッコミを入れる遥。どうやらこの人々は娯楽がない世界で厄介な病気にかかった模様。


 厨二病は治せるのかなぁと、髭もじゃを見ながら嘆息するおっさん少女であった。



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[一言] >  厨二病は治せるのかなぁと、髭もじゃを見ながら嘆息するおっさん少女であった。 状態異常無効を持っているおっさん少女が厨二病にかかっているので状態異常判定ではなく状態異常回復系は効かない…
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