216話 おっさん少女のダンジョン探索再開
がさりがさりと鬱蒼と茂った森林に音がする。すでに日差しもなかなか差さない、樹海に通っている小道も50センチほどの草が生えており、道ともいえない道となっている。ただ道だとわかる理由は周りに並ぶように巨木が壁のように並んでいるからである。
「ご主人様、日差し隠れる森林エリアの概念が発生しました。感知系の能力の大幅激減、敵の隠蔽系能力の大幅アップですね」
サクヤがにこやかに新たな概念を説明してくる。わかりやすい説明だ。この草木に隠れる道の中に敵が爛々と目を輝かせて獲物がかかってくるのを待っているのだろう。
「あ~。地形効果もだいぶ面倒なことになってきたね~。高レベル帯で不意打ちを喰らうと何もできずに君主や侍が首を斬られて全滅するんだけど? 私は散々そういう目にあってきたんだけど?」
魔術師の迷宮ゲームでは、どんなに高レベルでも不意打ちを喰らうとあっさりと全滅することが多々あったのだ。そして不意打ちをうけたと表示されたら瞬時にリセットボタンを押していた卑怯な戦法を使っていた。
むぅと唇を尖らせて、面倒すぎる仕様にご不満なレキである。ショートヘアの艶やかな美しい天使の輪ができている黒髪。眠そうな目なれど綺麗な輝きを見せる瞳。小さな桜のような色をしている唇。愛らしい子猫のような小柄な他人がみたら保護したくなるような身体。朝倉レキは相変わらずの可愛らしさ、いや、以前以上にまるで輝いているかのような可愛らしい姿を見せていた。
今の発言もきっとレキなのである。くたびれた生命体など、きっとすでにゴミ収集車に片付けられているに違いない。
「あ~。セーブ機能が欲しいです。セーブ機能、セーブ機能が無いと即死攻撃に耐えることは難しいよね?」
愚痴るおっさん少女。こんな愚痴の仕方は残念ながらレキではないので、遥の発言であった。レキなら即死攻撃をしてくる敵と嬉々として戦いそうだ。
「即死攻撃はたしかに脅威ですね。首をチョンパと切る有名なウサギとかいますものね」
サクヤがうんうんと頷いて賛同する。
「他にも超常の力で即死攻撃がいるのかな~? というわけで危ないので即死攻撃耐性をレベル6まで取得っと」
迷わずに耐性系を取得する遥。たぶん取得しているのと取得していないのでは大幅に違うのであろうからして。なにしろレキの唯一といっても良い弱点は、もっていないスキルには対抗できないのである。だが、レベル1でもあれば対抗手段を考えることができる。念のために6まで取得したが。これで残りスキルポイントは26となった。ついでにステータスも60あったので10ずつ振って残りは10となった。
本当は即死攻撃耐性はレベル10まで上げたかったが、ぐっと我慢したおっさん少女である。なにしろスキルポイントが足りない。そして敵と対抗するにはいろいろなスキルのレベル5か6はこれから先は必要となるから、全部を使うわけにはいかないのだ。
「おぉ、ついにステータスが200を超えたよ。これは凄いよね、なにかボーナススキルとかないのかな? ユニークスキルとか、ユニークスキルとか」
ステータスはこんな凄さになったのである。ついに200の大台を超えたステータスとなったのだ。
筋力:170
体力:170
器用度:200
超能力:200
精神力:170
遥的には物真似とかシャドーサーバント系が欲しいと期待するが、ステータスボードにはなにもでないのでがっかりして、それでも時間差ででないのか諦めきれずに見ていたが
「ご主人様、物真似はきっと誰そいつ? とか宴会で言われて空気が凍るのであきらめたほうがいいですよ? シャドーサーバントはもうご主人様がレキ様の影みたいなものですから使えているじゃないですか」
ニヤニヤと笑いながら、辛辣にディスってくるサクヤである。このメイドは本当にサポートキャラなのだろうか? 遥を弄るキャラなのではなかろうか?
ムキーっとおっさん少女は両手をぶんぶん振り回して怒る。
「言ってはいけないことを言ったな! このポンコツメイドめ! 最近、家で歩くときにポンコツポンコツと擬音が発生している感じがするよ? たぶん幻聴じゃないよ?」
「ムキー! 酷いです、ご主人様。こんなに尽くしているメイドをポンコツ呼ばわりとは! 足音なんかしませんよ。現にご主人様がレキ様の姿で寝ているときにカメラで盗撮していても全然起きないではないですか!」
「犯罪! 事案! おまわりさーん、ここに犯罪者がいます! 捕まえてあげて~」
ぎゃぁぎゃぁとお互いのことを非難するアホな二人のコントである。放置しておくといつまでも続ける可能性があるほどで、何気に口にしていないのに遥の欲しいユニークスキルを推測できる仲の良さであった。
「旦那様。敵の物音がしました。そろそろ戦闘準備を始めませんと」
レキがそっと教えてくれるので、渋々と荒らげた声を収める。すかさず巨木の陰に飛び込むように隠れて、物音がしてくるほうに目を向けるおっさん少女。
その姿はかくれんぼをしている子供にしか見えない。鬼がくるかな~? くるかな~? と恐る恐る木の陰からみている美少女な感じ。
がさりがさりと音がして迫ってくるので、隠蔽系ではないねと安心して眺めているとその姿を現した。
4匹パーティであり、前衛をレイピアをもったゲームで出てくる王子みたいな服を着ているメロリンと斧と盾をもっている貴族の服を着ている大柄なジャガーレム。後ろにトウモロコシが杖をもってローブを着ており2匹いる。
「上位種だね。なんだかダンジョンアタックを再開して最初に出会う敵の姿がしょぼすぎてテンション大幅ダウンなんだけど? もう少しかっこいい敵はいないのかな? ここのボスには敵の仕様を懇切丁寧に教えてあげたいんだけど」
頬を膨らませて、不満を言う。なんで野菜系なのだ、せめて狼系とかでいいじゃんと、ブーブー文句を言う遥。
「ご主人様、あれはプリンスメロリン、男爵ジャガーレム、後ろのはメイジモロコシと名付けました!」
むふふと楽しそうに名付けをする心底嬉しそうなサクヤ。新たな種が沢山いるので嬉しくて仕方ないのである。
そして名前通り、メロリンは初層と違いなんだか箱に入って百貨店で売られていそうな高級な縞々模様の入ったメロンの頭である。サクヤの言う通りプリンスメロンなのだろう、たぶんアタッカーだ。男爵ジャガーレムは貴族服を着ており、そのまんま男爵イモで、盾をもっているところを見るとタンク役だ。最後のトウモロコシもメイジとつけているから、魔法的なものを使う後衛だ。
「ポピュラーな構成だね。私は初期は魔法使い全員にしていたけど」
それのほうがサクサク敵を倒せてお金もたくさん溜まったのだ。そしてある程度溜まったら2軍にして武道家をいれていた。
「ではゲームのように戦ってくるのかを確認しましょう」
レキが楽しそうな声音で期待している感じなので、任せることにする。
「でも4対1って、こっちが敵っぽい感じもするけど」
苦笑いをする遥。多数で攻めるのは主人公たちだけど、脇役なおっさんはソロで戦うのだの精神だ。
木陰からタンッと地面を蹴ると同時に男爵ジャガーレムの前に移動するレキ。そのまま軽く右拳を胴体へと撃ちだす。
「なるほど。反応速度はまぁまぁなんですね」
なんと男爵ジャガーレムは盾を前にしてレキの神速の攻撃についてきた。ガインと金属音のような音がして盾に右拳が防がれる。
「パレスシールドォ」
男爵ジャガーレムの口が開いたと思ったら、盾が淡く光り山をも砕くレキの攻撃が抑えられて男爵ジャガーレムは後退りもせずに盾が撃ち抜かれることもなく、しっかりと受け止められた。
僅かに超技を使った男爵ジャガーレムの行動を見て驚くレキは、そのまま地面にしゃがみ込む。
レキが立っていた場所にレイピアが鋭く通過していく。プリンスメロリンがレイピアを突き込んできたのだ。しっかりとした連携をとれているようである。
「ぎっぎぃ、マシンガンレイピア」
突き込んでくるレイピアがぶれて、無数の残像を生み出して再度襲い掛かってくる。レキは軽く右手を突き出して、神速の妙技で突きを受け流してレイピアの横腹を掴む。掴まれたことにより超技は不発となり、残像が消えていく。
ぐぉぉぉと男爵ジャガーレムがレイピアを掴み動きの止まったレキへと斧で攻撃をしてくるので、掴んだレイピアへ左拳を撃ちだして折り曲げた後に、シュンッと瞬間移動のように後ろへと下がる。
ガガンと斧が外れて地面に食い込み土ぼこりが舞い上がる。かなりの筋力をもっていることがわかる。
「イオコーン」
デロデロデロという音がしそうな感じで、後ろのメイジモロコシ2匹が杖から光り輝くトウモロコシの粒を撃ちだしてきて、レキへと高速で向かう。
レキはそっとちっこい人差し指を向かってくるトウモロコシの粒へと向ける。
「ファイアブリッツ連弾」
バラバラと小さな火球が生み出されてトウモロコシの粒に向かい着弾する。ゲームと違い相殺可能なのだ。命中したトウモロコシの粒はポンポンとポップコーンが弾けて作り出せるような音をして爆発していく。
音の間抜けさと違い地面はえぐれて爆発の威力が物凄いことを教えてくれた。爆発による爆煙で一瞬、野菜パーティとレキの視界が遮断される。
その煙の中を突っ切ってプリンスメロリンが修復したのだろうレイピアを突き出しながら突撃してレキを貫こうと迫りくる。
「タンクと離れて戦うのは自殺行為ですよ」
レキは右手を螺旋の動きで回転させてレイピアを受け流し、刀をアイテムポーチから取り出して素早く左手に持ち、通り過ぎざま胴体を通り過ぎるように切り払う。
ずるりとプリンスメロリンの胴体が上下に分かれていくのを横目で見ながら、刀を再度仕舞って晴れ始めた煙の中に入り込み、男爵ジャガーレムの前へと突撃するレキ。
男爵ジャガーレムは素早くレキの前へ盾を構えて攻撃を防ごうとする。
「その盾技で、私の攻撃を本当に防げるか確認させてください」
強く右足を踏み込んで、右手を構えている盾へと突き出す。右足は捻るように踏み込んでおり、胴体を伝わり突き出した右手へと収束され螺旋の力により発勁が発動されて男爵ジャガーレムに打ち込まれる。
「パレスシールド」
再度、防御技にて敵の攻撃を防ごうとする男爵ジャガーレムだが、盾はたわみ、衝撃波が伝播して腕から身体へと伝わってきた。その衝撃は男爵ジャガーレムを粉々にしていき、盾を残して体を砕くのであった。
「やはり打ち出される攻撃のみを防ぐ緩衝系でしたか。それでは私の攻撃を防ぎきることはできません」
レキが芋片がバラバラと地面に散らばる姿を見て、検証の成功に満足そうに呟く。相変わらずの拳での攻撃が大好きっ子である。
「コーンガ」
メイジモロコシが範囲攻撃なのであろう超能力を発動させると、レキを覆う竜巻のようにトウモロコシの粒が現れる。
「竜なゲームかファイナルなゲームか、どっちの魔法なんだよ。節操なさすぎだろ、こいつら」
ぶぅぶぅと余計な一言を言う遥は手を覆ってきたトウモロコシの粒を振り払うように向けた。
「アイスレイン」
小さな氷の粒が生み出されて、覆ってくるトウモロコシの粒へと触れるとあっという間に凍り付き竜巻はきらきらとレキの周りを輝かせるだけとなる。
「しっ」
レキは瞬時の移動でメイジモロコシの前に立つと、連撃を体がぶれる速さで撃ちだして2匹をあっという間に爆散させていった。
「こいつら炎が弱点じゃないかなぁ~。そんで炎を喰らうと大爆発するの。なんだかそんな敵だよね~」
メイジモロコシの破片を見ながら遥が、弱点属性を予想して呟く。トウモロコシはボム系ではないかと疑うおっさん少女である。
「そうですね。その場合、ポップコーンが森林中に生み出されていそうですね」
うんうんとレキも同意するが、気味の悪い森林。モンスターはびこる危険な地域にポップコーンがそこら中に散らばっていたら、なんともシリアルな感じになるだろうなぁと苦笑いをする遥であった。緊張感は恐ろしい速さで減衰することは間違いない。
なんにせよ戦闘が終了したので戦った結果をレキに尋ねる遥であるが、レキは可愛く小首を傾げて感想を言う。
「そうですね。ツヴァイたちならパワーアーマーを装備していれば楽勝。なければちょっと苦戦するでしょう。敵は連携もとれていましたし」
「ほむほむ、アーマーなら楽勝かぁ。ならアーマー一択だね、ツヴァイたちが傷つくのは嫌だし、採算はこいつらを倒していけばとれるでしょう」
うんうんと頷いて、戦闘結果に満足する遥である。ここを解放すれば多くのミュータントが外に出ていく。それを退治しないといけないのだから。
そして遥は気になることをナインに尋ねることにした。地面に落ちているプリンスメロリンを見る。すでに浄化は終わっているので開いていた口も無くなり通常のメロンとなっているが………。
「ねぇ、ナイン。これは本当に食べて大丈夫? 今回のは言葉も喋る敵だったんだけど? ちょっと食べるのをためらう勢いなんだけど」
知性がありそうな敵なので、ちょっと食べるのは嫌だなぁと考えるヘタレなおっさん少女。でも、美味しいとはわかっている。わかってはいるのだが。気分的に少し嫌である。
その問いかけに対して、ナインは花の咲くような癒される微笑みで解消してくれた。
「マスター、さっき聞こえてきたのは風で擦れて発生した葉擦れです。葉っぱの音が声に聞こえるのはよくあることですよ。ほら洞窟で風が通り過ぎる音がよく化け物の声だと昔の人は勘違いしたじゃないですか」
にこにこと無理のありそうな内容を語るナイン。かなり無理がある内容である。だってあからさまに超技の名前を言っていた、葉擦れの音にしては無理がありすぎる言葉であった。
ん? どうかしましたか? と可愛く小首を傾げてニコニコ笑顔のナインを見て、遥はう~んと悩む。悩む内容は無いと思われるのだが、美少女の意見であるからして。
美少女の意見はおっさんの意見よりも優先される。世界の法則である。それは間違いない。
なので、ポンとちっこいおててをうって、うんうんと頷いて答える。
「なるほど、あれは葉擦れだったんだね。そうだね、よくあることだね。なら何の問題もないから回収回収っと」
納得はしていないが、納得を無理やりして回収する。なにしろ絶対に美味しいのだもの。これでご飯を作るのだの精神である、食い気に負けたおっさん少女であった。
そして回収している最中に気になることがもう一つあるので尋ねる。
「この武器、銘が入っているぞ………。ヨク=オトースと書いてあるんだけど………」
レイピアや斧、そして盾にもヨク=オトースと銘が入っていた。この間倒した敵の名前である。
「そもそもヨク=オトースが錆を落とした鉄はどこにいったんだ? あの機体だけに使われていたにしては量が少ないとは思っていたんだけど………」
「マスター。これはミュータントが自然発生的に作成したものではありませんね。装備品としては格段に上のアイテムです。恐らくは想像通りかと」
ナインが遥の考えている内容を支持して、真面目な表情で答えてくる。それは嫌な内容であった。
「………まじか。まさかヨク=オトースはここのダンジョンの敵と繋がっていた? え? 同盟とかそんな感じ? まじですか、とするとここのボスってなんなんだ? 危険な匂いがプンプンするね」
ヨク=オトースもかなりの強敵であった。そのヨク=オトースの装備を供給されている、しかもヨク=オトースより格上と思われるミュータントがいることに、苦々しく思うおっさん少女であった。




