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コンクリートジャングルオブハザード  作者: バッド
14章 北海道に行こう

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212話 元弓道部員は幻想の花見をする

 椎菜は公園に入って周りを見渡した。ワイワイとそこら中で大騒ぎが起きている。休日なので花見にきた人たちだ。この街全員が集まっているのではないかと思うぐらいの人数がいるが、それでも大量の桜並木なので座る場所にことかかない。


 みんなでのんびりと歩きながら、桜を見ていく。道には多くの屋台もできている。稼ぎ時だと頑張っているのだろう。砂糖やお酒が高いはずなのに、様々な工夫をして安く売っているみたいで感心する。


 ポテトフライやたこ焼、かき氷屋さんにクレープ屋さん。お酒も売っているがビールよりも水割りを紙コップで売っているところも多い。よく考えるものだ。人間、無いなら無いでいくらでも工夫して楽しめる証拠である。


 フラフラとクレープ屋へと花に誘われる蝶々のように買いに行こうとする結花を押しとどめながら、歩いていく。


 少し奥に行くと晶さんたちがゴザを敷いていた。どうやら座る場所を確保したらしい。


 こちらへと気づいて晶さんが元気よく笑顔で手を振る。


「お~い。場所を確保したよ~。ちょっと隣が騒がしいけどね」


 少し離れた場所はやけにうるさい。見てみると百地代表たちが花見を集団でしていた。なにか言い争っているらしい。なんか見慣れない人たちもいる。なんか老人には見えない凄い体格の良いお婆ちゃんたちが一緒に飲んでいるが百地代表と言い争っているらしい。


「あ~ん? あの収容所みたいなのはまずいと言っているんだ! それがわからない脳筋やろーが」


「ほぉ~。笑わせるね。大樹とやらにおんぶにだっこのボンボン暮らしをしていた奴らしい良心溢れる言葉だね」


「俺たちがボンボンとは言ってくれるな………。俺たちがどれだけ戦ってきたと思っているんだ?」


 凄みを見せる百地代表とお婆ちゃん………。あれはお婆ちゃんなのかな? 背丈がすごい高いし歴戦の戦士みたいな感じのお婆ちゃんたちが言い争っている。


 パンパンと手を叩いて、なんだかのんびりしていそうな着崩した中年の男性が口を挟む。


「まぁまぁ、せっかくの花見なんですよ? どうでしょう、どれだけ飲めるかで勝負するというのは?」


 花見でありがちそうな提案をしている。


「お~しっ、良いだろう。蝶野、仙崎! 俺たちの力を見せてやれ! ………仙崎はどこだ、蝶野?」


「仙崎さんは、あちらのイーシャさんのグループで飲んでいますよ。こちらには来るつもりもないでしょうね」


 苦笑いをしながら、蝶野さんが少し離れた場所を指さすと、イーシャさんファンクラブがイーシャさんを囲むように楽しそうに飲んでいた。男ばかりではなく、女性も多いのがさすがだ。最近はファンクラブができたというが、男性だけではないというのが凄い。一部の女性のイーシャさんを見る目つきもなんとなく怪しい感じがするけど……………。


「それに私も家族連れですので、勘弁してください」


 ひょいと肩をすくめる蝶野さん。隣で奥さんがクスクスと笑っている。みーちゃんがこちらに気づいてダッシュしてきた。


「あ~。みんながいる~! みーちゃんもいっしょに遊ぶ~!」


 凄い勢いでダッシュしてくるので、おっとっとと晶さんが受け止めた。相変わらずの元気な娘だ。


「アッハッハッハ。さすが隊長さん。忠義心溢れる部下がいて頼りになるねぇ」


 大笑いをするお婆ちゃん。うぬぬと歯嚙みをして百地代表がすくっと立ち上がる。


「良いだろう。俺だけでも相手をしてやる! どちらが飲めるか勝負だ!」


「はん! 良いだろう。その勝負のったよ!」


 お互いにコップを掲げて、ごくごくと飲みあう二人。すぐにお代わりを注いでいるのでどんどん飲んでいるつもりだ。周りの人々もそれを囃し立てている。


「ふふっ。お隣さんは凄いですね」


 その様子をみて、ホンワカした癒しを与える感じの微笑みを見せる穂香さん。私にできない大和撫子なお淑やかさは羨ましくなるほど似合っている美少女だ。


「ほらほら。大人たちは放っておこうよ。どうせ飲みたい理由を叫んでいるだけだし」


 晶さんがそう言って、敷物に座る。他の面々も座って持ってきた弁当を置いていく。ちなみに穂香さんだけはお重箱なので、女子力の格差を感じてしまった。


「ではでは、不詳、不破結花が乾杯の挨拶をします。今日は皆さん集まっていただきありがとうございました。そもそも皆さんと友人になれて、一緒に行動するのも崩壊後です。昔では考えられない接点からの交友ですが、これも私の人徳の致すところ………」


「長いわよっ! 人徳じゃないでしょっ!」


 わざと長々しく仰々しい感じをだして、口元をにやつかせながら話す結花に叶得さんがすぐにツッコミを入れる。


「はいは~い。それではかんぱ~い!」

 

 私は結花の乾杯を遮り、コップを掲げて乾杯の合図をしてみんなも笑いながら乾杯をしたのであった。




 ワイワイと近況を話しながら、宴会をしている私たち。花見をするよりもお喋りに夢中になるし、お弁当を食べるのに集中してしまう。まぁ、しょうがない、食い気優先の女の子の集まりなのだからして。


 そうして楽しんでいる時に、みーちゃんが指さして叫んだ。


「あ~! お姉ちゃんがいる~!」


 見るとなんだかビールサーバみたいなのを担いだ少女たちが歩いていた。その中でも、艶やかな黒髪に楽し気な表情を浮かべる可愛らしい顔つきの美少女。最近になってもっと可愛くなってきた感じがするレキちゃんがいた。


 レキちゃんもこちらに気づいたのだろう。少女たちと一緒にぞろぞろと歩いてきた。


「みーちゃん、こんにちは。みなさんも花見ですか?」


 いつも通りの愛らしい微笑みと楽し気な表情を見せるレキちゃん。何故かその楽し気な表情を見ると、私も楽しくなってしまう。これも人徳と致すところ? 先程の結花の言い回しを思い出してクスリと笑う。


「ん、妹は何を売っている? ソフトクリーム?」


 リィズちゃんがレキちゃんを見て尋ねる。レキちゃんはタスキをかけているが、そこにはソフトクリーム100円と書いてあった。


 むふふとレキちゃんは得意げな笑いを見せて語ってくる。


「その通りです。こちらは北海道の牧場コミュニティから買い取った牛乳から作ったソフトクリームですよ! 美味しくてほっぺが落ちちゃいますよ! おひとついかがですか?」


 今日のレキちゃんはソフトクリーム屋さんみたいである。でも歩きながら売り歩くってすごい重そうなソフトクリーム作成用の機械に見えるけど………。


 私の視線に気づいたのだろう。フンスと息を吐いてちっこい愛らしい小柄な身体を反らして、自慢げにするレキちゃん。


「この機械は重力軽減装置がついているのです。なので、見た目と違って羽のように軽いのですよ」


「またあんたはっ、そうやって無駄なことに技術を使うんだから! ちょっとその装置を見せなさい!」


 叶得さんが、新技術に食いついてレキちゃんの持っている機械を奪おうとする。楽しそうにしながらも慌てるレキちゃんは手で叶得さんを押しとどめる。


「ダメですよ。それならばソフトクリームを買っていただかないと」


「わかったわ! それじゃソフトクリームをよこしなさい!」


「みーちゃんも食べる! ソフトクリーム!」


「ん。妹の売り上げに貢献する」


 それぞれに笑顔で頼む皆。ほいほいと頷くレキちゃんに一緒に売り子をしていた少女が口を挟む。


「ねぇねぇ、レッキー。この娘たちは知り合いなのぉ~?」


 茶髪でピアスをしているちょっとちゃらそうな少女だ。少女の言葉に振り返りレキちゃんは頷く。


「はい。私の大事な友人ですよ。あ、皆さん紹介しますね。こちら苺愚連隊の隊長、斉所英子さんです」


 ニコニコと私たちに向けて、その少女を紹介するレキちゃん。でも私はその前の言葉ににやついてしまった。大事な友人だって………えへへ。そう言ってくれたことが凄い嬉しくなり心がポカポカする。


「よろしく~。私は孤児院苺愚連隊の隊長 斉所英子だよ~。よろしくね~」


 のんびりとなんともない感じで自己紹介する英子さん。孤児院………最近の避難民で孤児も多いと聞いていたが、彼女はそこの職員なんだとわかった。少し静かになる私たち。


 そんな気まずそうな空気を押しやるように、適当な感じを見せて、手をひらひらとさせる英子さん。


「あ~。孤児院っていってもかなり待遇良いから。なんだったら普通に暮らしている家庭よりもいいから、勘違いしないでね。この間も和牛バーベキューを………。あ、やば、これは秘密なんだっけ? レッキー?」


「ふふん、別に良いのではないでしょうか? 私は別に構わないですよ」


 そっかと嬉しそうに微笑み頷く英子さん。たぶんレキちゃんが大分寄付をしているのだとわかる。相変わらずの心優しい少女だと嬉しくなる。そして気遣いのできる英子さんも優しい娘だと感じとった。なかなかできることではない。


 その後は空気も元に戻り、お互いに自己紹介をする。孤児院から今回は結構な数がレキちゃんから屋台をするように駆り出されたらしい。時給は秘密だと悪戯そうに英子さんは笑っていた。


「まぁ、そんなことよりソフトクリームですよね。早苗さんが北海道の研修から帰ってきたら、同じように牛乳が取れるようになってソフトクリーム作り放題になりますかね」


「これから夏になるもんね。ソフトクリームは期待しちゃうね!」


 結花がわくわくした表情で期待するように言う。


 うんうんと頷いて、レキちゃんはにやりと悪戯そうにチャーミングな笑顔を見せる。


「それじゃ、ソフトクリームの限界に挑戦をしましょう! どこまで渦巻きができるか? 挑戦です!」


 ガオンガオンと機械を動かして、コーンにソフトクリームを入れ始めるレキちゃん。どんどん渦巻きを作っていき、その絶妙な入れ方はソフトクリームを崩すことが無い。


「フハハ。料理スキルレベル2の力をみよっ!」


 ゲームみたいなことを叫びながら調子にのるレキちゃん。コーンをリィズちゃんへと渡して、その上にどんどん作ってあっという間にレキちゃんの背丈ぐらいになる。正直見ていても信じられない光景である。なんで崩れないんだろう?


「ちょ、ちょっと! レキちゃん、止めた方が良いよ! それ以上だと食べれなくなるよっ!」


 慌てて止める。だってこれだけで何人分あるのだろう? これが100円?というか、これどうやって食べるのだろうか?


 あちゃ~と失敗したという表情になるレキちゃんは、いつのまにかガラスの器を何個も取り出していた。


「しょうがないです。取り分けて食べましょうか。みなさん、ここで休憩としましょう。きゅうけ~い!」


 長大なソフトクリームをスプーンでガラスの器にとりわけ始める。そしていつのまにかゴザの上には無かったはずの重箱が増えていた。


「相変わらず考えなしなんだから。ほら、貸しなさい、やってあげるから」


 叶得さんが呆れながらも優しい笑顔でレキちゃんがソフトクリームを取り分けるのを手伝い始めた。


「おじゃましま~すぅ。良いんだよね、アタシらもお邪魔しても?」


 こちらを窺うように尋ねてくる英子さんたちに笑顔で頷いて、どうぞどうぞと座る場所を空けてあげる。


 一気に人が増えて騒がしくなってきた。


「おね~ちゃん。ソフトクリーム美味しいねっ!」


 みーちゃんが笑顔で口をベタベタにさせてソフトクリームを食べている。仕方ないなぁと、笑顔で英子さんが慣れている動作で口を拭いて上げる。


「ん、最高。このソフトクリームの味は今までとは違う感じがする。私の超能力が上がったような感じがする」


 人差し指を持ち上げて、不思議そうな表情をするリィズちゃん。それにむふふと微笑みながらレキちゃんが返答をする。


「私が作ったことにより、力が宿っているのです。このソフトクリームは超能力+1ですね」


「またあんたはっ! ゲームなの? ゲームの効果がこのソフトクリームはあるの!」


 すぐさまツッコミを入れる叶得さんに、リィズちゃんはムムムと唸り始めた。


「なんだか力を感じる。ふぉぉぉぉ」


 ぶんぶんと腕を振って嬉しそうにする。そよ風がそよそよと流れ始めて顔に当たり気持ちいい。


「風が起こせる! ふぉぉぉぉ」


 ふぉぉぉぉと叫びながら、嬉しそうにそこら中を走り始めたリィズちゃんにみーちゃんも嬉しそうについて走っていく。たまたまそよ風が起きたのを自分の超能力と勘違いして嬉しそうだ。さすがは厨二的な思考だとクスリと笑う。


「シャレにならない感じが怖いわね………」


 なんだか、叶得さんが難しそうな苦笑交じりに呟いているが、本当にそんな力があるわけない。いつものレキちゃんのジョークなのにノリがいいなぁと笑ってしまう。


「それでは花見バージョン重箱を味わいましょう!」


 レキちゃんがいつの間にか用意したお重箱を開くと豪華そうな色とりどりの料理が入っていた。


「お~、今日を花見にして良かったね! 椎菜!」


 満面の笑みで結花が早速箸をつけて、みんなも食べ始めてその美味しさに舌鼓をうつ。


 女性ばかりの集団であるので、姦しいという感じでしばらく騒いでいたら、レキちゃんがまたもや悪戯そうな微笑みを浮かべる。


「せっかくなので、ただの花見では面白くありません。こうポチッとな」


 空中で何を弄るようにするレキちゃん。何をするのかと思ったら一斉に桜の花びらが周りに現れた。


 周りも見渡せないほどの量だ。こんなに舞ったら、普通は桜は散っているが立体映像なので関係ないのであろう。


 まるで花びらのお風呂に入っているみたい。前も全然花びらで見えない。離れた人々も、なんじゃこりゃと叫んでいるのが聞こえる。


「ふふふ、花びら舞う桜バージョンです。凄いでしょ?」


 クスクスと笑うキュートな美少女。みんなも感動して各々が感想を言う。


「ほへぇ~。凄いね~。前も全然見えないや」


「こんな光景を見たのは初めてです………」


「ちょっ、ちょっと歩いている人が迷惑するでしょ。もう少し薄くしなさいよ」


 現実を見るとたしかに歩いている人や屋台をしている人は前が見えないと危ない。そこにすぐに気が向く叶得さんは本当に気が利く。


「あぁ、はいはい。ぽちぽちっとな」


 すぐに前が見える程度には舞い散る花びらが少なくなった。その光景を、ほ~っと感動しながら見る私たち。


 ふと思ったことがある。時折生活をしているとふっと思うこと。


「………ねぇ、レキちゃん。まるで幻想の世界だよね。全てが幻………。時折思うんだ………。もしかしてこれは全部私が見ている夢で私はとっくに学校で死んでいるんじゃないかって」


 呟くように囁くように語る。救われてから大分経過するけど、今までと違う生活。上手くいっているし、上手くいき過ぎている感じもする。もしかして私は学校で死んでしまって、これは夢の世界なのではと時折不安になるのだ。


「………幻想の世界………。これが夢ではないかと不安になるのですか………。気持ちはわかります。私も思うのです。これは幻想で本当は私は存在しないのではないか。本当は旦那様しかいないのではないかと」


 いつもと全然違う静かな声音。初めて聞くような口調で、レキちゃんは静かに花びらを見ながら佇んで呟くように答えてくれた。


「ですが、良いのです。私はとっくに吹っ切りました。心があると信じています。この世界で戦い続けると決めています。なので、ここが夢だというならば良いではないですか。きっと幸せになれる人生ですよ」


 いつもの無邪気な笑顔とは違う静かな微笑みを湛えるレキちゃん。よくわからない言葉もある。なんだかレキちゃんの深淵に触れたような感じ。でも言いたいことはわかった。


「うん、そうだね。たとえ夢でも私は頑張って生きていく! そう決めているんだ!」


 桜の花びらが舞い散る様子を見て、決意の言葉を宣言する私のほっぺにペトリと冷たい感触がした。見てみるとほっぺに悪戯そうなさっきのレキちゃんとは違ういつものレキちゃんがソフトクリームをくっつけていた。


「夢ですと、このソフトクリームは冷たくないんですね? 甘くもないと?」


「もぉ~! 真面目な雰囲気だったのに! い~だ! 夢じゃないから冷たいし甘いですよ~」


 レキちゃんの手から笑いながら、ソフトクリームを奪い取って、口に入れると冷たく甘い味わいが口に広がり、ここは現実だと教えてくれるのを感じる椎菜であった。


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[一言] > 「………幻想の世界………。これが夢ではないかと不安になるのですか………。気持ちはわかります。私も思うのです。これは幻想で本当は私は存在しないのではないか。本当は旦那様しかいないのではない…
[一言] 「(·······ん? 旦那様?)」
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