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コンクリートジャングルオブハザード  作者: バッド
14章 北海道に行こう
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210話 おっさん少女は錆びたる街に再び行く

 大爆発していくヨク=オトース。その破片が舞い散る中でレキは助けた男性を観察した。プラグが抜けて、血だらけとなり息も絶え絶えである。このままでは、あと少しで死ぬだろう。


 死期を悟ったのか、男性は悟ったような静かな表情を浮かべて、フッと笑った。


「ありがとう、天使よ……。これで僕も死ねる……。最後が天使に看取られて死ぬとは」


「リフレッシュ」


 なにかを言いかけていた男性へと情け容赦なく治癒術を使う遥。プラグが抜けて穴だらけで血が酷く流れていた体も、痩せこけていた体型も、生え際が後退していた髪の毛も全て光に包まれて癒やされていった。


 渋い辞世の句を言おうとしていた男性は体中の痛みがなくなり、驚愕した。ペタペタと身体を触り声をあげた。


「僕の髪の毛がふさふさになっている!」


 命が助かった第一声がそれですかと呆れるおっさん少女。自分はふさふさだったが、この男性みたいだったら同じようなリアクションを取るのだろうかと考える。いや、きっともっと面白いリアクションをとるね、絶対に間違いないねと、根拠無き自信を持つ脇役なおっさんであった。


 とりあえず掴んでいる手を離して、地面へと落としていいかなと考え始めたところ、ようやく男性が気を取り直して、こちらを見る。


「すまない、天使よ。まさかここまでボロボロになった身体が治るとは思っていなかったのでね。神の力とは凄いものなんだねぇ。髪も癒やしてくれたし」


 やっぱり落としていいかなとおっさんギャグを言う元気な男性の対応に困る遥。


 だが気になることがあったので尋ねてみる。


「貴方はどうしてヨク=オトースに捕まっていたのですか?」


 捕まった基準が知りたいと尋ねたら、ウンウンと頷いてしたり顔で


「僕は自衛隊の隊長だったんだ」


 やっぱりねと、自衛隊の戦闘パターンを利用されていたんだねと、おっさん少女が納得して頷こうとした時に


「まぁ、それは全然関係なくて、捕まった理由は格闘ロボット系ゲームが上手かったからなんだけどね。某ゲームでは、ワールドランキング11位だったんだよ」


 ぽいっと、その男性を捨てる遥。あまりにしょうもない理由なので呆れてしまうのだった。


「うわぁぁ」


 叫びながら落ちていくが、そんなに高くはないし地面煙幕の粉砕された土でふかふかだ。問題はあるまい。冗談もすぎるというものだ。

 

「あ〜。でも、冗談じゃないのかな。たしかに敵はロボットだったしなぁ。ロボット格闘ゲームの経験はおおきいかぁ。いや、本当に大きいかぁ?」


 まぁ、取り敢えずは連れていくかと、再び地面へと仕方なく向かうおっさん少女であった。





 フヨフヨとのんびりと飛翔しながら錆びたる街へと向かう。正直フラフラである。これほどまでにレキの身体で疲れたことはない。


 強力な超能力の使用に、大ダメージを受けた身体。いかに超人な身体と言えど、疲労が蓄積されていた。超人パワー1億あれば余裕だったかしらんと、相変わらずのしょうもない考えをしながら移動していた。


 なお、冗談しか口にしない男性は片手でぶら下げているので、腕がぁ腕がぁとか痛みで叫んでいるが無視である。呪うなら自分のアホさ加減を呪ってほしいとおっさん少女は思っていた。


 その理論でいくと常にアホなおっさん少女は呪っていないといけないのだが。自分のアホさ加減は新たに作った記憶の棚に置いておくのであった。


 錆びたる街が視界に入るのにだいぶかかったので、かなりの距離を移動したんだね〜と、のほほんと街を見ると凄いことになっていた。少し高台となっているところで着陸して観察する。


 敵はほとんど倒したと思っていたが間違いだった模様。畑の中から次々と現れる錆びた色のメロリンやジャガーレムと防衛隊やツヴァイたちが戦っているのだった。


 はぁ〜と疲れた感じでため息を吐く遥。たいしたことのない敵だと思っていたが、ツヴァイたちはともかく防衛隊は苦戦をしているようだ。


 見ていると、どうも硬い敵らしい。アサルトライフルを切り替えて、グレネードランチャーの硫酸弾や火炎弾を撃ち込んでいた。


 空中には空を駆ける騎兵隊の如しバイク隊が質量変化弾を使用して敵を吹き飛ばしている。


 どうやら錆びた野菜たちは鉄の塊のような硬さを持っているのだろう。ジワジワと削るような攻撃でしか防衛隊は倒せていない。それか、火炎弾や硫酸弾での攻撃だ。これは特効の効果があるのかあっさりと倒していた。


 しかしそれでも畑からどんどん出ているので苦戦しているっぽい。


「まぁ、それでも問題はないと思うけどね。ツヴァイたちもいるし」


 ボーナスステージのように、じゃんじゃんパワードアーマーに乗りながら敵を倒していくツヴァイたち。さすがパワードアーマーである。その火力はちょっと鉄の塊っぽい程度の敵では相手にならない。


 撃ち出した量子弾は白光となり、錆びたメロリンたちでは相手にならない。あっという間に命中した箇所から溶かして撃破していく。


「でもあれはなんだろうね? おかしいよね? あの人たちはなんであの武器を持っているのかな?」


 首を捻りながらコマンドー婆ちゃんたちの戦いぶりを見る。いつの間にかグレネードランチャーを持っており、ドカンドカンと的確に火炎弾を撃ちながら、敵を蹴散らしていた。まさにコマンドー婆ちゃんの名前に相応しい活躍っぷりだ。


「たぶん防衛隊から貰ったんだろうなぁ。穏便な貰い方なら良いんだけど」


 腕を組んで、軽く苦笑して呟く。ムリヤリとったんではと危惧するチームなので。


「いやはや、僕のコミュニティの守護者たちは強いねぇ」


 助けた男性がノンビリとした口調で、顎をさすりながら戦闘を見ながら感想を言う。


 ん? と言った内容が気になる遥。


「僕のコミュニティ? もしかして貴方が玉砕したコマンドー婆ちゃんたちのコミュニティにいた隊長さん?」


「あぁ、そうですよ、天使さん。どうやら君も知っているのかな?」


 目を細めてノンビリとした声音で話しかけてくる男性。その姿を見て遥は推察する。


 あぁ、この人は昼行灯とか言われながらいざとなったら凄い軍師とかになるタイプだねと。


 取り敢えずは昼行灯は放置して、敵を倒すべく飛翔しようとして


「ん?」


 ぐらりと身体が傾く。なんだかふわふわと身体が感じる遥。


 まぁ、疲れ過ぎかなと、再度飛翔する。


 街全体を視界に入れて、気配感知も重複させて、敵を撃破するべく力を発動させた。


「サイキック!」


 錆びたメロリンたちなど相手ではない。空間を把握して敵を精査して、地面ごと浮かし上げる。


 その地面には多くの野菜ミュータントがいるのを感じたので、そのまま撃破することに決める遥。


「念動破壊!」


 感知した敵を砕くべく、雑魚殲滅の超能力を発動させる。


 あっという間に粉々になる野菜ミュータント。金色になるミュータントも青色に変身する野菜もいなかったので、問題は無かった。しかして問題は別のところで発生したのである。


 超能力を発動した途端に、一気に疲労感が強烈な頭痛と共にくる。


「マジですか……。これほどまでに力を……」


 呟きながら、そうして遥は意識を落としていった。浮力もなくなり、落下していく。


 ふらりと落ちていく中で、レキが体勢を戻して浮遊する。


「旦那様? これはいったい?」


 今までにないことに動揺するレキ。気づけば遥の精神は眠りに入っており、その眠りは深い。そしてレキは全ての超能力が使えないことに気づいた。


「ご主人様はサイキックを使い過ぎたために魂の容量を超えたので気絶したのです」


 遥には見せない極めて真剣な表情で語るサクヤ。


「そしてマスターは制限を突破した力が振るわれたために魂が進化しているのです」


 ナインも真剣な表情で厳かな雰囲気をだして教えてくる。


「魂の進化とはなんですか? いったいなにが起こったのですか?」


 戸惑いながらも、知っているだろう二人へと問いかけるレキ。そこには少し焦りの表情も見えた。


「貴女もいずれわかるでしょう。ご主人様が進化をしたあとに」


「ですが、マスターは未だに最初の進化を終えたのみです」


 サクヤとナインが交互に語るのを聞きながら、さらに尋ねるレキ。


「最初の進化ではどうなるのですか?」


 ふふっと可憐に笑いながら、サクヤが語る。


「超常の力をより強く効率的に使えるようになりました」


「マスターですので、次の限界突破がいつになるかは不明ですが」


 きっとこんな無茶はなかなかしない性格なので。


 二人のメイドは、ふんわりと癒やされる笑顔を浮かべたのであった。


 レキは考えた。ゲーム仕様なのでレベルの限界突破でも可能になったのかと、気楽に考える。レキも遥に負けず劣らずゲーム脳なのであった。


 謎めいた二人の会話をゲーム仕様なのだからと、あっさりと考えるのを止めた戦闘民族なレキなのだった。




 旦那様がお休み中だから、私が相手をしないといけませんねと、レキはフヨフヨと飛翔しながら街へと近づく。


「あ、レキ様。一応伝えておきますが森林基地はクリアです。レベルは48に、報酬は時の宝珠ですね」


 サクヤが一応と伝えてくる。コクリと肯くが正直興味は無い。そういうのは旦那様が楽しめば良い。私は戦うことと寝ることと旦那様が好きなのである。他の興味はあまりない。


 街へと到着する。助けた男性はさっきの場所で放置したので全力疾走でついてきている。


 助けられた人々はレキの姿を見ると、一斉に跪いてへへ〜っと平伏するので、さすがのレキも口を開けてぽかんとした。


「あぁ! 神様が降臨なされた!」

「へへ〜! 助けていただいてありがとうございます」

「ありがたや〜、ありがたや〜」

「ちょっと踏んでください」


 最後の発言をした男の頭を踏みつけて、戸惑いながら周りを見ると、バイク隊も降りてくる。


「貴方様こそ、現代の救世主! 助けていただいてありがとうございます!」


 へへ〜と跪く人々。なんだか尊敬を受けているとレキは判断した。なので次の行動をとる。旦那様がやりそうな行動を取ることにした。やめとけばよいと思うのだが。


 両手を空に向けて、ドヤ顔になり


「そうです。わたしが神です!」


 叫ぶレキである。正確に遥の行動をトレースしているかもしれない。


 パカンと頭を叩かれるレキ。見ると豪族が完全装備で、叩いてきたのだとわかった。


「誰が神だ! 誰が!」


「ほへ? ここはどこ? 私はなにをしていたの?」


 叩かれたことにより、あっさりと遥は覚醒した。あれだけ謎めいたメイドたちの話も、なんの盛り上がりもなくあっさりと終わったようである。さすがおっさん、凄いぞおっさん。まさに脇役に相応しい盛り上がらないっぷりであった。主人公ならヒロインとの感動的なイベントで覚醒しただろう。おっさんは普通に豪族に叩かれて起きたのだった。


 遥は、あれ? サイキックを使おうとしたんだけどと考えていたが思い出す。


「サクヤ! サイキックはマスキングされた回数制限があるでしょ! 意識が吹き飛ぶほどの!」


 ゲーム脳な知識から推察して、フンフンと興奮しながら抗議をするおっさん少女。


「そうですね。ご主人様の貧弱な精神では、1日3回ものサイキックは耐えられなかったようですね。使いすぎると頭が3日酔いとかになるかもしれませんね」


「ですよね! 2日酔いよりも酷い頭痛だったよ? 死ぬかもと思ったよ!」


 サクヤがによによと口元を笑いに変えて伝えてくるので、プンプンと憤慨するおっさん少女であった。憤慨する姿も愛らしい。そして進化とはなんだったのだろうか? アホさが進化したのか? 少なくとも賢さではないのは明らかだ。たぶんおっさん少女+1とか、その程度だろう。


「ところでここはどこかな?」


 きょろきょろと周りを見渡す。どうやら意識を失ってからすぐに起きたようで、景色は変わっていない。


 そして周りの人々が跪いて


「あぁ! 神様が降臨なされた!」

「へへ〜! 助けていただいてありがとうございます」

「ありがたや〜、ありがたや〜」


 と各々が有難がっている模様。人々を見て、ちょっと驚くがすぐにうんうんと頷いて


「そうです。わたしが神です!」


 両手を空に掲げてドヤ顔で叫ぶ遥。どうやら、レキのトレースは完璧だと判明した。


 パコンと頭を叩かれるので、見ると豪族が額に青筋をたてて怒鳴ってきた。


「だから、誰が神だ! 誰が!」


 むぅとノリが悪いなぁと頬を膨らませて遥は周りを再度見渡すと、すでに戦闘は終了しており、空気も錆びついた感じはしない。ヨク=オトースを倒したからだろう。よくよく考えてみたらヨク=オトースを倒すまではエリア概念でステータスが下がっていた防衛隊やツヴァイ隊だ。タイライムが残っていたら危なかったかもと、今後はもう少し計画性を持とうと反省したおっさん少女。多分、その反省は明日には忘れているだろうが。


「昼行灯! 生きていたのかい!」


 コマンドー婆ちゃんが叫んで、昼行灯と綽名を付けた助けた男性へと走り寄っている。どうやら、昼行灯は以前からの綽名だったらしい。


 頭をかきながら、苦笑いをして昼行灯がのんびりとした口調で答える。


「いや~。意外と生き残ってしまいました。死ぬだろうと思っていたのですが」


 ワイワイとコマンドー婆ちゃんたちは再会を喜んでいる。他の生き残りも探すつもりだろうことは明らかだ。


 まぁ、絵面的には老人たちと中年のおっさんの再会シーンだ。美しくないので、放置して豪族へと眠そうな目を向けて話しかける。


「死者はいましたか? 怪我人は?」


「あぁ、大怪我をした兵士はいるが命に別状はない。すぐに傷薬をつけたからな。しばらくは病院暮らしだろうがな」


 豪族の言葉にかぶりをふって、おっさん少女にしては珍しいほどの真剣な声音で答える。


「いえ、その人たちはすぐに治しましょう。そうしましょう。治さないといけない人たちは大勢いるので」


 赤昆布森林の人々はぎりぎりで生きている。それを治さなければいけないのだ。防衛隊は回復させておく。


 メディカルポッドなら完全に体を治癒する。心さえも状態異常なら治す機械である。すなわちトラウマとなっている内容はテレビで見たような記憶へとすり替わり、自身に起きた事とは意識しなくなるだろう。


 完全無欠な方法であるが………。全然ポッドの数が足りない。2万人を超える人たちが赤昆布の木となっていたのだ。長い時間がかかる。面倒だけど、遥も治癒術を行使して助けないといけないよねと嘆息した。トラウマに苦しむ人を残すわけにはいかないのだ。精神制御かもしれないと思うが、ゲーム仕様で精神異常と判断されたならば治さないといけないのだ。独断と偏見でそう決めたおっさん少女である。


 時間がかかりそうなので、しばらくはダンジョンアタックは無理だねとがっかりする。でも、これでダンジョンを囲むコミュニティは全て網羅したはずである。後はダンジョン解放を続けていても問題はあるまい。逐次防衛をしていけばいいのであるからして。


 それよりも、問題は………。


 豪族が困ったような表情でこちらを見てくる。


「どうするんだ。姫様、これは?」


「う~ん………どうすればいいんでしょうか」


 天から降りてきた天使の羽を生やす美しい少女。苦境にある化け物に支配された町を救った救世主。


 人々が豪族とのコントを見ても、相変わらず跪いて熱心におっさん少女への祈りを捧げているのを見て、おっさん少女はさすがに困った表情となる。なんかレキを敬う宗教とかが生まれそうだねと、遠い目をして現実逃避をするおっさん少女。


 そして、ふと思った。錆とりされた鉄はどこにいったのかと。蟻塚はコンクリートだったし、ヨク=オトースのみで使い切ったのだろうか。


「まぁ、もう倒したんだし気にしなくてもいいかな」


 まずはこの街の人々を助けるのが先決だと、四季を呼び出して指示を与えていく。そうして、すっかり鉄のことは忘れさってしまったのであった。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「自身に起きた噴射装置とは意識しなくなるだろう。」という文章がありました。 たぶん誤字だと思うのですがなんと言いたかったのか分かりません。
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