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コンクリートジャングルオブハザード  作者: バッド
2章 初めての生存者と遊ぼう
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20話 女警官は少女を想う

  ガチャリというノブを開ける音がして、昼ご飯のトレイを持った同僚が現れた。


「どうよ? 何かいたか?」


トレイを受け取りながら、生活安全課に配属されていた私はいつも通りの返答をした。


「何もいませんよ。化物以外はね」


期待もしてなかったのだろう。

同僚もそうかと言って隣で昼食を食べ始めた。


「でも、この間おかしな少女と出会いましたよ」


 いつもとは違う返答をナナはしてみる。


「あぁ、一人で生き残っていたっていう少女だろ? 聞いたよ。猿との闘いの後に消えたとか」


最近は物資調達が上手くいっているので少し豪華になった昼ご飯を食べながら同僚が聞いてくる。


「そうなんです。なんだかおかしい少女でした」


と、ナナはこの間別れた少女を思い出した。


 出会った時からおかしな少女であった。ゾンビだらけの街中に鉄パイプ一つでテクテクと歩いていた女の子。


 そして可愛い少女であった。見た目小さな12歳ぐらいのショートの黒髪で目が眠そうな感じであった。こちらを見る姿はどこかのアイドルかと思ったぐらいだ。


まぁ、胸が残念な子であったが。


 物資調達中にすごい音がしたので、何があったかと恐る恐る近づいてみてみれば、少女が一人テクテクと道を歩いていたのである。


最初は生存者がぎりぎりのなかで生き残っていたのだろう。保護をしなければならないと警官魂を呼び起こして声をかけた。


だが、少女は頓珍漢な返答をした。


「はい。大丈夫です。お疲れ様です。何か事件ですか?」


と野次馬根性が少しある面倒な人みたいなアピールをしたのである。


 崩壊する前なら、面倒な野次馬根性の一般人だろうと放置しただろう。だが、今はゾンビが出歩きちょっとしたミスで死んでしまう危険な世界なのだ。


 その返答だけでナナは心中驚いた。泣いて縋り付いてくると思ったのだ。驚きを抑えて少女が何をしていたのか聞いてみた。


「えと、一人かな? 親御さんたちは?」


戸惑いながらも親切に見えるように聞いてみたのだ。そして少女はもっと変な返答をしてきた。


「家に保護者がいます。今日は休みなんです」


何を言っているんだ、この少女はとナナは思った。危険な世界に変貌している現状である。心を閉じてしまい自分は平和な世界に生きていると信じているのだろうかと心配を始めた。


だが、もっとおかしなことに気づいたのだ。


 まず、服が新品同様である。これはそこらへんの服屋から持ってくれば新品同様に見えるかもしれない。


 けれど、その上少女からはいい匂いがしたのだ。


まるでお風呂でピカピカに毎日磨き上げているみたいな。こんな世界では飲み水すらも貴重なのに。


比べて自分はどうか? もう覚えていないほどお風呂に入っていない。崩壊前の世界なら職質されるレベルだとナナは思う。


「えと、おねえさんと一緒に安全な場所にいこっか?」


ナナは警戒心が吹き上げてくるのを感じながらそれを見せないように気を付けながら拠点へと誘ってみる。


「すみません。冗談を言いました。でも、保護者が家にいるのは本当ですよ?」


と、少女は危険を感じさせない笑顔でちいさく舌をだしたのである。


可愛い物言いだ。以前なら問題なくスルーしただろう対応だ。


そして全く周りに危険が無いと思っているような警戒心のない反応であった。


「そう、どうやってここに来たの? ここは危ないよ?」


おかしく思いながら、尚追及をナナはしてみる。


保護者が家にいる? なら少女は一人でこんな危険なところで何をしているのだ。少女を見るに鉄パイプ以外何も持っていない。リュックすら持っていないのだ。何を目的にここにいたのだ。


警戒心が高くなっていくナナを目の前に少女はこちらをじろじろ見た後に空中をみて、ぼ~っとし始めた。


「もしもーし?」


やはり心が壊れているのだろうかとナナが思い始めたときに少女はこちらに改めて気づいた感じを見せて答えてきた。


「いえいえ、大丈夫ですよ? ちょっと疲れてしまいまして」


全く疲れていない感じなのに、そんな返答をしてきた。


 ナナはこの少女を不気味に思い始めた。何かちぐはぐな感じがする少女なのだ。言動と行動が一見あっている。しかし今の現状を見るに全く場違いな言動である。


 自分の手には余るし保護をして、隊長のところに連れていくことした。かなり強引にこの少女を物資集積拠点まで連れていく。


「君は今までどうやって生きてきたの?」


疑問に思ったことを聞いてみる。本当にどうやって一人で生き残っていたのだ。すでに家に保護者がいるなど嘘だとナナは思っていた。何しろこんな危険な世界なのだ。物資の補充にしても周りの探索にしても少女一人を外に出して自分は家に籠っている保護者などいないに決まっている。


「ゾンビに気づかれないようにこっそりと生きてきました。危ないときはこの鉄パイプでバシーンと敵を倒してきましたよ」


と、少女はあざとく可愛いフォームで鉄パイプをへろへろな素振りで振っていた。


演技だと赤ん坊でもわかる言動であった。


「そっか、そっか、生き残っていて良かったよ。もう安心だからね」


と、笑って誤魔化す。本当にこの少女はなんなんだろうかと不安に思いながら。


「鉄パイプは持っていていいですよね?」


護身のための武器を持つのは当たり前だ。取り上げるような人間に自分は見えたのだろうか? それに鉄パイプなどという貧弱な装備だ。


「うん。自分を守る手段は大事だよ」


いざとなれば自分がいる、最近買った銃もあるし改造サスマタもある。


なにより数日前からナナは急に自分の力が上がっているのを感じていた。


疲れにくく力強い。気のせいだと最初は思ったが物資調達中にゾンビやスケルトンと戦っているうちに気のせいではないと判断できるほど、自分の戦闘力が上がっているのを感じていた。


少女を守りながら拠点に進むなど楽勝だろうと最近の自分を顧みて思う。


朝倉レキという名前を聞いた後に自分の名前を告げたところ、うっすらと笑った少女である。


たぶん自分の名前の語呂で笑ったとわかった。名乗りあうときはいつものことだ。


うっすらと笑った少女はひどく可愛かった。



 立体駐車場に向かう先にスケルトンがナナたちの前に現れた。


「なんでスケルトンウォーリア?」


スケルトンたちを見て場違いに危機感を持たない発言をした少女。


「気をつけて!」


と声をかけてスケルトンを倒したが、倒し終わったときに少女を見るとナナの力に感心はしているが、スケルトンに脅威は感じていないように見えた。


少女に向かったスケルトンを倒す際に、鉄パイプでシミターを防いで腕がぷるぷるして可愛い声で防いでいる感じをみせていたが、顔は全く焦りを見せていなかった。


自分の力に余程自信があるのだろうと推察をする。


 その後立体駐車場に着いた際に、自衛隊の隊長と警官の先輩隊長にこっそりこのことをナナは告げてみた。


危険人物とは感じなかったが、なんだか変な子であるからだ。


隊長たちは拠点へ連れ帰り様子を見ようと決定した。


 だが、帰り道は過酷である。屋上から拠点へと何本もの張ってあるロープや、足場には見えないボルトを足場にして移動しなければならないのだ。少女に耐えられるレベルではない。


フォローをするようにと隊長たちから指示があったが、ナナは全くフォローができるとは考えなかった。自分の荷物を持ちながら移動するだけでも大変なのだ。


休み休み行くしかないと思っていたら、そこでも驚きの少女の姿が見られた。


スイスイとロープを渡ってついてくるのだ。少女にはあるまじき力である。


見かけは可愛い少女にしか見えないのだ。ついてくる力があるように見えなかった。


休憩地点まで普通に少女はついてきた。しかも汗一つかかずに。


もはや何がなんだがわからないナナであったが、少女はその後に重要な言葉を発した。


ゾンビや骨以外に危険なミュータントを見たというのだ。


驚くナナが隊長に伝える前に、その危険なミュータントであろう猿が現れた。


最初の猿はあっさり倒せた。


次の猿はグレネードを投げてきた。


危険を察知したが何もできない一行を前に、素早く前に出て持っている鉄パイプでグレネードを打ち返して猿を倒すという驚きの力を少女は見せたのだ。


正直、鉄パイプが振られたとき、全くその振りを見切ることはできなかったナナである。

あまりにも速い振りであったのだ。


その後、大猿が現れて大猿の不思議な力で銃弾を防がれ、その咆哮によりチームが動けなくなった時も少女は敢然と大猿に立ち向かった。


しかし体格差はいかんともしがたく、少女は蹴られて屋上から落ちていった。


ただでは落ちなかったのだろう。その後すぐに大猿は大爆発を起こした。恐らく、大猿が腰につけていたグレネードのピンを蹴られる隙に抜いたのであろう。


残念ながら大猿はぴんぴんしており、屋上から落ちていった少女を追いかけていったのだった。


自分も後を追わなければと痺れる体を引きずり屋上の端まで行ったとき。


激しい銃撃音が聞こえた。


その後にのんびりとした可愛い声も聞こえた。


「ナナさーん。そろそろ門限なので帰りますね~!」


門限ってなんだとナナが思っている間にも、大猿を倒したのであろう遠目にしか見えなかったが少女がテクテクとこちらから離れていくのを見たのであった。


その後、ゾンビが集まってきたので危険性を考えて少女を追うことはできなかったナナたちは拠点に帰宅したのである。


「レキちゃんって言ってたっけ」


声にだしてナナはおかしな少女を思い出す。


今度会った時はちゃんと名前を呼んであげられるかなと思いながら。


 また再会できるとなんとなく確信をもちながら。
















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