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コンクリートジャングルオブハザード  作者: バッド
14章 北海道に行こう
202/579

201話 おっさん少女は牧場観光を楽しむ

 澄み切った青空である。本日も昨日に続き日本晴れであり、雲一つない綺麗な空であった。柔らかな日差しが降り注いで、ちょうど過ごしやすい気温となっている。


 春となり、畑は種まきなどで忙しく、人々は機械が使用できないため、ずらりと畑に並んで耕作に励んでいた。その様子は遠目に見れば、たしかに強制労働にも見える。暖かいために汗を流しながら辛そうに働いているのが昨日までの人々であったが、今日はどこか違う感じであった。


 その理由はというと、3人の外からの訪問者がやってきたからである。自分たちは苦労をしながら働いている。雑草は農薬を使えず、人の手で抜きとらなければならない。種を植えるのも、耕すことも全て重労働であり、腰を痛めながら働いていたのだ。


 疲れが身体を覆い、希望が見えない世界に精神が不満で押しつぶされそうになった時に来訪した少女は、外の世界がもっと酷いことを教えてくれたのである。自らがまだマシであったことを知って、すこしばかりの元気を取り戻し、少女から買い取った調味料で久しぶりにまともなご飯を食べることができた人々は活力を取り戻そうとしていた。そして仕事上がりに酒を飲んで愚痴を言いあいストレスの発散をする予定であった。


 人々が昨日と同じ仕事をされど、心の持ちようを昨日とは変えている中で、話題の少女が土の畦道を歩いていた。


 ふふふ~んと鼻歌を歌い、スキップしながらご機嫌な様子である。ショートヘアの艶やかな黒髪を風になびかせて、嬉しそうな表情を見て、人々は癒されるのであった。


 そろそろ詐欺罪で捕まっていいおっさん少女は、ランランランと畦道を歩いていて、土の感触はなんとなく良いですねと感じていた。コンクリートジャングルよりも断然良い。だけど、ここで働くのは大変そうなので、観光でいいかなと我儘極まりないことを考えていた。


 おっさん少女の後ろをアイン、シノブ、コマンドー婆ちゃんがついていっている。


「やれやれ、嬢ちゃんはご機嫌だね」


 おっさん少女を見ながら言うコマンドー婆ちゃん。楽しそうな雰囲気をまき散らしている姿を見て、癒されているのか、微かに微笑みを浮かべている。


「レキ様はいつも楽しそうさ。人生を楽しんでいるかなっ」


「そうですね。あの姿には感銘を受けます」


 アインとシノブがそう語り、うんうんと頷く。


「まぁ、こんな世界でも楽しく暮らそうというのはいいかもね。あたしにゃ、無理な話だけどね」


 肩をすくめて、諦めたように答えるコマンドー婆ちゃん。そのコマンドー婆ちゃんへと、くるりと可愛くターンしながら見て、遥がふふんと笑う。


「いえいえ、楽しむ内容はなんでもあると思います。お酒でも良いんですよ。悪酔いしなければ」


 両腕を水平に伸ばしながら、子供のようにクルクルと小柄な身体を回転しながら歩いていく、私はご機嫌ですよとアピールしているおっさん少女。その愛らしさは変態メイドが鼻血をだして突っ伏すレベルである。もはや中身はきっと消えたのだ。中身はレキしかいないのだ。


「なんだい、それじゃたっぷり今度は酒を持ってきな。全部買い取るからね」


 口を曲げて、にやりと笑うコマンドー婆ちゃん。したたかさは、静香さんにタメをはるかもねと思いながら、検討しますと答えておく。


「とりあえず私は牧場の観光を楽しみますよ。きっと楽しいと思いますので」


 おっさん少女たちは只今牧場観光に向かっている最中なのであった。




 牧場には牛や羊、それに犬や鶏が飼われていた。広い牧場であり奥多摩の牧場とは比べ物にならない。何千頭いるのかなという感じだ。


「よくこれだけの牧畜を死なせないで維持できましたね。飼料だけでも大変だったのでは?」


 牧場で働く牧場主へと声をかけて聞いてみる。


 老年の牧場主は以前は家族経営なのだろうか。いまでは何十人も働いている人たちがいる。その管理者である牧場主は首を横に振って、答えてくれる。


「いやいや、大分死なせちまったよ。使っていなかったサイロなんかを復活させて牧草を集めて、子牛が生まれるのを死なせないように頑張ったりな」


「はぁ~。これだけいるのですから大変なんですねぇ。なにか必要な物がありますか?」


 ほうほうと感じ入って、遥は問う。お手伝いできる物があれば提供しますよ、その代わりに牛乳などの乳製品をよろしくお願いいたしますという感じだ。腐らないようにアイテムポーチへ入れておくので安心だ。


 それに若木コミュニティへも牛やなにやらを分けてもらうつもりでもある。恩を売っておいて損はない。交易路も作成するつもりであるし。


「電気だね。電気があれば、かなり楽になるよ。後は飼料。素人は牧草だけで大丈夫と思いがちだが、色々飼料が必要なんだよ」


「ほうほう、電気ですか。それなら私は偶然にも少しばかり電気技術を持っていますのでなんとかできるかもしれません。飼料は後で持ってきますよ」


 にっこりと相手の警戒心を解きほぐす微笑みで、提案をするおっさん少女。その微笑みと提案を聞いて驚く牧場主。半信半疑ながら聞いてくる。


「それが本当なら助かるよ。どんどん牛が痩せていくのを見るのは辛いんだよ」


「わかりました。お任せください。簡単にちょちょいのちょいで解決をして差し上げましょう」


「待ちな! それは後からの話にするよ。細かい条件も必要だろう? ここで軽く頷いて頼める内容じゃないはずだ。気をつけないと、この嬢ちゃんに全部持ってかれるよ!」


 遥が契約成立ですねと言おうとしたところ、コマンドー婆ちゃんが素早く口を挟んできた。凄いよ、本当に強かだねと、舌打ちする。恩を返しきれないほど与えて、こちらの言い分を通そうと思ったのにと口を尖らすおっさん少女。


「それは本当かい? うちも苦しいからあんまりきつい条件は困るよ?」


 牧場主が困り切った表情で不安な声音で聞いてくる。たははと苦笑いを見せて、頬をかきながら遥も答える。


「無茶ぶりはしませんよ。ただちょっと他のコミュニティに売れる牛さんや羊さんを貰えないかなと思っただけです」


「ほらね。こいつらは強かなんだ。気をつけなよ」


 あたしゃ騙されないよという感じを見せて、コマンドー婆ちゃんが言うので、牧場主もこくこくと素直に頷く。

 

 こりゃ、色々と復興支援を進めるのは大変そうだねと嘆息するが、ここまでの道を作成して後は四季たちに放り投げようと密かに考える他人任せなおっさん少女。


「まぁ、それは後ででもいいでしょう。まずはここに来た目的ですね」


 上目遣いで、うるうるおめめになり、両こぶしを顔の前に持ってきて、牧場主に聞いてみる。


「牛さんや羊さんを触ってみてもいいですか?」


 おっさん少女は観光に来たのである。特に羊の羊毛には触ってみたい興味津々な童心を持っている少女なのだ。その目的を語って、呆れる牧場主は快く頷くのであった。




 もーもー、めーめーと可愛く声に出しながら、牧場内をうろついて、牛や羊、山羊とキャッキャッと遊ぶおっさん少女。子供のような体躯もあって、楽しそうにうろちょろして、犬が周りで懐いたのかまとわりついて楽しそうに歩いていた。働くことのできない、まだ年の低い子供たちも嬉しそうに一緒に遊んでいる。久しぶりに癒される風景を見て、安堵する人々。


 その姿を孫でも見るように牧場主が眺めており、他の働いている人も癒されている笑顔を浮かべている。本来は仕事の邪魔になるので、怒鳴られそうだがそこらへんは抜かりはない。


 なぜならば、肉やら野菜やらでバーベキューをアインたちが用意しているからである。調味料も酒もたっぷり置いてあり、クーラーボックスには氷が入っており、ソフトクリームを作成する機械がぐるぐると中のソフトクリームを回転させて作っていた。


 全部リュックに入る量じゃないでしょというツッコミを受けそうな量だ。お疲れ様です、差し入れですよ~と、微笑みを浮かべて働いている人に伝えた抜かりのない遥である。


 その差し入れを楽しみに働いている人たちは、持ってきた少女を怒るはずもなかった。


 その姿を見て、コマンドー婆ちゃんは呆れながらも感心していた。


「やれやれ、本当に楽しそうに遊んでいるね。あれだけ見れば年端のいかない子供にしか見えないんだが………。それを裏切る根回しの良さが見て取れるね。あの小娘は何者なんだい? 嬢ちゃんたち」


 バーベキューの準備をしているアインたちへ尋ねる。


 肉を並べながら、ちらりとアインが見て、にやりと犬歯を見せて笑う。


「見ての通りだよ。凄腕にして楽しむことを知っているうちらの上司さ」


 カチャカチャと皿を用意しながら、シノブも頷いて同意する。


「私たちのことも思いやる優しい方ですよ」


 それを聞いた、やはり同じようにバーベキューの準備を手伝っていたおばちゃん連中が、ホッとした表情になる。


「良かったわ。なんか明日への希望が出てきた感じよね」

「そうね~。どうやら復興は始まっているみたいだし、良い情報が入ったわよね」

「ご飯美味しそうだね~」


 それぞれが感想を言いあう。不安を解消するニュースは大歓迎なのだからして。


 人々を見ながら、コマンドー婆ちゃんは話を続ける。


「それに、あんたらの正体が本当に気になるところさね。どうもありえない技術を持っているみたいだしね」


 ちらりと横を見ると軽油もガソリンもいれていないのに、動く段ボール箱ぐらいの発電機が置いてあった。その力はこの牧場の全ての機械を動かせた驚きの電力を発生させている。こんなに小さい箱なのにだ。


「それは、遠くない日にわかるでしょう。それまでは楽しみになさるとよろしいかと」


 平静な声音でシノブが返事をするのを聞いて、苦笑いをするコマンドー婆ちゃん。


「はっ! とんでもない奴らが来そうだね。これから一気に大変そうになりそうだ」


 それでも好転しそうな話だろうと内心で考えて、これからの交渉がきつい内容になるだろうとコマンドー婆ちゃんは予想していたのであった。


 だが、予想は未定であり、先に新たな火種がやってきたのである。それは青年が息を切らして牧場に来て伝えてきたのであった。




 

 モーモーメーメーと口ずさみながら、羊の毛をつんつんとしていた遥。おっさん少女よ、中身は何歳だっけとはもう聞くまい。


 案外羊毛って硬いんだなぁと思いながら、じっとしており反応がない羊を見ながら思う。反応がないから面白くない。可愛いけど、それならこの牧羊犬と遊ぼうかなぁと、なぜか懐かれた遥は周りにまとわりつく犬たちを見て思った。


 だが、その考えはバーベキューの準備をしていた方からの声で遮られた。


「なんだって! すぐ行くから待ってな!」


 コマンドー婆ちゃんの叫び声が聞こえてなんだろうと振り向くと、息せき切って走ってきた青年が、コマンドー婆ちゃんの側にいて、なにかを報告していたようである。その言葉に反応して大声を発したらしい。


 そっと呟くようにレキが言う。


「旦那様、反応があります。それも数十体の反応です」


 忠告してくるレキの言葉に従う遥。気配感知をアクティブにすると


「なるほど、何か面白いことになりそうですね。私も参加をしましょう。そうしましょう」


 楽しそうに笑い、このコミュニティの外れに訪れている者たちを感知した遥は、クスリと可愛く笑った。


 どうやら北からの訪問者である。しかも興味深いやつらだ。


 コマンドー婆ちゃんが急いで走っていくのを見て、遥も周りの子供たちに声をかける。


「少し私も様子を見てきます。ゆっくりソフトクリームでも食べていて待っていてくださいね。あ、私のソフトクリームは残しておいてくださいよ? 絶対に全部食べちゃダメですからね?」


 ソフトクリームはぐるぐる回転している機械でしか認めない派なのだ。崩壊前の観光地でよく見たカップアイスを押して作るソフトクリームは邪道である。というか、あれはソフトクリームじゃなくてアイスクリームとして売り出すべきだと思う。だって舌で全然溶けないし柔らかくもないし。なので、せっかく作っているソフトクリームを全部食べないでねと子供に釘をさすセコイおっさん少女であった。


 そんなアホなことを言っている間に、コマンドー婆ちゃんはいなくなり、アインたちはこちらの指示待ちで待機していた。


「ではでは、私たちもこの楽しそうな催しを逃すわけにはいきません。行きましょう。いったいなにがあったのか」


 まぁ、大体想像つくけどねと、風を纏わせるように走り出すおっさん少女。それにアインたちも続くのであった。まぁ、人間の速度なのでそんなに速くはない。たぶん世界一のタイムを大幅に更新する程度だ。


 



 てってこと歩いていくと、20人ぐらいの集団と睨みあいをしているコミュニティの面々がいた。コマンドー婆ちゃんが中心になり、老人が2人立っており、残りの2人はライフルを持って離れた場所にいた。つくづく戦いなれた人たちだ。そして青年たちも銃を握りしめて、コマンドー婆ちゃんの少し後ろで成り行きを見ているようだった。


「あんたらの集団の傘下に入れだって? どうも歳のせいか耳が遠くなってしまったようだね。ありえない幻聴を聞いたんだが」


 コマンドー婆ちゃんが、相手を馬鹿にしたように煽りを加えて話す。その返答だけで何があったのかは簡単に推測できる。


 相手は3メートルぐらいの黒いごつそうな重厚なロングコートを着込んで、サングラスをつけて頭にシルクハットを被ったものが5名いて、他は黒いコートを着込んでいるが普通の人間に見える。まぁ、目が血走っているので体調は悪そうであるが。そして怪しいペイントを顔に書いており、槍を持っていた。山間コミュニティで得た情報の奴らである。


「ふん。我らが教祖様にして王がここを傘下にすると言っているのだ。有難く膝を屈して傘下になるといえばいいのだ」


 上から目線で語り始める敵のリーダーらしき人物。嫌みそうに口元を歪めている。


「あぁん? それは力ずくで追い出されたいってことかい?」


 臨戦態勢に入るコマンドー婆ちゃん。それを見て遥は少し前に出る。あの敵はコマンドー婆ちゃんたちには荷が重いかもしれない。


「やってみよ。我らが王の研究成果がわかるだけだろうがな」


「そうかい、それじゃ話は決裂だね!」


 怒鳴りながら、素早く腰の銃を抜いて、リーダーの頭へと狙い撃つコマンドー婆ちゃん。相変わらずの脳筋っぷりである。戦闘への流れが速すぎる。


 だが、この場合の判断は合っている。彼らは危険である存在だ。


 ガーンガーンと銃声がして、数発の銃弾がリーダーの男へと飛んでいく。当たれば死ぬのは確実である。


 だが、余裕そうな笑みを浮かべて、ただ案山子のように立っているだけの男。何故かはすぐにわかった。


 人間には視認が難しい速さで、銃弾を手のひらで後ろにいた大柄な男がいつの間にか移動して受け止めたのだ。


 人外離れした動きをした敵を見ても動揺せずに、コマンドー婆ちゃんは身を翻しアサルトライフルを背から取り出して、撃ち始める。


 それに合わせて老人や青年たちも撃ち始める。


 雨あられと銃弾の嵐が敵へと吹き荒れる。敵の大柄な男はやはり残像が残るような速さで手を動かして全ての銃弾を弾き返す。いつの間にか他の4人も前に出てきて、他の男たちへは一発も銃弾が届かなかった。


 ライフルを遠く離れた所から老人が撃つが、その速度を上回る速さで銃弾は同じように防がれる。


「ちっ、どうやら最近は映画から抜け出てきたようなやつらが増えたのかい」


 舌打ちをしながら、それでも怯まずに撃ち続けるコマンドー婆ちゃんたち。


「ははははっ! 無駄だよ。哀れなるやつらよ」


 高笑いをするリーダーの男。調子に乗りまくって楽しそうだ。


「ご主人様。ミッションが発生しました。牧場コミュニティを守れ! exp30000 報酬ブラッドジュエルです」


 サクヤがフンスと鼻息荒く伝えてくる。最近活躍場所が多くてご機嫌なメイドである。


「またもやミッション発生とは、この地は本当に凄いね。大幅アップデート万歳だね」


 コマンドー婆ちゃんたちの弾が切れたら、やばい感じの敵である。しかも30000とは豪勢だねとおっさん少女は敵へと向かい、歩き始めるのであった。


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