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コンクリートジャングルオブハザード  作者: バッド
14章 北海道に行こう
201/579

200話 おっさん少女は強制労働所の生活を聞く。

 一面の青空が広がり、爽やかな風が吹く北海道。春であり過ごしやすい季節である。そよそよと風がショートの髪を撫でていき、お昼寝日和だと教えていた。いつもなら、もうお昼寝しないとねと、ぽてんと大の字になり寝ていたかもしれない。


 おっさん少女はそんなお昼寝日和の青空の下、ちょっとした空き地にゴザを敷いて商品を並べていた。引き続き、ここで働いている人々への商売をしているのである。


 人々は久しぶりに見た調味料を買おうか迷い、薬を万が一のために購入しようか、久しぶりに酒を買って騒ごうかと迷っていた。手元には崩壊後には使わなかった財布を握りしめている。崩壊後でも捨てられなく持っていたようである。


 そんな人々へニコニコ笑顔を見せながら、遥は買い物客を観察していた。どことなく、この人たちは疲れている。精神的にも肉体的にも。そんな感じを皆醸し出している。ちょっと脚を引きずるように億劫そうに歩く。話している間にも影が差す。そんな様子を見て想像した。恐らくはその想像は当たっているだろう。


 う~んう~んと悩んでいるおばさんへ子供特有の無邪気な笑顔を見せて、ここの生活内容を尋ねる。何しろ逃げてきた人に言わせると強制労働所らしい。子供特有なのに、中身はおっさんだろというツッコミは受け付けません。


「おばちゃん、ちょっと聞きたいんだけどいいかなぁ?」


 わざとらしく、子供の舌足らずな声音で疑問の表情を向けて尋ねる。えへへ、あたち10さいとかそんな感じで話しかける。醤油の小瓶を見て迷っているおばちゃんは、遥へと疲れた感じを見せながら、それでも子供相手だと考えているのだろう、優しい笑顔を浮かべる。そろそろ詐欺師として捕まえてもいい中身詐欺だ。


「ん? なんだい、お嬢ちゃん」


「えっと、皆疲れてますよね? どんな暮らしをしているんですか?」


 疑問である。どうやら監視をつけて働かせているのは間違いないが、どの程度の強制労働をさせているのかわからないからだ。


 別に鞭を持った看守や、汚物は消毒だ~と火炎放射器をもっている男もいない。まぁ、いたら即倒していたが。きっと見つけた途端に走って近寄って嬉しそうな表情で倒すのは間違いない。


 そしてドヤ顔で、お前らに生きる価値はないとか言い放つのである。とても楽しそうだと、想像の中で活躍するおっさん少女。だが、実際にそれをやったら学芸会みたいな感じの子供のごっこ遊びになることは間違いない。


 朝倉レキの思わぬ弱点。子供っぽい美少女なので威圧感がないのであった。まぁ、美少女なので、そんな弱点はいらないが。あと、おっさんが子供っぽさに拍車をかけている可能性が微レ存。微レ存だろうか?


「そうだねぇ、朝は凄い早いよ。日が昇る前に起きて、畑や牧場の家畜の世話。大体お昼すぎの3時ごろまでは働くね。働き終わったら、配給の野菜やら牛乳やらを受け取って、あとは自由だね。簡単そうに聞こえるけど、全部肉体労働だからね。かなり厳しい生活だよ」


「ありゃりゃ、早起きですか………。それは私には無理ですね。絶対に起きれませんね。起こそうとする人間は酷い目に遭うかもしれませんね」


 おばちゃんの話の内容に嫌そうな表情で項垂れる遥。早起きにのみ注目する酷さを見せる。


 日が昇る前とは、仕事をしていたときは出勤をする際に、その時間に起きたことがあるおっさんだ。だけれども、もう駄目である。何がダメかというと、この1年でおっさんは堕落したのである。墜落に近い堕落をしたのである。


 早起きなんていう単語は空の彼方に飛んでいき、遥の脳内辞書からは完全にデリートされた。なので働くより、早起きのほうが辛いと考えてしまうのであった。それにレキの身体で肉体労働をしたら、一人で全部できそうであるし。


「夏過ぎは収穫があったから、お腹いっぱいに食べられたんだけどねぇ。さすがに冬を越したらぎりぎりの配給さ。まぁ、これが昔の人々の自然の暮らしとかいうやつなんだろうけどね」


 苦笑交じりに肩をすくめて、今の状況を伝えるおばちゃん。理性では納得しているが、感情は納得していないのだろう。その気持ちはわかる。なるほどねと、可愛く頷く遥。きつい労働をさせてはいるが、しっかりとコミュニティをコマンドー婆ちゃんたちは守っていらしい。


 遥の中では、日が昇る前に起こされるのはきつい労働なのである。そこだけを注目していたおっさん少女であるが、実際は機械が動かないので、全て肉体労働で解決しているので、そちらが重労働なのであろう。


 なにしろ、狭い盆地といっても、機械が無ければ畑を世話するなどかなり厳しいのであるからして。そして、避難民は半分以上は農家ではなかった。慣れない仕事であるので、それが重労働に拍車をかけていたのである。


「だけれども、通貨が使えるとは考えていなかったよ。タンス貯金を大事に取っておいて良かったよ」


 はふぅとため息をついてしみじみと言うおばちゃんを見て、なんだか江戸時代以前の農家の人みたいと遥は思う。


 見たことはもちろんないが、それでも教科書などで勉強をしたのだ。娯楽もなく、ただひたすら生きるために畑を耕す日々。それは江戸時代以前の人々なら耐えることができただろう。しかし、現代の人々には無理だ。1年という月日は長いようで短い。まだまだ崩壊前の生活を覚えている人々にとっては辛いに違いない。衣食足りて娯楽も欲しいというやつだ。礼節は多分いらないと思う。現代人なら、身についているだろうから。


 これはなんとかしないと、革命です。革命が起きるでしょうと遥は推察した。アニメや小説だと、たまにある展開だ。一生懸命に守ってきても人々からは理解されずに、指導者たちは最後は革命が起きて惨たらしく死んでしまう。


 たしかに、コマンドー婆ちゃんたちはやり方をいまいち間違えているのだろう。しかし、命を懸けて戦っているのは、この間の戦闘でよくわかった。不可視のシールドを張るバイクを見ても怯まずに戦闘をしてきたのだから。


 頑張っている人たちは、それなりに平穏に暮らしてもらいたい。なので、誰かが革命とか、ここを解放しようとか言い始める前になんとかする予定だ。まぁ、不満はあるだろうが、今のところは爆発するほど、人々はため込んではいないみたい。それならなんとかなるだろう。


「ねぇ、嬢ちゃん。私からも聞いていいかい?」


 おばちゃんがなんとなく希望をこめた声音で尋ねてくる。なにを聞きたいかは予想がつく。他の人々も固唾を飲んで、遥とおばちゃんの話へ聞き耳をたてているからだ。


 なので、なんでしょうと笑顔で首を少し傾げて頷く。


「この醤油なんだけどね、製造日が1週間前になっているんだけど、どうしてだい?」


 簡単に想像できるが、それでも希望を言葉にしてほしいのだろう。なので、平然とした表情で答えてあげる。


「作っている所から買い取ってきました。買い取り値段は秘密ですよ」


 ちろっと舌を出して悪戯そうにするおっさん少女。どこまでレキを可愛く見せようというのか。


 その言葉に勢い込んでおばちゃんが詰め寄ってくる。


「やっぱり! そうしたら復興している場所があるんだろう? いったいどこだい?」


 他の人々も予想はしていたが、言葉にされた希望にしがみつくみたいに遥へと詰め寄ってくる。


「どこなんだい? もう政府は復活しているの?」

「いつ救援隊がここに来るんだ?」

「もうこんな生活をしないですむのか?」

「もう他の地域は安全なのかい?」

「ちょっとおじさんと遊ばないかい?」


 最後の発言者は通報してやろうと考えて、遥はゆっくりと順番に答える。


「政府は私の知る限りでは見たことがありません。今はどこかの金持ちの財団が私費を投じて復興作業を行なっている感じです。救援隊はここに来るんでしょうか? 場所を知らないですし、知ってもお金を必要としますよ?」


 息を吐いて、周りへと眠そうな目で見渡して、教え込むように伝える。


「それにこんな生活と言いますが、他ではもっと悲惨な場所がほとんどです。食うや食わずやらで、餓死しそうな人々や希望を持てないで、細々と物資を集めていた人たちがほとんどでしたね。ここみたいに、救援隊も来ていないのに商品を買おうと考える余裕ある人々は初めてです。あと、ここもかなり安全な場所ですよ。最後の人は通報しますね」


 皮肉気に一気に言い放ち、周りの反応を見る。あと、男性が一人逃げていった。


 人々は戸惑いながら、今の情報を頭に入れて考える。


「ここはまだましだと言うのかい?」


 戸惑いながら、半信半疑な表情を浮かべて一人の男性が聞いてくるので


「そうですね。なにを基準にしてマシと言うのか? という問題はありますがお腹が空かないのはマシな方ですよ。仕事は大変そうですが」


 なるほどと、お互いに顔を突き合わせて会話を好き勝手に話し始める。ざわざわと、これからどうしようかという悩みを話している。


 銃持ちの青年が硬い表情で尋ねてくる。遥たちを見張っている人だ。


「なら、ここの暮らしを肯定しろということかい? この強制労働を見過ごせと?」


 ん?と遥はその発言にぴくりと眉を動かした。なんだか不穏な発言だと感じたからだ。こういう発言は小説やアニメでよく知っている。正義感溢れる主人公が言いそうなセリフである。


「特に肯定も否定もしませんよ。ただ、お腹が空かないことは、この崩壊した世界では貴重なことだというだけです」


 そこで悪戯そうに微笑みを浮かべる。


「それに、復興作業が始まっている場所は仕事がほとんど物資調達やら掃除やらです。力仕事が多いので、仕事を探すときは大変だと思います」


 その言葉に考え込む青年。どうやら他もあまり変わらない状況かもと思い始めているのだろう。


「なんだ。物資調達に掃除って、ゾンビが出るんだろう? この仕事よりも厳しそうだな」

「そうだな。ここはまだ安全だものな」

「しかし、労働がきついぞ。休みが欲しい」

「そろそろ話し合いが必要じゃないか?」


 再度、騒ぎ立てる人たちを見ながら、遥はどうなるのだろうとニコリと笑顔を浮かべていたのみであった。




 商売を終えて、夜となった。太陽が落ちて電気の無い世界は暗闇に包まれる。あれだけ話していた人々も明かりを灯すのも大変なのだろう。特に点いている様子はなかった。


 その中で、空き家を紹介されたおっさん少女たちは、その家の中にいた。煌々とこの家だけは灯りを携帯懐中電灯でつけて明るい。


 いるのは遥とアイン、シノブだけである。この暗闇の中は危険なのだろう。見張りもいなかった。


 アイテムポーチから出したふかふかベッドに座り、ちっこい脚をぷらぷらさせながら、今日の感想を遥はにこやかに言う。


「なかなか面白い場所ですね。傍から見たら、たしかに強制労働所でしょう。機械がないから、農奴のように畑にずらっと並んで働く人々はたしかにそんな風に思わせます」


「ボスの言うとおりだね。やっぱり機械がないと、ここまで広い畑は維持できないんだろ」


「それに、人々は疲れているでござる。腰をトントン叩きながら種植えや雑草取りに水撒き。どれも重労働と見えます。あ、いえ、見えるでござる」


 シノブは執拗に忍者になろうとしているなぁと、苦笑する。


「シノブ、ござる禁止ね。教えた銀髪メイドはあとでお仕置きをしておくから」


 そろそろ止めないとくノ一の服とか着たり、毎日不自然に誰かに覗かれてお風呂に入ろうとするかもしれない。


 ええっと愕然とした表情になるシノブ。そして、お仕置きって、なんですかご主人様とウィンドウ越しにサクヤが、はぁはぁと息を荒くしているが、彼女は新たな扉を開いたのだろうか。というかサクヤの扉はたくさんありすぎである。しかも鍵がかかっていなさそうだ。


「それじゃ、機械の導入からかな? 牧畜は貴重だよねぇ。若木コミュニティの早苗さんの牧場は全然家畜の数が足りないし」


 1万人を超すコミュニティに、多少の家畜ではいき渡らない。ここの数千頭の家畜は是非とも確保したいおっさん少女だ。


 でもなぁと悩み顔になる。あのコマンドー婆ちゃんは素直に救援を受けると頷くだろうか? ちょっと独立心が高すぎるよと思う遥。


 恐らくは大樹傘下になれと言っても、簡単にはなるまい。色々と条件をつけて対等のコミュニティとして活動しようとするはずだ。今までの行動から簡単に想像できる。これが新ステージだということなのだろうとゲーム脳なおっさん少女は考える。


「あぁ、それでも構わないですか。特に傘下にならなくても」


 ふと、思いつく。どうしても傘下にしようとしなくても良いのだ。ようは新たなコミュニティが発見できたというだけで。


「だけれども、その場合は迷宮の解放はどうするんだい? ボス。次の層解放は大変な被害がでるかもだぜ?」


「陰から見守るのでしょうか?」


 アインとシノブの意見を聞いて、また悩み始める。たしかに、最初はそのために来たのに、すっかりとその考えを忘れていた迂闊ものである。まぁ、迂闊を着こんで移動しているおっさん少女であるが。


「交易のためと言って、兵を常駐させましょう。コマンドー婆ちゃんたちは嫌がるでしょうが、それで2層解放を対応します」


そこが落としどころだろうと思う遥に続けて聞いてくる。


「北部の怪しい集団はどうするんだい?」


 アインの質問に、ちっこいおててをひらひらさせて、平然とした声音で答える。


「放置します。私の予想通りなら、洗脳された軍隊はかなりの軍備を持っているはずです。ちょっとそれはまずいかもしれません。それを解放時の漏れたミュータントとの戦いで吐き出してもらいましょう」


 他の敵と戦わせて、弱体化を図ろう作戦である。だが、どちらにしても様子を見にいく必要があるだろう。その後で対応を決めようと考える。


「たしか二虎競食の計です。ゲームでは上手く発動したことは一度もありませんでしたけど」


 戦国シミュレーションゲームで、その計を発動させても何も起こらなかったのだ。あれはコンピュータ同士が仲良すぎると思う。無駄に連発している間に他の勢力に滅ぼされていた。そして漁夫の利を狙うおっさんは常に力押しとなっていた。なので、もう最新シリーズでは使うこともしなかった策だ。あれは本当に発動するのだろうか?


 方針は決まったねと、おっさん少女はいそいそと布団にちっこい体躯で潜り込むのであった。おやすみ~と可愛く就寝の挨拶をしてから。




 翌朝、起床するおっさん少女。寝ぼけまなこで、こしこしとちっこいおててで目を擦りながらペタンペタンと歩いて台所に行く。ものすごい愛らしいシーンなので、カメラドローンがうろついて、正直うざい。


「おはよ~」


 おはようの挨拶をしようとするが、コマンドー婆ちゃんがすでに来ていた。この子供は仕方ない子だねぇという困った子を見る表情で腕を組みながら、告げてくる。


「おはよう。随分遅い起床じゃないかい? もうお昼になるよ」


「私のデフォルトスタイルは、まだ朝だと言っています。なので、おはようの挨拶で間違っていません」


 フンスと息を吐いて、威張りながら答えるねぼすけおっさん少女。


 はぁ~と、疲れたような声音を出して、なんでこんな少女が凄い力を持っているんだと思いながら、コマンドー婆ちゃんが告げてくる。


「畑や牧場を観光したいって、言ってただろう? だから、あたしが案内してやるのさ」


 おぉ、今日は牧場見学ですねと、遥はワクワクする。


「ソフトクリーム。ソフトクリームが食べたいです。牧場の観光をする際にはソフトクリーム。これは確定ですよね?」


「電気が無いのに、どうやって作るんだい? ないものねだりをするんじゃないよ。ほら朝食を食べたらさっさっと行くよ!」


 呆れながら案内役をやろうとするコマンドー婆ちゃん。ならば、その電気は用意しようと密かに決意するおっさん少女。そしてボソッと呟く。


「お婆ちゃんは朝起きるのが早いんだから」


「ああん? なんだって?」


「早起きでいいですねって、言ったんですよ~だ」


 小さくちろっと舌を出して、無邪気に笑いおっさん少女は観光の準備をするのであった。

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[一言] >「早起きでいいですねって、言ったんですよ~だ」  小さくちろっと舌を出して、無邪気に笑いおっさん少女は観光の準備をするのであった。 中にオッサンなどいない。いいね?
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