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コンクリートジャングルオブハザード  作者: バッド
14章 北海道に行こう
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199話 おっさん少女はコマンドーに話を聞く

 田舎道をぞろぞろと人々が歩いている。一見長閑な田舎道を散歩している老人たちと、バイクを運転しながら進む少女たちだ。崩壊前なら散歩ですか? 少女が乗っているバイクの玩具はカッコいいね。本物そっくりだねと言われそうな集団である。


 森林内での戦闘が終わり、コマンドー婆ちゃんチームと公民館らしき場所へと移動しているおっさん少女たちであった。


 小柄な体で、ブルルンとちっこい手足でミニチュアサイズのバイクに乗って移動するおっさん少女の姿は、子供がバイクのりの真似をして玩具に乗って遊んでいるようにも見える。


 それに拍車をかけるのが、満面の笑顔で運転している少女だ。愛らしい顔だちに楽しそうな笑顔をしているとくれば、見る人はその無邪気さに笑顔になり微笑ましいと思うだろう。


 普通なら可愛い娘だねぇ、お孫さんかい? と言われそうな感じであるが。飴などお菓子をくれようとする親切な人もでてくるかも。


 しかし、その実態は超科学で作られたフォトンバイクに乗る超人である。戦闘民族のレキとバイクのコンビは先程あっさりとコマンドー婆ちゃんチームを撃破したのであった。戦いがおっさん少女たちの勝利で終わり、話し合いをするために移動中。


 中身はくたびれたおっさんだろ? ノーカン! ノーカン! と叫ばれて、そんな人はいないと言われるのがオチな妄言である。というわけで、おっさんの存在は否定されたことで一つお願いします。


 そんな濃いメンツはぞろぞろと公民館に入る。すでにコマンドー婆ちゃんは警戒をやめており、先程の凄みは感じさせなかった。これは河原で殴り合ってわかりあったとか、そんな友情溢れる話ではなく、単にこの少女たちには抗えないと達観したからかもしれない。それかバックボーンは恐ろしいと考えたか。


 まぁ、虎視眈々と隙を狙っているかもねと、おっさん少女はアインとシノブをお供に歩いていて思った。この婆ちゃんはコミュニティを守るのに腐心している。それこそ怪しいと考えた放浪の少女を躊躇なく撃つぐらいに。これもまた歪んでしまった善行なのだろうかとぼんやりと考えた。


 公民館前には青年団が銃を担いで待っており、どうなったかの結果がわからずに、コマンドー婆ちゃんと遥たちを交互に見ている。


 バイクを奪わずに平気な顔で乗っている遥たちを見て、勝ったとは思ってはいないだろうが、まさか負けたとも思っていない。だからこそ状況がわからずに戸惑っているのだろう。


 いやはや若人が脇役で主人公が婆ちゃんなんて映画では斬新過ぎる役どころだ。もしかしたら斬新過ぎて、反対にヒットするかもねと遥は小さなお口でクスリと笑った。その場合は映画を見に行ってしまうかも。


 ノシノシと公民館に入ったコマンドー婆ちゃんが、周りを見渡して鋭い目つきをしながら叫んだ。


「あたしたちは負けた! だからこの性悪な少女たちは自由に交易とか言っていることを許可した。それと自由に歩き回ることもね! お前ら、この性悪な子供たちが変なことをしないように精々見張っておきな!」


 その宣言を受けて、ざわつく人々。まさか負けて帰ってくるとは思っていなかったのだ。そして、堂々と見張れというコマンドー婆ちゃんの胆力に苦笑いする遥。


「所長! それは本当ですか?」


 青年の中でも一際ガタイの良い男性が一歩前に出てきて、予想外の宣言に焦った様子で尋ねているが、鷹揚に頷いて答えるコマンドー婆ちゃん。


「あぁ。負けた、負けた。手も足も出なかったよ。コイツラは見かけより遥かに危ない奴らだ。子供だと思わないほうが良いよ。猛獣が彷徨っていると考えな!」


 たしかに遥より危険だねと、自分の名前にかけられたので密かに笑うおっさん少女。くたびれたおっさんよりも危険な存在……。赤子以外全てだろうか。


 少しおっさん少女たちから離れる人々。その宣言がひどく真面目な表情で言われたので、しかも冗談を滅多に言わない所長が言ったので本当だと考えたのだろうことは明らかだ。


 そんなことは気にせずに、よいしょと小柄な体躯でバイクからでかいリュックを降ろし、うんせと公民館に運び入れようとする。


 それを見た青年の何人かが近づいてくる。それでも半信半疑だと考えている人々だ。愛らしい子供が頑張ってでかいリュックを持ち上げようとしているので、声をかけてくる。


「手伝おうか、お嬢ちゃん?」


「はい、ありがとうございます。交易品をたくさん入れてきたんですよ」


 たんぽぽの花のような癒やされる笑顔をにっこりと浮かべて返事をするおっさん少女。


 その笑顔を見て、凄い可愛らしい娘だなぁと照れながら青年はリュックを担ぐ。ズシンと重くてよろけそうなほどだ。他の青年も下心ありだろうが、アインとシノブへ同じように声をかけて、リュックを背負っていた。そして予想よりも重いリュックにびっくりしていた。


 騙されてるよ、あんたらという苦笑をしているコマンドー婆ちゃん。軽々とリュックを持てるとわかっている顔だ。


 遥は美少女ですからね、仕方ないよねと手ぶらでてってことちっこい手足を可愛らしく動かして公民館の部屋へと入っていく。楽チン楽チンで機嫌が良い。おっさんなら、持とうか? と言われるどころか、持ってくれと荷物運びのおっさんとして扱われるだろうことは間違いない。


 こういう場面に出くわすたびに何度も思うが、美少女というのは、それだけでお得だなぁと考えるおっさん少女であった。


 



 ドスンと集会室っぽい場所であぐらをかいて座るコマンドー婆ちゃんチーム。銃はセーフティをかけて、横に置いている。


 ようやく話ができそうだねと、おっさん少女もちょこんと女座りで可愛く座る。ほんわかする姿である。もう遥はいらない。レキだけで良いよというクレームが殺到するかもしれない愛らしさだ。


「さて、ようやくお話ができそうで良かったです。ではお聞かせ願いますか?」


 小さく小首を傾げて、口元を微かに微笑まして尋ねる遥。


 それに対して、コマンドー婆ちゃんはズイと手を差し出してきた。


「情報には価値がある。それこそ下手な物よりもね。何と交換するんだい?」


 ニヤリと悪戯そうに笑うコマンドー婆ちゃんを見て、この人は楽しすぎるなぁと、おっさん少女はすっかり気に入ったのだった。


「では、お酒でどうでしょう? もうしばらくは飲んでいないでしょう?」


 青年が置いてくれたリュックからウイスキーを取り出して、コマンドー婆ちゃんへちゃぽちゃぽと振ってみせる。


「ふん、それを3本で、さっきの問いに答えようじゃないか」


「ごうつくばりですねぇ。感心しちゃいます」


 そう答えながら畳の上に、トントンと3本きっちりとウイスキーを置いて、コマンドー婆ちゃんへ眠そうな目を向ける。


「交渉成立だね。良いだろう、確か自衛隊が武器を置いていなくなった理由だったね」


 満足げに笑いながら、硝子のコップを周りの青年に指示を出して、持ってこさせて早速ウイスキーをトトトと注ぎながら話し始める。ストレートである。スリーフィンガーなど相手にならないびっくりの量を入れている。この婆ちゃんは本当に老人なのだろうか、疑わしい。


「そうさね、自衛隊はここにかなりの人数がいたんだ。300人はいたかね?」


 隣で同じようにコップにウイスキーを注いで飲んでいる老人へと声をかけるコマンドー婆ちゃん。老人も頷いて同意する。


「あぁ、ここは集結地点から離れていたらしいが、ゾンビたちと戦うには地形がちょうど適していた。隊長さんは優秀で危機感が高かった。これ以上の移動は無理と考えて、ここで上からの命令を無視して陣形を組んだんだ」


 渋い老人の声音で、懐かしむように語る爺さん。


 遥も同じようにできないか、密かに小声で。ぁ〜ぁ〜と渋い声音をだそうとしているが、鈴の鳴るような可愛らしい声しか出てこない。というか、話の間に別のことを考える子供すぎるおっさん少女である。できないなら、硝子のコップでウイスキーをくゆらせようかなと考えるが、子供なのでアップルジュースを入れてくゆらせた。アホな美少女の面目躍如である光景だった。


 そんなおっさん少女を放置して話は進む。


「目論見は上手くいった。たっぷりの銃弾を積んでいたトラックを何台も引き連れていたのも良かった。避難民を見事守りながら、隊長さんはゾンビたちを撃退した」


 もう一人の老人が難しそうな顔つきで、話を引き継ぐ。


「それこそ、民間軍事会社の元社員なんか手伝う必要がないぐらいにな」


 他の老人が口を挟む。この人たちは話を引き継ぐ練習でもしているのかな?


「民間軍事会社って、なんだっけ? サクヤ」


 小声でウィンドウ越しにこっそりと聞くおっさん少女。なんだかかっこいい名前の会社だけどプラモデル屋とかだろうかと考えたので確認したのである。


「平たく言えば、現代の傭兵ですね。この老人たちはそこの社員だった。即ち傭兵ということです」


 なるほどねぇと遥は頷いて納得した。このコマンドー婆ちゃんたちは本当にコマンドーだったわけねと。そしてプラモデル屋は惜しいところで外していたと思うおっさん少女。惜しいの意味を懇切丁寧に教えてほしいところである。


「そうして、数カ月は平穏な日々だった。このコミュニティも3000人は人が集まり、ソンビたちは時折見るが、大して問題はなかった」


 最後の老人が語り始める。なんだか四天王とかそんな感じかなとくだらないことを考える遥。四天王が出てきたら、某雑誌では打ち切りの合図だか、禁止されているとか聞いたことがあるなぁと全然別のことを考えていた。


 グイッとウイスキーを飲み干して、コマンドー婆ちゃんが話を引き取り、苦々しそうに語り始める。


「それがおかしなことになっちまった。リーダーになっちゃいけない人間がなるほどにね」


 どうやら核心に入るらしい。ポップコーンとコーラをくださいと思う遥。話が長いので仕方ないよねと考えていたので、そろそろ中身のおっさんにお仕置きが必要ではなかろうか。


 遠い目をしながら、コマンドー婆ちゃんは話を続けた。


「上手く回っていた歯車が狂っちまった。隊長さんたちは、なにか呼ぶ声がすると言い始めたんだ」


 こちらを睨むように見つめながら、苦々しそうに


「なんだか頭の中で呼ばれている感じがするとか言ってくるんだ。最初は新米が、次にベテランが。どんどんいなくなった」


 コマンドー婆ちゃんは再びウイスキーを注ぎながら言う。


「隊長さんたちもだんだんおかしくなっていった。あれだけ強靭な心だと思っていた隊長さんたちもだ」


 一口ウイスキーを飲んで、核心を告げてくる。


「それで隊長さんたちは危険を感じた。このままではコミュニティを危険に晒すとね。だから呼ばれている感じがするという北へと原因を探るために武装して行っちまった。その時には全員がおかしくなっていたから打開するために、一人残らず動員していったのさ。残すのもコミュニティには危険だと考えたんだろう。もしもの時はよろしく頼むと言ってね」


 ふぅ〜と疲れたような感じで息を吐く。


「そして一人も戻ってこなかった。あとは、ご察しのとおり。力でしか守れない不器用な人間がここの支配者になったってことさ」


 肩を竦めて、悲しそうに、悔しそうに話を終えるコマンドー婆ちゃんだった。


 想定外の内容に遥は真剣な表情になり、腕を組んで考え込んだ。自衛隊を上手く追い出したのかなとか考えていたのだ。それが斜め上の方向の内容だった。


 まぁ、不器用なコミュニティの守り方をしていたのだとはわかる。武器で脅して強制労働所のようなものを経営しているのだろう。それがわかっていても他に方法がわからないのだと推察した。


 それは比較的どうでもいい。あとで、この地を見て回るし。そんなことより、全然危険な内容であった。


 ちらりとウィンドウに映るサクヤを見ると、ふむと顎に手をあてて口を開いてきた。


「どうやら特別な人たちへの広範囲の洗脳を行えるミュータントがいるのかもしれませんね。北部の独裁国家のようなコミュニティ。極めて怪しいかと」


 遥も小さく頷いて、真剣な表情で同意する。そして深刻な感じで、気になることを尋ねる。


「貴女は誰ですか? 新しいサポートキャラですか?」


 真面目すぎるサクヤは別人でしょと。きっと別人に違いないと。


「酷いです! ご主人様酷すぎます! たまに真面目にやったら、まったく! まったく仕方ありませんね。次のお風呂はお互いの身体を使った新しい洗い方を………」


 頬を膨らませて、口元をニヤけさせながら、サクヤが抗議をしてくる。だが、ドサクサに紛れて凄いことを言っている。


 やっぱりいつものサクヤだったねと、もうこれ以上の会話は耳に入れるのは止めて推察する。


 極めて面倒な敵だ。人間を支配するミュータント。新マップは驚くことがいっぱいである。もしかして、洗脳されている人々は傷つけずにボスを倒せとか言うんじゃないだろうなぁと、嫌そうな顔になる。


 おっさんはそういうのは苦手であったのだ。だいたい全部殺す。スニークミッションも全員殺したら、目撃者がいなくなるからサイレントキルだよねなプレイスタイルなのだからして。


 苦手分野なのだ。苦手分野ばかりでしょうという意見もあるかもしれない。


 これが弱い敵なら問題はない。片手間に人々を助けつつ、楽々にボスを倒せば良い。しかし、たぶん、きっと、違う。


 絶対に強いとおっさんの悪い勘が囁くのだ。だいたい悪い予感は当たるので強いことは間違いない。ミッションが発生しないかな? その内容で見当がつくんだけどと、ゲーム仕様を裏技的に使おうとする遥。


 しかし、サクヤはなにも言わず、ステータスボードにミッションが発生したという内容は表示されなかった。恐らくは現地に行かないと駄目なのだ。


 もしも、洗脳系なら解除を行う超能力が必要となる。黒い塊のエイリアンに支配された人間も洗脳解除できるぐらい。あのゲームは主人公が宇宙人という衝撃の真実だったけど。


 しかして、圧倒的にスキルポイントが足りない。足りなさすぎる。


 ふぅ〜と息を吐いて嘆息する。仕方ない。なるようになれ作戦でいこうと考えた。それは考えたことに入らないのだが、おっさん少女なので仕方ない。


 考え込む遥へと、コマンドー婆ちゃんが声をかけてくる。


「さて、聞きたいことは聞けたかい? で、これからあんたはどうするんだい?」


 気を取り直して、遥は笑顔を浮かべた。


「あぁ、貴重な情報ありがとうございました。ここでのやることは変わりませんよ」


 にっこりと笑顔を見せて答えてあげる。


「交易です。交易をすると話したじゃないですか」


 がちゃがちゃとリュックから調味料やお酒、薬を取り出して畳へと置いていく。


「なにか欲しいものがあると思います。これが欲しいとか、あれが欲しいとか。円でも売りますし、ドルも対応していますよ」


 ポテポテと、可愛いちっこいおててで、商品を並べながら伝える。


 胸を張りながら、フンスと鼻息荒く周りを見渡した。


「ドルのレートは100円です。さぁさぁ、見ていってください。買ってください。色々種類はありますよ」


 楽しそうに機嫌良く、ニコリと笑いながらお店ごっこを始めるおっさん少女であった。

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[良い点] コマンドーばあちゃんも好き。 カッコいい年配キャラっていいですよね
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