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コンクリートジャングルオブハザード  作者: バッド
14章 北海道に行こう

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190話 おっさんは集落を発見する

 ざわつく森林の中を二人のおっさんは歩いていた。1人は髭もじゃの体格の良い大柄のおっさん。リュックに獲物を入れて、猟銃を肩にかけて、腰に手作りの火炎瓶らしき物を持っている。もう1人は立派な戦闘服を着込んだアサルトライフルを肩にかけて、疲れた顔をしているくたびれたおっさんだ。くたびれたおっさんは、リュックを後部に括り付けた自転車をひきながら歩いていた。


「ここらへんに、俺ら以外の人間が生きているなんて、久しぶりでびっくりしたぞ」


「あぁ、私は放浪しながら暮らしているのでね。ここらへんで生きてきたというわけではないのだよ」


 ちょっぴり偉そうな口ぶりは、最近若木コミュニティで会話をしている弊害である。


「は〜ん……。この生きるのに大変な世界で1人でか?」


「うむ、仲間はいるが、このバイクと共にずっと放浪してきたからな。どれぐらい経ったかも忘れたよ」


 偉そうなくたびれたおっさんが、そこにはいた。そしてバックボーンを知らない人間には演技スキル、偽装スキルがどう働いているのだろうと、戦々恐々している小心者だ。


 そしてこの自転車は入り口に戻って、一旦取ってきたのだった。さすがに手ぶらはまずいので、リュックと共に用意しておいた用意周到なおっさんである。


 そうして、髭もじゃがダンジョンから少し離れた場所に集落があるというので、ついてきている。


 その言葉を聞いて、髭もじゃは遥がひいている自転車をジロジロと観察してから口にする。


「バイクって、自転車じゃねぇか?」


「パワーアシスト付きの自転車だ。漕ぐことでバッテリが充電されるから、ガソリンが手に入りにくい通常のバイクよりもこんな世界では役に立つぞ」


 ほぉ〜、と感心したように、なるほどなと納得して頷く髭もじゃ。


 もっともらしい理屈だが、嘘である。おっさんはバイクに乗れません。乗ったらコケて死にそうなので。最初はバイクにしようと思ったが乗れないのでパワーアシスト付きのレベル8の自転車を作成した。


 作成した時に意気揚々と乗った時である。これは凄いよ、なにしろレベル8なんだよと、基地内で、サクヤとナインに自慢しながら、ドヤ顔で乗ったのだ。そしてひとこぎしただけで


「うぁぁぁ!」


 ガシャンではなくて、ドカンと遠く離れていたはずの工廠の壁に超加速されてぶち当たったおっさんであった。たったひとこぎで、音速を超えた自転車がそこにはあった。


 もちろん機械操作スキルも運転スキルも無いおっさんには乗るなんて無理だったのだ。不可視のシールドが守っていなかったら、壁のシミとなっていたことは間違いない。


 恐怖でブルブル震えて、もう高レベルの機械には操作スキルが無いおっさんは絶対に乗らないと決めた瞬間であった。


 サクヤが腹を抱えて大笑いして、ナインが大丈夫ですかと慰めるいつもの風景がそこにはあったのである。いつかきっとサクヤにはお仕置きをしてやると決意した瞬間でもあった。人はそれを逆恨みと呼ぶ。


 なので、レベル1の装甲タイルが10枚付くパワーアシストも時速20キロぐらいまでしかでない自転車を作成したのであった。


「このサドルは嫁さんに昔プレゼントされたものでね……」


 殊勝な表情で懐かしむように、その場で考えた設定を語るおっさん。サドルだけプレゼントする嫁さんとは、いったいどんな人なのか興味が湧くところだ。


「お前さんもだいぶ苦労したみたいだな。定住しようと思ったことはないのか?」


 物珍しい奴を見たという感じで、遥を見てくる髭もじゃ。その言葉に鼻で笑い答える。


「フッ、この世界で安住の地があるのかね? 君のいる場所がそうだとでも?」


 いちいち挑発的な言動をしてしまう遥。小心者はどこにいったのか? もしかして別人なのだろうか?


 そんな遥も内心で少し焦っていた。かっこいい言動だけど、私には分不相応だよね。おかしいな? 舐められないように考えて発言すると、なぜかこんな言動になるぞと。


 全て演技スキルのせいである。舐められると、略奪とかに遭いそうだよねと、考えて発言すると自動補正がかかるのだった。


「あんたは凄腕そうだな。だからこそ、今まで生きてこられたというわけか」


 さっきのダンジョンでの慌てていたおっさんの姿は忘れたのだろうか? それとも演技スキルが活躍しているのだろうか?恐らくは後者が働いている可能性大。


「生き残ってきた。ただそれだけだ」


 そこには渋いハードボイルドなおっさんが存在した。凄いぞ演技スキル! 頼もしいぞ偽装スキル! でも、小心者のおっさんを追い詰めるだけかもしれない!


「北の連中じゃないんだよな?」


 警戒した表情になり、目を鋭くして言う髭もじゃ。


 ん?と首を傾げて疑問に思う遥。北? 新ステージは情報が多いなぁと。


「違うな。北から来たのではないからな。南部から来たんだ」


 その返答にホッとした表情になり、頭をかきながら髭もじゃが謝罪する。


「そうか。北の連中とはお前さんは雰囲気も違うしな。そうだとは思っていたのだが一応聞いたんだ。すまなかったな」


「北の連中とはいったいなんなのかね?」


 疑問に思い、内心でワクワクしながら尋ねる。その問いを受けて、考えながら複雑そうな感情が混じっているような表情で髭もじゃは答える。


「…………あぁ、奴らはな………なんというか……。昔に戻ってしまった奴らか? なんだか軍隊みたいな奴らなんだが……。顔中にペイントを塗って、弓矢や槍で武装している。偉そうな奴らは銃も持っていた。それに服もなんというか……エキセントリック? いや、コスプレとかいう感じだ。見ればわかるぞ」


「そんな変な奴らが、ここらへんで活動しているのか?」


 ダンジョンの外縁を彷徨いているのだろうか? 危険だと思うのだが。


「あぁ、そのとおりだ。ここからはかなり北になるが、コミュニティを作っているらしい。たまに会う生き残ってきた奴らが危ない連中だと言っていた。うちの集落にも数人が顔を見せたことがある」


 ふぅ〜とため息を吐き、髭もじゃは草生えを払いながら歩き続けて話を続ける。


「我らの傘下に入れとか言っていたが、すぐに追い払ってやった。この世界を生き残るのは、我らしかいないとかなんとか、怪しい宗教団体みたいなことを言っていたな」


 かぶりをふりながら、口元を歪めて皮肉げに言う。


「俺はゲームは好きだ。こんな山奥じゃ、娯楽が少ないからな。んで、世紀末ゲームも結構やったこともあるし、映画も見たことはある」


 こちらにちらりと視線を軽く皮肉げに笑う。


「そんな宗教団体みたいな軍隊は映画の中だけで充分だ。そう思わんか?」


「あぁ、そんな奴らが存在するのは映画だけで充分だ。悪役として消えてくれれば、尚良いだろう」


 ニヤリとふてぶてしく笑いを見せるおっさんであった。もちろん内心では、ハードボイルドな感じたよね。いいねいいねと考えていたことは秘密だ。


「で、私がその北の連中と違うと考えた理由はなんでかね?」


「あぁ、そりゃ簡単だ」


 遥の問いを髭もじゃもニヤリと笑い返事をした。


「あんたは孤高に生きるやつに見える。誰にも頼らずに生き残っているやつ独特の雰囲気を感じたからな」


「ふっ、いい目を持っているな」


 いい目である。たぶん眼鏡が必要なレベルだ。それか孤高の意味を常に他人に頼る語彙だと勘違いしている。前者なら良い眼鏡を。後者なら辞書を渡さなければなるまい。


 孤高とはかっこいいね。コーンと高らかに鳴けば良いのかなと、孤高と狐の漢字を間違えるおっさん。スキップしたいほど、ご機嫌となった。


 そして2人はどんどんと森を歩いていくのであった。





 それからさらに1時間後、森を抜けて、人工的な土の道路へと出てきた2人。


 もう疲れたよ。帰りたい。お家に帰って、ご飯を食べてお風呂でゆっくりしたい、ジャグジーバスを希望しますと考える体力のない孤高のおっさん。たしか少し離れていると言ったよね? なんで1時間以上も歩くわけと抗議を入れたい。少しといえば5分以内。絶対に5分以内だよねと考える。裁判になれば勝てるのではなかろうか。


 そんな地方の少しという表現を侮っていた疲れているおっさんに、髭もじゃが顔を向けて伝えてくる。


 腕をあげて、指を前方の家々が森の中に集中して建っている場所へと指して、


「ここが俺の集落だ。ようこそ、ひなびた集落へ」


 ガハハと笑い、ようやく集落へと到着したことを教えてくれるのであった。


「あぁ………なるほどな。そこそこ安全そうな場所だな」


 そう答えて、ふぃ〜と疲れた息を吐く遥。目の前には集落があった。奥多摩の村落と違い、森のほんの隙間、段々畑と集中して建っている家々。隠れ里と言われてもおかしくない場所である。バリケードも家々の間の狭い道を利用して上手く配置されていた。


 なんだかサイレンが鳴ったり、赤い雨が降りそうな村だと思ったが、そこは賢明にも口に出さない。そうなると駐在さんが銃を乱射したり、時間がループしたりと大変なことになるので。


「ちょっと待ってな。仲間を呼んでくる」


 そう言ってノシノシと髭もじゃは家々のほうに歩いていく。それを眺めながら、遥は目を細めて、小さく呟いた。


「シノブ、怪しい奴、もしくは怪しい言動をする奴らがいたら報告しろ。行け」


「はっ! シノブにお任せくださいませ」


 何もない空間から声が聞こえて、多少空間が歪むが敬礼でもしたのだろう。


「アイン、この周辺にいるミュータントを片付けておけ」


「あいよっ、ボス。でもボスの護衛はどうすんだ?」


 同じように声が何もないところから聞こえてきて、おっさんの身辺の安全を気にする。たしかにワンパンで死にそうなおっさんなので。


「問題はあるまい。危ないときには、精々抵抗するとしよう」


 そう答えて、楽しげな表情でニヒルに笑う。


「了解だっ。でも気をつけておくれよ?」


「あぁ、充分気をつけると約束しよう」


 小さく手をひらひらとふると、やはり僅かに空間が、震えるのだった。


 そうしてしばらくしたら、家々から数人の人々を連れてくる髭もじゃ。皆、髭もじゃと同様に猟銃を肩に担いでいる。細身の人もいれば、老人もいる。その中には女性もいた。この集落の主戦力なのだろうか。


 近寄ってくる人々を見て、フッと笑うおっさん。背筋を伸ばし眼光鋭く眺める。実際は眼光はなまくらで鋭そうに見えなかったが、気分の問題である。ニヒルな謎のおっさんなのだ。今日はそんな気分の遥なのだ。


「待たせたな。話は通しておいた。こちらへと来てくれ」


 片手をあげて、口元を歪めて恐ろしい顔になる髭もじゃ。たぶん微笑んでいるのだから、怖くても表情には出さない。足がぷるぷる震えるのは、疲れのせいであると言い張るおっさんだ。


 至極真面目な表情になり、周りを見定めるフリをして、おっさんも口元を曲げて頷く。


「あぁ、どうやら中には入れてくれるみたいだな」


「貴重な生存者だからな。無下にはせん」


 そうかと軽く頷いて、はぁ、ようやく休めるみたいだよと、内心で安堵したおっさんがついていこうとした時だった。


「ちょっと…。本当にこの人は大丈夫なのかしら? 安全なの、貴方?」


 銃持ちの女性が、ついていこうとしていた遥へと、不審げに警戒している表情で声をかける。


 それに対して、遥は肩をすくめながら、相手へと視線を向けて、馬鹿にしたような声音で答える。


「安全? 銃を持った人間が安全かどうかは、私も聞きたいところだな? 私も尋ねようか、君は安全なのかな?」


 うぐっと、息を呑み、返事に詰まる女性。口元を引き締めるが、なにを言おうか迷っている様子である。


 遥はその姿を見て、微かに口元を曲げて


「失礼。私から答えようか。私は危険な男だよ。なにしろ崩壊した世界を生き抜いているのでね」


 からかうような声音で、軽くお辞儀をしてビシッと決める遥。この崩壊した世界を生き抜いてきたのはレキのおかげと、サクヤ、ナインのサポートの力だ。おっさんぼでぃは常に他人に頼る、何もしていないかもしれない危険な男だから、間違っていない。


 相手を見ると、ショートヘアの髪型をしており、バイザーをつけて、小洒落たハンター帽を被っている。年代は20代前半だろうか? きりっとした瞳が少しきつそうな美形で160センチぐらいの細身でスラッとした女性だ。薄汚れてはいるが、元は高価そうな外国の金持ちハンターが着るような服を着ていた。言っては悪いが、この集落にいるような人間には見えない。なぜならばどこか上品な仕草が垣間見えるからだ。


 まぁ、この集落に住んでいた人間でなくても、全然おかしくない。それに周りの取り巻きっぽい男性たちも、どこか上品な仕草が見える。というか、なんだか金持ちのボンボンに見える。だって、服が高級そうなのだから。仕草よりも服装で決めつける遥。


「なんだ、お前は! その玲奈さんを馬鹿にしたような言い方は!」


 取り巻きの一人が一歩前に出て、遥へと怒鳴ってくる。だが、遥へと怒鳴るのが目的ではなくて、女性へのアピールらしいと、その視線でわかった。


 おいおい、チラチラと女性を見ながら怒鳴るのはマイナスポイントだぞと内心でニヤけながら、軽く真面目な表情を作り、顎に手をあてて、観察してみた。本当に怒鳴っているのでなければ、怖くはない。なにしろおっさんは社会の荒波にダイブしていたのだから。結果は溺死かもしれないが、そこそここういうのには慣れている。だって強面でないんだもの。


 強面はアウトです。だって崩壊前なら絶対に荒事をしていると偏見をもつおっさんだからして。


 この取り巻きのようなボンボンのセレブたちみたいな空気をだしていると、こんな世界だと損であると気づいたおっさんだ。


 なので、崩壊後にはその雰囲気は損だねと、ちょっと可哀想に思って見ていたら、なぜだか相手は怯んだように後退った。


 なんだなんだと、相手が怯む以上に相手の様子にビビるおっさん。


 演技スキルは凄いが、弱点は相手にどのような効果を与えているか、わからないことだ。ちゃんとログに相手は混乱したとか、震えて動けないとか出てくれないと困るよねと、ターン制のゲームをこよなく愛するおっさんは、不親切な仕様に内心で憤慨した。


 眉をピクリと動かして、ログ閲覧機能はオンにできないのかなぁと考える。ゲームの仕様が現実に反映されていると信じるが、さすがにそこまで優しい仕様ではない。


 そんなアホなことを考えているとも露知らず、取り巻きたちは顔を俯けてしまった。


 どうやら威圧されているのかなと、遥も不思議に思い首を傾げたいがグッと我慢する。


 第三者から見れば、アホらしい光景がそこにはあった。


 そんな取り巻きたちが後退り、俯くなかで、ハンター美女が一歩前に歩み出てきた。口元を引き攣らせながら、それでも目力をこめて、遥へと視線を向ける。


「私も返事をいたしましょう。私も危険な女性よ。なにせこの集落の中では一番の銃の腕前ですから。日位ひい玲奈れいなよ、よろしくね、ストレンジャーさん」


 スカートは履いていないが、まるで履いているように優雅にお辞儀をしてきて挨拶をしてくる。


 なんだか面白そうな展開だねと思いながら、遥も挨拶をする。


「私の名前はナナシ。あぁ、名前は覚えなくて良い。どうせ短い付き合いだろうからな」


 これは主人公っぽい。主人公にみえないかしらんと思いつつ、ふてぶてしく、軽く腕を組んでの応対だ。


 周囲が警戒感を醸し出す中、おっさんはニヤリと嘲笑いを見せたのだった。

 

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