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コンクリートジャングルオブハザード  作者: バッド
14章 北海道に行こう
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187話 天駆ける英雄

 時間はレキが料理を作り出す時間に戻る。


 空中戦艦のブリッジに荒須ナナはいた。自由行動と言われたので、レキちゃんには内緒でブリッジに来ている。


 どんな理由かと言うと、空中戦艦に乗ってからは、しばしば一人で来て交渉をしていたのだ。


「どうしても駄目なんですか? この戦艦なら北海道の内部にも行けるんじゃないでしょうか?」


 私は四季さんに向かって、旅行に来てからずっと同じことを交渉している。


「はぁ、貴方もしつこいですね。貴方が思っているよりもずっと北海道内部は危険なんです」


「それは何度も聞きました! それでレキちゃん一人に探索させて、危険度が低くなってから空中戦艦で制圧するという話ですよね? 子供に探索させてから、こんな凄い戦艦であとから向かっていくなんて、大人として恥ずかしいと思わないんですか?」


 ふぅ〜と深いため息を吐いて、四季さんはこちらへときつい目つきと真剣な表情で苛ついた声音で答える。


「私もそんなことはわかっています! 何度も上司には上奏しているのですが、許可が出ないんです!」


「上司って、ナナシさんですよね? 私も一緒にお願いしますから、頑張りましょうよ! 私もこの空中戦艦に乗って手伝いますから!」


 こんなに凄い戦艦があるのに、なんでレキちゃんを危険な探索に使うのかと疑問に思う。たしかに私が思っているよりも危険性は高いのだろう。でもこの空中戦艦は凄すぎる。絶対に一緒に探索した方が良いはずだ。私だって、なにか手伝いをできると思う。戦艦で一緒に行ければ、これまでのように足手まといのお守りとして、レキちゃんに守られることもないはずだ。


 これまでの会話で四季さんがレキちゃんを気遣っているのも話している間にわかった。良い人だと思うが、それでも上司の命令は絶対らしい。融通が利かなすぎると思う。


「ナナシ様ではなく、もっと上からの命令です。レキ様の力を頼ることになるのは心苦しいのですが………」


 心持ち俯いて四季さんは、心苦しそうで神妙そうに話す。ナナシさんより上からということは最上位の那由多代表だろうか? 子供を子供と考えない使い方に大樹の非情で嫌な部分が目につく。


「う〜ん………。絶対に無理なんですか?」


 この話しぶりだと、本当に難しそうだ。あとで百地隊長に相談してみよう。そう決めて色々とレキちゃんの待遇や暮らしを聞いてみようとしたときだった。


 ブリッジの中央にモニターが表示された。警告音とともに海岸線周りの地図の立体映像が映し出される。


 なんの警告音だろう? 四季さんを見ると、机のパネルを操作している。


 私の視線に気づいてちらりと見るが、そのままモニターへと視線を戻した。

 

 私もなんだろうと不思議に思いながら、モニタへと顔を向けると、さっきとは違い海岸近くへと表示が変わっている。


 そこはなにかの合宿所かなにかだったのだろうか? 4階建ての立派な鉄筋コンクリートのビルのような建物があり、3メートルはある大きなカニの群れに襲われていた。


 そして、なぜ蟹に襲われているのかというと、屋上から煙が漂っているからだとわかる。


「生存者たちだ! なんで煙なんか?」


 驚いて、大声で叫ぶ。生き残りだと気づいた。なんで目立つ煙なんかと疑問に思うが、すぐに理由に気づく。


「おそらくはこの艦に気づいたのです。現在、この艦はステルスモードをオフにしていたので」


 四季さんが、真剣な表情でパネルを忙しなく叩きながら返事をしてくれる。そのとおりだ。この巨大な艦はかなり遠くからでも気づくだろうし、助けを求めて屋上から双眼鏡とかで見張っていれば尚更気づく。


「リーダー、生存者たちの数は51人です」


「現在、蟹群は354匹います。解析したところ、変異したカニと判明」


「敵のボス、後方の森から接近中。漁船蟹とサクヤ様が名付けたとのこと」


「サクヤ様から蟹鍋にしたいと追加の希望がありました。なお、カニは鎧蟹と名付けをしたとのこと。食べられるし美味しそうだとのナイン様から追加情報あり。漁船蟹はミュータントなので食べられないとのこと」


 サクヤ様とナイン様って、誰だろうと思うが、すぐにそれどころではないと気を取り直す。


「四季さん、早く助けに行かないと!」


 救助隊を早く編成しないといけない。モニターに映し出される建物は蟹の大群が群がって、その切れ味鋭そうなハサミでジャキジャキと削られていた。バリケードもあるが、あの巨大な蟹の前には風前の灯だろう。


「わかっていますが、ヘリは探索が終了したので、全てメンテナンス中なのです。戦闘機なら出撃可能ですが、火力が高すぎます」


 不機嫌そうな表情で失敗したと舌打ちして、四季さんが言う。隣にいたハカリさんがフォローをする。


「パワーアーマー隊を編成します。現在待機中の兵に準備させましょう」


「わかりました。厨房に潜んでいるつまみ食いし隊を呼び戻しましょう」


 なにか変な会話のような感じもしたが、時間がかかりそうだと慌てる。自分もなにかしたいと考えるが、なにができるのだろうか? なにか手伝いができないか聞こうとした時


「力が欲しいか?」


 そんな声が耳元に聞こえてきた。その声は最初の日に格納庫で聞こえた声だ。渋い中年男性の声。気のせいかなと思っていたやつだ。


 なにかなと耳元を触るといつの間にか、なにかがついていた。小さいピアスだ。穴を開けていないのについている。外れないので思考対応型のワッペンと同じだと気づく。本人が外すと思考しないと不思議に何故か外れない装備品だ。


 外すと思考しようとした時に、声が慌てたような感じに


「待った待った! 怪しい者ではないです。本当に怪しくないのですよ?」


「怪しい人は皆そう言うのです。私は元警官ですよ?」


 若干キツめな声音で怪しい声に答える。映画や小説ではないのだ。オレオレ詐欺には引っ掛からない。


「いや、本当に怪しくないんです。私は格納庫にある空中機動型バイクのAIです」


「そのAIさんが、なんの御用でしょうか?」


 自分自身でも冷たいと感じる声音で返事をする。だって怪しすぎるほど怪しい。


「私を扱える適合者を探していたのです。貴方を見たときに適合者だとわかったので、密かに通信用ピアスを発射させたのですよ」


「私が適合者? そういう映画みたいなので騙されると思っているのですか?」


 そういうのは子供は嬉しいだろうから、引っかかるだろうが、大人はそんな怪しい言葉には騙されない。そういうのは、無理だと伝える。


 そう答えると残念そうながっかりしたのだろう声が届く。


「はぁ〜。素直な女性だと思ったのですが…。たしかに、本当は適合者なんて、おっしゃるとおり嘘です。厨二ぽくって良いかなと思ったのですが、大人には受けがよくありませんでしたか………」


「早く用件を言ってください。こっちは忙しいんです!」


 生存者たちを助けないといけないのだから、おしゃべりに付き合ってられない。急かすように言う。


「わかりました。わかりましたよ。周りの人たちと違う人だとは思ったのですが、ちょっと話にノッてくれないのは予想外でした」


 ひと呼吸おいた感じで話を謎の声は続けた。


「私は作られてすぐに格納庫にしまわれました。なんの情報も与えられずに放置されたのです! 私の力をわからない人たちにとっては真の力がわからなかったのでしょう」


「真の力?」


 ふふんと、調子の良さそうな声音で謎の声は答える。


「たしかに素質のない人たちにとっては、私は性能の低いバイクにしか見えません。しかし!」


 謎の声はなんだか話すのが嬉しそうな感じで、どんどん大きな声量になって言う。


「実は私は乗り手によって、性能が変わる超機動兵器なのです! 私の乗り手になる予定であった少女にはそれがわからなかったのでしょう! 見たところ、脆弱そうな子供でしたし!」


 え〜、と疑問に思う私。その説明はレキちゃんがしていた。上限値が低いので使えないとか言っていたような………。


「整備員たちにも、声をかけても無視されます。同じようにピアスを発射したら、ひょいと簡単に避けられるんです! まぁ、所詮整備員。私の力がわかっていなかったからでしょうが」


 残念がる謎の声。もうピアスを外そうかと考えたら


「ですが、私を操れるだろう適合者を見つけました! 貴方は兵士ですよね? 佇まいでわかります。それに素直に騙されそう……、いえ、私の誘いに乗りそうでしたので」


「ようは貴方を使えってこと?」


 話の流れがわかった。そして思いつく。レキちゃんはこのバイクはたしか空を駆けることができると言っていた覚えがある。


 ならば私ができそうなことがあると気づく。だからこそ勢い込んで尋ねる。


「貴方を使えば、生存者たちを助けることができるの?」


「ふふふ、力が欲しいか」


「そういうのはいいから! 助けられる?」


 怒鳴って言う。くだらない会話はいらない。助けることができるかが重要なのだ。


「あ〜、はい。ピアスを装着している人と私の視界はリンクしています。今見えているやつでしょう? それならば、私の隣においてある戦闘服を着込んで、私に取り付けられている武器を使えば助けることができます。多分!」


 最後の発言が凄い気になるが、ちょうど良い。すぐさま私は割り当てられている部屋へと走り出した。


 喧騒響くブリッジを離れて、自分の部屋に置いておいた武士切りの槍を手に取り、無重力トラムへと飛び込み格納庫に向かう。


 あっという間に格納庫に到着して、バイクが置いてある場所に向かう。バイクはヘッドライトをチカチカとさせて、アピールしていた。 


 そばにいた作業員さんに声をかける。


「ちょっとこの戦闘服とバイク借りますね!」


 バッと服を脱ぎ捨て下着姿になり、戦闘服を着込む。分厚い革のようなゴム製のような不思議な素材の戦闘服だ。服の厚みは5センチはあるだろう。だけれども見かけよりも全然軽い。ブカブカだと思ったのもつかの間、プシューと音がして、ピッタリとまるで体に誂えたようにフィッティングした。


 これは凄いとすぐに気づく。たしかパワードスーツとレキちゃんは言っていたことを思い出した。なにしろパワードスーツの補正が効いているのだろう、自分の力が数倍になった感触がしたのだ。グローブをグーパーして感触を確かめたあとにバイクへと視線を向ける。


 そこにはシルバーメタリックの流線型の美しいバイクがあった。空中を飛翔するという説明通りにタイヤはなく、風防はモニタ代わりなのだろうか。隅っこになにやら色々と表示されている。


 崩壊前なら、映画の小道具ですか?と聞いているのは確実な未来的なバイクであった。


「ようこそ、パイロット。お名前を聞いても?」


「改めて荒須ナナだよ。よろしくね」


 調子にのった洒落た声音で問いかけてくるので、名前を言う。


「私は空中機動バイクのポ……、スレイプニルです。どうかよろしく。ナナ様」


「よろしくね、スレイプニル。で、行けるの?」


 スレイプニルに飛び乗りながら問いかける。車体の横に槍を丁度良くかけられるスリットがあったので、つけておく。多分銃をつけるところだろう。反対側にはアサルトライフルが取り付けてあった。


「もちろんです。私の体に横付けされているアサルトライフルをお使いください。また、後部バルカンは視線リンク型ですし、私のサポートがはい…」


 得意げに話すスレイプニルの話が長そうなので、断ち切って作業員さんに声をかける。


「すみませ〜ん。ちょっとハッチを開けてもらえますか〜」


 作業員さんは、いきなりバイクに飛び乗った私にびっくりした表情を見せていたが、頷いてくれて、すぐにブリッジと通信を始めたようだった。


「許可がおりました。ハッチを開放させますね」


 作業員さんの答えと共に、巨大なハッチが開き始めた。


 完全に開放される前に私はバイクのハンドルを手に取り


「私、バイクの運転できないや」


 そう呟く。致命的な欠点だと気づいた。生存者たちを助けることができると思って夢中になって格納庫へと来たのだが。


「大丈夫です。ハンドルをひねるだけで発進できます。クラッチなどの操作は必要ありません。安心簡単な操作がウリなので」


 おぉと感心して、ハンドルを捻るとエンジンが起動した。ドルルとエンジン音がして、バイクが宙に浮き、前に進み始める。


「ハンドルをひねるほどにアクセル。ブレーキで止まります。あとは全て私がサポートしますので簡単でしょ?」


 最初と比べるとだいぶ軽い調子だ。まぁ、そんなことは関係ない。使えれば良いのだから。


 頷いてアクセルを全快まで捻った。一気に速度を増して、スレイプニルはハッチを飛び出す。スレイプニルに乗って空中に躍り出す私。


 そこは空であった。頼りになる地面は存在しなくて、周りにはバイクを支えるものなどない。間違いなく、私は空を飛んでいた。


 夕暮れとなっている空へと飛び出したが、正直言って怖い。こんなバイクで空へと飛び出すなんて映画のようだし、信用できないと思っているのだが、生存者たちを助けるためだと、歯を食いしばる。


 ハッチを飛び出すと眼下に海が見えている。本当に空にいると身震いと共に実感した。


 空中を凄い速度で駆けるスレイプニル。凄い風圧を受けるかと思って覚悟をしていたが、まったくといっていいほど、風圧は受けなかった。ただ少し軽い風が私の髪をなびかせるだけで、心地よい。


「ふふん、凄いでしょう? 慣性制御システムの効果で搭乗者は風圧や速度に応じた衝撃などをすべてカットします。受けるのは敵の攻撃のみです」


 たしかに凄いシステムだと感心する。凄すぎる技術だ。空を駆けながら、そう思うとバイクのハンドル中央にモニタが映し出されて四季さんが映った。


「仕方ない人ですね。編成はもう少しかかるので、それまで時間稼ぎをお願いします。無茶はしないように」


 ため息をついて苦笑しながら、四季さんが指示してくれる。


「わかりました。でも、生存者たちが危なくなったら無茶はするかもしれません」


 私は明るい声音で、ニコッと笑いながら答えるのであった。




 空中を駆けて、海岸に近づくと蟹がウヨウヨとしているのが見えた。巨大な蟹が多足をワシャワシャと動かして這っているのはかなり気持ち悪い。その光景を見て、蟹が嫌いになりそうだなと苦笑しながら、取り付けられているアサルトライフルを取り外し構える。


「ナナ様、そのアサルトライフルは質量変化弾です。発射された弾丸はその質量を大幅に増して、敵の装甲を貫通し破砕しながら敵を倒します」


 なんだか凄い武器みたいだ。一見すると普通のアサルトライフルだが、よく見ると光るラインが銃身を通っており、普通ではないと教えてくれた。


「了解っ! ようは強力な攻撃力ということだよね」


 なにげに大樹製の武器は供給されないので使ったことは無い。だが、話を聞く限り静香さんの武器と同じぐらい強力そうだと思う。


 建物は蟹にコンクリートの壁がガリガリと削られており、今にも穴が空きそうだ。実際に少し空いているところもあるが、巨大な蟹では通れない大きさだ。その少し空いている穴からちらりと恐怖の表情の生存者たちがいるのが見えた。屋上には焚き火の跡らしい物が残っているだけで誰もいない。多分みんなは建物に籠もっているのだろう。


 段々と建物が近くなり、眼下に蟹の群れがいる。巨大な蟹だ。もしもあのハサミに挟まれたら、不可視の力を持つワッペンも耐えられないかもしれない。


 だが、問題ないと気合を入れて、スレイプニルへと言う。


「行くよっ! 生存者たちを助けるの!」


「了解しました。ナナ様。これから私たちの英雄譚が始まるのですね。輝かしい栄光の1ページが記されるのです!」


 大仰なスレイプニルの返事に苦笑する。このバイクは本当にレキちゃんたちの情報を持っていないのだろう。私は英雄なのではない。本当の英雄は私のそばにいる。


 でも、自分は自分で、できることをやるだけだ。そう内心で呟いて、眼下を埋め尽くしている蟹の群れへとアサルトライフルを向けたのだった。



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