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コンクリートジャングルオブハザード  作者: バッド
14章 北海道に行こう
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183話 おっさんも北の大地を踏む

 フォトン高速輸送艦ホタテが北海道南部の地方港に停泊していた。フェリーと同じぐらいの大きさであり、全長300メートル。搭乗員数1500名まで乗れる大型艦だ。船体もフェリーにそっくりである。ただし、豪華客船に近い外国のフェリーの方だ。ホバークラフトなので、喫水線も関係ない。ただ甲板に量子砲が設置されており、量子バルカンが数基防衛のために配置されている。あとは大量の装甲タイルに覆われているところが軍用だと明確に教えていた。


 この北海道の港に輸送するための新造艦であり、浮遊はしない本当に普通の水上艦だ。量子システム搭載艦が普通かどうか聞かれると困るが。あと、船体の名前はもはや諦めた。運営のネーミングセンスは遥たちを上回る酷さだと判明しただけである。


 運転するのはミナトと凪の2人。今回のためにお願いをしたら飛び上がって喜んでいたのが印象的であった。


 そんなホタテの前には、人々が列をなして並んでいた。ひとりひとりが抱えられる程度のダンボール箱を受け取り、疲れてはいるが、笑顔で列を離れていく。


 それをおっさんぼでぃで、遥は甲板の上からぼんやりと眺めていた。いつものスーツ姿でポッケに手を入れながら眺めていた。


 みんな配給品を受け取っているのである。交易の前に街の立て直しを図るために、最低限の補給品を渡しているのだ。栄養食を数日分、医薬品を少し、衣服をそれなりにである。おっさん少女が作った物なのだから美味しく栄養が普通のレベルではない。食べたら消化されるまで、回復+1とか疲労度マイナス1とかつく食べ物だ。医薬品も使えば、とりあえずの軽い怪我などの回復はできるだろう。仮設お風呂は既に設置済みなので、汚れている人はもういない。


 あと、段々加工品を作るのは面倒になってきたので料理スキルを上げて、ツヴァイに任せようか迷っている。今のツヴァイたちは加工品までは作れない。大量に一気に作れるので、今までは問題なかったが、これからは厳しいかもしれないと思っている。


 あらゆる物はその物を作るファクトリーを建造すれば問題はない。機械操作スキルが発動するからだ。でもやっぱり専門スキルのほうが、全然違うだろう。特に味に関することは。ファクトリーで養殖から加工品まで作っていたら、素材状態ならともかく加工品はいまいちになるだろうからして。きっとなんとか士郎が出てきて、こんなのは本当の味じゃないとかクレームをつけにきそうだ。あの漫画は面白かったが現実では簡単そうに見えて無理だといつも思っていたものだ。


 でもスキルポイントの無駄遣いになるかもなぁと、つらつらとのんびり考え込んでいたら、遥というか、ナナシを呼ぶ声が聞こえてきた。


 野太い大声に近いように聞こえる声だ。そんなすっかり聞き慣れた呼び声の方を向くと甲板に豪族とナナが、タラップをカンカンと音をたてながら上がってきていた。


「私になにか用かね?」


 冷たい視線を向けての問いかけをする遥。その冷たい視線は扇風機の冷風並みだ。冷たさを感じるには熱帯にいないとわからないだろう。


 だがバックボーンを気にする人たちは、そうは思わないらしい。いつも思うが不思議なことである。どうやったらくたびれたおっさんがエリートに見えるのかなぁと内心でいつも思っている。


「このコミュニティは、若木コミュニティには連れていかないということでいいのか?」


 豪族が迷っている感じで、頭をガリガリとかきながら聞いてくる。どうも反対も賛成もしにくいような、迷っている表情だ。


 ナナも今回は特段の事情が無ければ、そのことに反対はする気はなさそうに見える。特段、不満そうでもなければ、機嫌が悪そうな顔もしていない。珍しい、少し世界観が広がったのだろうか。


 軽く小さく頷き、その返答に肯定しながら、また甲板下の列をなしている人たちへと視線を戻した。


「あぁ、そのとおりだ。文明復興には1つに固まるだけでは駄目だからな。多様性を持たせながら生存区域を増やしていかなければならない」


 新鮮な魚が食べたいのです。特に北海道の新鮮な魚とか美味しそうだよねと内心で思うが、そんなことはおくびにも出さずにそれらしい理由をつけて答える。上手くいけばイクラ食べられるかな? お寿司、お寿司が食べたいです。カウンターで食べるお寿司は数回しか行ったことがないので、贅沢にカウンターに座って食べたいのです。


 むぅと唸って、腕を組みながらナナが、やはり迷っているが、反対もする気はなさそうに普通な声音で聞いてくる。


「おっしゃる内容はわかります。でも全員残すのですか?」


「幸いこの港に逃げてきた人間は漁師の家族が多い。問題はあるまい。ただし孤児や暮らすのに厳しい者たちは若木コミュニティへと移動してもらおう」


 ナナの問いかけに修正をかけた内容で答える。当たり前だが、孤児や未亡人の子連れなどは本人が残ると言わない限り、若木コミュニティへと連れていく予定だ。


 その答えにホッとした安心した表情となるナナ。反対に豪族は厳しい表情となる。


「これからは孤児や未亡人の子連れなどは増えていくのだろうな。大変になるぞ」


「そうですな。とりあえずは孤児院には、今まで孤児のリーダーなどをしていた子供たちにお願いしようと思う。離れて暮らしていくのは、今まで一緒に暮らしていた小さい子供には酷だろうからな」


「お優しいな。まぁ、家族が離れて暮らすのは酷だからな」


 なにか意味ありげに、豪族はこちらを見ながら言ってくるがなんだろう? 普通の考えだと思うんだけど。


 既に崩壊から1年経過している。独立心があるコミュニティもこの先あるだろうと予想もしているし、両親が命を落として孤児になっている可能性も、グンと高くなっているだろう。コミュニティの復興もまた新たなステージへと入ったのだと遥は感じていた。


「これで北海道に前線基地となる港が手に入ったからな。内部へと切り込むことが可能となる」


 考えながら、呟くように口にする。交易をするには東京湾にも港とそこに住む人々が必要だ。ただ、人手が足りない。少しばかりここに住む人々の中から選抜も必要だろう。


 面倒な話だと嘆息する。やっぱりシムなゲームは偉大であった。どこからともなく人間が移住してきたからだ。現実もそうなら助かるのに。ちょっと難易度高いよね?どこかで難易度変更できないかなと、既にイージーモードで暮らしている遥はさらなるイージーさを求めていたが、残念ながらそこまで都合は良くなかった。


「ふむ、北海道は広いからな。ここは絶対に必要だと言うわけだな」


 遥の言葉にあごひげを手でジャリジャリこすりつつ、豪族が同意する。


「そうだ。あと、港はとりあえず1つで良いからな。北海道の海岸線をぐるりと一周して生存者がいたら回収する。東京湾の港で暮らしてもらえば、今後の活動が楽となるだろう」


「ここと同じようなコミュニティが、他の地方港にあるかもしれないって言うのか?」


 じろりと眼光鋭く聞いて豪族。話しながら考えていたが、良いアイデアだと自画自賛しつつ遥も答える。


「そのとおりだ。一週間ほど、北海道一周旅行をレキには楽しんでもらおう。ただし、内部に行くにはこれまで以上の注意が必要なので、この港を起点にゆっくりと海岸線のみ探索することになるがな。とりあえずは港を見て回らせるつもりだ」


 おぉ、これはナイスアイデアだと、海岸線なら敵もそんなに強力なのはいないし大丈夫だろうと、内心で喜ぶ遥。人手不足が少しばかりは解消するかもしれない。どれぐらい生存者がいるか楽しみである。


「むむ!レキちゃんは一週間も探索に向かうんですか? 若木コミュニティの友人と会えないとレキちゃんは寂しく思うと考えます。私も同乗しますね!」


 ふんふんと鼻息荒くナナが詰め寄りながら言ってくるので、その提案を考える。一週間旅行ねぇ。そういえばリィズも乗りたそうにしていたし、別に良いかと。でも、ナナは社長業はいいのかしらん?


「まぁ、空中戦艦内にほとんどいることになるだろうし、別に構わないだろう。あくまで、レキは空中戦艦の万が一の護衛兼慰安旅行としておく。何人かの友人と一緒に行ってくるようにレキには伝えておこう」


 たまにはみんなとの旅行も良いだろうと気まぐれに考える遥である。看破もレベル8だし、不意打ちを受ける可能性も低い。あとは生存者たちの攻撃だが、ワッペンを装備させれば大丈夫なはずだ。ちょっとばかり大変になるかもだが大丈夫。


 ちょっと不謹慎かなと思うが、どうせこんな機会でも無ければ安全な旅行など崩壊後の世界では行けないのだ。別に構わないだろうと開き直る。


 女性との旅行なんて久しぶりだよと、内心で飛び上がって喜ぶ。おっさんならば、企画段階でブラックホール行きなのは間違いない。哀れおっさん共々光ある地には戻ってこれないだろう。


 そんな内心は表に出さずに、つまらなそうに手のひらをひらひらさせて許可を出すと、ナナは文字通り飛び上がって喜んだ。あれ? ナナさん、ちょっとジャンプ力が凄くない? 数メートル飛んだような気がするよと、遥は疑問に思った。いつの間にかナナは強くなっているみたい。


 ナナは拒否されると思っていたのだろう。予想外の返答を貰ったので、勢いよく豪族へと顔を向けて、喜色満面で明るい声音で大声で告げた。


「百地隊長! 荒須ナナ、有給を取ります! 絶対に取りますので!」


「あぁ、わかったわかった。仕方ねぇな、ったく、気をつけて行くんだぞ? 避難民の収容を第一にしろよ? まぁ、お前なら大丈夫だと思うが」


 苦笑しながらも、あっさりと許可を出す豪族。そしてこちらへと顔を向けて


「あんな大層な空中戦艦があれば、お姫様の出番はあるまい。ゆっくりして旅行を楽しんでもらうためにも、防衛隊も何人か連れていかせるぞ? 避難民の収容には必要だろ?」


「当然だな。防衛隊はホタ……、ごほん、高速輸送艦に搭乗してもらおう。荒須社長と友人たちは空中戦艦だ。安全度が違うしな。悪いが一般人と兵士の違いだ」


「あぁ、了解した。ならば、選抜をすすめておこう。せいぜいお姫様の出番が無いように頑張らさせるとするか」


 重々しく頷いて、選抜をすすめないとと呟く豪族。ずいぶんレキにも気を使っている模様。ナナはリィズたちもお休みにしないとと傍目に見てもわくわくしながら考えている。


 そんな二人に遥は気になっていることを尋ねた。さっきから気になっていることを。どうしても聞きたいことを。


 困惑した表情で埠頭に設置した大型テントへと指差し


「…………ところで、あれはなにかな? 少しばかり兵士が多くないかね?」


 指差した場所は簡易診察所だ。イーシャが新型メガネ型メディカルスキャンをつけて、避難民の診察をしている。


 レベル4で作成した超電導病院とは違う。レベル8で作成した装備品だ。グラススキャナーという名前だ。効果は相手の異常や状態をスキャンでわかる。


 鑑定スキルなのかなと期待して遥が不死ツボ戦の後に作成した逸品だ。


 確かに相手の状態を確認できるアイテムではあった。


 しかし、致命的な欠陥があったのだ。スキャン時は相手の通常時のデータが必要となる。すなわち、ある程度戦闘して相手の死骸や部位を手に入れないと駄目なのであった。


 人間ならば問題ない。すぐにデータは集まったので、そのデータを基に簡単にスキャンできた。だが、それでも100人のデータが必要だったのだ。1人につき1%の解析率らしい。同じ肉体からはNGというアイテムだった。ちなみに解析結果は人間は全属性弱点という悲しい結果であった。まぁ、炎が効かない人間とかがいても、ビックリするけど。


 リベ1で消えたバイオ的アイテムを思い出すアイテムだ。なんて面倒な仕様なのだ、殆ど初見な敵には意味ないアイテムじゃんと憤ったものだ。


 それでも倉庫の肥やしにするのももったいないので、イーシャにあげたのだ。高かったのだ。高すぎたのだ。だからさすがに飾るだけは躊躇した。だから大切に使ってねと渡した遥。これで人間ならば数秒観察するだけで健康状態がわかるので、ますます医者らしいよねと。


 渡したこと自体は、それで良いのだ。なので、イーシャは凄腕の医者に見える。スキャンされた内容に従い、テキパキとレベル1のお安い回復薬を使っていく。傷薬はもちろんのこと、腹痛から頭痛、様々な異常を専用薬で治療していく。専用薬だと効果が万能薬よりもコストが安いうえに、レベル1でも効果が高い。なので以前大量に作成したのだった。


 それぞれの薬品を選んで、癒やされる暖かな微笑みとともに治療していくイーシャは天使にでも聖女にでも見えるかもしれない。


 しかし、後ろに立っている奴らが問題だ。10人ぐらいの防衛兵が直立不動で立っている。筋肉ムキムキで、まるでゴリラの群れである。イーシャがまるでゴリラの女王に見えてしまう。


「なんで、彼らはイーシャの後ろに立って、患者に威嚇しているんだ? あれだと治療しにくいだろう?」


 イーシャの微笑みに、男性の患者が頬を赤くして照れると、後ろに立っているゴリラたちがギロリと威嚇するように睨むのだ。


 赤くした頬を青ざめさせて、そそくさとお礼を言って男性は帰っていく。酷い状況だった。あれだとイーシャも困るのではないだろうか。


 豪族もそれを確認して、苦々しく口元を歪める。


「避難民が唯一の医者に乱暴を働かないように護衛するとか言っていたが………。確かにあれは酷いな。ちょっと頭を叩いてくるか」


 はぁと、ため息をついて、疲れたような表情で、豪族は診療所に行くために歩き始める。それに苦笑しながらナナも続く。


 甲板を降りながら、豪族が振り向きこちらへと確認の問いをしてきた。


「あぁ、ここの代表とは昼過ぎに漁業組合のビルで話し合う予定だ。遅れるなよ」


 そう言って、歩き始めたが、また思い出したように振り向き聞いてくる。


「もしかしなくても、イーシャさんも北海道一周に連れていくのか?」


「当然だな。医者が必要なこともあるだろうしな」


 イーシャしか医者はいないのだ。まさか、またグラススキャナーを作れとか言わないよねと聞きたい遥。あれはレベル8だから高かったのだ。もう絶対に作らない。戦闘の記憶はサクヤに頼ろうと決意している相変わらずのおっさんなので。


 きっとサクヤなら覚えてくれるはずだ。覚えていてくれるといいなぁ、多分戦闘サポートキャラだもの、信じようと思う。この間は大活躍したし。


 そんなおっさんの返答を聞いて、豪族は深くため息を吐いた。なんだか項垂れているようにも見える。


「そうかい、そうかい。ならば選抜は争いにならないようにしないとな」


 足取り重く歩いていく豪族は大変そうだ。


「イーシャはモテるんだねぇ」 


 ようやく事態を把握した遥。この間のおでん屋の混みぐあいもそれが原因だったのかと気づいた。だから、穂香は笑っていたのか。


 まぁ、そんなことはどうでもいい。恋愛事情は当人たちだけで楽しんでくれたまえ。おっさんは興味は欠片ぐらいしかない。すなわちほとんど興味はない。


 それにこれからやることはたくさんある。漁港の回復。漁船の修繕。若木コミュニティの存在を知った人々は移住を希望する人もいるだろう。これから会う予定の陰険眼鏡の対応も面倒だ。


「四季、ハカリ、行くぞ。ついてこい」


 そばにいる2人に声をかけて移動を開始する。いつまでも甲板から埠頭を眺めていても仕方ない。偉そうな雰囲気を出して命令をする。エリートなのだからね、それらしくしないといけない。


「はっ!」

「お供いたします!」


 キラキラと輝く金色のヘアピンを髪につけている四季と、ウサギリボンをゆらゆらさせているハカリが、ビシッと敬礼をして、司令官に従うのが凄い嬉しそうについてくる。


 2人を伴いながら、復興に恋愛にと頑張ってくれよ、若人よと考えながら、おっさんも船をのんびりと降りて、騒がしい埠頭へと行くのであった。

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