表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コンクリートジャングルオブハザード  作者: バッド
14章 北海道に行こう
182/579

181話 おっさん少女は浜辺で戯れる

 岩礁とでもいうのだろうか。そこにはたしかに釣りをしたくなるような風景があった。去年の夏に行った千葉の海より全然水が透き通っており、キラキラと陽射しをはね返している。のんびりと釣り糸を垂らして、海釣りを楽しめるかもしれない場所だった。


 まぁ、サハギンが群れていなければの話だ。今や見えない空間に黒いサハギンがウロウロとしている。そこまで数は多くない。300ぐらいというところだろうか。しかし、問題は力が測れないことであった。


 常ならば見ればある程度はわかる力の有無がぼんやりとしていてわからない。このようなパターンを何度も見ていた遥は極めて警戒した。どれぐらい警戒したかというと、レキを表に出さずに久しぶりに自分で戦い、手の内を見せないようにと考えたぐらいだ。それだけ警戒している小心者のおっさんであった。


 そうして考えたのは、超遠距離からの銃での狙撃だ。普通に遥でも戦えるのだ。どんなに久しぶりの身体を使った戦いでもゲーム仕様であるので、衰えは知らず、久しぶりだからとブランクがあっての隙などは存在しない。以前のおっさんだと、数日やらないでいたゲームですら、操作方法をすっかり忘れてオロオロするのだが。


 そう、遥でもスキルは達人レベルで使いこなせるのだ。ただ、レキは極限まで使いこなす天才の域なので遥の出番がないだけだったのだ。そしておっさんは頼れる人がいる場合、すぐに頼るのだ。実に頼りがいのないおっさんである。


 そんな中身詐欺なおっさん少女は、米粒どころか、細菌レベルにしか見えないほどに浜辺から離れて狙撃をした。狙うは空間に水の中のように隠れている黒いサハギンである。


 フォトンライフルの引き金をひくと、カシャンと軽い玩具のような音がかすかにして、銃弾が吐き出された。量子変換弾は空中を飛翔し、その姿を光の白き粒子へと変換される。その後に質量保存の法則をどこかに追いやって、慣性の法則すらも打ち消して、黒いサハギンへと細い光の矢となり命中した。


 チュインと音がして、サハギンを銃弾が変化したビームの軌跡は貫く。抵抗もなく馬鹿正直に不意打ちの狙撃を受けた黒いサハギンはそのままばたりと倒れた。


 その時の遥は結果を確認せずにライフルを担ぎ、木の上から枝をトンッと軽く蹴り上げ、高速で離れた場所にある他の木の枝に移動していた。


 用心深さ極まれり。スナイパーは場所を知られてはいけないというセオリーどおりに場所を移動したのである。


 さすが芋スナには定評があるかもしれないおっさんである。見つかったら死ぬ運命のFPSを昔少しだけやった記憶があるだけはある。敵に見つからなくても、全然敵を見つけることができずに、戦闘がゼロキルで終わるおっさんなだけはあった。全然自慢にならない。


 そんなおっさん少女は他の木の枝に移動したあとにサクヤに真剣な表情で結果を尋ねる。


「どう思う? 倒せたかな?」


 フラグになるかもしれない話のふりかただが、ここは仕方あるまい。サクヤは真剣な表情で言った。


「なんだか、あのサハギンに名付けをして良いか迷っているんです。例えて言うなら、ご主人様とお風呂に一緒に入っているとき、もっとエッチな洗い方にしてもいいか? でもきっと怒られると考える時と似ていますね」


 深刻そうにとんでもないことを口にするサクヤ。かなり嫌な例えだ。もうサクヤと一緒にお風呂に入るのはやめたほうが良いかもとまで考える。でも気になることも最初に言ったことに気づく。


「なんで名付けをしたくないの?」


 サクヤのアイデンティティの一つ、ミュータントへの名付けを躊躇うとは異常事態だ。


「乙女の勘ですね。それに少しおかしいですよ。なんだか、サハギンたちはまるでゾンビのようにフラフラしていませんか?」


「………なるほど、サクヤの勘………」


 空缶の間違いじゃない?と言いたいがやめておく。なんだか真剣な表情なので、コントをする状況ではなさそうだからだ。


 そのため、次の行動を遥は決める。


「エンチャントサイキック」


 超常の力をその小柄な可愛らしい少女の身体に纏わせ、続いて攻撃をする。


「超技レインスナイプ」


 浜辺にいる300体ぐらいだろうか? その全てのサハギンを一発の銃弾で倒すべく超技を使用した。


 フォトンライフルから放たれた銃弾は、一つ一つ小さな粒子の矢へと分裂して、まるでミニチュアの流星群のように変化して全てのサハギンへと命中した。命中し小さな穴を空けて消える光の矢。しかして、その小さな穴から粒子の威力は肉体全てへと伝播して、敵を粉々の肉片へと変えていった。


 次々と爆砕して地面へ血のシミとなり倒れ伏すサハギンたち。攻撃されたことすら気づかずに全員が倒されたのだった。


 遥は先程と同じく結果を見ずに、縮地の如く他の場所へと移動していた。ライフルを担ぎ直しサクヤへと再度尋ねる。


「倒した? ミッションクリアした?」


 一番簡単な敵を撃破したかの確認方法。ミッションクリアしたかどうかである。ゲーム仕様を裏技的に使うおっさん少女である。こういうのは昔から得意なのだ。アイテムドロップがなければ生きている。ゾンビならば呻きながら血を流さないと生きているの法則だ。


 しかし予想通り、サクヤは首を横に振った。


「いいえ、ご主人様。クリアとはなっていませんね」


 やっぱりなぁと遥はその答えに納得する。遥自身も倒した感触はあれど、ボスクラスを倒したとは欠片も思っていなかった。ただもしかしたらと思い聞いただけ。


 通常の主人公なら倒したかな? あっけなかったなと浜辺に降りて死骸を確認しに行く。そして強制強敵との戦闘イベント開始だ。しかし、遥はそんなことはゲームや小説で体験済だ。絶対に無防備に近づく気はない。用心深く小心者のおっさんであった。きっとボス敵を倒したと思っても、さらにグレネードを何発も撃ち込んだ挙げ句にセーブをしに一旦戻るだろう用心深さだ。


 珍しくカラカラと音がしそうな脳味噌をフル回転させて考え悩むおっさん少女。う〜んう〜んと悩み考える。そんな姿もプリティです、ご主人様とカメラドローンを動かすサクヤはスルーだ。


 それにおかしな気分がする。だが、なにかおかしいかがわからない。違和感は強さがわからない以上に感じるのだ。


 そこでハッと気づく。違和感の正体に気づいたのだ。それを確かめるべくサクヤへと話をふる。


「ねぇ、サクヤ。英子さんは海辺で釣りをしていたらサハギンに襲われて命からがら逃げ出したと言っていたよね?」


「そうですね。たしかに言っていました。自分たちが子供で喰い甲斐が無いから助かったのではと」

 

 不思議そうな表情でサクヤが返事をする。だが、今見た限りだとおかしいのだ。違和感の正体がわかった。


「それだとおかしいよ。あそこで300人以上が釣りをしていたと思う? その人数ではあの小さな浜辺だと無理じゃないかな?」


 浜辺は小さくサハギンは浜辺から少し離れたところまで進出して徘徊していた。サハギンは浜辺から少しばかり離れていても問題あるまい。問題は当時何人の釣り人がいたかだ。300人以上? あり得ない。そんなにぎゅうぎゅうなスタイルだと、釣り糸が絡まって碌に釣りなどできまい。


 少ない人数であったはずだ。今いるサハギンよりずっと。だが逃げ切れたと言っていた。それはサハギンが少なかったからだとわかる。最近は縄張りを増やそうともしていると言っていた。そこから導かれる結果はというと。


 遥は一筋の冷や汗を額から垂らしながら呟く。恐れていたタイプかもしれないと気づいたのだ。


「まさか自己増殖タイプ?」


「なるほど。珍しくご主人様の考えは正しいかもしれませんね」


 珍しくは余計でしょと、頷いて同意してくれるサクヤにさり気なくディスられつつ、遥は行動を開始した。


 少しその場を離れて、そこらへんを徘徊しているゾンビを見つける。街道沿いに何人かゾンビがいたので、ホイッとゾンビの首根っこを掴んで、先程の場所まで高速で戻る。


 そして、戻った場所から景気良く、浜辺へゾンビをぶん投げた。ヒューと飛んでいきグシャリと赤いシミになるゾンビ。


 またもや投げたあとに移動をした遥は、その様子をジッと真剣な表情で確認した。


 眠そうな可愛いお目々でジッと様子を窺う。きっとなにか来ると思っての行動だ。ほらほら餌がきましたよと内心で緊張しながら呟く。


 見ていたら赤い染みとなったゾンビがおかしくなった。なにがおかしいかというと、身体がボコボコと沸き立つように膨れ上がる。その後に身体が変化していき黒いサハギンと変わっていた。


 見ると周りに倒していた黒いサハギンの肉片も集まり始めている。あと少ししたら復活しそうだ。


 そのサハギンを見て遥は深く息を吐いた。近寄らなくて良かったと思ったからだ。さすが私、グッジョブであると自画自賛する小物なるおっさん。まぁ、レキならば猪突猛進で浜辺に突撃していただろうから間違いではない。


「アンデッドというわけではないね」


 遥ははっきりと感知した。なにか小さな物がゾンビに取り憑いたのを。


 そこで気になることを聞く。背筋が考えただけでゾワッとなる内容。すなわち、憑依や寄生についてだ。


「ねぇ、私は寄生や憑依も大丈夫なわけ? 状態異常無効だもんね。大丈夫だよね?」


 小心者のおっさんは寄生とか憑依が大の苦手である。虫や植物に寄生される話を聞くと背筋がぞわぞわするのだ。おっさんもレキに寄生とか憑依をしている感じはするのに。


「おっしゃるとおりです。状態異常無効によりあらゆる異常は無効化されます。ただし体内に入られたらダメージは負いますが。継続ダメージというやつですね。その場合は浄化を使うか、身体自体にダメージを与えるかが必要です。しかし体内に入られても問題はないかと。即死系は効かないので、継続ダメージのみです。なので、自らに攻撃をしてもダメージを負うのはご主人様の身体は透過されて敵だけです。何しろフレンドリーファイア無効なので」


 おぉぅ。なんというイージーモードだと、遥は久しぶりに意識した。そういえば、フレンドリーファイア無効であった。自爆レベルの攻撃でも内部の敵にしか効かないとはなんというチートっぷり…………。敵側からしたら抗議をしてもおかしくない内容だった。おっさんの大好物でもある。イージーモード大好き人間なので。ただしイージーモードだと手に入らないアイテムがある場合は通常モードでやるコレクター気質なおっさんでもある。


 ホッと一安心な遥である。これならば小さい敵だろうと大丈夫だ。敵の姿も確認した。そして強さも。


 はっきりとわからなかったのはサハギンへ寄生していたからだ。本体は寄生した相手の中に埋もれて戦闘力を隠していたのだろう。


 確認したところ、敵の力は邪武と同じぐらい。すなわち強敵だが負ける相手ではない。主人公なら調べ過ぎでしょと文句を読者から言われるレベルだ。しかし小心者のおっさんは調査を怠らなかった。


「やりましたね、ご主人様。あの敵の名前はサハギンを支配する最も浅きに棲まう者。名前は不死ツボに決めました!」


 輝くような満面の笑顔でサクヤがようやく名付けをした。敵の正体見たり、だからだ。でもサハギンの支配者ってダゴンだった感じがするクトゥルフ神話を思い出すおっさん少女。ダゴンってフジツボだったのねと納得した。たぶんフジツボではないとは思われるが、残念ながらクトゥルフ神話にサクヤは詳しくなかったか勘違いするご主人様可愛いと思っているか。多分後者の可能性大。


 敵は小さなフジツボであった。ふわりと浮いてゾンビの体内に入り込んで寄生する。そして黒いサハギンに変異させるのだ。アンデッドに似ているところは、黒いサハギンを倒しても肉片を集めて修復することぐらいだ。不死属性でもつけてるっぽい異常な再生能力である。


 気をつけなければ体内に入られたかもしれない。可愛い子猫のような感じのレキの身体に侵入するなんてNGである。おっさんなら、侵入しようと考えるだけでもアウトである。


 なにしろ浜辺には無数のフジツボが砂の中にいるからだ。倒すのが極めて面倒そうだ。


 なので、もう一度エンチャントサイキックを使い、超技を放つことにする。


「超技レインスナイプ」


 またもや数百にわかれた粒子の細い矢が正確に黒いサハギンに寄生している不死ツボに着弾する。パパパと軽く光り、繊細なる精妙な狙撃により、不死ツボへ正確に命中して、黒いサハギンから押し出された。


 ん?と遥はその光景を見て、ほっそりとした可愛い眉を顰めた。


「マジかよ。あれは倒せていないよね?」


 不死ツボは吹き飛んだだけで、砂浜を吹き飛ばされてコロコロと転がったと思ったら、ふわりと浮いてまた黒いサハギンの中に弾丸の如し速さで飛翔して潜っていく。ダメージを負った感触はない。


「ご主人様。敵の防御力はかなり高いです。どうやら物理的攻撃及び超常的でも物理破壊系にかなりの耐性があるみたいですね」


 珍しく真面目に報告するサクヤ。そのおかげでやばいと感じる遥。


「物理的攻撃はだめ? どこの銀色のスライムかな? はぐれているやつかな?」


 そこでもっとヤバイことをサクヤが言ってきたことに気づく。


「物理破壊系の超能力って、……………もしかしなくても念動力もカテゴリーに入る?」


「はい、物理破壊系でトップをはるのが念動力ですので」


 サクヤは困った笑顔で答えてくれる。なぜ困ったかは容易に予想できた。というか極めてまずい状況だ。


「私の武器と超能力ばっかに耐性あるじゃん! えぇ、どうすれば良いわけ?」


「他の超能力を取得しましょう。耐性持ちに対しての戦いは今までとまた違う戦いになると思います」


 マジかよ。今まで物理攻撃系で被っていたが、だからこそ強力な戦いをしてきたのだ。すなわち体術で殴り、念動力で破壊する。極めて脳筋に相応しい戦い方であった。


 それが完全にとは言えないが戦闘を変える必要があるらしい。嫌な予感がする。ゲームからの勘だ。


 どんな勘かというと、大幅アップデートにより、今までは殴り厨ばっかりが活躍していたのに、複雑な戦術が必要となり、他のスキルも必要になる。そんなのをたくさん見てきたのだ。


 黒魔道士4人で敵を魔法でボコボコ倒していたら、連続的に魔法が入る場合は敵に耐性がつきますとか、インフレが酷くなり砲台であった黒魔道士はいらなくなるとかそんな感じだ。黒魔道士メインで育ててきたおっさんは凄いショックを受けたものだ。


 今、そんな状況に入ったと、ひしひしと感じている。敵もなにもないこんなところで40000の報酬の敵。敵の強さも上がったのではないだろうか?大幅アップデートと新マップ解放の両方が起きたのだ。予想してしかるべきであった。


 悔やむおっさんにゲームではないよと教えてあげる親切な人はいなかった。実際にそんな感じになっているし。


 そんな考えに囚われていると、浜辺で動きがあった。砂地からポコポコ不死ツボがたくさん現れると、1つに集まり始めて、人型の泥のゴーレムのように変わっていく。下半身は崩れた山のようになっており、上半身は目も口も窪んだ穴だけだ。しかし不死ツボだけでできているので、極めて気持ち悪い。なんだかブツブツだらけのような怪物である。


 その怪物は遠く離れたこちらへと視線を向けた。もう帰ろう、そうしようと、早くも危険を感じて帰り支度をしようと思っていたおっさん少女は、その虚無の視線を感知した。


 背筋が凍るほどの視線から逃れるために、そそくさと離れようとした。だが、不死ツボは先手をうってきた。両腕を自分に向けて何かを引き寄せるように振るう。


 その瞬間、脱出しようと身体を翻したおっさん少女は目の前に水の感触を受けた。


「なになに?」


 戸惑う遥へと全身に水の感触があたる。いや、これは大波に攫われる感覚である


 やばいと考えて動こうとするが、見えない大波は遥を一気に遠く離れた浜辺まで森を抜けさり連れ去っていく。


 あわわあわわと焦る遥はゴロゴロと浜辺へ押し流されて、その小柄な体躯が砂まみれになる。波の感触が無くなったので、すぐに立ち上がり周りを見ると不死ツボゴーレムが目の前にいた。


 どうやら、してやられたらしい。そう理解して間合いをとろうと、砂地を軽く蹴り離れようとするが


「あわわっ!」


 水の中にいるように動きが鈍く空気に抵抗力を感じる。そのため、ほとんど間合いがとれなく、近くに降り立つ遥。


「ウォォォ」


 その姿を見て、叫ぶというか、洞穴に空気が通るような角笛のような咆哮をする不死ツボゴーレム。どうやら威嚇のつもりらしい。


 この感触は味わったことがあるね、その時も凄い苦戦したんだよと苦々しく以前を思いながら、おっさん少女は動きにくいこの状況を打破するべく思考を加速するのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ