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コンクリートジャングルオブハザード  作者: バッド
14章 北海道に行こう
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179話 謎の行商人をリトライするおっさん少女

 南部地方港。港の多い北海道でも、残念ながらそこまで重要な港ではない場所だ。そんなに人も住んでおらず過疎化がすすんだひなびた港である。


 田畑はあれど、避難民のお腹を満たすほどの量は到底取れず、漁業がメインで成り立っている南部地方港コミュニティである。しかし、漁業は荒くれ者の元自衛隊が仕切っており、魚は全員になんとかいきわたる程度。腹を満たしているのは元自衛隊と、こっそり外に出かけていき缶詰やらなにやらを持って帰れる幸運な人だけであった。


 あとの人々はなんとか一日一食で暮らしており、未来の視えない生活を絶望とともに暮らしていた。いや、恐らくは荒くれ者たちなども含めた全員だろう。ジワジワと自分たちが終わりに近づいていることを感じているからだ。


 そんなひなびて荒れ果てた港の道路を子供たちがリヤカーを引いている。リヤカーには缶詰が大量に積まれており、ガシャガシャとうるさい音をたてながらの移動である。


 そうして広い空き地に到着すると、周りをキョロキョロと見渡して、先頭の少女が満足げに頷く。


 片手を少女があげたところ、リヤカーは停止するのだった。


 リヤカーにはなにやらたくさん積んである。なんだろうと人々は思った。このご時世で、なにをたくさん持ってきたのか想像もつかない。それに先頭に立っているひと目見たら忘れられない可愛らしい美少女が、崩壊後には見たことのない笑顔をしていることも気になるのだ。


 艷やかな黒髪は、この崩壊した世界でどうやって維持しているのだろうか? 天使の輪まで髪に見えている。眠たそうであるが、吸い込まれそうな魅力的な瞳、桜のような色の可憐な唇。愛らしを感じるどこか子猫を思わせる小柄な体躯、健康そうな手足を魅せる美少女であった。名前は朝倉レキ。最近は惚気が多い戦闘民族だ。中には…………ザーザーとノイズが走ったので、これで紹介は終了だ。


 そんな少女が鈴を鳴らすような可愛らしい声で叫んだ内容は驚くべきことであった。楽しげに両手をぶんぶん振り回して叫んでいる。


「苺愚連隊がやる移動販売で〜す。今日は開店記念で、1個10円でなんでも売りますよ。買い取りもしています。ただし、買い物ができる人はお風呂に入って清潔になった人のみ! お風呂も10円です。歯ブラシ、高速自動洗濯機もありますので、歯も服もピカピカになりますよ〜」


 お風呂は絶対に外さない遥である。若木コミュニティと違うのは水を沸騰させて飲んでいるらしいので、そこまで水には困っていないということだ。それでも風呂までは気が回らないのはあたり前。なので、お風呂にも入ってもらおうと考えたのである。


 汚れた人はノーサンキュー、出禁決定、退場してくださいなのである。風呂に入っていない人は臭いがきつすぎるのであるからして。


 そう叫んだあとに、アインがホイホイッと仮設風呂を何個も作成していく。


 嬉しそうな表情で鼻歌を歌いながら


「これも久しぶりだよなっ! アタシが初めてやった仕事だったっけ」


 懐かしそうに設置しているので、AIがしょぼかったときも記憶にある模様。あの時は、作成時のシーンが見れなかったと思い出す。そしてもう超常の力を使っても、気にしなくなったおっさん少女である。


「ほらリーダー。リーダーが率先して働いてくれませんと? 客寄せのために声を出してくださいよ」


 隣で疲れたような諦めたような表情で、数秒で光とともに設置されていく尋常ではない仮設風呂を見ている英子が深くため息を吐いた。


「ええぃっ! わかったわよ! やればいいんでしょ! やれば!」


 そう怒鳴り、英子は深く息を吸い、やけになったように怒鳴るように叫んだ。


「たくさん色々ありますよ〜! 今日は開店記念で全部10円! 富山の空気が入った蒸しパンの缶詰! 岩手の空気が入った蒸しパンの缶詰! 英子の息が入っているかもしれない蒸しパンの缶詰………」


 ギギッと首をおっさん少女に向けて、顔を羞恥で真っ赤にする。


「なによこれ? なにこれ? 私の息って? いつのまにこんなの用意したのよ!」


「最後にオチを持ってくるとは、さすが隊長です。隊長の息を混ぜたかもしれない蒸しパンですよ、美少女な隊長の息なので人気商品になるかもです。あくまで、入っているかもですが」


 常に余計なことをする自称お笑い芸人朝倉遥。最近はレキの体に変わっているときは自由すぎる。


「ダメー! これはかいしゅー! かいしゅーだからねっ」


 そんな英子が目立つように怒鳴ったので、お客は続々となんだなんだと集まってきたのである。



 

 空き地は大勢の人々が風呂から出たあとに買い物をしていた。最初は疑っていた人々だが、本当に食べ物が売っているとわかり、殺到したのである。


 英子たちはてんてこ舞いで、缶詰を売っていた。


「この富山の空気くださいな!」

「高知の空気三つ!」

「東京の空気五つ!」

「英子の息一つ!」


 どうやら変態がいた模様であるが、忙しすぎて確認できない英子たち。はいはいと次々に缶詰を手渡していく。


 人々は買った後にすぐさま缶詰を開く。ぽよんと柔らかな蒸しパンが出てくるので、ムシャムシャ喜んでがっつくのであった。


 甘いね、美味しいねと人々が顔を輝かせていくのを、満足げに遥は眺めていた。ウンウンと頷いて


「どうやら人々に元気が戻ってきたようですね。良かった、これなら漁港として復活できますかね?」


 もっと活気になってくれれば漁港として復活するか? シムなゲームも新たな産業と交易相手が必要な時期である。人手不足は解消したいが、それ以上に漁港も欲しい。しかも北海道の漁港となれば復活すれば楽しそうだ。関東でも良いけど、やっぱり北海道とかの方が美味しいウニや蟹が取れて良いよねと考えていた。


 そう。今回の支援では実は若木コミュニティに人々を連れていく気はさらさら無い。


 それはなぜか?


 漁港も欲しいが、生存者がちらほら来ると聞いたからである。それなのにこの人々を連れていき、漁港を空にしたらどうなるのかという話だ。少数の常駐兵を置いても良いけど、様々なことを特化してできる多様なコミュニティを増やして復興させるほうが良いと考えたのだった。


 それの方が絶対に楽しいとも考えている。旅行先とかにもなるでしょ精神な楽しいこと優先なおっさん少女であった。特にスイートルームがあるホテルとかいつか作ってほしい。そこで贅沢な旅行をするのだと野望を持ってもいる。


 なんとも小市民的なおっさんであった。


 缶詰をたくさん売って、お客がようやくいなくなったので英子がクタクタになって座り込みながら言う。


「ね〜ね〜、レッキー? これからもこんな商売をやっていくわけ?」


 リヤカーに備え付けられたざるには、たくさんの10円玉がジャラジャラと入っているのを、疲れたような瞳で眺めながら聞いてくる。


「まぁ、たまにですかね? ここはたくさん取れるのがお魚でしょう? ウニとかカニ、昆布とかも取れるんですかね?」


「どうだろ? ウチの家族はイカ専門に近い漁師だったからね〜」


 ふむぅと、紅葉のようなちっこいおててを顎にあてて遥は考える。まぁ、英子の知識の無さは当たり前かと。たとえ隣の家が漁師でも、おっさんはなにが取れるかも興味を持たなかっただろう。世の中そんなもんである。魚が欲しかったらスーパーに買いに行けば良かったんだし。


 でも必ずこの人々の中には漁師がいるだろう。空き地に座り込みながら蒸しパンを食べている人たちを見ながらそう思う。


 新鮮とれたてのウニ食べたいです。カニは剥き身でお願いしますね、じゃがバターとかも食べたいなぁと、どんどん思考が明後日に向くおっさん少女へと、恐る恐る年配男性のお客がこちらの顔を窺いながら尋ねてきた。


「なぁ、お嬢ちゃん。この缶詰はどこで……いや、あんたらはいったい何者なんだい?」


 待っていた質問である。ふふふ、待っていましてよと小さなおててを口にそっとあてて答える。


「私はしがない苺の卸業者の美少女な娘です。そしてここの店長さんが、苺愚連隊の隊長さん、英子さんです」


 むふ〜と鼻息荒く、言いたかったことを言えて、興奮気味なおっさん少女。中身の年齢はもう考えないほうが良いだろう。きっと上書きされて、デリートされて、フォーマットされたに違いない。


「その娘は見たことあるよ。ここの人間だろ? 嬢ちゃんは見たことがないから新顔だ。どこからきたんだい? それとこんなに缶詰を用意すると、漁業組合にいる連中が黙ってはいないよ?」


 心配げに言ってくるが、英子もそうだったが、食べ終えた後にその忠告ですかと内心で呆れる。でも、人間そんなものだ。


 小説の中の若い主人公なら、なんで力を合わせて、荒くれ者と対抗しないんですか!人数はこちらのほうが上ですよと上から目線で説得して、人々もそれに頷いて、いっちょやってやるかと立ち上がる。そんなパターンは多く見てきた。


 だが実際はどうだろう? 最初に死ぬかもしれない人間には誰もがなりたくないし、銃持ちを前に動くことは難しい。誰しも自分の家族、自分の命が大切であり、何より戦う力なんて平和に暮らしていた日本人には無理な話だ。できないことは責められない。だって、遥も同じ立場なら、道路の端に座り込んでいるかもしれないのだから。


 自由に行動できるのは力あるものだけなのだ。おっさんは若くないので、弱者の立場がよくわかるのである。わかるけど、今は力があるから、遊んでも仕方ないよねなスタイルをするタチが悪いおっさんでもあった。まぁ、遊びつつ助けているのだからいいだろう。


 なので、遥はこう答える。年配男性を代表にして、聞き耳をたてている人々へも聞こえるような声量で。


「大丈夫ですよ。これからのこのコミュニティは苺愚連隊が幅をきかせます。おぅおぅとオットセイの真似をする輩が来たら撃退して全面抗争決定です」


 そして疲れて他人事のように座り込んでいる英子へと顔を向けて


「英子隊長はそう言っています。ね? 英子隊長」


 そのまま話を英子にキラーパスするおっさん少女であった。


 その言葉を聞いて、英子はふりふりと手を振って、投げやりに答える。


「そうですよ〜。全部ウチにまかせておけば安心ですよ〜」


「ちょっとちょっと、英子さん、もっとキレのいいアクションをお願いしますよ。皆さん期待してるのに」


 遥の言葉に、う〜、と唸り始める英子。口をつきだし文句を言う。


「なに言っているのよ! もうウチ疲れたぁ〜。 ねぇねぇ、もう充分に働いたよ〜。救いの船に乗せていってよ〜」


 バタと地面に寝っ転がり、頬を膨らませて、手足をジタバタさせる。どうやら少しやり過ぎた模様。


 そんな迂闊な英子の言葉を年配の男性が聞きとがめた。


「救いの船って、なんだい? もしかして船が来ているのかい?」


 その言葉に耳をそばだてていた人々がざわつく。


「え? 船が来ているのか?」

「助けが来てるの?」

「そういえば、この缶詰は新品だ!」


 新たな情報を得て、その内容が希望を湧かせる言葉であったので、人々はざわざわと騒ぎ始めた。


 騒ぎ始めた人々を見て、あわわ、やっちゃったと起き上がり慌てる英子と不安げな子供たち。


「あんた! 助けが来ているのか? いや、この缶詰は新品だ! 錆びても汚れてもいない! 助けが来たんだろう? そうなんだろう?」


 小柄なおっさん少女の肩を掴んで、必死な形相で聞いてくる年配の男性。他の人々も詰め寄ってくる。


 なので、眠たそうな目を人々に向けて、ひょいと肩から掴まれた手を払い除けて答えてあげる。


「助けがあればよろしいのでしょうか? これからの暮らしを考える時かも知れませんよ? 助けが来ても今後の生活を考えればお金が必要となります。そしてここには交易を求める謎の行商人がいるのですよ」


 わざわざ謎をつけてしまう、いつもの迂闊なるおっさん少女。小首を可愛らしく傾げて、愛らしい顔を微笑みに変えて伝えてあげる。


「なので、これからの貴方たちがやるべきことは、漁業の復活です。お魚をたくさんとって、お金を稼いで交易をしましょう」


 ふわりと微笑む魅力的な美少女の笑顔を見て、後退り気圧される人々。なぜかはわからないが、威圧感をこの小柄で脆弱そうな無邪気な美少女から感じたのである。


「だ、だが、実際漁業の復活と言っても、船が動かないんだ。荒くれ者が支配しているからということだけじゃない。埠頭からの釣りなんか、たかがしれている。魚を採るなら絶対に漁船は必要なんだ!」


 威圧感に押されながらも、恐る恐る反論してくる人々。その言葉を聞いて、遥は安心する。態度を見るに結構漁師は多そうだ。正確な人数はあとで確認しないといけないが、漁港は復活できそうであると。


「大丈夫です。やる気のある方はきっと報われますよ。私と英子さんが保証します。なので、漁船を使える人々、運ぶ人々、まぁ様々な職種が必要になりますので、話し合って決めましょう」


「さり気なく、ウチを保証人に入れないでよ〜」


 なんだか泣き言が聞こえてきたが、華麗にスルー。


「なんとかなるのかい? 本当に?」


 疑問の顔で聞いてくる年配の男性。周りの人々も顔を見合わせて、どうしようか会話をしている。


「えぇ、きっとレンタルしてくれる商人がどこからか現れるでしょうね。きっとね」


 悪戯っぽく片目を瞑りウィンクして返事をするおっさん少女。おっさんなら、ウィンクをしようとすると目が引き攣るか、両目を瞑ってしまうので、きっとおっさんは浄化されたに違いない。安らかに眠ってください、おっさん。


 ざわめく人々。半信半疑まで信用度が上がってきた模様。根拠は新品の缶詰である。こんな物を今の漁港で用意できるはずがないのだから。


「どうしようか?」

「とりあえず話し合ってみよう」

「交易する相手って、何者なの?」

「あの少女に踏まれたい」


 最後の発言者を踏んでやろうかと思うが、我慢して様子を見守る。


 人々が話し合ってみようかという雰囲気になってきたときに、小さい叫び声が耳に入ってきた。


 なんだろうと、叫び声の方に視線を向けると、気絶から復活したのだろう荒くれ者がぞろぞろとこちらへ歩いてきていた。


 それを見て、慌てて荒くれ者の通り道から離れる人々。


 それを見て、まだ印籠的なアイテムを考えていない、どうしようと慌てるおっさん少女。おっさん少女の考えはどうでもいいかもしれない。


 アインとシノブがさり気なく遥の前に立つ。なにかしでかしたら、容赦なく……は、相手が粉々になるので、気絶する程度に殴るつもりだ。


 そんな荒くれ者たちは、陰険眼鏡を先頭にぞろぞろと歩いてきて、おっさん少女の手前で立ち止まる。


 不安げに様子を見守る人々。


 ゴクリと息を呑む英子たち。


 印籠、印籠的なアイテムはないですかと慌てるおっさん少女。


 そんな面々の視線を受けて、陰険眼鏡たちは一斉に真剣な表情を向けてくる。


 そして、土下座をおっさん少女へしたのだった。続けて大声で言い放つ。


「天下の副将軍様とお見受けしました! どうぞ、我らの窮状をお助けください!」


 なかなかノリの良い陰険眼鏡。


 おっさん少女は、まだ印籠出していないよ? 出すまで待ってほしかったとがっくり肩を落とすのであった。

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