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コンクリートジャングルオブハザード  作者: バッド
14章 北海道に行こう
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176話 おっさん少女は愚連隊を結成する

 薄汚れた倉庫の壊れたシャッターから、ずるずると気絶したチンピラたちが子供の集団に引きずられて、そのまま少し離れた崩壊前のごみ収集場所に捨てられた。ガシャーンという音がしてチンピラが何かのごみと一緒に横たわる。


 そして子供の集団はそそくさとまた倉庫に戻っていくのであった。


 周辺でおこぼれにあずかれないかとチンピラの動きを見ていた他の人々は予想外のことに驚いて、何が起こったのか、子供の集団が戻っていった倉庫へと視線を向けるのであった。




 倉庫内では喜びの歓声が上がって、おっさん少女は囲まれていた。子供たちは嬉し気に予想外に強い少女へと声をかけてきた。


「すごいな、お前。なんだよあの力」

「やっぱり予想通りだったんだ。凄い強かったんだね!」

「パンありがと~。おねえちゃん!」

「どうして、強いのにあほっぽい言動なの?」


 最後の発言者を殴りたいので探したいが、遥はグッと我慢して子供たちを見渡した。


「私はしがない苺の卸業者の美少女な娘です。たまたま旅行先がここだった。ただそれだけです」

 

 眠そうな目で、口元を小さくにやにやさせながら答える中身の年齢を確かめないといけないような感じがするおっさん少女。今回はどっかの黄門様設定にしたらしい。相変わらずのアホな後先考えない設定である。


 賢明にも子供たちはアホですかとはツッコミを入れなかった。良い子たち。


 そこで遥は真剣な表情となる。この設定を楽しむ前にすることがある。


「あの、すみません。私が苺の卸業者の美少女な娘をするまえに、やっておかないといけないことがあるんですよね」


 やっておかないといけないこと?なんだろうと子供たちが首を傾げた。


「残念ながら、私の観光旅行に12歳以下は参加不能です。危ないので保護させてもらいますね」


 そう告げて、ぽかんと何を言っているのかわからないといった子供たちへとニコリと愛らしい笑顔を見せるのであった。




 街を少し離れて移動する遥。後ろには子供たちが恐る恐るついてきている。


「大丈夫ですよ。心配しないでください。美味しい温かい食べ物。体を綺麗にできるお風呂。フカフカなベッドがありますので」


 怪しさ爆発の言動である。どう考えても誘拐犯が言いそうな言動だ。後は昔の人買いとかだろうか。


 そのため、警戒心あらわに子供たちはついてきた。怪しくてもご飯をわけてくれて、チンピラを追い払った少女であるから。


 英子が眉をしかめて不審そうな表情で声を遥にかけてくる。


「ねぇねぇ、ほんとーに、この先にそんな寝床があるわけぇ? ちょっと信じられないんだけど? あんまり進むと危ないからね、ほんとーに危ないんだからね!」


「大丈夫ですよ。私にお任せください。苺の卸業者の美少女な娘は嘘をあんまりつかないんです」


 飄々とした声音で答えてくるおっさん少女。罪悪感など混じっていそうな感じもしないし、極めて明るく嬉し気な声音だ。


 だが、不安が募る英子は口調を強くしてさらに言葉を続けようとする。


 そこでくるっと体を回転させて、後ろについてきている子供たちへと振り返り、遥は悪戯っぽい笑顔で言葉を紡ぐ。


「到着で~す。ここが目的地ですよ」


 手を水平に振って、観客に挨拶する司会者のように周りをみせるようにするおっさん少女だが、周りは木に囲まれており、少し小さな空き地である。言うような寝床なんてない。


「ちょっと、どこにあるのよ? そんなの、みえないんだけどぉ」


 騙されたのかと、英子が怒鳴りかけて、子供たちが不安げになる。そんな子供たちへ遥は指をパチリと鳴らした。


「いえいえ、ここから移動してもらうんですよ」


 その合図と共に子供たちの頭上に、空間から滲み出すように変わった形のヘリが現れたのであった。


 ロータ音もせずに浮かぶヘリ。そして遥はサプライズが成功しドヤ顔である。こういうシチュエーションを一度やってみたかったおっさん少女は、子供たちが驚いて口を開けて呆然と立ち尽くしてヘリを見上げているのでご満悦だ。


 なんだか長方形の形をして、ヘリのローターらしきものが4つ。ヘリの横について並んでいる。そんなヘリはSF映画でしか見たことの無い面々である。


 そこへ軽くお辞儀をして、ノリノリな遥は言う。


「本日は空中強襲艇ドラゴンフライとの空中の旅をお楽しみください」


 むふんと息を吐いて、これは主人公っぽいねとわくわくしながら、相手の反応を見る。驚いたでしょう? たっぷり驚いてねと。


 だが、相手は驚きすぎてぽかんと口を開けて呆然としているのみであった。歓声も驚きの声も上がらず、遥の演技ぶったお辞儀もスルーされた模様。


 むぅ、と頬を膨らませて、おっさん少女は思う。驚かせすぎるのもダメなんだねと。


 全然反応がなくて、残念無念なおっさん少女であった。何しろおっさんぼでぃなら確実に脇役なので、こういったシチュエーションはこない。永遠にこない。たぶんこない。きても自分では気づかず普通に臨んだ仕草をして本人は気づかないという状況になるだろう。




 空中戦艦スズメダッシュの食堂にある透明な素材のわからないテーブル前に設置してある、やはり素材が思いつかないふわふわのクッションがよく利いているソファに座って、おっさん少女はのんびりとしていた。少しウトウトして眠そうである。小柄な可愛らしい少女がウトウトしている姿はひどく愛らしい。


 食堂は未来的な内装で、空中に今日の日替わりランチとかテロップが浮いていたり、柔らかな光が光源も見えずに天井から照らしていた。


「どうぞマスター。アイスココアです」


 ニコリといつもの癒やされる微笑みでナインがことりとテーブルにアイスココアを置く。冷たい汗をかいている冷えたコップには牛乳で溶かしたココアがたっぷりの氷とともに入っている。とっても美味しそうなアイスココアだ。


 そのアイスココアを見て、ウトウトしていた遥は目覚め、ナインへ感謝の返事を微笑みながら答えた。


「ありがとう、ナイン。美味しそうなココアだね」


「お疲れかと思いまして。マスターはココアが好きですし」


 コップをのせていたトレイを胸の前に持ち、ナインが小首を傾げて可愛く微笑みながら返事をする。さり気なくナインの頭を感謝を表してナデナデする遥。いつでもナデナデをする機会を探っているおっさんなのだ。


「いえ、空中戦艦があるので、マスターとともにいられて嬉しいです」


 ナインは頭をナデナデされて、嬉しそうに顔を綻ばせながら答えた。


 その言葉に、胸を押さえて、ぐはぁと心を射られる遥である。健気さの塊であるナインは凄い可愛らしい。あと、やっぱりレキの胸は平坦だねと余計なことも思った。でも貧乳も好きだからと、レキのことを考えてフォローする。常に余計なことをついでに考えるおっさんである。そしてフォローの仕方がセコすぎる。


 ドサリとテーブルにバナナが置かれた。一房丸ごとなので食べきるのが大変そうだ。


「どうぞご主人様。バナナです」


 ニヤリとツッコミ待ちの悪戯な微笑みを浮かべてサクヤが話しかけてくる。丸ごと一房あるバナナは黄色い甘そうな感じだ。


「ありがとう、サクヤ。食べきれないんだけど? 私はこんなに食べきれないんだけど?」


 バナナは正直そんなに好きではない。嫌いでもないので普通な感じだが。でも好きな人でも一房は無理であろう。


「私がご主人様のお口に押し込んであげます。それはもうグイグイと」


 小首を傾げて、下心満載な微笑みを浮かべながらサクヤが答える。


 ぐはぁと胸を押さえて、ここまで変態であったかと、驚愕するおっさん少女である。まったくさり気なさは見せないで、怒りを表して、サクヤの頬を掴んでムニーンの刑にする。怒ったフリをして、常にサクヤのもちもちほっぺを触ろうとしているおっさんなのだった。


「いえ、空中戦艦があるので、ご主人様とじゃれることができて嬉しいです」


 サクヤは頬を餅みたいにムニーンとされるのを嬉しそうに顔を綻ばせながら答えた。


 相変わらずのコントをしながら遊ぶ3人である。


 そんな3人の前に、ワイワイと話しながらシノブの案内で子供たちが食堂へと入ってきた。


 みんなお風呂に入った後で、体から湯気を浮かばて、石鹸の香りをさせている。


 食堂に入ってきた子供たちは、ワッと歓声をあげて駆けてきて、たくさんあるテーブルの前の料理をキラキラとした瞳で見渡す。


 そこには鶏肉の入った雑炊やリンゴジュース、茶碗蒸しと消化の良いものがおいてある。遥が子供たちのために用意したのだ。


「食べていいの?」

「たくさんご飯があるよ」

「美味しそう!」


 正直、消化の良いものばかりだから、そんなに言うほど美味しそうには見えないが、子供たちには久々の御馳走なのだろう。


 こちらをチラチラと見てくるので


「食べていいですよ。お腹を壊さないように気をつけてくださいね」


 そう答えて、にっこりと微笑む遥。


 その答えを聞いて、急いでソファに座り、パクパクと一心不乱に子供たちは、輝く笑顔で食べるのであった。





 お腹をいっぱいにして、ソファに深くもたれて子供たちは安心した表情でウトウトしはじめた。


 くつろいで安心した空気の中、英子だけはソファから立ち上がり、遥へと近づいてくる。


 それを見て、サクヤとナインは遥に小さく頭を下げて挨拶をしたあとに食堂を出ていく。


 英子は去っていくメイドたちをちらりと見たあとに、硬い表情で緊張気味に遥へと、キッと睨んで指を指して話しかけてきた。


「アンタ、宇宙人だったんだね! ウチらをどうするつもり?」


「え〜、それをご飯を散々食べたあとに言うんですか? ご飯粒が口についていますよ」


 ちょっとそれは都合良すぎない?と呆れた表情になりながら返事をしてあげる。そして宇宙人とは凄いことを考えたねと内心で大笑いしているおっさん少女である。もちろん顔には出さないが。


「え? どこについてる? とれた? とれたかな?」


 顔を合わせる真っ赤にしながら、口をゴシゴシと手で拭う英子。多分、遥の返事を聞いて恥ずかしくもなったのだろう。さすがに宇宙人設定は無いかなと思った模様。


 によによと口元をニヤニヤさせながら、遥が英子をじっと見つめると、ますます恥ずかしそうに俯く。


 俯きながらも、ボソボソと小声で問うてくる英子。


「えっと、アンタは宇宙人じゃないの?」


「英子さん、言ったじゃないですか。私はしがない苺の卸業者の美少女の娘ですって」


 そう答えて、安心させるように微笑むおっさん少女だった。



 

 しばらくして、落ち着いた英子。置いてあるアップルジュースのボトルからコップに入れて、のんびりと飲みながら話しかけてきた。


「で? ご隠居様は本当は何者なの? こんな船、映画でしかウチは見たことないんだけどぉ」


「今はただの旅行者です。それ以上でもそれ以下でもないですよ」


 平然とまったく普通な声音で答える遥。今回の設定を破るつもりは少ししかない。しがない苺の卸業者の美少女の娘なのだと言い張るおっさん少女である。そしてこのやり取りは実に黄門様っぽいと、にやにやしてしまう。おっさんならば、貴方は何者ですかと問いかける人の後ろを歩いているエキストラの役どころだからして。


「でもですね。私的にルールはあるのです。私の中でのルールでは観光旅行に12歳以下は参加不可ですので保護させてもらいます。たしかそう伝えたと思いますが。それに小学校も始まったばかりですしね」


 ちょうど小学校も始まったところだ。編入してもらおうと遥は考えていた。いかになにも考えない遥でも、自分のゲームに孤児である小さい子供は巻き込めないし、痩せているのだ。可哀想じゃん、そんな小さな子供は保護するしかないよと決めた。普通に子供好きなおっさん少女であった。おっさんが保護しますと言ったらどうなるかは想像通りの結果になるとしか言えません。最低限通報はされるだろう。


「小学校? え? そんなところがあるわけ? ウチらをそこまで保護してくれるの?」


 戸惑った表情の中にも、嬉しそうな声音で尋ねてくる英子。過酷な生活から抜け出せるかもという希望がでてきたからだ。


 その問いかけに、首を横に振り否定をしながら教えてあげる。


「12歳以下は保護をします。この空中戦艦は子供料金はタダなんです」


「え? ウチらはどうなるの? 13歳以上は?」


 口元を引き攣らせて英子が聞いてくる。助かると希望を持ったのに、なんだかあんまり良くない話になりそうだと予想したからだ。


「切符はお持ちですか?」 


「切符?」


 遥の言葉に首を傾げて聞き返す。切符とはなんだろうと考える。


 遥は眠そうな目で英子を見ながら涼しげな声音で答える。


「空中戦艦で安全なコミュニティに行くのには切符が必要なのよ、エイコー。そのお金を貴方たちは持っているのかしら?」


 紅葉のようなちっこいおててで口元を覆い、フフフと笑い、どっかの銀河を移動する鉄道に乗る怪しい美女の物真似をするおっさん少女。ノリノリだが、残念ながらまったく似ていないし、言われないとなんの物真似かわからないだろう。突発的な物真似をする、残念美少女であった。しかも演技が下手というか、小さな子供が愛らしく笑っているようにしか見えない。


「そ、そんなのあるわけないじゃん? いくらなの?」


 お金がかかると伝えられて、焦って聞いてくる英子だが、遥は言葉を重ねて


「英子さん。残念ながら大金過ぎて払えないでしょう」


 そう答えると絶望する英子。周りの年上の子も、遥と栄子の会話を聞いて青褪めている。見るに5人程度は13歳以上がいるらしい。


 バンとテーブルを叩いて、悲しそうな表情で泣きそうな声音で叫び睨んでくる英子。


「んじゃ、どうすればいいのさ? ウチらはここに取り残されるの?」


 怒鳴る英子の声にウトウトしていた小さな子供たちも目を覚ますので、遥は安心するように微笑む。


 そして両手を英子へ宥めるように振って遥は答えを教える。


「大丈夫です。ちょこっと私の観光を手伝ってくれれば、報酬をお支払いしますよ」


 こと、ここに至って、英子は普通ではないことを悟ったようである。空中戦艦に乗った時点で普通ではないと思うのだが。


「観光の手伝いって、なんなのさ?」


 奇妙な少女を見ながら、疑問の表情を英子は見せる。


 そんな英子に小さく口元を微笑ませて遥は考えていたことを言った。


「このコミュニティは完全に自分たちの力で暮らしていけるみたいですね。私はこの珍しいコミュニティを観光したいので、案内と」


 そこで一旦言葉を切って、悪戯そうな笑顔で続けた。


「ここを支配している人たちへの解放組織を作りましょう。苺愚連隊を結成しましょう」


 考えてはいけないアイデアだった。


「えぇ〜。危なくない? 大丈夫なわけ? 相手は銃を持っているんだよ?」


 空中戦艦の外装は、英子たちは見ていない。なぜならばステルスモードだったから、空中を移動していたと思ったら、格納庫にいきなり移動していたからだ。


 でもドラゴンフライの武装は目に入らなかったのかなと疑問に思う遥だが、ドラゴンフライの武装は物干し竿みたいな量子バルカンだから銃には見えなかったのかも。やっぱり目の前で使われた銃の方がインパクトも強いのだろう。


「大丈夫です。私には強力な仲間がいますので」


 現代兵器なんかもう効かないので、自信満々ににっこりと可愛く無邪気な笑顔で微笑んで返答をするおっさん少女であった。

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