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コンクリートジャングルオブハザード  作者: バッド
13章 要塞を攻略しよう
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172話 おっさん少女は奥多摩をあとにする

 奥多摩は荒れ地と更地に変わっていた。存在していた森は無くなり焦げた木がここには森があったと教えてくれるのみであった。あとには崩壊したビルや砕け散った家々の廃墟が広がるだけである。


 そして、そこら中に兵器の残骸が放置されている。戦車や戦闘機、ヘリ。そして固定砲台の溶けた砲門とかがあり、いかにもな戦場跡であった。


 それを見ながら空中戦艦の司令席に座りながら遥は寂しそうに声を発した。


 この寂しい風景を見て、さすがのおっさんも感傷的になったのであろうか? 戦争のリアルな光景を見て、今更ながらの苦悩でも生まれたのであろうか?


「私の無人機が半分ぐらい大破しちゃったよ………」


 違った。風景ではなく、自分の損害を確認していたおっさん少女であった。おっさんに感傷的という言葉は損害よりも小さいらしい。


 たとえ美しい景色があっても、銀色の素早いスライムを探すことに血道をあげるおっさんだ。景色など目に入らない。


 なので、戦闘後の結果を確認した。想定以上の損害を受けていたのだ。予想外であった。性能はこちらが断然上なので圧倒できると思っていたのだ。我が軍は圧倒的ではないかと、また言う機会を待っていたのだ。


 しかしその予想は覆された。敵が想定以上に強く粘り強かったのだ。あんなに粘るとは考えていなかった。さすが偽とは言え小田原城の主がボスなだけはある。極めて辛い攻城戦であった。


 今はツヴァイたちが撃墜された機動兵器の残骸の回収やら敵の戦車の残骸を回収している。もったいない精神である。どんなに大金を手に入れても、毎日マラソンクエストをやって小金を手に入れるセコいおっさんなのだ。


 戦いに勝って山ほどマテリアルも資材も手に入ったが残骸も使えるよねと集めさせている。おっさん少女はさすがに疲れたのでお休み中だ。


 そうしてナインに入れてもらったアイスココアを可愛い小さなお口でクピクピ飲みながら周りを嘆息して見回した。


 見るとブリッジには包帯を巻いたツヴァイたちが巻いた箇所を押さえて苦しそうにしながらも働いている。


 激戦だったのがわかるよねと言いたいところだろうか?


 遥はメイドたちへ振り向いて、呆れた表情で疲れた様子で声を放つ。


「ねぇ? なんで外で戦っていたツヴァイたちは無事で、ブリッジのオペレーターが大怪我しているように見えるの? ダメージ受けてないよね? なんでこんなにアホになっちゃったの、性格が破綻しちゃったの? 破綻というか誰かに似ているよね? サクヤさん。うちの娘たち」


 呆れたように言葉を放つ。オペレーターたちはブリッジにいて、ダメージを受けていないにもかかわらず、何故か包帯を巻いているのだ。


「うぅ、怪我を負いました。司令のお見舞いが必要です」

「ご褒美です。ご褒美が欲しいです」

「私は添い寝でお願いします」

「私はデートで」

「大丈夫です。私は多分3番目なので」


 最後の発言者が気になるが放置してサクヤを睨む。おかしいよね? ちょっと。


 モニターを見れば壊れた無人機を片付けながらブリッジの様子を通信で気づいて身体に包帯を巻き始めているツヴァイが見え始めた。さっきまではダメージを負っているツヴァイは持っている回復薬で身体を治していたはずだ。なのにぐるぐると包帯を巻き付けている。


 そんな戸惑い、呆れて、疲れたようなおっさん少女に、珍しく苦笑しながらナインが答える。


「マスター、しょうがないのです。マシンドロイドは好感度が上がると持ち主に好かれるような行動をします。これは普通の女性にも当てはまりますが」


 まじかよ、ということは、このアホな行動は私好み? そう考えてツヴァイたちを見て考える。


 それぞれ可愛らしく呟きながら、それぞれツヴァイたちは下手な演技をしている。たしかにアホ可愛い。


 クッ! 否定できない。アホ可愛い娘は好きなのだ。クール系も素直な娘も元気な娘もツンデレも癒やされ系も好きなのだ。


 なんでも可愛い娘なら好きなおっさんだった。まぁ、おっさんなら当然だ。おっさんに美少女を選ぶ権利などゲームの中にしかない。


 そして見るとサクヤが包帯を巻きすぎて、ミイラ女になっていた。間抜けなこと、このうえない。でもボケている可能性も極めて高い。というかツッコミ待ちだろう。うぅ〜と呻いているので倒しても良いのだろうか? このアホ可愛い姿を見て推察するに、やはりというか、やっぱりサクヤの影響がでかそうだ。あとで聴き取り調査を行おう。


 そんなこんなで、コントをしながら戦いのあとの休憩をするおっさん少女御一行。


 なんだかんだ言っても誰も死ななかったので、内心はほっとしているおっさん少女でもあった。


 何しろロードは無い現実の世界だ。不安でしょうがなかった。ゲームで仲間が死ぬだけで即ロードするおっさんなのだ。仲間が死ぬと落ち込むのだ。有名RPGでヒロインが死んだときに復活する真ルートがあるよというデマが回ったときに懸命に探したおっさんなのだからして。あれは酷いデマでした。


 とにかくツヴァイたちが無事だったので、本格的に損害状況を確認する。


「オペレーター、損害状況を報告せよ」


 艦長ごっこをしている可愛い子供に見える美少女こと内面詐欺なおっさん少女は司令席にて両手を組んで命令した。


 可愛らしい姿である。見る人がほんわかするだろう。おっさんならばリコールされて、多分甲板磨きとかになっていただろう。脇役にピッタリであるからして。


 それを聞いて包帯を巻いて苦しんでいた演技をしていたツヴァイたちは、ポイッと包帯を脱ぎ捨てて報告を開始する。切り替えが早すぎるツヴァイたちだ。


「無人戦闘機の損壊は八割に到達しています」

「無人ヘリは六割の損害あり」

「無人戦車隊三割の損害です」

「有人機の損害は戦闘機、ヘリなし。戦車3機です。いずれも大破する前にツヴァイは脱出しております」

「空中戦艦の損害は小破。ダメージは軽微です」

「私のハートは既に司令の物です」


 嬉々として次々と報告してくるツヴァイたちの報告内容を聞いて、大きく息を吐いてため息をついた。あと最後の発言者は誰なのだろう。


「損害がありすぎたね。戦争なら継続戦闘は無理。引き分けか敗退と言うところだけど………」


 モニタ越しに外を見る。要塞ダムはあれだけの威容を見せた砲台も軍も城も無くなっていた。戦闘の激しさだけが、残骸が散らばっていることからわかる。トドメの超能力も強力だったし。


「本当の戦闘とはこんなものなのかね………」


 机に片肘をついて、頬杖をついて疲れた感じで呟く。


「そうですね、ご主人様。第二次世界大戦にタイムスリップした戦艦も敵が半分以上撃墜されても突撃してきたので驚いていましたし」


 たしかにサクヤの言うとおりだ。あの漫画では戦闘機を半分撃墜しても、敵は退かないで突撃してきた。あの戦闘機乗りは勇気がありすぎると思ったものだ。


 退けない戦いは損害を考えないというわけね………。なんだか感傷的になるおっさん少女であった。でもたしかにそのとおりだ。ゲームでもロードができない状況の時は損害を考えないで突撃させた。戦いとは負けられないものなのだ。現実ではそういうことはないのかしらん? 


 とにかく損害がでかすぎるので、復旧までだいぶかかりそうだ。信じられないぐらいに黒字ではあるが。


「でもまぁ、人が住んでいなくて良かったよね。本当に良かったよね」


 水すら破壊して何もかも無くなった要塞ダム。破壊された水は粒子となって消えたのである。そして荒れ地となった見渡す限りの地域。もはや人が住める環境ではない。


 なのでここは自然溢れる世界へと変貌してしまうだろう。戦場の跡も植物に覆われて消えていくに違いない。


 人類がこの世界を取り戻すのはかなり先になるだろう。なんと言っても数を大きく減らしすぎたからだ。ここに開拓する頃には廃墟は緑に埋もれて森ができて荒れ地はなくなっているかもしれない。そんなことを荒れ地を見ながらぼんやりと思う。


 そうして、軽く頭を振って、気を取り直して、ツヴァイたちの報告内容をモニタで見て吟味する。


 復旧前にはまた建設レベルと装備作成レベルを上げて新型にしようかな、どうしようかなと迷うおっさん少女であった。なにしろ我が軍は半壊している。再結成するには新型にしたほうが良さそうだ。なんというか、常に一回しか使われない可哀想な機動兵器たちであった。


 だって仕方ない。レベルアップしたら装備はホイホイ変えるのだ。変えないのはケチなおっさんだけ。銅の剣でボスまでたどり着いて、あれ? ちょっとおかしくない? とか言うおっさんなのだ。負けたらロードするし。


 よし決めた。これでいこうと決意する。


「ナイン、少し復旧作業は待っていてね。壊れた機体の修理程度でお願いします。まだレベルを上げようか迷っているから」


 なにもしないことを決意したおっさんであった。優柔不断なことこのうえない。まぁ、いつものおっさんでもあるわけだが。


 そうして遥があとは片付けが終わるのを待つだけとなり、漫画でも見ようかな?でも司令官としてはどうなのよと極めて難解な問題を考えていたところ、ミイラ女から元に戻ったサクヤが近寄ってきた。


 なんだろう? なにかお勧めの漫画を持ってきたのかな? 今なら暇だから、やれやれしかたないなぁ、サクヤはとか答えて、サクヤのお願いだから仕方ないよねというスタイルをとり、喜んで見るよ? とセコいことを考えていたら、いつもの報告だった。


 ニコリと喜色満面な表情を浮かばせながら微笑んで、遥へといつもの報告をしてくるサクヤ。久しぶりの報告で実に嬉しそうだ。


「ご主人様。ダムエリアを解放せよ。exp50000アイテム報酬ダイヤモンドマテリアル、ルビーマテリアル、サファイアマテリアル、、エメラルドマテリアル、トパーズマテリアルを手に入れました。宝石マテリアル一揃いですね。おめでとうございます」


 コホンと咳ばらいをして続けるサクヤ。


「そして都内全域クリア報酬が手に入りましたよ。これは首都クリアの報酬ですね。exp100000です。おめでとうございます! レベルもかなり上がるのでは?」


「おぉ! それは凄いよ。やったね。LV39から43になったよ!」


 ウィンドウを開いて、慌ててステータスボードを開く。なんと4も上がっていた。要塞ダムもやはり適正攻略レベルから大きく離れていたのだろう。


 ステータスポイントは135になったので、忘れないうちに各ステータスに均等に振る。放置すると面倒になり、そのまま忘れてしまうおっさんなので。20ずつ振れるのでこんな感じになった。残りステータスポイント35だ。


筋力:150

体力:150

器用度:180

超能力:180

精神力:150


 スキルポイントは大量に増えた。なんとスキルポイント96だ。これは凄いよと遥は飛び上がって喜んだ。実際に席からぴょんと飛び上がって喜んだ。小柄な愛らしい美少女が喜ぶ姿は凄く可愛い。


 外からは中身がおっさんなのはわからないので、問題ない。サクヤはカメラを持って全力で撮影をしている。床に寝そべりながら、飛び跳ねているおっさん少女をベストアングルです、ご主人様と言いながら撮影しているので、そろそろ踏みつぶそうかと迷うところだ。


 おっさんぼでぃで同じことをしたら、ガチャンと椅子に躓いて足を痛めて羞恥に塗れるところだろう。運動神経皆無なおっさんなので。

 

 実際に昔の学生時代、やったーと体育祭かなにかで勝利したので、みんなでジャンプしたら、自分だけ隣の友人にボディアタックを仕掛けたので、間違いない。友人がグハァとか言って、漫画みたいに吹き飛んだのが記憶に薄っすらとあるからして。


「マスター。宝石シリーズのマテリアルは極めて希少です。やりましたね」


 花咲くようにナインが椅子から立ち上がってこちらへと来る。なんだか興奮気味だ。久しぶりにクラフト系で興奮しているナイン。たしかに響きだけで宝石シリーズは凄そうな予感がビシビシしてくる。


「帰ったら宴を開きましょう。頑張って作りますね」


 いつもの癒やし系笑顔を浮かべて、提案してくるナイン。


 もちろん断る理由はおっさんには無い。美少女からこんな提案をされて断ったらおっさん失格だ。


 でも少し気になる。というか気になることがある。


 何かというと、出会った当初の頃を思い出したからだ。脇役なおっさんを放置して様々なアイテムを作成したナインを思い出す。あれも宴の後の話であった。


 ちらりとナインへと視線を向けると、小首を可愛らしく傾げて、なんですか?という表情をしていた。どう見てもぼったくりバーのホステスには見えない。凄い可愛い。


 別に変なところは見られない。以前とは違うのだ。今はそれなりに信頼度が上がっているはずだ。問題ないと決意して答える。でも、薄々怪しいなとは考えてしまう。


「うん、期待しているよ。さっさと片付けを終わらせて帰ろう」


 そんな様子は見せないでナインはにこやかに笑い、了承する。もうくたびれたしね。いい加減、連続戦闘がありすぎたのだ。おっさんにはきつい戦いでした。お酒をクイッと飲んで、お風呂に入ってもう寝たい。


 レキの半分も戦っていないおっさんはそんなことを考えていたのであった。相変わらず軟弱なおっさんであった。多分しばらくはゴロゴロと家で休むだろう。いつもゴロゴロしていて、たまに思いついたように突発的に行動するおっさんなのに。





 空中戦艦が空を航行する。太陽が沈み、月が浮かんでくる。宵闇に入る少し前、夕焼けに照らされながら航行していく。


 片付けも終わり、帰還の徒につく空中戦艦スズメダッシュ。そこかしこの装甲は剥がれて、ボロボロとなっている。新品ピカピカで来たときと違い、随分酷い様相となってしまった。もはや追随する機動兵器の姿も見えない。それだけ激戦だったと、その姿が表していた。


 そんな空中戦艦のブリッジは慌ただしくツヴァイたちがダメージコントロールをするために動いている。損害のあった機動兵器の修理順なども計画して、声高に話し合っている。


 みんな忙しそうな中で司令席にぽつんと座って暇な美少女艦長は足をぶらぶらさせていた。


 眠そうな目でこれからのことを考える。長年の敵というほどでもないが、強敵であった要塞ダム軍を破壊したのだ。一安心といったところだろうか。


 そんなブリッジで司令席に座りながら遥は呟く。


「次はなにして遊ぼうか?」


 次も面白いことがあると良い。そんなことを考えて、呟きながらおっさん少女が乗る空中戦艦は帰還するのであった。

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