169話 おっさん少女はドラゴン退治をする
要塞ダム周辺は激戦の最中である。すでに、戦闘が終了した地域もあるが、まだ戦い続けている要塞ダム軍も多い。だが、それでもおっさん少女の軍隊は着実に制圧地域を増やしていた。このままいけば勝利は近い。
超龍はちらりと周辺へと視線を向けた。そして苦々しそうに口を歪める。ワニのような口が歪むのは正直恐ろしい。パクンと食われそうだ。どっかにガス管ないかしらん。咥えてもらい銃で爆破からの一発撃破だ。バイオ的リメイク2版ではネタ敵になっていたワニを思い出しながら、そんなくだらないことを遥は考えていた。
あと、この龍はピンチになったら変身しそうだ。多分変身する。でっかい龍になって我の真の力を見よとか絶対に言うと確信する。多分間違っていないので、龍人よりかっこいい龍が見たい。
常に余裕を持つおっさん。その名は朝倉遥。そろそろ除名も近いのではないだろうか。美少女同盟には必要ないおっさんだ。
そんなおっさんが張り付くようにしているのが、美少女レキである。残念ながら男の趣味は絶望的な娘だが、それ以外は良い娘である。たぶん、恐らく、メイビー。バトルジャンキーなところを抜かせば。
超龍が口を開く。くわっと大きな口を開き、牙を見せてくるのでちょっと怖いねと遥は思った。
レキは全く平然とした表情で眠そうな目を向けるのみであったが。このへんでそろそろ本体がどちらかわかるというものだ。
「貴様を早急に倒して、軍の支援に向かわなければならないようだ。風神、雷神、ザ・ハート。貴様に倒された将軍の穴を埋めねばならんからな」
自信満々で威圧を伴う宣言をする超龍。さすが龍だ。とっても偉そうで自信満々である。
レキは淡々といつもの口調で返事をする。
「墓穴を埋めるのであれば、あなたも一緒にどうぞ。私が埋めてあげますので、穴にお入りください」
槍をぎりっと握りしめ超龍はふてぶてしい少女に対して怒鳴る。
「どちらが墓穴に入るかはすぐにわかる!」
「もちろんです。すぐにわかります。イモリさん」
そのレキの言葉を合図に二人は高速で空を駆ける。お互いの体はぶれて残像を残し相対した。
「むん!」
神器のような力をもっていると思われる槍を構え、レキの胴体へと撃ちぬく姿も残さず消えるような速さで突いてくる。
風を巻き込み螺旋の回転をしながら突き出される槍をレキは冷静に見ていた。すっと体を半身に構えて、右腕を持ち上げて対応する。
構えるまでの時間も常人には見えないだろう速さの動きだ。その速さをもって、レキは突かれた槍をそっとやはり螺旋の動きをさせて右手をそえるようにして受け流す。
くるりと回転して弾かれるように槍はその軌道を変えてレキの頭上を過ぎていく。体を躱し回転させて、そのまま左手で敵の胴体へと掌底を撃ち込もうとする。
だが、その左手での掌底は打ち込みはできなかった。槍をくるりと回転させて石突の方を先端に変えてレキへと叩きつけようとする。
すぐさまレキは攻撃をやめて腕をクロスさせて攻撃を受け止める。突風が巻き起こり、レキは後ろへと吹き飛ばされた。
ぐおんと空を吹き飛んでレキは地面へと落下する。落ちた地面は轟音を立てて、砂煙が巻き起こる。
クレーターができて、そこにレキは埋まるようにしていた。
「ふ、たわいもない」
にやりと超龍は笑う。倒したとは考えていないが手ごたえを感じたからだ。
ガラリと土が崩れて、レキがひょいと立ち上がる。ほっと軽い感じで立ち上がる姿にはダメージは見えない。
「おぉ~、結構痛かった。やるね、あいつ」
ちょっとびっくりしたよと遥はレキへと声をかける。
「そうですね、槍使いというのは厄介なものだと感じます」
「ダメージを受けたのは久しぶりだ。ふっふっふ」
遥は余計なことを呟く。言いたくて仕方ないセリフシリーズの一つを言えて満足な感じである。どうしようもないおっさんであった。
「では、もう少し槍使いというものを楽しみましょう、旦那様」
敵の脅威を感じない普通の声音で楽し気な表情をうっすらと浮かべてレキは再度空へと飛翔した。
飛翔するレキの前には超龍が待ち構えていた。厳しい表情でこちらを見ている。どうやら油断はしていないみたいだ。真面目そうだし少し厄介な相手と思われる。
「ほう、ただの攻撃では負傷をすることもないとは頑丈だな。人間よ」
「いえ、私の体はぷにぷにで柔らかいです。旦那様は常に私の腕を触って幸せそうです」
真面目な表情で遥の秘密を暴露するレキである。止めてくださいレキさんやと羞恥の嵐に遭難して吹き飛ばされる哀れな、いや哀れでないおっさんの魂。美少女の腕をぷにぷにして触り心地がいいからと密かに触っているのは犯罪です。なので同情の余地はない。
「槍の前では拳では勝てぬぞ、小娘よ。槍こそ最強の武具なのだ」
槍を再びレキへと向けて構える超龍。その構えに隙は見えない。
「槍が最強は以前に聞きました。ご飯が3倍に食べられるんですよね」
いやいや確かに湯川の亡霊はそう言ったかもしれないけど、あれは嘘だから、後で水無月の爺さんに本当の意味を聞こうと内心で止める遥。素直すぎるレキである。
「馬鹿めっ! 武道の心を知らぬか!」
確か槍は刀より3倍強いだっけかな?と思い出そうとしている遥を放置して再び戦闘が開始された。多分遥が身体を主導しているとあっさり負けているのは間違いない。
大きく声を張り上げて、再び槍を突き出す超龍。先程の攻撃を再生したような攻撃を見せる。
レキも負けじと先程と同様に体を半身にして身構えた。
全く同じように螺旋の回転にて槍をレキへの胴体へと突き出す超龍。そっと腕を同じように回転させて槍へとそえるようにして受け流す。
しかし、今度はレキは一歩のみ超龍へと脚を踏み出したのみであった。僅かに縮めた超龍との距離。
むぅと超龍は眉を動かすが、動ぜず槍を回転させて石突を先端にレキへと叩きこもうとする。
「全く同じ攻撃では意味がありませんね」
レキは左手をぐるりと回転させて叩き込もうとする槍へとそえて受け流す。叩き込もうとする槍は受け流されてレキの横を風を巻き起こしながら通過していく。
そうして両手を宙に掲げて超龍の胴体へ体を沈み込むように斜めに倒れこむようにして、左足を支点に右足からの突くような蹴りを繰り出した。
間合いはぎりぎりにその蹴り足は超龍の胴体へと足首までめり込む。完全なる力のコントロールにより、超龍は吹き飛ぶことも許されず、その場にて体を折るようにうずくまる。
「ふっ」
僅か一息の呼吸にて体勢を完全にしたレキは身体を回転させて、うずくまる超龍の頭へと回転蹴りを打ち込んだ。
もげるかと思われる超龍はその首の長さのせいだろう。ぐるりと回転蹴りを受けた頭は衝撃を押し殺し首の曲がりによりダメージを防ぐ。そのまま口をバカリと大きく開けて噛みつこうとする。
すぐにその噛みつきから離れるレキ。スッと後方に冷静に滑るように下がる。
「むむ、やるじゃないか、このトカゲ」
ちょっとこの連撃で終わると考えていた遥である。大体この攻撃で敵は倒れてきたから少し驚いた。
「そうですね、まさかあのような逃げ方をするとは思ってもみませんでした。あれは蛇の一種でしょうか」
レキも同意する。同意の方向が少し違うかもしれないが。
「なんにしても人とは違うということがわかったね。驚きだね。なんかこう勇者の剣が必要じゃない?」
「大丈夫です、旦那様。私の拳は剣足りえます。あのような蛇は簡単に倒せます」
相変わらずの負けず嫌いな美少女レキ。うちの嫁さんは戦闘民族すぎるね。可愛いね。可愛いから問題無いね。
謎の理論を展開する遥。まぁレキなら問題ないでしょう。私も手伝うし。
超龍は槍を構え、一歩だけ後ろに下がる。警戒してレキの動きを観察しているようだ。
平然と平静なる冷たく凍えるような声音でレキは口を開く。超龍の動きを見とがめて。かすかにピクリと眉を動かして、眠たそうな目に非難を込めて。
「なぜ一歩下がったのですか? 仕切り直しをするのであれば勇敢なる将であれば一歩踏み出すところでは?」
「ぐっ」
呻き声をあげて、体を震わせる超龍。ぐっと睨み付けてくるが動揺したのがわかった。
「武人にしては自己保身が高いのですね。どうやら凡将の様子」
追撃の言葉を語るレキ。なかなか容赦のない美少女だ。
「ほ、ほざけっ! 負けることは許されぬ我が身よ! 受けよ我が技を!」
超龍は力を集中させて超常の力が集まり始める。
「我が技は槍のみにあらず! 見よ、我が力を!」
槍を持った右腕を掲げて超常の力が空気を震わし空間を歪める。
「小龍召喚!」
その言葉を力として小さな1メートルぐらいの小龍が次々と現れ始める。その数は100は存在していた。
はぁ、ミニドラゴンだよ。かわいいので一匹持ち帰っていいかしらん。
遥の内心の願いは放置しておき、超龍が首をまわしながら余裕そうにこちらへと睥睨してくる。どうも本性が現れたような模様。
テンプレなピンチになると下衆な本性を見せる常ならば義侠に溢れる敵だ。
「テンプレな敵だね。もうこちらの勝ち確定しちゃったね。残念だけどバトル漫画は終わりだよ、レキさんや」
思ったことを口にする遥。多分そうなるだろう。情報のソースは漫画。漫画を真に受けて行動するおっさん少女がここにいた。
「フハハハ! この数を相手に対応できるかな? 武人とはこのような力を使いこなしてこそよ!」
さっきと言っていることが微妙に違う感じもするが、会話の内容を拡大解釈して、曲解した挙げ句無かったことにして逃げるおっさんは気にしなかった。
ただし、戦闘は違う。
「ではこちらも夫婦の力を見せましょう」
「そうだね、レキ。こちらの力を見せつけて押しつけて、トカゲモドキには退場してもらおう。どうやらボスは他にいるようだし」
このトカゲは誰かに仕えていると言っていた。そろそろこの戦いを終えてボスへとご対面する時間である。
そんなおっさん少女を睥睨しながら超龍は吠える。
「受けよ! 龍神技崩壊の吐息!」
バカリと口を開けて、渦巻く力を口内に集める。同様に超龍に合わせて小龍も口を開けて力を口内に集め始める。
遥も力をほいっと気楽に発動させる。本気度の差では圧倒的に負けている。やっていることは音ゲー気分だ。
「念動障壁」
その言葉と共に空間から蒼い色をした水晶のような壁がレキの前に現れる。
「念動体」
素早く強化を行い指先から足の指まで全てに念動の力を与える。空間が歪みレキの姿がぼやけはじめた。
そのレキへと超龍たちのブレスが集中して撃たれた。空気を震わせ埃をかき消し、全てを消滅させる光の奔流が襲いかかる。
ズオンとレキへと命中して爆発する。光が空間を埋めて白い世界へと移り変わる。
眩しく目に入れたら盲目になるであろう神々しい光。
「フハハハ! やったか!」
高笑いをする超龍。
「凄いよ、下衆な本性からの高笑いからのやったかの科白。なかなか見ないよ。アニメとか漫画でも」
光輝く世界で声がする。涼やかな鈴を転がすような可愛らしい声音。
ギクリと身体が強張る超龍の前に光が収まり始めて、少女の姿が見え始める。
脆弱そうな小柄な少女は右腕を引き絞り吐息に負けぬ光の粒子を集めていた。
「超技スターレオブロー」
その言葉を機にレキの目の前の空間が歪む。黄金の粒子が渦巻き星の昏き光がその中に見える。
撃ち出された攻撃は山をも吹き飛ばす広大な渦となり超龍たちへと迫りくる。
「うぉぉぉ!」
超龍は全力で自らの力を防御にまわす。そうして全てを光の渦が飲み込んでいった。
「ぬぅぅぅぅぅ」
光が収まる中で唸り声が聞こえる。槍は無惨に折り曲がり、鎧は砕けて、鱗は剥がれてボロボロになっているが、それでも超龍は生きていた。
「ふへぇ、凄いね、あいつ。まさか超技の一撃を耐えるとは。最近では初めてじゃない?」
ほぉ〜と感心する遥。もう勝ちは決まったよねと油断している。常に油断しているので問題はないかもしれない。
「そうですね、なかなかの硬さです。意外なことです」
しっかりと手応えは感じていたのだ。すでに小龍は超技により跡形もない。まさか生き残るとは思っていなかった。
再度、戦いの再開かと身構えるレキ。
だが、超龍は選択を間違えた。そのまま戦闘をしていればレキは消耗したはずなのに、選択肢を間違えた。文字通り致命的に、
「うおぉぉぉ! 我が真の姿を見よ!」
ボロボロと鱗が剥がれて、剥がれた鱗の隙間から光が漏れる。
身体が急速に膨れ上がろうとする。超龍の真の姿、龍形態になろうとしているのだ。
だが、これは漫画や小説ではないと超龍はわかっていなかった。
変身するのならば、相手の体勢を崩すか距離を取るべきだったのだ。
ヒーローを前に変身シーンはアニメや小説だけの話。超龍は選択肢を間違えた。
膨れ上がる身体と全能感が己を包み込む感触に超龍は満足げだったが
目の前にレキが現れた。変身している隙を狙い肉薄していた。
「それはなんでしょうか? 自殺願望がおありならば私と戦うべきではなかったですね」
変身が未だ終わらぬ超龍は驚愕する。致命的な隙を見せたと気づいたのだ。己は最悪な選択肢を選んだと。
「超技星金剣の舞」
レキはトドメとなる超技を発動させる。身体がぶれて腕が無数にあるように振るわれる。
隙だらけの超龍へと輝く軌跡が無数に通り過ぎていく。
「おぉぉぉ!」
超龍の膨れ上がる肉体が肉片となり散っていく。その力を発揮できずに。あっさりと。
「真の力を見せる? なぜ最初から真の力とやらで戦いに臨まなかったのですか? 馬鹿なトカゲらしいですね」
レキは冷酷に肉片へと変わる超龍を見ながら告げる。
「そうだね。漫画だと抗議がきそうだけどね。残念ながら現実では変身シーンは敵へ隙を見せないようにしないとね」
まぁ、トカゲだから頭悪かったんでしょうと自分の知力を棚に上げておく。というか棚は壊れているので金庫かもしれない。
でも知力の項目は無いから、私の知力は255かも知れないと考えもする。数値が見えなければ自分で決めても良いんじゃないかな?
「ご主人様。敵は撤退を始めました。そろそろ城内に討ち入りですね」
サクヤがウィンドウから声をかけてくる。どうやら幹部が全滅したことを悟り形勢の不利を悟ったようだ。
「撤退の判断はそこそこ早いね。なかなか考えているが籠城戦で勝った軍は古今東西いないのだよ。たしかなにかの名言にあったと思う」
相変わらずうろ覚えなのに、ドヤ顔で語る遥。
「では敵城へ突撃しましょう。これで王手です」
「そうだね、まだまだエネルギーもたっぷりあるし問題はないでしょ」
コクリと可愛く小さな首を頷かせてレキは敵ダム湖の中央にあるチュンチュン砲の攻撃にも耐えきった城へとウィングを展開させて飛翔する。
レキへと城から対空攻撃がくる。
弾幕シューティングのように飛んでくる弾丸の嵐をかすりもせずに回避していく。
空中を立体機動にて縦横無尽に動き全ての弾丸を止まった小石を避けるように掻い潜り城へと接近していくおっさん少女であった。