167話 逆襲のおっさん少女軍団
空中戦艦スズメダッシュが空を航行して、目的地まで到着した。なんというか悲しきゲーム設定のためにそんなに速くない空中戦艦スズメダッシュ。最大速度は800キロ程度である。それでも奥多摩に移動するには充分の速さだ。
撤退時とは違い、雪解けは終わり、そこかしこから緑が見える。崩れた廃墟と化した家から生える雑草、砲撃で崩壊したビル群は蔦が絡まり始めてアスファルトはひび割れて雑草が見え隠れしている。
一年もたたずに生者のいなくなった自然の世界と変化している奥多摩である。元々森も木も多かったが。
その様子をモニタで確認しておっさん少女は机に両肘を突けて手を組んで顎をのせる。
そして渋い声を出そうとして失敗するおっさん少女。可愛らしい声音で命令を出す。
「全戦闘機スタンバイ! 戦車隊降下開始!」
その言葉を合図としてブリッジ中央にウィンドウが開き始める。
「ボス、こちらアイン。準備完了。ニワトリ戦車隊降下開始するぜ」
「ウミネコ戦闘機隊準備良しです、司令。いつでもどうぞ」
その返答に重々しく頷きたいおっさん少女。軽々しくしか頷けないのが悲しい。
頷いたおっさん少女を見た四季が行動を開始する。
「全機発進! 目標地点に展開を開始せよ!」
それを合図として、オペレーターツヴァイが忙しなく動き出す。
「第一戦車隊、展開まで15分」
「戦闘機隊、制空権の確保を開始」
「ウモウ戦闘機隊は各機の支援を開始させます」
「敵反応ありません」
モニタに蒼い光点が青く表示されている丸い範囲に移動を開始させるのがわかる。
「どうぞマスター」
コトリと目の前にホットココアを置いてくれるナイン。笑顔と共に癒される。生クリームたっぷりなのも気が利いている。さすがナインだ。
「ご主人様、どうぞ」
パンパンと自分の膝を叩くサクヤ。なぜこの状態で膝に座れとアピールするのか。
もちろん放置する。もはや受け狙いなのか、本気なのか怪しい銀髪メイドだ。
カップを持ち上げて、フーフーとココアへ息を吹きながら進軍状況を確認する。
ウサギリボンをゆらゆらと揺らしながら、きりっとした表情でハカリが言葉を発する。
「司令、展開完了まで残り10分11秒です」
うんうんと頷きながら考える。後10分か………。漫画を読んでいていいかなと。
相変わらずのおっさん少女であるが、我慢した。さすがに司令官なのだから我慢しないといけない。
隣で、おぉっ!こんな展開にとか言って漫画を読んでいるメイドの存在は忘れることにする。サクヤは絶対にこちらへと聞こえるように声を上げている。
そして10分経過して、計画通りに配置が完了する。モニタに準備完了!と映し出される凝った作りである。
それを見て強く頷き叫ぶ。逆襲の時間である。要塞ダム軍は発砲まで防衛行動に移さないとは自衛隊のような敵だ。
だが、現実でそれをすればどうなるかを見せてやると、にやりと可愛らしく笑う。パシャパシャと撮影する音がするので、そろそろこの銀髪メイドはどこかに閉じこめないといけないのだろうか。
「全機、攻撃開始! 一斉攻撃だ! この間の借りを返すのだ!」
ノリノリで叫んで指示を出すおっさん少女。艦長ごっこが気に入ったみたいである。
「了解! 戦車隊攻撃開始!」
「ウミネコ隊、攻撃開始!」
「無人機、一斉攻撃開始!」
「各砲門、攻撃開始!」
それぞれの応答が聞こえる。そしてモニタに物凄い数の砲弾が飛び出しているのが見えた。
道路に鎮座する大型戦車ニワトリ率いるヒヨコ軍団は一斉にその巨砲を発射させた。砲弾は白い極太の白光となり要塞ダム目掛けて飛んでいく。
空中に位置するウミネコ戦闘機隊は、量子ミサイルを発射する。噴煙を噴出してミサイルは大群となり要塞ダムへ撃ち込まれる。
空中戦艦スズメダッシュの砲門が煌めき、山をも吹き飛ばす量子ビームが轟音と共に発射されていく。
全て要塞ダムへと命中する。大爆発と共に噴煙に巻かれる要塞ダム。
遥はそれを見て、ある言葉を発したかった。でも言ったら皆に軽蔑されるかもしれないのでやめておこうとすると
「やったか!」
ちゃんとサクヤがフォローして、代わりに叫んでくれた。こちらを見てニコリと笑う。
くっ、できたメイドだねと内心で褒める遥。二人の以心伝心のコントである。
はぁ~と溜息が聞こえてきたが、幻聴なので気にしない。後で金髪ツインテールメイドには謝っておこう。
もちろん煙が晴れた要塞ダムはその威容を保持していた。壊れた箇所も見えない。
「司令、敵のシールドを感知。恐らくは17%は減少させた模様です」
四季がモニタを見ながら説明してくる。ダークマテリアルの力を解析しているのだ。
「司令、敵軍がダムから緊急発進しています。ヘリ及び戦車、装甲車です」
ハカリが状況報告をしてくる。
「予想通りだけど、思ったほど敵のシールドを減少させられなかったね。続いて攻撃だ! 雨あられのように撃ち込み始めてください!」
指示をだして、戦況を確認する。目まぐるしく敵との交戦状況が表示される。
それを見て思う。あ、これはおっさんでは理解できないねと。
瞼を閉じてお願いする。レキさん、私のお嫁さんや、お頼み申します。どうか仲間を一人も殺されないようにしてくださいと。
再び瞼を開き、強い光を宿してレキは答える。
「旦那様の願いは、私の願いです。任せてください」
素早く残像が見える速さで指をパネルに接触させて操っていく。
外では激戦が行われていた。戦車隊はヒヨコを前面にまわして、ニワトリを後ろに配置して敵への攻撃を行っている。
ゾンビたちを簡単に消滅させた戦車砲の白光は、しかして敵の戦車部隊へ当たるとシールドが発生して防がれる。それでも2発、3発撃ち込んでシールドをかき消し吹き飛ばしていく。
だが、次から次へと敵の戦車隊は現れる。攻撃を受けて、こちらもシールドが減少する。
アインは攻撃を指示しながら戦況を確認していた。
「ちっ、こっちが不利だね。性能はこっちが段違いだっていうのに」
敵の戦車はそこまで強くない。だが、こちらは戦車隊の力を発揮できていないので多少劣勢になっている。
わかっていたことだ。この戦車は建造レベル8で作られた。即ち操るには機械操作レベルが最低8は必要なのだ。自分たちはレベル4、戦車隊の半分の力も発揮していない。
でも、それでも負けるわけにはいかないのだ。
近づいてきた兵士群をヒヨコに攻撃を命じて粉砕させる。その後ろから敵戦車隊の攻撃がヒヨコに攻撃する。
シールドエネルギーが切れて爆散するヒヨコ。
「ちっ、アイン、前にでるよっ!」
無人機はニワトリよりも性能が低い。ここはニワトリが前面で敵を受け持つしかないと覚悟する。
レバーを引き、ニワトリを前進させようとしたところに、通信が入る。
ウィンドウに現れたのはボスであった。だが、雰囲気が全然違う。すぐにレキ様が操っていると理解した。
「そちらは支援攻撃に変更してください。敵戦力を私が削ります」
戦艦から出撃するつもりなのだろうかと問いかけようとしたところ、空中を高速で飛翔する物体が近づいてきた。
空中戦艦スズメダッシュのもつ無人戦闘機ウモウだ。二等辺三角形のような戦闘機は群れをなして、地上の戦車隊へと攻撃する。
的確に戦車砲へと軽いビームを放つウモウ。その攻撃を受けて、一瞬シールドに穴が開く。その穴に次のウモウが針を通す正確さでビームを撃ち込む。
その攻撃で敵の戦車砲が爆発する。敵の火力を奪ったと判断したウモウはすぐに他の戦車隊に攻撃をするべく、再び別の場所へと飛翔していく。
ウモウの数は100機、それぞれが有人戦闘機のような動きをして次々と戦車砲を破壊して、ヘリを撃ち落としていく。
それを見て呆れて笑うアイン。
「ははっ。機械より精密な動きじゃないか。さすがボス」
これが機械操作レベル8なのかと感心する。自分たちは全くその力を発揮できていないのと感じた。
「でも、それでも私たちはボスに命じられたからねっ! 敵を殲滅するよ、戦車隊!」
その指示にウィンドウに映っていた他の戦車隊のツヴァイが頷き、火力の無くなった戦車を中心に攻撃をしていき、優勢に戦況を運ぶのであった。
ツバサと羽深は敵陣深くで空中戦を繰り広げていた。ツバサを狙う敵の口が開く半生物ヘリの機銃を急速旋回をして回避する。敵が攻撃をして隙ができたときに羽深が機銃のトリガーを引く
ガガガと機銃が白い光の銃弾を吐き出して、敵のヘリは穴だらけになり爆散していく。
空中には戦闘機ウミネコや無人戦闘機ウモウもいるがヘリ部隊として負けていられない。
「ツバサ、ミツバチを2時の方角に前進させてください。敵の攻撃を集中させるのです」
「了解しました。羽深、開いた空間へとウモウを誘導させます」
無人ヘリミツバチが数機、前進していき敵の攻撃を一身に受け始める。対空攻撃用のミサイル搭載戦車がヘリを狙い迂闊にも要塞ダムを離れて攻撃してきたのだ。
爆散するミツバチ。いくつもの破片となり、空中に散らばっていく。
だが、その隙間にウモウが素早く入り込んでくる。そしてミサイル搭載戦車を素早く攻撃して破壊していく。
その戦果に満足して次の隙を作ろうとするツバサと羽深である。
「ヘリではこれ以上は火力がもちませんからね」
「残念ながら攪乱が最適です。次はもっと火力のある武器を申請しましょう」
二人はそう話し合い、次の戦場へと向かうのであった。
爆散していく敵軍、こちらもただではすんでいない。無人機が次々とロストと表示されていく。
それを見ながら四季はちらりと司令へと視線を向けた。司令は恐ろしい速さでパネルを叩いている。もはや残像が浮かび何重にも手があるように見える。
その高速の操作で無人戦闘機ウモウを効果的に操作しているのだ。劣勢であった軍があっという間に立て直されていくのがわかる。
自分は次は何をするのか考える。目標は明らかだ。次の目標はこちらのシールドをガンガン削っている敵の要塞砲だ。
だが、破壊できるか迷う。このスズメダッシュの砲で破壊できるかが予想できない。
迷う四季に声がかけられた。
「大丈夫です、今のスズメダッシュは私が座っています。そのため、攻撃力は私のスキルレベルに依存しています」
レキがモニターから目を離さないままに告げてくる。
その内容を吟味して考える。空中戦艦の力がどれだけ増しているのか。
目を見開き、声を上げる。腕を突き出して命じる。
「これより本艦は敵長距離砲の破壊をします。全艦砲エネルギー停止、チュンチュン砲にエネルギーをまわします!」
その言葉を聞いてオペレーターは迷わずに了解と答えて艦砲射撃を停止させる。
できるだろうか………自分に倒せるだろうかと機械の身でありながら汗が浮き出る。
「大丈夫ですよ。この艦は司令が乗っているのです。それは最強という意味でしょう? 司令の力を信じていないのですか?」
ハカリが四季を見て、悪戯そうに笑い問いかけてくる。
「そうそう、私の力を信じなさい。信じる者は救われるかもしれないですよ」
レキ様から声がかかる、いや、今の軽い感じは遥様だろう。どうやら気をつかわれたようだ。
「司令に気をつかわれるなんて、奉仕をするマシンドロイドとしては失格ですね」
くすりと笑い、全天モニターを見る。次々と落ちていくミツバチやヒヨコ。だが、ツヴァイの損害は未だない。
家族思いですねと、ぽかぽかする心を持ちながら、四季は前面モニタへと敵の要塞砲を映しだす。
敵の主力砲は轟音と共にこちらへと攻撃を繰り返している。シールドがその攻撃で減少していく。
だが、こちらのエネルギーが充填されるほうが速い。
「エネルギー80%………85%………」
上昇していくエネルギーゲイン。グングンと充填されていく。
「エネルギー100%充填完了! 攻撃準備良し!」
「射線上の味方は退避してください。繰り返します。射線上の味方は退避してください」
オペレーターの報告に頷く。サッと手を振り切り札を使う指示を出す。
「チュンチュン砲発射準備、ウィング展開、砲門開け!」
空中戦艦スズメダッシュの両脇から、その言葉に従い光り輝く翼が生まれる。光り輝く翼は粒子をまき散らし幻想的で美しい。後は戦艦の名前がどうにかできれば完璧であったろう。
そして船首がピーピーと雛の鳴き声のように鳴いて、口が開くように開き始める。
「司令、砲撃準備良しです。アタックボタンをお願いします!」
その言葉に従い、うきうきとした表情でレキは机に現れた火縄銃を見る。いや遥だ。素早く遥に入れ替わったのだ。
そして遥は火縄銃を見て、不満げに呟く。
「この艦を考えた運営には絶対に抗議のメールを送ってやる」
一瞬だけ、旦那様へと体の主導権を戻す、できたお嫁さんのレキである。こういうのが遥が大好きだと知っているからである。
モニタに映る要塞砲へとロックする。ロック完了、発射OKと表示がされる。
「ではでは、チュンチュン砲発射!」
遥は宣言と共に火縄銃の引き金をひく。
チュンチュンとスズメの鳴き声のいらないBGMが流れて、船首から空気を震わせて破壊の白き粒子が吐き出された
グオングオンとその白光は途上にある全てを巻き込み吹き飛ばして、要塞ダムへと激突する。
今度は爆煙だけではなかった。派手に爆発音がして、ぎゅるぎゅると溶けた長い砲台がダムから空中を飛んでいった。ダム自体も爆発して壁が壊れているのが見える。
もちろん長い砲台とは要塞砲のことだ。煙が消えたあとには姿形は見えなかった。周りに設置してあるハリネズミのような砲台群も溶けたり、砕けたりして炎上している。
「おぉっ! これがチュンチュン砲か! 凄い威力だ、メギドの火の力を見たか連邦軍め!」
これは勝ち戦でしょと、遥がアニメでパクったセリフを言おうか迷い始めたとき
「旦那様、敵も切り札を出してきたみたいですね」
レキが冷静な声で教えてくれる。なぬっとモニタを見るとレキが操るウモウが次々と撃墜されているのが見える。
緑の軌跡が通り抜けたと思ったら、ウモウは斬り裂かれて爆散していくのであった。
「あぁ………。やっぱりフラグは砕けなかったか」
がっくりと落胆する遥。緑の軌跡の場所を見ると高速で空中を飛ぶ武者が見えた。その武者は羽が生えており、槍を素早く繰り出してウモウを撃墜していっている。そして首から上は竜であった。即ちドラゴンだ。
「なんで機動兵器より、単体の生物の方が強いのかな………。まぁ人のことは言えないんだけどね」
司令席を立ちあがり、メイドたちに話しかける。
「ここは任せたよ。私のスキル内ならサポート可能なんだよね」
以前にナインが言っていた言葉である。
それを聞いて、立ちあがり、軽やかにお辞儀をするサクヤ。
「お任せください。戦闘サポートキャラのサクヤ。これからご主人様の援護をいたしますね」
そう言って再び座り、先程のレキのようにパネルを操作して無人機を操り始める。
「最初からそれをしていれば、サクヤの株はストップ高だったのに、仕方のないメイドめ」
「行ってらっしゃませ、マスター。ご武運をお祈りします」
ニコリといつもと変わらない癒やされる笑顔でナインが見送ってくれる。
「行ってきます。これが終わったら、私はドラゴンスレイヤーだね。まぁ、龍人ぽい敵だけど」
悪戯っぽく笑い、おっさん少女は戦艦を出撃して敵の切り札へと向かうのであった。




