164話 建設工事をするおっさん少女
若木コミュニティはかなりの更地が生まれている。蟻型工作機械がせっせと更地を作り出しているからだ。
なので、景色は崩壊前とは違い殺風景ともなっている。雪解けとなれば、更地は田畑となり農業に勤しむ人々の姿が見られるだろう。きっと農業の経験のない人々だ。大変な苦労をするが、仕方ない。まずは自給自足ができるようにならなければいけないのだから。
そんな更地に美少女が立っている。ねじりはちまきをして、半袖短パンで、可愛らしい。寒さにも鳥肌がたつこともなく、トンカチを持って立っていた。紳士的な大人の人が見たらカメラを片手に撮影会が始まることは間違いない。その証拠にカメラドローンは忙しなくおっさん少女の周りをぐるぐると旋回していた。主に短パンから見えそうな何かを撮影しようとするので、殴り壊したい。
まぁ、いいやと遥は気にすることをやめて、今日の遊びを開始する。
「ふふふ、私の建設パワーを見せましょう。見せてしまいましょう」
いつもはポチリとボタンを押下して建設するのだが、今回は手作業にて作ろうと決心した。何を作るかと言えば、学校である。既に病院はちょっと前に建設済みだ。病院はさすがに手作業で作るのは怖かったし、責任もとれないし。
なので学校だ。学校ならば問題はあるまい。なにかあったら豪族に任せようスタイルだ。さすがおっさん、責任転嫁は得意分野である。
というわけで、学校建設をすることに決めた。決めたと決意したら、即実行。計画性のないおっさん少女であるからして。
「今日は観客がいないのが残念ですが、仕方ないですね」
とやぁっとトンカチをなにもない空中へと振るう。トンテンカンテンとなにもない空中で金属音が生まれる。
その音とともに、シュワンと煌めく光の粒子が発生して壁が出来上がった。
「おぉっ! 自分でやっといてなんだけど、凄い効果だ。これが建設スキルの真の力か」
手作業だとこうなるのかと驚く。
マインなんちゃらとかいう建物建設ゲームであろうか?ツッコミは不在である。
とやぁ、たぁっ、たりゃりゃ〜!叫び声とともにどんどん壁ができていく。どんどんどんどん作っていく。
一通り壁ができる。ちょっと長すぎるかもしれない学校の壁である。窓もつけてちゃんとした外壁だ。次は内装と屋根を作る予定。
うんうんと頷き遥は呟く。
「飽きましたね。もう飽きましたね」
クラフト系ゲームでもそうだった。でかい立派な建物を作ろうとする時は無駄に広い壁を最初に作るのだ。そして長い時間かけて作って満足するのだ。すなわち壁だけが作られておしまい。いつも同じ繰り返しである。予定は未定となり延期されてフェードアウト。
でも現実ではそんなことはできない。人々は困ってしまう。
「だけど、問題はないです。無いったら無い」
手作業だから駄目なのだと、飽きっぽい自分を棚において、棚が崩れて埋もれるおっさんの思考。
そんなことは気にしないよと、片手を掲げる。
「カモン! クイーンアント!」
叫ぶと同時にガションガションと大型の蟻ロボットが歩み寄ってきた。チュインと目が紅く光り工作機械というより、崩壊した世界に現れる敵機械な感じ。賞金首とかになりそうなメカである。
「むおー! かっこいい!」
大声が通りの向こうから響く。見るとリィズが興奮した表情で瞳をキラキラさせていた。ダダダと駆け寄ってくる。隣には水無月姉妹がいる。
「楽しそうですね、レキさん」
「こんにちは〜、レキちゃん」
お淑やかで大和撫子な穂香と僕っ娘で元気一杯な晶のコンビだ。
「あらら皆さん、こんにちは。今日のお店は終わりですか?」
おでん屋をやっている水無月姉妹、そこに働くリィズ。新店舗へと移動したおでん屋さんだ。まだ昼になったばかりなのに、もう店をしめたのかな?
「今日は臨時休業です。リフォームをすることにしましたので」
「ちょっとおでん屋の形態には合っていない店舗だったんだよね」
水無月姉妹が困った顔で答えながら、歩いてくる。
「あぁ、おでん屋の形態は特別ですもんね。厨房と店内が仕切りで分かれている店舗ではやりにくいですか」
そういった店は多いのかとも考える。まぁ、考えるだけで何をするわけでもないが。そこらへんは店長の手腕の見せ所。資産家な水無月ならポンと出せる金もあるから有利だ。
そんなことはお構いなしにリィズが興奮のあまりからぴょんぴょんと飛び跳ねて遥へとお願いをしてくる。
「レキ、これからその機械に乗って、なにか作るんだよね? リィズも乗る!」
お願いお願いと瞳をキラキラさせながらの希望である。可愛らしくて仕方ない。
トンと薄い胸に手をあてて
「お姉ちゃんも乗ってください。この工作機械は最大五人乗りなんです。余裕で乗れますよ」
得意満面な表情で了承するおっさん少女であった。
最大五人と聞いて、ピクリと耳を動かして興味津々だった水無月姉妹も手をあげた。
「レキさん……、よろしければ私も乗ってみたいです」
「僕も乗ってみたい! なんか凄そうだし」
どうぞどうぞと答える遥。
「それじゃ、皆で搭乗しましょう。コックピットオープン!」
遥がクイーンアントに手を翳して叫ぶと、ウィーンという音がしてクイーンアントの背中のハッチが少し開く。
「皆さん、あそこから入りますよ〜」
てくてくとクイーンアントに近づき横腹に設置してある簡単な梯子を登る遥。
リィズも、フンスと鼻息荒くついてくる。もちろん水無月姉妹も。三人ともワクワクとしている。
中は戦車の搭乗席のような配置に五席が設置してある。前に二席、真ん中に二席、最後に隊長席が後部にある。しかし従来の戦車の席のように狭くはなく、航空機のファーストクラスみたいに余裕が取られていた。
薄暗い中に席が淡く光っていて宙に浮くモニターやクリスタルでできているようなレバー、幾何学模様の様々なパネルが見える。椅子もフカフカで革づくりの見事なソファだ。軍用ではないし、レベル八で作成されたマシンなので、乗り心地も考えられているのである。椅子の横には小さい冷蔵庫もあるので工作機械かも疑わしい贅沢なコックピットであった。
「ふおおお!」
その未来的な機動兵器のコックピットの様子を見て、テンションマックスなリィズは興奮して一番前に座る。そして子供がやるようにレバーをガチャガチャ動かし始めた。
「どうやって動かす? レキ、これどうやって動かす?」
楽しそうに童心に還りすぎて片言になるリィズを見て遥は苦笑いを見せる。自分も子供の時はお金を入れると動き出すおもちゃの車に乗せてもらった時は同じように興奮してハンドルをガチャガチャしたものだと思い出す。
しかしこれはおもちゃではないし、現代科学を大きく上回る科学力で作成された機動兵器だ。比べ物にならない。
本当に科学力で作られているかは疑問に思うが。テキストに書いてあるので。
「残念ですがお姉ちゃんでは動かせません。これは登録済みの人間でなければ動かせないんです」
よくアニメで素人な主人公が機動兵器に乗ってパイロット登録が終わるのと同じだ。そして主人公は戦うことを強いられるのだ。
あれはセキュリティがおかしいとは思う。まぁアニメなのでそういった理由付けをしないといけないのはわかる。現実では登録者は機動兵器に乗ることで登録されるというザルな仕組みだと困るだろう。掃除のおばちゃんがコックピットを掃除していて登録済みになったらどうするのだ。あらあら、私の掃除機の三倍のパワーゲインだわとか言うというのか。掃除のおばちゃんが主人公なのは斬新過ぎてすぐに撃墜されて終わるだろう。
「ふへぇ〜、さすがにそういったシステムがとられているんだね。凄いね、このコックピット」
ポンポンと椅子の上で跳ねながら晶が感心する。
「動かせないのは残念ですが、反対にレバーなどに触れても大丈夫なのは安心できます」
穂香が楽しそうにピアノを弾くようにパネルをポチポチしている。
「むぅ、残念。いつか私もパイロットになる。レキ、強化人間の枠は空いていない?」
強化人間の枠を聞いてくる時点で、いつかではなく、すぐになりたいのが丸わかりなリィズの言動。
「枠は空いていませんよ。動かしますので雰囲気だけですけど、楽しんでください」
そう言って遥はレバーを触り、思考を流し込む。思考反映型レバー。細かいところはパネルを押して対応するシステムだ。
実は机下に引き出しがあり、ゲームのコントローラーが仕舞ってあるのだが、そんな雰囲気ぶち壊しな操作をするとリィズは泣いちゃうかもしれないので自重する。
キュイーンと駆動音がして、席の周りに外の風景が映る。360度モニターシステムだ。
かっこいいモニターシステム。実際にこのシステムを使うとわかることがあった。
「これ、凄い動かしにくい………」
スキルのおかげで滑らかには動かせるが、機体の腕とかの感覚がいまいち掴めないのだ。多分スキルがないおっさんなら事故確実。建設より破壊にしか使えないことは間違いない。通常モニターの方が使いやすいのであった。アニメの主人公はよく機体を操っていたものだと感心してしまう。
だが、それは操作する者のみが思うことで、お客さんな三人には関係ない。
「凄い! 全面モニターだ! 凄い凄い!」
「モニターの継ぎ目が見えないよ! 浮いているみたい!」
「このタッチパネルの感触は癖になりますね………」
約一名、違うところに食いついているが、概ね好評みたいである。リアルアトラクションなのだから無理もない。
「慣性吸収装置カット」
慣性吸収装置はその名の通り慣性による衝撃やら何やらを吸収する装置だ。簡単に説明すると機体も椅子も揺れない。
でも、そんなんじゃ乗っていてつまらないよねと、気をきかせるおっさん少女。わざわざその機能をオフにした。それでも衝撃吸収材が優秀なので、そんなに揺れは酷くないが、乗っている感触はある。
「ふぉぉぉぉ」
もはや怪人ふぉぉぉぉ美少女となったリィズ。それしか言わないので放置して、建設に取り組むことにしてモニターを見る。
「フッフッフッ、極上の豆腐職人の力を見せましょう。魅せてしまいましょう。学校は豆腐職人の技の見せ所です」
クラフト系ゲームではどんなに凝った建物でも不思議と豆腐に見える形にしてしまうおっさん少女。学校なら豆腐職人の仕事にピッタリだ。センスが無いこと丸わかりで、全然自慢にならない。
「ホイホイっと」
ポチポチパネルを操作してワーカーアントに内装を作成するよう指示を出す。周辺に待機していたワーカーアントは蟻塚でも作るが如く、群がって作っていく。なんだか地球を守る兵士に倒されそうな光景だが気のせいだろう。
遥もちょこちょこ細かい部分を作成していく。壁に色をつけたり、壁に模様をつけたり、壁を格子状にしたり。
結局壁しか弄らないおっさん少女であった。
三人娘が感動して楽しむ時間があっという間に過ぎていく。
「大体完成しましたね」
遥がモニターに映る学校をみて評する。
「レキさん、廊下を絨毯にする必要はなかったのでは?」
おずおずと穂香が尋ねてくるので
「安い床なんです。絨毯といっても見かけだけで木の床とコストは変わらないんです。それなら絨毯のほうが良いと思いまして」
遥的には、コストが同じなら絨毯の方が良いでしょう?と思う。見栄えが良いじゃないか。ちなみに色は青だ。
「う〜ん………なんで神殿みたいな柱がいくつもあるの? しかも柱なのに天井支えてないよね? ただの飾りじゃない?」
晶も学校を見た感想を言う。
「なんだか柱があった方が見栄えが良くないですか? なんか荘厳な感じがしますよね」
廊下には柱が等間隔で並んでいる。ただ天井に届いていない短い柱なので、ただの飾りにしか見えない。というか、飾りである。
「ふぉぉぉぉ! 玉座は誰が座る? 王様?」
でかい合金製のトビラの奥には金色の刺繍が入っている赤い絨毯が敷かれており、その奥にはなぜか金ピカの玉座が鎮座していた。
「せっかくなので、玉座の間も作りました。なんだかかっこいいかな、と」
飄々とめちゃくちゃな学校を作った自覚の無いおっさん少女は答える。
「混沌しすぎて渾沌な学校だねっ。ここに通う子は楽しそうだよ」
「流れるプールとアスレチックも作りましたしね」
晶は頬をかきながら、穂香はおっとりと頬に手をそえながら、二人共苦笑いをして感想を言うのであった。
「リィズは気に入った! 通えないのが残念!」
キラキラおめめのリィズだけは感動して気に入ったみたいである。一人でも気に入ってくれて良かった。
そうして三階建ての校庭が広い学校が建設された。新築だしホログラフィによるテロップなども壁に浮かぶので近未来的な学校である。
建設が終わり満足した遥たち。終わり終わりと、全員でクイーンアントを降りると予想外の光景が広がっていた。
なにが予想外というと、親子連れがきちんと並んでこちらを見ていた。蝶野母娘もいる。
「なんですかね、これ?」
「なんでしょう?」
なにかあったかしらん?と可愛く小首を傾げるおっさん少女。並ばれる理由が思いつかない。
「リィズちゃんたちは終わり? 次はみーちゃんが乗る! 楽しみ!」
嬉しげに待っていたのとアピールするみーちゃん。ぴょんぴょんと跳んでいて愛らしい。
え?とみーちゃんの言葉に驚くが、その言葉でなんか想像できた遥。
「みーちゃんたちは順番待ち? 乗りたいですか?」
「うん! みーちゃん待っていたの!」
ありゃぁと四人で苦笑する。いや、リィズは気にしていないので三人が苦笑した。
どうやら乗り込む姿が勘違いされたらしい。なにかアトラクションだと思われたのだろう。
まぁ、遊園地も無いし、さすがに作る予定もない。ならば別にいいかとおっさん少女は声をはりあげた。
「クイーンアント、学校一周アトラクション開幕です!」
そう言って並んでいる人たちを乗せて、学校を一周するのであった。皆、機体の中をみて感心して、全面モニターに感動して、動き始めたら大騒ぎになり、とても大好評でした。
後日問題は発生したが。それは何かというと…。
あとで見学に来た豪族に怒られて玉座は外しましたとさ。
ちなみに玉座の後ろにある隠し階段は気づかれませんでした。
なので、あとで密かに秘密基地を作ろうと画策するおっさん少女なのであった。




