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コンクリートジャングルオブハザード  作者: バッド
12章 一休みしよう

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162話 おっさん少女は紙芝居をする

 わいわいと喧騒がする。若木ビルを中心にして、今やアーケードができておりしっかりとした市場に、様々な店舗ができており復興の足音が聴こえてきている。


 もはや雪もあんまり積もらなくなり、地面は泥濘で歩きにくく、踏み出す足の衝撃で跳ねた泥が服についてくる。慎重に歩かなければと、人々は考えながら気温が暖かく感じ始めて春の訪れを待つのであった。


 退屈なので、なにか面白いことをしようと考える少女以外は。


 艷やかに触り心地が良さそうな、ショートヘアの髪。眠たそうな目ながらも、可愛らしさがわかる綺麗な瞳。桜のような色の小さな口。全てがその少女を可愛らしい美少女だと感じさせる幼気な美貌。背丈は子供のようにちっこくて、紅葉のような手、健康そうなカモシカのような脚、華奢な身体は子猫を思わせる雰囲気を醸し出し、見る人の母性本能を呼び起こす少女。


 可愛らしさの極致へと踏み出している美少女。朝倉レキである。

 

 その少女は更地の前で腰に手をあててふんぞり返っていた。その姿も愛らしく周りは通りすがりながら、微笑みをついつい浮かべてしまうのであった。


 何やらもう一人がいるかもしれない。いや、多分いない。きっといないと、決まったのでおっさんの存在はありません。美少女を前にしては、おっさんには存在価値はないのである。


 たとえ極悪な美少女でも、どんなに善良なおっさんでも、美少女は勝つ可能性を常に持っているのだ。そしてレキは善良なので、おっさんが勝てる可能性はゼロ。たとえ金色に髪の毛がなっても、青色になっても勝てません。


 スーパーなおっさんでも、美少女にはワンパンで負ける。世界の法則だ。


 そんな美少女は、フンスと鼻息荒く冬の間、仲良く遊んでいた友人たちの前で、声を大きくはりあげた。


「今日は紙芝居屋さんを始めたいと思います!」


 馬鹿な発言で、外見詐欺なおっさん少女だと、あっさり判明した。仕方ない。レキならば、こんなアホな発言はしないのだから。たまに突飛な発言はする娘だが。


 眠そうな目で周りを見渡し、ワクワクと反応を待ち目をキラキラさせている。どんなツッコミがくるかと芸人魂が薄ら見えている。しょうもないおっさん少女であった。


「で? どんな紙芝居を始めるわけ? どんなへんてこな紙芝居なのかしら」


 多数の椅子を用意してある広場。せっせと遥が頑張って運んでおいたのだ。100脚はあるので、どれくらいお客が来るとみこんでいるのかがわかる。


 そんな椅子の一つに叶得が脚を組み、頬杖をつきながらジト目でおっさん少女を睨む。


 睨まれる理由はないはずだと、今までの行いを全て忘れて思い出さない自覚症状ゼロなおっさん少女は、可愛く口を尖らせて反論する。


「なにを言っているのやら? へんてこな紙芝居なんかしませんよ。私が自作した桃太郎を読み聞かせするんです。王道で凝った話にもしていない昔ながらの物語だと、私のメイドさんも喝采してくれたんです」


「ほぉ〜、それだけの作品なら子供を集める前に見せてご覧なさい? ほら」


「ん、頑張って作った妹の力作をリィズも見たい」


「アタシも見たいね。嬢ちゃんがどんな紙芝居を作ったのか興味深いよ」


 今日は休みなのでかリィズと早苗も椅子に座っている。二人共言葉は違うが興味のある表情をしている。


 リィズは純粋に可愛らしく興奮しながらの興味深さだが、早苗はニヤニヤと口元を歪めているので、笑いを求めているのが丸わかりだ。


 そして叶得は最初から期待していないという投げやりな態度である。


 むむむ、残念ながらボケもなければ、オチも無い。素晴らしい紙芝居を見てくれ給えと、奮起しておっさん少女は置いておいたカバンから紙芝居を取り出した。


 そして紙芝居用の棚にドデンと勢いよく紙芝居をのせた。


「桃太郎物語、これが私が作った最高傑作です!」


 表紙には桃太郎物語と大きく丸文字で可愛らしく書いてあった。背景はピンクであり、ちょっとしつこいが自作なのだから仕方ないと思わせる子供っぽさがわかる。


「まぁ、普通ね」


「次、次のページにする!」


「ほぉ〜」


 表紙はマトモだと思った三人。遥はニヤリと可愛く笑い次のページをめくる。


「ジャジャン!」


 桃太郎にジャジャンという擬音は無かったが、誰もツッコミを入れずにめくられたページから目が離せなかった。


 見事過ぎて目が離せないのだろうと、謎の自信を持つ根拠ゼロのおっさん少女。


 ジト目を変えずに、叶得が疲れた感じで紙を指差す。


「それなに? クトゥルフ神話の怪物? ニャルラトホテプ?」


「そんなに上手ですか? お婆さんを描いたつもりだったんですが、美少女になっちゃいました?」


 自分の腕が恐ろしいなぁと、頭をかくおっさん少女。


「どこがよっ! 褒めていないわよ! 化物にしか見えないと言ってるのっ! なんでニャルラトホテプが美少女なわけ?」


「きっと超常の力で変異してしまったお婆さん………。可哀想なお婆さん、力に呑まれた」


「ぶっ! ププ、期待通りだねっ! ブハハハハ」


 叶得は怒鳴り、リィズは謎の設定をして、早苗は笑い転げた。その絵は期待通りに不気味な黒い人型がピンクの背景に立っていた。夢にみそうな不気味さを持つ人型だ。特に目のあたりが闇の渦巻きとなっており、子供ならトラウマを持つかもしれない。


 実際、絵画のスキルは存在した。そしてそれを取ってないレキぼでぃは大失敗となる。いかに器用度は高くても、無意味となるゲームキャラの弱点だ。


「えぇっ! だってニャルラトホテプって、銀髪の美少女なんですよね?」


「貴女を教育しているメイドに会いたいわね。オタクが隠れているわよ、絶対に!」


 怒鳴る沸点の低すぎる褐色少女。多分、冬の最中でも沸騰する低さだ。


 むぅと、唸り叶得の博識さに恐れ入る。あの小説はかなり昔のラノベだ。さてはコヤツは隠れオタクだな。そしてニャルラトホテプと聞くと、不気味な神ではなく、可愛い少女と考えてしまう重度のオタク疑惑が生まれる遥である。


「大丈夫、妹よ。超常の力に耐えられないお爺さん、お婆さんとして設定を加えれば良い」


「アハハハハ、それは良い! それでいこう! 嬢ちゃん!」


 ぷくぅと頬を膨らませて急転直下、機嫌を悪くするおっさん少女、いったい中身のおっさんは何歳なのだろうか? いや、既におっさんの魂は美少女パワーに呑み込まれたのだろう。さようなら、おっさん。今までありがとうおっさん。


「自分が下手な絵を描いているか、わからないわけ? しょうがない娘ね」


「むぅ、自分ではわからないのですが…………」


 皆の反応を見ると、大失敗なことは間違いないらしい。自分では大失敗したことすら気づかないとは思わなかった。精神にまで影響した? もしかして他にも影響しているのではないかと疑惑が浮かぶ。だが、その疑惑は話しかけられてすぐに消えた。忘れやすくて、鳥より早く忘れるおっさんなので。


「はぁ、全く仕方ない娘ね。ちょっと待ってなさい」


 ツンデレでありながら、世話好きな娘は席を立ちどこかへ歩いていった。


 その姿を見送りながら、早苗が言う。


「まぁまぁ、笑えて面白かったよ。でもどうするんだい? この集まり」


 親指をたてて、クイッと後ろを指し示す早苗。相変わらずそういった行動が男よりも男らしい姉御だ。


 指し示す方を見ると子供たちが親と一緒にワクワクと待っている。いつの間にか集まっていた。レキのお店ごっこはつねに規格外なので、騒ぎ始めていた四馬鹿カルテットに釣られて集まってきたのだ。


 周りがいつの間にか集まっていたので慌てるおっさん少女。失敗したとわかった紙芝居をするわけにはいかない。


 どうしようどうしようと慌てるおっさん少女。仕方ないので、芸術的な私の演技を見せるかと、魅せなければいけないかと余計なことを考える。


 じゅげむじゅげむのお坊さんかな? それしかないかな?と考える。じゅげむじゅげむごぼうの………。なんだっけ? あんな長い名前覚えられないよねと、じゅげむじゅげむの劇を否定するおっさん少女。やる気があるのか、ないのかわからない。


 このままでは子供たちはトラウマを植え付けられるかも。


 リィズも遥が慌てるので、同じように楽しそうに一緒に慌てる。慌てるというか、一緒に慌てるのが楽しそうで嬉しそうな表情を見せている。


 早苗はお手並み拝見と苦笑しながら見ている。こういう時のおっさん少女のお手並みを拝見してはいけないと思うが。


「……仕方ない……お姉ちゃんはじゅげむじゅげむの赤ん坊の役を」


「仕方なくないっ! 誰かツッコミなさいよ!」


 スパーンと景気の良い音をたてておっさん少女の頭をはたく叶得。


「意外と早いおかえりなさいですね」


 いたたと、痛くはないけど芸人魂に満ち溢れるいらん演技をしながら遥は返事をする。


「なにを持ってきたんですか? それなんですか?」


「はぁ、これは紙芝居よ。図書館から持ってきてあげたの。これを使いなさい」


 ほらっと押しつけられたので確認すると、古臭いが確かに紙芝居であった。桃太郎と書いてある。市販品の紙芝居だ。思わず感心してしまう。まだ残っていたのか。


「なるほど、市販品を使えば良かったんですね。こんなのあったんですか」


 ほぉ〜と、珍しい代物ですねとジロジロ見るとリィズも近寄ってきて珍しい物を見たと一緒に観察する。


「へぇ、珍しい物を見たね。こんなのあるんだねぇ」


 早苗も感心した顔になり、紙芝居を覗き込む。褒められた叶得は頬を少し染めながら、ぶっきらぼうに答える。


「自作じゃなくて、まずは図書館を調べなさいよ。当たり前でしょう?」


「う〜ん、紙芝居なんて都市伝説だと思っていたので……」


「ん、リィズも紙芝居は古代の遺物だと思っていた」


「いやいや、叶得はよく知っていたね? アタシも図書館にあるとは思っていなかったよ」


 それぞれ年若い娘である証拠の発言をする。一名、中身が年齢詐欺ではないかという噂もあるが。


「ちょ、ちょっと、その言い方だと私が年寄りに聞こえるでしょ! 図書館に行ったことがある人なら常識だからね!」


 え〜?と三人娘は疑問顔を叶得に見せて、怒られるのであった。




 しばらくコントな騒ぎを終えた面々。ようやく紙芝居を始めることに遥は決めた。


「フッフッフッ、紙芝居を始めます! お代は飴細工を買うことです。一個10円で良いでしょう」


 幼い子供だからね、安くいきましょうと格安の値段であるが、特段気にしない。所詮は飴細工だ。よいしょと用意していた大きな木箱をパカリと開けると飴細工がたくさん入っていた。


 飴細工は美しい芸術的な作りである。見事な鳳凰から、可愛いクマさんまで様々だ。料理スキルはあるので、飴細工はその範疇に入るので、安心して作れたおっさん少女。


 むふふと口元を緩ませて得意げに笑うのが、物凄い可愛い。


「わ〜い。私クマさんください!」

「僕は鳥さん!」

「私はこの鳳凰をお願いね」

「俺は亀でいいや」


 商売繁盛笹もってこい状態になり並ぶ人々へと飴細工を渡す。三人トリオも手伝ってくれて、どんどん飴細工がなくなっていった。


「ありゃ、凄い売れゆきですね。なんだか大人も買い込んでいますが」


 ちょっと驚いた遥。子供のいない大人たちも並んで飴細工を買って、美味しそうに舐めている。


「甘味は貴重なのよ? この安さなら皆が来るの当たり前でしょう?」


「ん。多分貴重、周りの皆はそう言っていた」


「砂糖は高いからね、安くなれば良いんだけど難しいんだろうねぇ」


 あぁ、そういえば甘味を含む嗜好品は高価にしたんだったと今更ながら思い出す非道なる遥である。自分の理想のためには、非道なことも簡単にしてしまうおっさん少女であった。まぁ、非道というレベルでもないかも。


 でも皆が貴重そうに嬉しそうな表情で食べる方が良いよねと、飴細工を舐めている人々を見渡す。ニコニコ笑顔で老若男女それぞれ食べているので、溢れかえった飽食の以前より幸せを感じるのではないか。


 私の試みは間違っていない。多分ね、恐らくね、間違っていても別にいいやと開き直り、食べている人々へと紙芝居を見せる。


 ちょっと人が小さなライブハウスに集まるぐらいの人数なので、紙芝居を見れない人は必ずいる。


「でも、席取り合戦も紙芝居の醍醐味だよね」


 実際に紙芝居なんか見たことないので仕方ない。さすがにおっさんでも、そこまで歳はとっていない。


 なので想像と妄想と空想で紙芝居をする遥である。


「ではでは、紙芝居の始まり始まり〜。昔々お爺さんはシヴァ狩りに、お婆さんはなにか人生を決める選択に行きました」


 話を止めてワクワクと周りを見る。チラリとツッコミを待つ態勢である。なぜおっさん少女はそこまでツッコミを追い求めるのか。


「コラッ! 子供たちが可哀想でしょう? ちゃんとやりなさいよ」


「むむむ、確かに。ちょっと子供たちが可哀想ですね。真面目にやります。ボケる紙芝居は特別枠でにします」


 おっさん少女はどちらにしてもボケるのは諦めない。それでも以降は真面目に紙芝居をやるのであった。




 紙芝居が終わってぞろぞろと人々が散っていく。桃太郎は懐かしさもあり、傑作であったと遥は満足した。


「なかなか上手だったじゃないか。子供たちは半分ぐらいは喜んでいたよ。全然知らない話だったって」


 頭を軽くかきながら早苗が褒めてくれるので嬉しい遥。いや、褒めてくれているのかな? ちょっと疑問に思うが、ポジティブ思考でいくおっさん少女だ。


「ん。小さい子供の多くが知らなかったみたい。やっぱり昔の話だから?」


 首を傾げて疑問に思うリィズ。自分も小さい子供に見えるのは棚においておく。


「あぁ、意外と知らない子供が多いんだねぇ。ちょっと驚いたよ」


「そうね。普通は知っていると思うんだけど」


 早苗と叶得も首を傾げて不思議がる。


 時代の流れと言うものだろうか? どうやら白雪姫とかも知らなそうだ。


「ちょっと寂しい感じもしましたが、盛況だったので問題なしです。これにて紙芝居屋は終わりということで」


 紙芝居をするには紙の後ろに書いてある内容を読まないといけない。暗記すれば良いのだがそんなことを遥がするわけないのである。そんな時間があったら、ゴロゴロしてナインに癒やされたい。


 そう、紙の後ろにいるから、お客の反応がわからないので、速攻飽きたおっさん少女であった。やっぱりお客の反応を見たいのだ。次は映画か劇が良い。


 ガチャガチャと紙芝居やら何やらを仕舞って撤収しようと考えていたおっさん少女に声がかけられる。


「時代の流れだけじゃないんだ。お姫様よ」


 野太い声音は聞き覚えがある。なんだろうと声がするほうに視線を向けると、豪族とナナが立っていた。


 人懐っこい表情で小さく手を振るナナ。むっつりとした表情で腕を組んでこちらへと視線を向ける豪族。後、ついでにゴリラ自衛隊長もいた。たしか蝶野さん。最近名前を覚えたのだ。みーちゃんの父親なので。


「どういう意味なんでしょうか?」


 小さく首を傾げて問いかける。何が問題なんでしょうか?


「学校だ。そろそろ教育制度の復活が必要な時期というわけだ。後、病院も必要だがな」


 あぁ、病院ですかと納得する。でも、今の会話の流れと関係ない。と、すると学校が主なんだと見当がつく。


 そろそろ学校が必要。なるほど、おっさんの出番なんですねとおっさん少女は考えるのであった。

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