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コンクリートジャングルオブハザード  作者: バッド
12章 一休みしよう
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158話 防衛隊の生存者救出作戦

 雪を掻き分けて、高層マンションへと全力で走る。すでにマンション周辺はゾンビにより道は踏み固められている。その中をザッザッと滑らないようにしながら走る。


 ソンビたちの死体で溢れていく道。少し離れた場所からはひっきりなしに轟音が聞こえ、耳に否が応でも入ってくる。弾倉を身体の各所に取り付けた戦闘服を着込み、鉄のヘルメットを被りながら、背中にショットガン、腰にハンドガンとコンバットナイフをつけて、その重さを感じることなく走り続ける。


 昔なら走ることも難しい重さだが、今は軽く走り続けることができる。自分が人外になっていると自覚する瞬間だ。


「蝶野隊長! 前方にゾンビ多数!」


 兵士の一人が叫び指差した。俺はグレネードランチャーを下部に取り付けたアサルトライフルを構え兵士が指差す方向を見た。


「うぁぁ〜」


 前方から何度聞いても慣れない呻き声をあげながらゾンビたちが近寄ってきていた。雪で足取りは遅くなっている。脇道からも現れるがそいつらは積もった雪に足が埋まっていて遅い。


「ふん! 俺らが近づくのを見て目標を変えたな、好都合だ」


 数は10程度、もはや小走りゾンビなど敵ではない。


「斥候、片づけろ!」


 その言葉に従い前衛の斥候がアサルトライフルで敵を狙い撃つ。軽い銃声がして、放たれた銃弾は正確に小走りゾンビの頭へと命中する。そうしてあっさりと小走りゾンビは雪積もる地面へと倒れ伏していく。


 その後も数十のゾンビがこちらへと向かってきたが、あっさりと片づけながらマンションへと急ぐ。


 まだ新しい新築そうなマンションだ。入口付近はすでにゾンビたちに荒らされて、窓もドアも壊れてボロボロ。死体であっただろうモノに食いついている奴らも見えた。数百は入り込んでいるだろう。


「よし! 前進だ、敵を撃破しつつ階段を登っていくぞ!」


 俺の大声に反応したゾンビたちが動きを止めて、こちらはとギョロリと白目を向けてくる。


「あぁぁぁ〜」


 両手を振り上げてこちらへと目標を変えたゾンビたちが向かい始める。この階層のゾンビはこちらへと向かい始めてきた。俺らを喰うために。


 片膝を床につけて、腰だめに銃を構える。他の兵士たちも同様に同じ動きを見せる。指示がなくても訓練通りに戦える頼もしい仲間たちだ。


「撃てっ! 撃て撃てっ!」


 汚れたマンションの床を蹴り、こちらへと向かうゾンビたち。枯れた観葉植物を蹴り倒し、椅子を弾き飛ばし、テーブルを壊しながら血に塗れた口を広げてやってくる。


 横並びに兵士たちが銃を構え、ゾンビたちを迎撃し始める。


 素早く練度の高い連携で同じ敵は狙わずに射撃を開始した。


 吹き荒れる銃弾の嵐。受付ロビーだったであろう高層マンションの一階は部屋に響き渡る銃声がしたのちに倒れ伏すゾンビたちと共にボロボロになっていく。


 砕ける椅子。穴だらけになるテーブル、吹き飛び粉々となる観葉植物。カウンターも銃痕だらけになる。


 数分後、全てのゾンビたちは銃弾の前に倒れた。すぐに斥候がアサルトライフルを構えながら前進して周りを見渡す。


「クリア! 敵の動きはありません!」


 報告を受けてから、どうやって上までいくか考える。狭い階段だ。全員で行くのはきつい。


「蝶野隊長! 半分は反対側にある階段から登ります!」


 迷っていると荒須隊員が案内板を見ながら提案してきた。


 ガチャガチャと音をたてて、槍を担いでどこの女武将かと言われる隊員だ。元気よく提案してきながら、案内板を指差す。


「これと、これ。階段は正面と反対側に一つずつありますよ。これならどちらかが速く行けますよね!」


 相変わらず正義感の溢れる熱意が籠もった目だ。生存者の危険と自分たちの命を天秤にかけて考える。


「………荒須隊員。危険だぞ? バックアップが難しくなる」


「大丈夫だと思います。私たちなら行けます」


「俺たちが命を失うわけにはいかないんだぞ? よく考えたうえでの提案か?」


 その言葉に力強く頷き、周りの同僚を見渡す。


「はい! 自分たちの武器や敵の数を考慮しました」


 その瞳を覗き込む。正義感だけで無謀な作戦を行おうとするか否かを。荒須隊員の瞳は揺らぐことなく、自分たちができると本当に信じている瞳だった。


「危険なことは承知で救出隊に入ったんですぜ、隊長」

「そうそう、俺らもそろそろ活躍してモテモテにならないと」

「あ〜、家族持ちにはわからないか〜」


 茶化すように、その中に真剣味を込めて周りの隊員が話しかけてくるので思わず苦笑した。そのとおりだ。危険な作戦とわかって突撃してきた馬鹿野郎たちなのだ。ならば、今更少しの危険が加算されても気にするべきではない。


 決意を固めて周りへ指示をだす。


「よし! 半分は反対側の階段から登っていけ! 帰ったら酒を奢ってやる。妻の手料理つきだ!」


 そう言ってニヤリと口元を曲げて、俺は笑い命がけの馬鹿な作戦を開始したのであった。





 仙崎はマンションに救出隊が入っていくのを見送った。周りのゾンビは多少マンションへと近づくが、それ以上に銃声の轟音をもって挑発するこちらへとゾンビたちは近づいてきている。


「見ろよ……。どっかのコンサートにでも行くつもりなのか、奴ら…」

「会長、手が震えてない?」

「弾は入っている……。弾は入っている……。大丈夫、大丈夫」


 蝶野さんたちのことは一旦忘れる。こちらにはこちらのやることがある。話し声の方へ視線を向けると新兵たちが近寄ってきているゾンビたちを前に緊張していた。


 銃を壊れんとばかりに強く握りしめ、滝のような汗を流し、口をきつくしめている。初めての大規模作戦だ。無理もない。新兵たちは大樹の支援後に兵士になった奴らだ。厳しい戦いを越えてきた経験がない。


 俺は苦笑して新兵たちのヘルメットを軽く殴っていく。コツンと頭が揺れて驚いた表情でこちらを見てくる。その顔は予想通り真っ青だ。


「お前ら、そろそろ接敵する。肩をほぐせといってもほぐせんだろう。だから前だけ見て、引き金をひきつづけろ。あれだけの大群だ、お前らの下手くそな射撃でも、どこに撃っても当たるからな。あぁ、空には撃つなよ? さすがに敵さんは空にはいないからな」


 肩をすくめて、笑いながら伝えると、それだけで少し弛緩した空気が流れ始めたのを感じた。新兵たちは顔を合わせて話し合う。


「そうだよな、あれだけいるんだ。外す方が難しいよな」

「ゲームセンターのガンゲーだって、あんなには敵はいなかったぜ」

「お前、一面でいつも死んでいただろ」

「それは内緒にしてくれよ、会長」


 新兵たちは多少の笑い声とともに緊張感が多少薄れる。多少であろうとも顔は青褪めたままでも、馬鹿な話し合いができるぐらいにはなった。


「よし! わかったなら、弾薬が尽きることだけを注意しろ! そろそろ戦闘開始だ!」


 自分で言って、弾薬の残弾までは新兵は気にすることはできないだろうと予想していた。それでも多量の銃弾を敵に撃ち込める。それだけで大分助かる。


「仙崎さん! 敵にオスクネーが混じっています。どうしますか?」


 観測員が敵の中に面倒な奴らが混じっていることを教えてくる。


 オスクネー、蜘蛛の糸からできた盾で銃弾を無効化する危険な敵だ。奴らが盾代わりになると厳しい戦いとなる。


「よし、ランチャー隊に撃破させろ。オスクネーを中心に迎撃、他の奴らが周りを叩く!」


「了解です。ランチャー隊! オスクネーは任せたぞ!」


「了解しました! ランチャー隊はオスクネー中心に叩きます!」


 ランチャー隊から了解の声が聞こえる。そこに怯えはなく自信に溢れた返答だ。こちらは知能がある人間だ。対応策は用意してきたのだ。


 再準備が整いつつある部隊を見て思う。こんなことになるとはと。


 部隊を見ながら、ふと、当時を思い出す。


 当時、自分は崩壊時にテロが新市庁舎で起きたとの連絡を受けて急行した。いや、急行しようとした、だ。


 到着した仙崎が見たのは人々が次々と襲われて無残に死んでいく姿だった。そして死んだ人間が蘇り周りへと襲いかかる姿だった。


 まさかこの目で実際に大量の人死にを見るとは考えたこともなかった。たとえ訓練を受けていても日本である、そんなに大変なことは起きないとどこか頭の片隅で考えていた。


 そしてまさか自分が銃で人を殺すことになるとも考えていなかった。発砲するだけで問題になる世間一般だ。武器は持っていても、襲われて死ぬ寸前でも発砲は許されないだろう。そう考えていた。


 しかしその考えはあっさりと翻った。死んでいく人々。襲っている尋常には見えない人々。そして死んだ人間が蘇り周りへと襲いかかる姿。助けるためにどうするかは決まっていた。


 銃を発砲した時点で自分のキャリアは終わりを告げ、退職することになる、この騒ぎが終われば責任を取らねばなるまいと考えていた。


 だが自分は人々を守る義務があると、襲いかかる人々を射殺した。次々と次々と尽きることのないゾンビのような人々を。


 そうして避難場所としてビルの上階部分を確保したあとは責任問題のことを考えていた。


 酷く楽観的であった。ゾンビ映画などたくさん見たことはあるにもかかわらず、現実がそうなるとは思っていなかったのだ。避難場所を作り数日耐えれば終わる話、馬鹿な平和ボケしていた自分はそう思っていた。


 それから既に一年たち、春だった当時から、冬へと季節は変わっている。


 そう考えていた自分は、いまや軍隊の隊長だ。人々を守る警官にはもう戻れない。戻る気もない。今の自分は銃を持ち、平和な場所を作るために動くと決意しているのだから。


 俺は決意を胸に秘めて、前方を見る。


 昔は元は人間だったゾンビたち。ゲームではないと思い知らされるのは服装だ。それぞれ全員着ている服は違う。職業柄、服装を見て体つきを、その動きを見れば何をしていたのか、どんな暮らしなのか予想できてしまう。


 だが……………。瞼をそっとしめて黙祷する。そうして開いた時には、ただの化物の大群となっていた。


「………すまない。俺はここで死ぬわけにはいかないんだ。君たちを一人一人の元人間としても見ることも許されない。きっと一人一人の人間として見てしまえば、心は耐えられないだろうから」


 呟き、化物たちを倒すべく銃を握りしめる。


「よし! てめえら、攻撃再開だ! 奴らへと命という高い支払いを請求してやれ!」


 百地隊長の叫び声が聞こえる。耳に入るその指示に自分は声をはりあげた。


「全員攻撃開始!」


 その言葉を合図として、兵士たちが撃ち始める。平和ボケした人間は存在しなくなり、今は戦う戦士のみである。


 激しい銃声が轟き、ゾンビたちへと命中していく。雪を掻き分けて、死骸を足場にして家を乗り越えやってくるゾンビたち。


 等しくバタバタと倒していく。


「オスクネー接近!」


「ランチャー! 冷凍弾発射!」


 銃弾の嵐を柔軟かつ剛性のある糸でできた白い盾で防ぎ、こちらへと近寄ってきていたオスクネー。それを見て、ランチャー隊は対抗するため、砲弾を撃ち出す。


 盾にぶつかり冷凍弾は防がれるが、白い盾はその冷凍ガスは防げなかった。噴出される白い冷凍ガス。そのガスに巻かれて、ピシリとあっという間に凍りつく盾。その後ろにいたオスクネーも冷凍ガスの冷たさにより動きを鈍くする。


「全力で攻撃だ! グレネード!」


 オスクネーが動きを鈍くして盾が無効化された隙を狙い、今度はグレネードが発射された。複数の軽い空気の抜ける音がして着弾する。爆発音が何回もして盾もろとも数発のグレネードがオスクネーを欠片も残さんと爆砕していく。オスクネーへの対抗策。物理的な盾ならば凍りつかせようと、以前に話し合いながら決めたのだ。どうやら効果はあるとわかった。


「次のオスクネー接近中!」


 爆発のあとを乗り越えて次々とオスクネーが近寄る。その言葉に自分は用意されていた特殊ロケットランチャーを持ち上げて構える。


「元警官、現在は軍人、仙崎が大金払った武器の攻撃だ。大金かけた分の力を味わってくれたまえ」


 オスクネーを含む敵の集団へと呟き、口元を歪めてとっておきを使う。


 引き金をひくとロケットランチャーから白い煙を吐き出しながら、砲弾が飛翔していく。


 オスクネーはその攻撃を見て、盾を作り出す……が、砲弾は空中にて複数に分裂して落ちていく。着弾した砲弾群は爆発し、噴き出すように焔を作り出し、オスクネーも盾をも全て焔に巻かれて炎上していく。


 ぐずぐずと黒い焦げた物体へと変わりゆく敵を見ながら、その効果に満足する。


「クラスターナパームランチャーか……。馬鹿みたいに値段が高くなければ、複数配置するんだが………」


 コストパフォーマンス的に、複数のグレネードランチャーを買える値段なのだ。もう少し安くなればと思いながらアサルトライフルを拾い上げ、再び撃ち始める。


 この日は全ての兵士たちにとって長い一日となる。そう思いながら仙崎は撃ち続けた。




 蝶野たちは荒須隊員たちと別れ、階段を登っていた。その走りは崩壊前なら陸上のスカウトが血相を変えて誘ってくるレベルだ。重量のある装備をしながらも、疾走という言葉がふさわしい速さで走っている。


 走りながらも、階段上から落ちてくるように、いや、実際に落ちながらも近寄ってくるゾンビたちを動揺もせずに、正確に狙い撃ち殺していく。


 ダンダンと激しく打ちつけるような床を蹴飛ばす足音、数段飛ばしで勢いよく走りながらのその姿は言葉に尽くせない迫力があった。


「あ〜、生存者は何階にいるんですかね? 外からだとよくわかりませんでしたが」


 次々と迫りくるゾンビたちにうんざりしながら叫ぶ部下へと答える。


「恐らくは屋上から下へ三階だ。入る前に確認しておいた。あと20階ほど登れば到着だ。簡単な話だろ?」


 冗談めかして教えてやる。それに実際、今の俺たちにとってはきつくはあるが無理ではない。


「へいへい、簡単すぎてあくびがでますねっと」


 肩をすくめながらも、またゾンビが落ちてきたので、素早く倒す部下。


「しかし、思っていたより敵が先に進んでいるみたいですよ、蝶野隊長」


 苦々しく倒したゾンビを見ながら、部下の一人が言ってくる。


「確かにそうだな。外から見た限りではもっといてもおかしくない」


 ロビーで倒した奴等を含めてもこんなに少ないはずがない。階段からたまに落ちてくる程度ではないはずだ。もっと大勢がきていて良いはずだ。


「荒須たちの方にゾンビたちは行ったんでしょうか?」


 別れた部隊のことを心配気な声音で聞いてくる。それも考えたが違うと判断を既にしてある。


「いや、銃声は外からしか聞こえてこない。恐らくは荒須隊員たちの方も敵は少ないんだ」


 首を横に振り、その考えを否定する。大勢荒須隊員たちの方に向かっているならば、もっとマンション内で銃声が響き渡るはずだ。


 嫌な予感がする。そして嫌な予感とは大体当たる。


 前を走っていた斥候の一際耳が良い部下が、何かに気づいて止まるようにハンドサインを出してくる。


 斥候が止まれと言ったら、その判断に疑いはない。その合図ですぐに走るのをやめて周囲を警戒する。


「蝶野隊長。あれ………聞こえませんか?」


 言われて耳を澄まして、周囲の音を聞く。聞き逃がさないように注意深く。


 外からの戦車砲の音、迎撃している銃声、様々な場所から聞こえてくる呻き声。そして最後に聞こえてくるのは………。


「ッ! くそっ! 敵が少なかったのはこれが原因かっ」


 悪態をつきながら、上の階段を見る。耳を澄ませば聞き取れた。調子外れの鼻歌が。


 この場にそぐわない歌声が。


 嫌な予感はどうやら当たったようだ。嘆息して蝶野はそっと上の階段を見るのであった。

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