156話 おっさんは司令官を楽しむ
広大な敷地にある上級指令センターにて誕生日席もとい司令官の席にて地域マップを確認している偉そうな男性がいる。
偉そうな男性というか、近寄って見てみるとわかるが、くたびれたおっさんである。
周りにはツヴァイたちが座って、各パネルを操りグラフを表示させている。
立体映像にて映しだされているのは、若木コミュニティのマップ。そして現状の建物から人々の居住状況まで、さまざまな情報が表示されているのがわかる。
くたびれたおっさんはその映像を見て軽い感じで頷いた。いや、たぶん重々しく頷いたつもりなのだろう。
そして、キリリと顔を引き締めて、おもむろに口を開く。
「ねぇ、ちょっと人多すぎない? この部屋は広いけど、それを上回るツヴァイたちがいない? というか、椅子足りてないよね? なんで椅子取りゲームみたいにツヴァイたちが争っているわけ?」
隣に座っているメイドたちに、映しだされているマップは全然関係ない発言をするくたびれたおっさん、朝倉遥であった。
確かに椅子は30席は用意されている。オペレーター席だ。しかしツヴァイたちはそれ以上に存在する。そのツヴァイたちが争って座っているのだろう。
二人で半分ずつ椅子をわけて座っているツヴァイ。ツヴァイの膝の上にツヴァイがのり、更にツヴァイがそのツヴァイの膝の上に座っていたり、椅子の周りに鉄条網を張って、誰も近づけないようにして座っているツヴァイもいる。
「せっかくの未来的なメカニカルでロマン溢れる司令室なのにツヴァイたちのコントが全てを台無しにしているよ? 混沌過ぎて台無しにされているよ?」
悲鳴にも近い嘆きを声音に含めて遥は叫ぶ。これはちょっと酷いよねと。
「まぁまぁ、そこは気にしないでマップを確認しましょう。司令」
遥の後ろに立っていた金色のヘアピンを輝かせてツヴァイリーダーの四季が、遥へと落ち着くように言う。ちなみにリーダーは四季、参謀はハカリと名付けを改めてした遥。適当な名付けだが、それでも二人は大喜びであった。
「う〜ん………。気にしないでか……。物凄い気になるんだけど……」
「マスター、ツヴァイたちは楽しんでいるだけなので無視して良いと思いますよ。さぁ、内政を始めましょう」
ナインが癒やしを感じさせる微笑みで四季と同じように言って宥めてくる。
しゃぁないと諦めて改めてマップを見る。複雑なグラフが横に出ている立体的な地図、様々な情報がのっているのが見る人が見ればわかる。
うんうんと頷き、おもむろに声を発するおっさん。もとい、くたびれたおっさん。
「ナインさんや、全くわかりません。見てもさっぱりわかりません」
困った表情で情けないことを隠さずに言うおっさん。
見る人が見ればわかる内容。即ち、わからない人間にはわからない。もちろん、遥はわからない人間に入る。知力の項目はステータスに無いし、こういう難しい内容は単純化してもらわないと困るおっさんである。
「お任せください、マスター。四季、例のグラフに変更を」
ナインが四季へと指示をする。誰が司令かわからない。
ちなみにサクヤは机につっぷして寝ていた。やる気のないことこの上ない。
「了解しました。グラフ変更開始」
その言葉で複雑に様々な情報が映っていた立体映像が、平面映像と変わった。
なんだか第一シリーズのシムなんとかというゲームの表記に似ている。ファミなんちゃらゲームっぽい安っぽい映像だ。凄い簡単な表記で小学生でも理解できる内容。
無駄に使われている超未来的システム。きっとこのシステムに知能があったら泣いている。
「よし、それではシムゲームを始める!」
遥はマウスとキーボードを前に行動を開始する。机の複雑な機械群に触る気はない。なんか触ったら壊れそうだし。
やっぱりマウスとキーボードだよねということで、コマンドを見る。色々なコマンドがあるのが画面がしょぼくなっても、機能は違うことを示している。
「ではでは、探索コマンドを押下だ!」
シムには普通ない魅力的なボタンを迷わずに押すおっさんである。モニタ画面には上級広域レーダによる関東の状況が映し出された。その時点でシムなゲームは終わりを告げた。だって探索コマンドだ。おっさんはシミュレーションゲームでは常に探索に人を出していた。出しすぎて内政ができなくなり滅亡したぐらいだ。
ピーコンピーコンとマップがやっぱり平面で空中に映し出される。立体はかっこいいけど、凄い見づらいと思う遥。
要塞ダムの地域部分は赤くなっており、危険度が高いと示してある。他は黄色、緑、若木コミュニティは一部黄色があるが基本青になっている。黄色以下どんどんとダークミュータントの危険度が低くなっているのだ。もちろん若木コミュニティはダークミュータントが1匹しかいないので基本青である。黄色の部分が静香がいる場所だ。
その中で注目する場所が映し出される。ほんの一部、1ドットぐらいの場所が青くなっており生存者がいることを示している。千葉、埼玉、そして東京のほんの一部、それでもぽつぽつとあることがわかる。群馬や茨城や神奈川は出てこない。多すぎて見にくくなるので。
腕を組み、その結果に唸る遥。ちょっとこれは凄いよと思う。
「信じられない。いまだ生き残りがいるとはね」
ドットを選択して拡大表記させると生存者3人とでる。他の箇所も同じだ、一番多くて30人ぐらいだろうか。大体は2~5人である。
それでも100箇所はあるだろう。1000人を少し超えるぐらいの人数が生き残っている。
「司令、この結果から見るとビルの屋上、下水道とグールが来られない場所で生存者は生き残っていると判断できます」
リーダーと同じく後ろに立っていたウサギリボンを可愛く揺らして参謀ハカリが自身の考えを伝えてくる。なんか口元がによによしているから、この指令センターでの話し合いが嬉しいのだ。
「………ふむ………。人類の生存能力を甘く見ていたか。これは凄いことだよ。たしかに海に行く際にもバイクで通り抜けただけだからなぁ」
分布的には緑の箇所に生存者は集中している。黄色にはほとんどいない。黄色地区で生き残っているのも凄いが。
ぎぃぎぃと椅子に寄り掛かり考える。まぁ、答えは決まっているのだが。
「新型機動兵器の試運転といこう。アインを呼び出せ!」
楽しそうな表情での遥の指示に従い、それぞれバラバラにオペレーターがアインを呼び出す。いくつもアインが映る同じ画面が出てくるのが、ちょっとうざい。ツヴァイたちよ、そろそろ連携してくれ。
「こちらアイン! ボス、いつでも指示通りに動けるぜ!」
喧々囂々の話し合いの結果、ようやく一つに絞られた画面から元気よく赤毛のポニーテールのアインが答えてくる。それに重々しく頷く遥。たぶん重々しく。
「アインよ、そのマップに映し出される生存者を救出に行くのだ! 新型戦車フォトンタンク10台及び無人フォトンタンク100台を使用せよ! ツヴァイ戦車隊を率いて群がる敵はすべて排除の上だ!」
ノリノリで指をアインに指さして司令官ごっこを楽しむおっさんである。このおっさんは何歳であろうか。
その指示にアインは花開くような満面の笑みで敬礼した。
「了解っ! フォトンタンクニワトリと随伴無人戦車ヒヨコにて生存者を救うぜっ!」
戦車の名前はわざと言わなかったのにと、遥はガクッと落胆する。このゲームの機動兵器の名付けおかしくない?と内心疑問に思う。運営がいたらクレームを入れるのに。
フォトンタンクニワトリは1機で10機までの無人フォトンタンクヒヨコを統率操作を行い部隊行動を可能にする超機動兵器である。要塞ダムの物量に対抗するために建造された地上用兵器だ。もちろんテキストには量子システム搭載の超兵器と書いてある。遥は全く量子システムを使用しているとは思っていないが。
「続いて、ヘリ部隊を呼び出せ!」
「了解。ヘリ部隊を呼び出します」
熾烈なる争いに勝ったオペレーターツヴァイがヘリ部隊を呼び出す。
「こちらヘリ部隊。司令、準備終わっております」
二画面にツヴァイが二人映し出される。
「よし、翼、羽深、クイーンビー2機に搭乗して無人フォトンヘリ部隊を率いて戦車隊を援護せよ! 空中………なんだっけ?」
この二人のヘリ搭乗者にも名づけをした遥である。そして、言葉がでないので、ナインに聞いてしまう司令官ごっこが完璧にできないおっさん。二人のツヴァイはサイドでそれぞれ左右に髪の編み上げをしているが違いがわかるようにだろう。ちなみに無人フォトンヘリはミツバチという名前なのは内緒。
ナインがにこやかな微笑みをして、耳元に顔を近づけて小声でそっと教えてくれる。耳元にナインの吐息がかかり、こそばゆくて背筋がゾクゾクするおっさんである。
「制空権です。マスター」
「うむ! それだ! 制空権を確保せよ!」
もう一度ビシッと指を突き出して指示を出す。翼たちも喜色満面の笑顔で敬礼をする。その後に、教えてくれてありがとうとナインの頭をナデナデするのも忘れない。
「了解しました。ヘリ部隊出撃いたします!」
翼たちの敬礼とともに画面が消える。最後の命令だと、振り向いてリーダーへと言葉をかける。
「四季! 新型量子システム搭載地上用強襲揚陸艦大山鳴動で出撃! 各部隊の指揮及び支援をせよ!」
「はっ! 了解しました。これより大山鳴動にて出撃いたします!」
四季も同じく敬礼とともに指令センターを飛び出していく。新型空中戦艦は未だ完成していないので、残念ながらお留守番。
おっさんは大山鳴動に搭乗しようか迷う。でも、司令官なのでここで指揮をとらなくちゃねと、椅子に深く座りなおした。決して、危険度が多少でもある場所へ行くのが怖いはずがない。何しろ立派な司令官なので。そんなことはあるはずがないのだ。
ちなみにアインやツヴァイたちの性能も大幅に変化している。こんな感じ。
アイン
マシンドロイドB(銃術特化タイプ)
筋力:60
装甲:60
器用度:40
超能力:40
精神力:60
スキル:体術LV4、銃術lV5、気配感知LV1、機械操作lv3、電子操作LV1、念動lv4、氷念動lv1、交渉lv1、統率lv1
装備:フォトンアサルトライフル
フォトンスーツ(防御力60)
フォトンパワードアーマー(防御力250)
ツヴァイ
マシンドロイドB
筋力:30
装甲:30
器用度:40
超能力:20
精神力:30
スキル:体術LV4、銃術lV4、気配感知LV1、機械操作lv3、装備作成LV2、交渉lv1、農業lv1、偽装lv1、氷念動lv1
装備:量産型フォトンアサルトライフル
簡易フォトンスーツ(防御力50)
量産型フォトンパワードアーマー(防御力200)
「えーと、次は………と。ツヴァイ工作隊を編成し、工作用クイーンアント10機、ワーカアント100機にて若木コミュニティの物資調達が終了したビル群や、家々の解体、上下水道の敷き直しをさせろ!」
「了解! 工作部隊を編成。ご命令通りに行動を開始させます!」
今回の機動兵器のコンセプトは簡単であり強力だ。指揮用機動兵器に無人兵器を随伴させて部隊行動をとらせる。人材が乏しいおっさんの軍団の苦肉の策である。
だって、ツヴァイたちがマシンドロイドを増やそうとすると、猛反対してくるのだ。しかも生体金属となったので、見かけは人間である。その美少女たちが涙目で訴えるのだ。おっさんに抗う術はない。
「今回の戦闘にて、要塞ダム周辺以外の都内、千葉、埼玉の半分を完全に制圧をする。目標は春、雪解けまでに制圧を完了することだ!」
決意に満ちた遥は皆に聞こえるように大声で目標を宣言する。グースカと気持ち良さそうに寝ている銀髪メイド以外は、その言葉に頷いて行動を開始した。この銀髪メイドはレモン水でも目に塗ってやろうか。
なにはともあれ、初めての司令官としての大規模作戦は始まった。
雪煙る中で、若木コミュニティの人々は見たことが無いほどの大量の戦車が通り過ぎるのを見ていた。
「なんだなんだ? 戦争か?」
「凄い! 凄いかっこいい!」
「なんだろうね? 問題が発生したのかね?」
全長25メートルはある超大型戦車が通過していく。白と赤色の戦車であり、大型の車体は傷をつけることも難しく思われる。戦車砲は一撃でビルをも容易く崩壊させそうだ。
後ろからは全長20メートルの黄色の同じ型であろう戦車がその戦車に続き列をなして移動していく。
空にもブレードローターの無い紅いヘリとそれに続く黒いヘリが大量に飛んでいく。
最後に全長150メートルぐらいの3連装砲を前甲板に3門、後甲板に1門、バルカン砲が大量に横に設置され、ミサイルポッドも両脇に搭載されている超大型の車両が移動してきた。
人々はこんな大量の軍隊を見たのは初めてである。何か問題が発生したのだろうかと不安を見せる。
そこで、超大型車両から声が響いた。
「こちらは財団大樹のナナシだ。これから私たちはしばらくの間、作戦行動を開始する。内容は簡単だ、千葉全域、埼玉の東半分、都内のほぼ全域を制圧。生存者を保護して安全な地域とする。しばらくはうるさいだろうが我慢してくれたまえ」
ナナシというスーツのエリートの声が聞こえて、人々はざわめく。遂に大樹は関東の安全を確保するためにナナシ直々に兵を率いて行動を開始したのだと。
まさか、おっさんは外は危険なので指令センターにいるとは夢にも思っていない。
その声を聞いて、飛び出してきた男性。豪族である。
「おい! 生存者を確保しつつ制圧作戦を行うなら、俺たちも連れていけ! 防衛隊も手伝うぜ!」
血相を変えて、怒鳴りながら大山鳴動に豪族は自分たちも手伝うと声をかける。
「………ふむ………。いいだろう。新型装甲輸送トラックを10台貸与しよう。前線は機動兵器で片付けるので、君たちは生存者を確保。そして機動兵器から漏れた敵の撃破をお願いしよう。小物が撃破から漏れるだろうから、後方にてその対応をよろしく頼む。これは春までの作戦行動だ」
一方的に話しかける遥に豪族も口元を歪める。
「へっ、それなら作戦行動に移る前に相談に来いっ! 蝶野、仙崎! 急いで部隊の編成をしろ、春までという話だ。それを念頭において編成しろ!」
合同作戦となったことに、豪族は憎まれ口を叩きながらも嬉しそうにする。そして同様に何事かと飛び出してきた二人へと指示を出す。
「わかりました。ついに我々の手で関東を奪還できる日がきたのですな」
「すぐに兵の編成を行います。武器の準備も五野さんに緊急で用意してもらいましょう」
二人とも敬礼を行い、すぐにその場を離れて準備をするために走りだす。
おぉっ!と人々の喧騒は大きくなる。ついに関東の奪還に動くらしい。人間の手による奪還作戦の始まりだと大騒ぎになる。
指令センターにて、遥は大騒ぎになる人々を見ながら、ニヤリと楽しそうに笑う。肘を机につけてどこかのアニメの司令官を真似て両手を合わせて呟く。
「大規模作戦は初めてだ。私の手腕が唸るな!」
おっさんの手腕、即ち数と質にて敵を上回り正面から撃破するだけ。考えなしの作戦ともいえない作戦である。
だが、それでいいのだ。負けることはない。負けそうならレキの出番だとおっさんはモニターに映る進軍状況を見ながら、そう考えるのであった。




