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コンクリートジャングルオブハザード  作者: バッド
12章 一休みしよう

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154話 正月を迎えるおっさん

 広大な敷地。様々な多くの建物がポツンポツンと存在している。矛盾しているようだが、合っている。広すぎる敷地のため、十軒程度のでかい建物を建てても、まだまだ全然更地が続くのである。そして、それは地下にも存在するので無駄な土地である。


 そんな敷地の真ん中に、過去では上流階級が住むだろう豪邸が存在する。五軒の家を侵食して作られた庭付きガレージ付き、家庭菜園付きの、おしゃれなレンガ風の豪邸だ。


 積雪の陽射しを跳ね返し、光の加減でキラキラと輝いている豪邸。


 その中では、美女と美少女二人。そして事案、通報待ったなしのおっさんが暮らしている。


 今は和室で、年明けの挨拶をしているところであった。


 那由多人形が。


 和室は落ち着ける場所であるが、それは少人数だからだと言える。今は奥行きを広く見せるように、魔改造されてそこに那由多人形が座っていた。そしてツヴァイたちもぞろぞろいるので、ちょっと狭い。


 無論、カメラを前に延々と話している。簡単にと言ったのに、サクヤは調子にのって、はや20分は経っている。


「正月も元旦の朝から迷惑だろ、あいつ。挨拶長すぎない? そろそろ終わりにさせない?」


 もう疲れたおっさんはカメラに入らない位置で、ジェスチャーで終わりにしろとサクヤに合図を送る。


 しかし、如何せん、おっさんのジェスチャーである。何を言いたいのかさっぱりわからない。謎の宇宙人を呼び出そうとしている踊りか、生贄を捧げて悪魔を呼び出して、その悪魔に食われる小物のおっさんの踊りにしか見えない。


 それでも以心伝心な二人なのだから、通じるはずなのにそれを無視して話を続ける那由多人形使いサクヤ。


 遥も負けてはいない。寝室に戻りレキぼでぃへとチェンジ。そのままスタスタと和室に戻ってくる。


 なぜレキぼでぃへと変えたのかと、那由多人形の眉がピクリと動いたので、ニヤリと笑い挨拶が終わったら食べるはずの用意してあるおせち料理の伊達巻を一つ手に取る。


 そうして、可愛いお口でパクリと咥えてサクヤへと伊達巻を突き出すように見せた。


「それでは今年が良い年になるように。それではさらばだ」


 それを見てすぐに挨拶をやめる那由多人形。カメラのスイッチもツヴァイに命じて、オフにする。


 オフにするやいなや、どこかの3世みたいに、スポーンと人形を脱ぎ捨てておっさん少女へダイビングしてきた。


「今年初の口移しですね、ご主人様!」


 とうっとサクヤの顔にカウンターの蹴りを入れる非道なるおっさん少女である。ちょっと楽しそうなのが、新たなる世界を開きそう。


「なんのっ!」


 蹴られたサクヤは空中でくるりと回転して、スタッと床に着地して、すぐさま身体を華麗に翻す。舞うようにふわりと宙に浮きおっさん少女のくわえた伊達巻に自らの唇を突き出す。


 ハッと遥が気がついた時には、まるでどら猫が魚を奪いとるように伊達巻は取られていた。サッとさり気なく唇を掠めていった感触もある。


 その感触に真っ赤になる。耳まで真っ赤になるおっさん少女。


「おにょれ、サクヤ〜!」


 むき〜と真っ赤になった顔を誤魔化すように怒る演技を精一杯してサクヤをうるうるおめめで睨む。


「おほほほほ。ご主人様、隙ありです。そして、私はご主人様を好き過ぎです」


 おほほと笑い、ぴょんぴょんと踊るように機嫌よくジャンプするサクヤと、それを照れ隠しで、待て待てと追いかけるおっさん少女。


 無論照れ隠しだ。おっさんにとって、美女とのイベントは事故に見せかけてもご褒美なのだから。


 それを柔らかな笑顔で眺めるナインであった。





 若木ビル。既に役所としての本来の機能を取り戻し始めている。その少し離れた場所に大使館のような屋敷がいつの間にか建設されていた。


 人々が気づかないうちに、広い敷地を贅沢に使用した瀟洒な屋敷である。春になったら庭も美しく造成予定だ。3メートルはある壁に囲まれており、門構えには財団大樹支部と看板が設置してある。

 

 普通、気づかないうちに屋敷が建っていたら驚くが、もはや若木コミュニティの面々は驚くこともない。あぁ、また大樹の技術だねですませてしまう。


 超常の現象に慣れ過ぎな人々であった。それに人々はこの屋敷が建てられたことよりも気になることがあるのだ。それは人々の注目を集めていた。


 このことについて、説明はいつしてくれるのだろうかと、屋敷で正月の宴を楽しむ人々を待つのであった。





 屋敷の中では100人近くの人間が宴会用の広間に集まっていた。百畳を軽く超える畳が敷かれている純和室風だ。


 宴会用の卓がずらりと並べられており、新鮮な大ぶりのトロにアワビ、伊勢海老の刺身から、小鍋に入っている一目で高いとわかる厚切りの霜降り肉。他の料理も丁寧に作られているのがわかる綺麗な盛り付けでふんだんにおいてあった。


 ざわざわとお互いで話し合いながら、宴の始まりを待っている。それをよそに和服美人さんが、次々と人々のコップへとビールを注ぐ。


 その上席におっさんは和服姿で座っていた。


 なぜ仕事が無くなったこの世界で、飲み会をしないといけないのだろう、嫌だなぁと思う遥。会社の飲み会など嫌なだけなおっさんだ。


 もう帰ってゴロゴロしたい。いつもの如くゴロゴロしたいのですがと内心で思うが、表情にはさすがに出さない。


 まぁ、シム的なイベントだから仕方ないと我慢している。ゲームイベントだと思わないとやっていけない。


「司令、準備ができました」


 耳元に偽装済みのたおやかな和服美人。ツヴァイ秘書タイプ。ヒソカさんが声をかけてくる。涼やかな鈴のような声音で耳に入ると心地よい。ちなみに名前はいつもの如く職に合わせています。


 他の和服美人さんたちは現地雇用である。なので和服補正で美人に見えると、失礼なことを考える遥。声にはもちろん出さないけど。


 出したらセクハラおっさん一直線間違いなし。昔の会社でもそんなことを冗談でも口にしたら、社会的にまずくなること請け合いだった。


「さて、では準備もできたことだし挨拶を」


 膝をパンと叩いて、ちょっとその音で周りは静まり返る。今日のお客はいつもの重要人物たちと、役所関係やら牧場やら農場関係の主要として雇用した人々である。


 膝の音だけで静まり返るところから、おっさんの権力の強さがわかる。そして、膝を強く叩きすぎて、ちょっと痛かったと内心涙目である。


 皆の注目がおっさんに集まるのを苦々しく思いながらも頑張って挨拶を始める。


「今年は良い年となるようにお互いで頑張っていきたいと思う」


 冷徹にたぶん見えるであろう目つきで、注目する人々を見渡しながら、語り始める。こんな大勢の前で挨拶をするのは小学校以来だよと思いながら。


「大樹の支援による人々の安定した生活の一環として、人々のほとんどが入居できる小枝荘を多数建築した。まぁ、外を見てもらえればわかると思うが」


 その言葉と人々は外に多数建設されていた予想通りのマンションであることを確認できて、おぉっとどよめいた。さすが大樹だと顔を合わせて、ヒソヒソ話している。きっとこの宴が終わったら大ニュースとして皆に広まることは間違いない。


 遥の言葉通り、若木ビルからはちょっと離れているが、多数の三階建てのアパートが建築されていた。防音済みの壁なので、隣からも上からも音は一切しない超建材でできたアパート。防音は重要なのだと、最初に建設条件に入れたのである。


 2LDKの部屋。そしてトイレ、お風呂ももちろんついているアパートは9000世帯が入居できるだけ建築した。


 残りの人たちは既に一軒家に住んでいたりしたので、5LDKの家を用意したり、店兼自宅の商人の人たち用に他を用意した。


 これにてようやく人々はオフィス部屋から、しっかりとした家へと移り住むことができるのである。


 積雪の中、引っ越しを一斉にする人々……。ちょっと鬼畜な感じがするが、この話が広がれば人々は気にせずに引っ越しをするだろう。


 ちなみに月5000円の家賃。光熱費は抜きだ。遥は内心で長屋と呼んでいることは秘密だ。まぁ、長屋と呼んでいても超常の力にて建築されたアパートなので、現代のマンションよりも全然住み心地は良い。防音だし。


 その後もナインがウィンドウからカンペを用意してくれたので、どもらずに挨拶を終える。気の利くナインはあとで頭をナデナデしよう。どもらずに終えたのは最高だと喜ぶおっさん。


 だが挨拶だけで終わらないのが、宴会の嫌なところである。


 なにが嫌なところだというと、人々が徳利片手に挨拶にくるのだ。


 嫌だなぁと思いながらも、挨拶にきた人々からお猪口に酒をトトトと注いでもらい簡単に返事を返す。ぶっきらぼうにも、冷たそうにも見えて、人々からはさすが大樹のエリートだとその対応で思われてしまう。


 昔なら注ぎに行く立場もあったので、一通り上司に挨拶がてら、部下から挨拶を受けておしまい。あとはさり気なく宴会料理をつまむばかりであったのだが、今は立場が違う。


 せっかくの美味しい料理にも手をつけられず、延々と挨拶、挨拶と気が滅入る。女中さんが揚げたて天ぷらやらを持ってくるのに、冷えるがまま。そろそろ皆さん卓に戻って料理を楽しもうよと言いたいおっさん。


 でも、エリートなおっさんを演じているから仕方ない。


「いやいや、ナナシ様のご手腕により人々も歓喜の涙を流すでしょう。ささ、どうぞどうぞ」


 狐目の男が取り巻きと一緒にさっきから離れないで話してくるのもウザい。どうやらそこそこ能力はあったようで、役所関係に雇用されたらしい。


「どうぞ、ナナシ様」


 見知らぬ化粧臭い女性がお酒を注いでくるのも面倒だ。ちょっと化粧つけすぎじゃない? 香水の匂いが料理の匂いやお酒の匂いをだめにしてるよと言いたい。


 ここぞとばかりにおべっかを使う人たちにうんざりである。だが、救いの手はやってきた。ドスンと目の前に挨拶にきた豪族である。


「これはこれは、百地代表。明けましておめでとうございます」


 内心でホッとしながら、喜んで豪族に話しかける。


「あぁ、明けましておめでとうございます、だな。今年は崩壊後の初の年だ。社会構造も変わっちまった。大変なことが山ほどあるだろうがよろしくな」


 相変わらずの仏頂面で豪族は挨拶する。変わらぬ態度だなぁと遥は苦笑した。


「ナナシ様なら、簡単な仕事でしょう。問題ありませんよ、百地代表」


 狐目の男がまたもやおべっかをしてくるので、かぶりをふって否定する。


「いや、百地代表のおっしゃるとおりだろう。これからもよろしく頼む。まずは引っ越しが一大イベントとなると思うが」


 尊大な態度にて、豪族へとできるだけ真面目で冷徹な表情をして、お願いする遥。崩壊前なら絶対にできない態度だ。崩壊前なら強面の豪族には絶対に近づかない。


「面倒なことだが、人々は歓喜するだろうよ。あぁ、今年もよろしくな」


 豪族はニヤリと強面を笑いに変えて、お猪口をお互いに掲げて、挨拶をかわすのであった。


 その後にナナも挨拶に来て、あっさりと卓に戻っていく。どうやらナナにとって、遥の好意度は上がらない模様。


 そして、未だに離れない狐目たちに、ちょっとイライラしてきて眉に皺がよる。


 そのあとに不思議なことが起きた。遥にとっては助かる内容だが。


 叶得が親とともに挨拶に来たときである。

 

「明けましておめでとうございます。ナナシさん」


 いつもの仏頂面ではなく、真面目な表情で新年の挨拶をしてくる。


 褐色少女は日焼けがなぜか落ちることがなく、未だに褐色少女だ。どうやらオアシス概念は褐色少女たち、砂漠の人々の日焼けをそのままにしてしまったようだ。


 和服を着ており、胸が薄いので可愛く似合っている。親御さんも和服姿で挨拶をしてくるので、挨拶を返す。


「叶得さん、和服姿が似合っていますな。可愛いですよ」


 胸が薄いのでと内心で呟く。まぁ、それでも可愛く似合っているのには間違いない。


 その褒め言葉に、口元をニヨニヨとさせて、身体を揺らして頬を染めて嬉しがる叶得。


「貴方も似合っているわよっ、馬子にも衣装ねっ」


 ぶっきらぼうに遥を褒めてくるが、言い方がツンだなぁ、現実では需要がないなぁと苦笑する遥。現実のツンはひたすら相手を怒らせるか嫌な思いをさせるだけだ。


「きみっ、ナナシ様に失礼な言い方だなっ」

「そうよ、お子様はもう下がったら?」


 取り巻き連中がうるさく騒ぐが、叶得は気にせずに人差し指をたてて遥へと向けた。


 なんだろと思ったら、そのまま人差し指を遥の眉間にあててグリグリと動かした。可愛い女の子の柔らかな指でグリグリされると気持ちいいなぁと思う。


「ちょっと、眉間に皺がよっているわよ。疲れているんじゃない? 仕事しすぎなら休んだほうが良いわよ」


 人差し指で遥の眉間をグリグリしながら叶得は心配気だ。


「そうかい。自分では休んでいるつもりなのだが」


「自分はそう思っても、他人からは全然休んでいるようには見えないわよ」


 そうかな? 休みの間に働いていると思うんだけどと自覚がありすぎるおっさんである。


 その二人の姿を見てこほんと咳払いをした狐目の男たち、


「それでは私は他のところへ挨拶をしてきます」

「では、また後日」 

「お呼びだてしていただければすぐに行きますので」


 さっきからダボハゼのようにくっついて離れなかった取り巻き連中が、あっさりと気まずそうな表情で去っていった。


 おぉ、ラッキーと内心喜ぶ遥である。なぜかわからないが取り巻き連中が消えてくれたのだ。


 何気に狐目たちの、噂は本当だったかという、ヒソヒソ声が耳に入ったのが、気になったが。


 気づけば叶得の父親が厳しい目つきで睨んできているし、母親の方はニコニコ笑顔である。


 なんだなんだ? 叶得に対して、なんかした?と考えるが取引以外で会ったこともない。手を出しているという噂かと考えるが、そもそもそんなに若木にもきていないのだ。噂になりようがないと頭を悩ます。


 でもまぁ、ウザい連中が消えてくれて良かったと一安心して思考を停止するおっさんであった。


 まだ、叶得が眉間をグリグリしているが、ちょっと気持ちいいし、可愛い女の子が自分からやってくれているのだ。事案にはなるまいと、されるがままにして、言葉を発した。


「そういえば、君が言っていた雑草サボテンの汁を服につけると汚れや劣化が少なくなるという話だが確かだった。あとでこの発見の対価を支払おう」


「そうでしょう? やっぱりそんな効果があると思っていたの! 偶然だったけど、汚れがつきにくいと発見したの!」


 その言葉に叶得は機嫌良くなる。フフンと得意そうに頬を紅潮させている。


「いやいや、君の目のつけどころは素晴らしい。これからもよろしく頼む」


 素材を見つける天才かと遥は叶得を見ながら、微笑む。おっさんの微笑みは需要がないと思われるが。


「フフン、ナナシさんが私の発見をちゃんと確かめてくれるからよっ。これからも頑張るからよろしくね」


 叶得は嬉しげに微笑む。


「それと君じゃなくて、叶得でいいわっ。いつも言っているでしょ」


 顔を背けながら、照れるように言ってくるので、苦笑をしつつ


「あぁ、これからもよろしく頼む、叶得さん」


 遥はそう返事をするのであった。


 そんな遥は知らない。叶得が恋人か愛人かと思われていることを。コミュニティに来て、いきなり工房を持たせて、二人きりで取引と称して部屋に籠もっている。そう人々からは思われていた。


 実際は叶得の発見や発明は9割は使えない内容である。そのために、わざわざ忙しい親御さんはついてこずに、叶得だけが会いにくる。


 それが真実なのだが、人々からはそう見られない。滅多に来ないナナシが叶得に会うためだけに若木へ来る。そして二人で部屋に長い間籠もっているとなったら、なにかいやらしいことをしているのだと妄想させた。


 そして、そのことを叶得に尋ねると、真っ赤になって否定するので、これは確実に年の差カップルだと確定される裏づけとなった。


 遥も先程そんな噂が流れているかもとは一瞬考えたが、自分は全然若木に来ていないからと、その考えをすぐに捨ててしまった。まぁ、遥視点からすると当たり前だろう。それにおっさんは、モテないと自覚している。


 なので、和気あいあいと話す二人を周りは離れて眺めているのであった。


 もちろんその噂をツヴァイから聞いていたが、わざわざ敵を作る必要はないので、遥には黙っている策士ナイン。嫉妬の表情すら、その噂に気づかれないように見せない。





 叶得たちが挨拶を終えて、他人から見たらいちゃいちゃが終わり最後の人物が来た。


 ようやく料理が食べられるよと、パクパク食べていたら、誰あろう静香がやってきた。珍しく和服を着て髪を結い上げている。そしていつもの妖しげな微笑みをしながら。


「明けましておめでとうございます。司令」


 ぬ!とその物言いに気づいて苦笑する。人外である静香はツヴァイの発した言葉を聞き逃さなかったようだ。


 油断も隙もないなと、内心これからはもっと気をつけようと戒めて返答する。


「耳聡いな、五野さん。この間、功績を評価されて、全面的な外交関係での指揮権を貰ってね。司令となったわけだ」


 ニヤリと口元を歪めて笑い、ツッコミ禁止ねと内心は戦々恐々している。ちょっと離れたところで、ダンボのように耳を澄ましている狐目が見えたが、致し方あるまい。


「あら、おめでとうございます。ナナシさんの功績は凄いものがありますものね。そういえばお嬢様は?」


 静香は微笑みとともにお祝いの言葉をしてくる。さらに痛いところをついてくるなと警戒しながらも返事をする。


「レキのことを言っているのであれば、彼女は大樹本部で友人たちと餅つき大会を開いているよ。彼女は騒ぐのが好きだからな」


 もうツッコミは無しだよと、にべもなく語る遥。まぁ、おっさん少女がやりそうなことだから、疑問には思われにくいだろう。


 その返事に納得して頷く静香。あぁ、彼女ならやるだろうと確信をもっているようだ。


 むむ!と少し離れたところにて、ナナが耳を澄ましているのが見えたが、もう気にしないことに決めた。たぶん、レキぼでぃで若木に来たら、餅つき大会をやろうと対抗してくる元女警官がでてくるかもしれない。


「で……だ。君の欲しい言葉はそれではあるまい? この支部に君の部屋を用意した。通信も常駐の支部員に伝えれば制限はあるが、許可しよう」


 大盤振る舞いだが、今回の静香の功績は無視できないほどのものだ。


 一瞬考えたあとに、静香は嬉しげに微笑んだ。両手をパンと合わせて、遥を見つめる。


「ありがとうございます、司令。もっと功績をあげて本部詰めになるように頑張りますわ」


 いつもの妖しげな微笑みを見せる静香。厄介事になるから、本部への立ち入りは禁止だよと内心で思いながらも返事をする。何しろおっさんとメイドたちしかいないのだ。


「静香さんには期待をしている。頑張ってくれたまえ」


 その後は談笑で話は終わるのであった。


 しばらくは、ご昇進おめでとうございますと、また取り巻き連中が来たが、そろそろ本部へと帰らねばと挨拶をして遥は帰宅した。


 帰りの車中。新たに作ったフォトンロイヤルカーというリムジンみたいな車の中で、フカフカの椅子に沈み込みながら、遥は考える。


 そろそろ上下水道も敷き直す。田園を作成するためにも、更地を大量に作らねばと。


「シムなゲームの出発点だ。そう思うだろう?」


 ウィンドウ越しににこやかな笑顔を返すサクヤとナインを見ながら、面白そうな新たなることを考えるおっさんであった。

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