150話 秘密の倉庫へと潜入するおっさん少女
朝食を終えて、スイートルームに戻ったおっさん少女と女武器商人。再びリビングルームでくつろいでいた。のんびりとしながら現状を確認する。
「どうやら、この父島は市井松のメンバー以外は生き残っていないみたいね」
静香が確信をもった顔で、生き残った人間の種類を告げてくる。
「どうして市井松のグループだけと言えるんですか?他にもいるかもしれませんよ? たしか100人もいるんですし」
当然であろう遥の問いに首を横に振り否定する静香。人差し指をたてて説明をしてくる。
「こんな小さな島では、多分銃火器なんか駐在所のお巡りさんが短銃をもっているぐらいが良いところじゃないかしら? 逃げるところも少なかったのでしょう。たぶん抵抗もできずにあっという間に滅ぼされたんだわ」
ふむふむと顎に可愛いちっこい手をつけて、その説明内容について考える。なるほど、ネズミ算式に増えるゾンビだ。殺した相手が、またゾンビになり他を襲う。ゾンビ映画そのままの状況がここを襲い人口も少ないとなると、たしかにあっという間に滅ぼされたであろう。
だが、そこでなぜ市井松のグループだけ生き残れたのかがわからない。疑問を問いただそうと遥がする前に、静香が答えた。
「なぜ、市井松のグループだけ生き残れたのか? いいえ、なぜここのホテルマンだけ生き残っていたのかというと簡単よ。たぶん武装していたんだわ。それもゾンビに備えてではなく、他の事に対してね」
「むむ、そうなると、このホテルでは何か後ろ暗いことをしてたのですか?」
武装していたという静香の答え。それならば確かにゾンビから生き残れるだろう。初期のゾンビは所詮小走りゾンビだったのだ。数も少ないとなれば簡単に生き残れるだろう。皮肉なことである。人口が少ないから島の人間は死に絶え、武装をしていた人間は人口が少ないから、襲い掛かってくるゾンビが少なく生き残れたのだ。
「では、なにをしていたかというわけですね。そうなると豪華客船が外遊ツアーをしていたというのもカモフラージュというわけですか」
「そうね、本当に豪華客船を楽しんでいた人間もいただろうけど、ほとんどはこのホテル内での何かが目的ではなかったのかしら」
語り終えて満足そうにソファに沈み込むように座る静香。それが本当ならここにはなにかがあるはずだ。
その思考の行きつく先に気づき、静香を見ると、その視線に気づいた静香も妖しく蠱惑的に微笑んだ。
「そう、お嬢様が思いついた通り、ここには何かがあるわ。しかもお金の匂いがするやつよ。きっと貴金属もあるはずよ」
ほうほうと、遥も頷きながら次の指針を決めた。
「となると、このホテルを調べるしかないですね。たしか摩耶さんが言っていたのは地下ですよね」
見つからないように。確かにそう高飛車女は言っていた。何かあったら地下に隠れるということは、地下にはそれなりのものが隠されているということだ。そう言って、眠そうな目を静香に向けながらにっこりとおっさん少女は微笑みを返した。
スイートルームから外出するためにドアを開ける。外を見ると、ドアの側に二人の兵士が立っていた。暇そうにしていたが、ドアを開けられたことに気づいて、のんびりと警戒心など持たないで近寄ってきた。
静香と遥が外に出てきたことに気づき、押しとどめるように通路を塞ぎ、こちらへと面倒くさそうに問いかけてくる。
「あ~、失礼。どちらへ行くんですか? 外は危険ですよ」
その問いに妖しい微笑みで静香は返事をする。
「ちょっとお宝を探しに地下へ行きたいと思ってね。あるんでしょう? 地下に」
その問いに顔色を変える兵士たち。すぐに腕を繰り出し、静香を取り押さえようとするが、その対応は致命的に何もかも遅かった。
トンッとお腹に何か衝撃を感じる。その衝撃になんだと思い見てみるとちっこい手のひらが自分の腹に添えらえていた。いつの間にか、アホっぽいと思っていた美少女が兵士たちの腹にそえるように手のひらを押し当てていたのだ。
なにを?と疑問に思ったのは一瞬であった。すぐに体全体に雷のような衝撃が走り自分の意識が暗闇に落ちていくことが分かった。
どさりと二人の兵士たちはあっさりと意識を落とし床へと倒れ伏す。それを微笑みを変えず眺めている静香。
「さすがね。殺したの?」
自分は殺人鬼か何かですかと抗議のために、頬を可愛く膨らませて眠そうな目で静香を見ながら答える遥。ちょっと振動を体全体に伝播させて意識を飛ばしただけだ。
「まさか、ちょっと気絶してもらっただけです。数時間もすれば起きるかと」
「フフフ、兵士たちも形無しね。では、探索を開始しますか」
そう言って、指輪を指に嵌める静香。たしか近くの人間には気づかれず、遠くの人間には意味のない超常の指輪だったはずと遥は気づく。人の名前を覚えるのは苦手でも、そういうアイテムの名前は憶えていたおっさん少女である。
では、私もと段ボール箱を取り出す。そして被って床をずりずりと這い出してエレベーターまで近づいていく。
顔を手で覆い、静香はその段ボール箱を見ながら、それでも見つからない自信があるのだろうと気を取り直して、自分もエレベーターへと歩み寄る。
エレベーターのボタンは地下はなく、1階までである。だが、そんなの関係ない。こういうパターンはお互いにゲームでよく知っているのだ。
「なんとかなる? お嬢様」
「余裕ですね」
エレベーターのボタン下にある整備用の蓋をそっとつつく。解錠スキルが働きあっさりと蓋は開いた。
蓋が開いた中には地下3階までのボタンが設置してあった。
「よくあるギミックだけど………。 これゲームなら抗議ものよね? キーアイテムを探さずに進んじゃうんだもの」
「そうですか? スキルがあるとキーアイテム関係なく進めるゲームってあると思いますよ」
「あぁ、たしかにそんなゲームもあったわね。ネットゲーム化したら、持ち味が無くなった核戦争後を遊ぶゲームとかね」
ふむと頷いて、静香はボタンを見る。どのボタンを押下するか迷っている様子だ。
「静香さん、甘いですよ。まだあるみたいです」
蓋を開いた中にはボタンがあった。そしてカードリーダーもあったのである。カードリーダーをつつく遥。電子操作スキルにてクラッキングされて、ピッと電子音が響きもう一つのボタンが一番下から現れた。
「そっか。お客相手の地下ボタンならば、絶対に商品を入れるボタンはお客には見えないようにするものね。やるわね、お嬢様」
にやりといたずらそうに微笑み、そのボタンを押そうとする静香。だが、押す前にエレベーターは動き出す。
「おっと、誰かに呼ばれたみたいですね。まずいです」
段ボール箱を被り直し、サッとエレベーターの隅っこに移動するおっさん少女。そのまま隠蔽スキルにて存在を消す。
「そうね。いったん隠れますか」
開いた蓋を戻して静香は段ボール箱の上に座る。おっさん少女はむぅ~と抗議の声を出すが、無視されてしまう。
エレベータはすぐに止まり、ドアが開く。そして入ってきたのは摩耶と奥津であった。
摩耶はイライラした表情で指を噛みながら1階を押す。そして奥津と話し始めた。
「本当に助けが来るとしたら、まずいわ。貴方たちの銃について説明がつかないもの。商品と一緒に地下に隠れておく?」
「まぁ、本当は外国に行くはずだったオイルタンカーだ。そこの護衛と言って誤魔化すしかないと思いますがね。さすがに全員が消えたら、どこにいるか調べられますよ」
腕を組んで考えこむ摩耶。それに奥津は悪そうに笑い、話しかける。
「それか、あの姉妹には消えてもらいますか? それならば、俺たちは全員地下に隠れていてもおかしくない」
その提案を考慮したのだろうが、すぐに摩耶は首を横に振り否定した。
「ダメよ。あのクルーザー見たでしょ? あれは数十億はするわ。安くないのよ。そんな金持ち姉妹がいなくなったら絶対に親が金をかけて調べるに決まっているわ。甘やかされている姉妹みたいだし」
「ですなぁ。自由奔放な金持ち姉妹みたいですからな。ならやはりオイルタンカーを護衛していたとするしかありませんぜ。といっても、部下のほとんどは地下に隠れさせましょう。数人なら隠蔽工作をしてもらえるのでしょう?」
摩耶の言葉に納得して、姉妹を殺すのを諦める奥津。これが普通の人間なら殺していたであろう会話だ。
「せっかく闇のオークションができるようにしたのに、こんなことになるなんて! 客船の商品を全部救援隊が来る前に地下に移動させておかないと。盗まれたはずの美術品なんか救援隊に見せられないわよ。本来ならば島外を回遊している間に運び込むつもりだったのに!」
非常に悔し気に摩耶が指を噛みながら、奥津へと指示を出す。それに対して奥津は即答できない。昨日の戦いで敵がかなりの強さを誇っていたことに気づいたからだ。
「客船の商品を運ぶのは難しいですぜ。あそこのゾンビどもは、封鎖したときのようにノロノロと小走りで走ってこなかった。勢いよく走ってきたんだ。それに銃弾にも数発は耐えた。確実に死人がでる作戦に部下を行かせることはできませんぜ」
「うぐぐぐ、それは本当なのね? ………仕方ないわ。盗品の場所は普通には気づかれない存在しない船内区画。救援隊に気づかれないことを祈るしかないわね」
摩耶は残念そうに、不確定であるが見つからないことを祈る。
「やれやれ………。船舶の社長令嬢も大変ですな」
呆れたように口元を歪めて、肩をすくめながらその姿をみる奥津。
「うるさいわね!盗品オークションは儲かるのよ! それに船舶業界はね、景気が凄い悪いのよ。こんなことでもしないと稼げないの! どうしてこんなことになったのかしら? なにかウィルスが盗品に入っていたのかしら?」
その摩耶の答えに目をスッと細めて真剣な表情になる奥津。ごま塩ヒゲが生えた顎に手をあてて返事をする。
「さて………。それが不思議ですな。俺らがこの島になんとかして到着したときには、ここもゾンビどもで溢れていた。てっきり映画みたいに全世界的現象かと思ったんですが………」
話し合う二人。チーンとエレベータが1階に着いたことを示す。外に出ながらも、尚、話し続ける二人。
「お父様はどこにいったのよ! なんであんな古びた辞書ばかり見ているわけ?」
「確か、あの辞書はフランスの………」
遠ざかっていく二人。そしてエレベータの扉は閉まり、静香と遥の二人だけとなったのである。
ふぅ~と息を吐き、緊張感をほぐす静香。ばれないとわかっていても緊張はするものだ。
「でも、面白い話をしてくれるわね。あの二人」
段ボール箱を脱いで立ち上がる遥。静香へと自分の感想も伝える。
「なかなかのNPCっぷりでしたね。私たちが聞きたいことを全て話してくれましたよ」
「NPCって、酷いわね。確かに色々喋ってくれたわ。おかげで財宝があるとわかったし、良いことばかりね」
静香にとっては朗報だろう。なにせ財宝があることがわかったのだから。でも気になることもある。というか、それしか気にならない遥。
「気になることもありますよね。凄い気になることも。ちょび髭のおっさんは怪しいですよ?というか、怪しさしかないんですけど」
我慢できないで、結局口にだしてしまうおっさん少女である。
うんうん、わかっているわよと静香も同意して憐れみを誘う目つきで遥を見る。
「物事には仕方ないこともあるわ。ちょび髭が尊い犠牲になるのも、その一つね」
すでに、ちょび髭は犠牲になることが決定しているらしい。酷い女武器商人である。
はぁ、とため息をつき、遥もちょび髭の運命を思う。
「少しは歯ごたえがあるといいんですが。瞬殺だと、ちょっぴり罪悪感が湧くのですが」
女武器商人に負けず劣らず、酷いおっさん少女。ちょび髭は死ぬ運命だと信じている言葉であった。
まぁ、どう考えてもフラグがバンバンたっていた。これでちょび髭はただの草臥れたおっさんだと、崩壊前の遥と同じ存在だ。即ち脇役人生まっしぐら。でも、金持ちなのだから、ちょび髭の勝ちであるが。脇役人生でも金持ちなら問題ないと羨ましがるおっさん少女であった。
しょうもないことを話してから、静香は再びエレベーターのボタンの蓋を開ける。そして、迷わずに蓋のさらに下、隠されていたボタンを押す。
「恐らくは他の地下ボタンはオークション会場ね。だとすると、最後が保管室に決まっているわ」
蠱惑的な微笑みで、財宝があると期待して目を輝かせながらエレベーターが移動するのを待つ静香。
「何があるんでしょうか? 鬼がでるか蛇がでるかというわけですか」
遥も眠たそうな可愛いお目々をキラキラと輝かせながら、ボスステージかもしれない場所へ期待感を持つ。
「鬼でも、蛇でもでてきたら、お嬢様に戦いは任せるわ。私は財宝の保護にまわるからよろしくね」
キリッと真剣な目つきで、口元は財宝への期待感で緩ませながら、ふざけたことを言ってくる相変わらずの職業女武器商人。
「はぁ〜。 そろそろ本当に女泥棒に職業変更を推奨しますよ」
ため息とともに、いつもの静香への職業変更を勧める。
「駄目よ。商人でないと、これからどうやって貴金属を対価に武器を売れば良いの」
そう返事をして、静香は微笑むままであった。
チーンと到着する音がして扉が開く。扉前には見張りがいるかもと予想して身構えていた二人。
だが、拍子抜けした。外には誰もいなかった。通路の陰にも誰もいなかった。
「まぁ、確かに気配感知で、この階は誰もいないと知っていたんですが」
やっぱり財宝を漁っている最中にご登場かな?と考える遥。
「とりあえず先に進みましょう」
静香もあてが外れた表情で、先に進み始める。
は〜い、と頷いて遥も静香についていくのであった。
通路は広い一本道で、金属製の壁や床っぽい。なんだか、怪しい研究所に行くみたいだねと思いながら進むと、これまた金属製の5メートルはあるでかい金庫の扉があった。
「開けますよ〜」
のんびりとおっさん少女は静香へと注意して、手を翳す。
ガオンガオンと通路中に響く金属音がして、分厚い金属製の扉が開き始めた。
金庫の中には絵画やら壺やら貴金属が入っているだろう箱も見える。ひんやりとした涼しさなので空調管理されているのだろう。
「やったわ! こんなに私のためにプレゼントが用意されているなんて凄いわ!」
自分のためのプレゼントと言い張り始めた静香。喜色満面の笑顔で素早く貴金属と思われる箱へと歩み寄ろうとした。
「待ってください! 静香さん離れて!」
遥が叫んだ時には既に遅かった。紙吹雪が金庫部屋の奥からこちらを包むように舞い飛んできた。
え?と静香は笑顔のまま、包み込まれてしまう。紙吹雪はそれで止まらずにおっさん少女のところまで、津波のごとくやってくる。
「念動障壁」
遥は急いで、自らに防御を施す。蒼い色をした水晶のような壁が空間から生み出されて遥の周りを覆う。
紙吹雪は遥を障壁ごと包み込み、そのまま外へも溢れるように流れていった。
そうして数十秒経過した頃、ビカリと紙吹雪が目を焼くような光を発する。何か超常の力を発したとわかる。
だが、念動障壁に守られた遥には効力を発揮しなかったみたいだ。紙吹雪は光とともに無くなり、あとには美術品しか残っていなかった。静香の姿も見えなくなっている。
ありゃ、静香さんやられちゃった?と遥が思ったその時に、金庫の奥から声が聞こえる。
「これは驚いた……。 吾輩の宝を狙う不届き者は全て、吾輩の居城に運んだつもりであったが……。 まさか耐えるものがいるとはな」
チッと可愛く舌打ちをする遥。気配感知では確かにいなかったのだ。ちょび髭がどこにいるかはマークしていなかったが、感知できなかった。即ちそれは……。
「知っているかね? 吾輩の辞書にできない不可能なことは無いと」
奥から、コツンコツンと足音がして、朝にあったちょび髭が現れた。片手には古びた辞書を持ち、真っ赤な昔の軍服を着ている。そしてニ角帽子を被っていた。その姿は歴史の偉人のものである。
「辞書の使い方を間違っていませんか?」
遥は相手から強大なダークミュータントの力を感じた。額から一筋の冷や汗が流れる。
どうやら、楽なミッションではなくなったらしいと、身構えるおっさん少女であった。




