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コンクリートジャングルオブハザード  作者: バッド
11章 無人島に旅行に行こう
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147話 おっさん少女は豪華客船を探索する

 煌々と電灯が灯されている船内。足元は絨毯が敷かれており、さすが豪華客船、通路まで豪華だよと感心しきりの二人。セレブとは住む世界が違ったのだなぁと、一般人との違いをまざまざと見せつけられながら、テコテコと歩き回っていた。


「ねぇ、お嬢様? 来たときと道が大幅に変化していないかしら? こんなに折り返す通路無かったわよね?」


 静香が通路を曲がりながら、気になったのであろうことを確認してくる。


「そうですね。電源を入れたことにより、敵が活性化したのだと思います。それにより超常の力による空間拡張が行われたのだと推察します」


「行きはよいよい、帰りは怖いということね。ゲームではありがちだけど、実際にやられると面倒ね」


 髪をかきあげながら、面倒そうに嘆息する静香。遥も同意見である。帰りのマップが変化するとそこまでに費やしたアイテム量からの帰還のためのアイテム消費の逆算ができないので、厳しくなるときがほとんどなのだ。意見が違うのは戦闘が始まりそうだと、眠そうな目をしていながらも、わくわくしているレキだけである。


 静香の言うとおり、通路は多数の曲がり道やら行き止まりが出現しており、明らかにいくら巨大な船体である豪華客船でも広すぎる通路群が出現していた。


「ですが、この広さは敵の利点を潰しています」


「利点を潰す? 何かしら?」


「それはですね…」


 レキの意見をどういうことか確認する静香へと、その証明を示すように、前方をちっこい指で指し示す。


 その先の通路の角から、ゾンビが勢いよく走ってきていた。いつものゾンビである。肉は抉れて歯茎が見えている。身体の各所は骨が見え隠れしており、服はボロボロで血塗れだ。そして、白目を剥きながら、呻き声をあげて、こちらを喰い殺さんと力強く走ってきていた。かなりのスピードであり、その迫り来る姿は、夜の豪華客船内で見ると結構怖い。


「このゾンビ、走っているわ」


 静香が動揺せずに、銃を取り出し腕を伸ばして身構える。先程見せてくれたサイレンサー付きのピストルだ。躊躇なくすぐに引き金を引き、ブシュッと微かな銃声がして弾丸を撃ち出す。


 その銃弾はゾンビの頭に見事命中したが、食い込むのみであった。命中した衝撃でゾンビは一瞬頭を仰け反るが、すぐに体勢を立て直し襲いかかってきた。


 しかし、すぐさま連続で弾丸が二発頭に命中して、そのダメージでゾンビは頭から床に落ちて倒れ伏すのであった。


 一発では倒れないと見た静香がすぐさま追撃の連射をしたのである。さすがプレイヤースキルが高い女武器商人であった。


「走ってきていたのが悪いことなの?」


 倒したことによる興奮もなく、平静とした声音で静香はレキへと視線を向ける。


 その問いかけにかぶりをふって、レキは豪華客船の弱点を述べる。


「違います。走ることは関係ないです。敵を倒すのならば、本来であれば前の広さでよかったんです。数で押し潰すことができますので」


「なるほどねぇ。せっかくの利点を広すぎる通路が駄目にしてしまったのね」


「その通りです。敵はバラけてしまい、数で押し潰すことは不可能でしょう」


 ふ〜んと顎に手をあてて納得する静香。もう一つの気になることを聞いてくる。


「走るのは想定外なのね。グールでもないみたいだし、現代版ゾンビのご登場というわけね」


「走っていても、ノロノロ歩み寄ってきても、どちらにしてもすぐに退場となりますが」


 レキはそう言うと、新たに駆け込んできたゾンビへとモンキーガンを数発撃ち込んで、あっさりと倒す。


「なんだか懐かしい武器ね? それ猿が持っていたやつじゃない? さっきの銃は?」


「ゾンビ相手には、これぐらいの銃がちょうど良いのです。あの武器ですと家計が赤字になりますので」


「あぁ、なるほどね。確かにさっきの銃は高価そうだものね。銃弾も高価というわけね。でも、家計? 貴方の給与歩合制なの?」


 最後のレキの発言に首を捻り、不思議そうに静香が聞いてくるので、慌てて遥がフォローする。


「事務が余計な経費をかけるとうるさいのですよ。ここまで戦力差があるのならば、さすがに弱い武器を使用しないとまずいと思いまして」


「はぁ〜、いつの時代も経費の使用にはうるさいわけね。世知辛いこと」


 その言葉に納得して肩を竦める静香であった。




 タタタと銃声を響かせながら、ゾンビたちを撃ち倒し危なげなく進む二人。案内板も役に立たなくなったので、歩き回りマッピング中。気配感知では何かの動きから敵を感知するので、地形などはわからない。なのでマップがわからないのは仕方ない。そうして、小部屋などを探索しながら上へと進む。


「エレベーターで行くべきね。ちょっと広すぎて面倒になってきたわ」


「そうですね。一般乗船区画から移動すれば新種と会えそうですし」


 そうして、レキは部屋の隅に置いてある宝箱へと紅葉のようなちっこいおててを翳して、中身を回収していく。光の粒子となり、レキに吸い込まれる宝箱。中身は駅前ダンジョンと同じ感じでしょぼかった。


「ねぇ? さっきからたまにその光景を見るけど何をしているの?」


 訝しげに静香が宝箱を回収しているレキへと問いただす。まぁ、そうであろう不思議な儀式に見えるのだから。


「これは機械に地図ポイントをマークさせているのです。これにより地図が完成されていくので」


 眠そうな目で動揺の欠片もなく、平然とした表情で答える遥。こういう時だけ活躍するおっさんである。


 ふ〜んと頷き、静香は一般乗船区画からの移動を指で、クイッと指し示した。


「それじゃ、次はこの区画から移動しましょう。どれだけ広くてもどうやら区画ごとに分けられているスタイルは変わらないみたいだし、それならばこの先が他区画でしょ?」


 そうですねと、コクリとレキも頷き答える。


「次の区画からは新種がいるみたいですよ」


 わくわくと瞳を輝かせながら、そう伝える戦闘民族な美少女であった。





 動力室から一般乗船区画を抜けたところ、一気に豪華な内装へと変化した。なんだか貴族でも使いそうなシックで上品な内装に柱などが金色に輝いている。


「来るときに見た案内板だと、ここから食堂かプロムナードね。それを抜けたら一等乗船区画。最後が特等乗船区画ね。スタッフ用通路からは船長室、他に医務室やカジノ、プールね」


 吹き抜けの広場に到着したが、いくつもの扉があるので迷う選択だ。もっとも静香は特等乗船区画かカジノに行きたいだろうが。


「プロムナード一択ですね。そこには大型のミュータントがいる気配があります」


 ふんふんと、ちょっと興奮しながら提案する美少女レキである。プロムナードと聞いて嫌な顔になる静香。


 なぜ嫌な顔になるのか、遥も予想できる。バイオ的なゲームではトラウマランク、ベストスリーに入りそうな敵がいたからだ。


 ちなみに遥的には、ゾンビと初めて出遭ったのが一位。二位はカラスである。あいつは無駄に弾を使わせるので嫌な敵だったのだ。


「プロムナードねぇ。嫌な予感しかしないけど、仕方ないわね。武装を一応変えておくわ。サイレンサーはどうやら必要ないみたいだし」


 そういってマグナムを取り出す静香。銀色のごついマグナムには100と書いてあった。


「100ミリまでの鉄板を撃ち抜けるマグナムよ。威力は高いんだけど、防衛隊には不人気な商品なの。在庫が嵩んじゃって困るわ」


 はぁ、とため息を吐いて残念そうに教えてくれる。威力がそれだけあれば充分だと思うのにと尋ねてみると


「ランチャーを5丁は買える値段なのがネックみたいね」


「あぁ、それなら仕方ないですね。汎用性の高いランチャーを買うに決まっています」


 冷凍弾や火炎弾、硫酸弾もある範囲攻撃可能なランチャーを買うに決まっている。性能だけを見て、仕入を間違えましたねという感じだ。よくあることである。


 はぁぁとマグナムを静香は眺めながら諦めとともに呟く。


「やっぱりそうよね。仕方ない、ここで使用して在庫処分といきますか」


 そう言ってプロムナードまで、てくてくと歩き始める静香であった。在庫処分とはもったいないと遥は思う。重厚な銃身にかっこいいグリフォンが彫ってあるグリップ。おっさんなら、あんなにかっこいいマグナムはクリアまで使わずにマグナム弾がようやく20発も集まったとアイテム欄を見て、謎の満足感を得ることは間違いないので。


 プロムナードも電灯はついており明るい。ギィと扉を開けたところ、扉の少し先にミュータントが立っているのに気づく。そして扉を開けるその音に気づいたミュータントがこちらへと反応して頭をくるりと180度回転させた。


 そのミュータントは白いワンピースを着た青白い女性である。青白いというか、半透明であった。こちらへと首をぐるりと回転させて窪んで真っ黒な目を向けてくる姿はホラーそのものである。


「えぇ? 幽霊? 何あれ?」


 マグナムを構えながらも、少し口元を恐怖と驚愕で歪ませてレキへと尋ねる静香。


 タタタと発砲音がして、静香への問いかけに幽霊みたいな女性へとモンキーガンを容赦なく撃つレキ。


 銃弾は正確無比に頭に命中し、ヘッドショットにて倒せるかと思ったところ、銃弾はそのまま通り抜けていった。


 いまのはいったい? と僅かに眉を顰めるレキ。


「ご主人様、あれは物理攻撃大幅軽減、超能力攻撃特効な特化ミュータントですね。名前はゴーストと名づけました!」


 ふんすふんすと、興奮しながら、新種へと名前をつけるサクヤ。なるほど、無難な名前である。しかしながらレキは別の解答をサクヤの言葉から推察した。


 モンキーガンをフルオートへと変更し再度ゴーストへと銃を構える。それを見たゴーストは口を大きく耳まで裂けさせて甲高い叫び声をあげる。


「きぃやぁー!」


 周辺の空気が叫び声で震え、ハウリングがレキと静香へと届く。一般人ならば超常の力の入った叫び声だ、それでスタンや麻痺なのだろうが、耐性のある二人には単にうるさいとしか思われなかった。


 適正レベルを大幅に下まわる雑魚の悲しい攻撃である。


 そしてレキはモンキーガンを連射し始める。タタタタと無数の銃弾の嵐が形成されて、ゴーストへと迫り来る。


 正確無比にその口へと無数の銃弾が入り込み、なぜかゴーストは銃弾を透過させることもなく、その姿を霧散させてしまった。


 静香のどういうことなの?という問いかけの表情にレキは答える。


「あの幽霊モドキのゴーストは物理攻撃大幅軽減みたいです。物理攻撃大幅軽減ならば、倒せるまで攻撃すれば良いだけですよ」


 脳筋極まりない返答をする戦闘民族美少女レキであった。


 その返答に呆れながらも、静香は今の叫び声で集まってきたゴーストへとマグナムを撃ち込む。ガオンガオンとマグナムは物凄くうるさい銃声をたてながら、100ミリの鉄板を貫く弾丸を発射した。


 ゴーストは動きは鈍くノロノロと近づいてくるのみなので、あっさりと頭に命中して、その存在を霧散させていく。


 その結果を見て、静香も頷き納得する。


「攻撃力が高すぎる武器だとゴーストの物理攻撃大幅軽減能力も役に立たないと」


 モンキーガンなら数十発は当てないと倒せないが、さすがの静香作成マグナムである。あっさりと一発で撃破したのであった。


 近寄るゴーストを銃弾でガンガン倒しまくる二人。ゲームであれば、運営がコンセプトをわかっていないと怒り出す内容であるが、現実なので、誰も注意せずに少しの時間をかけて片付けたのであった。


 戦闘を終えてプロムナードを探索している二人。結果的にプロムナードの探索は正解であった。


「見てこれ! 宝石がたくさん落ちているわ!」


 宝石店があったのだ。そしてショーケースに入っている宝石類を平気な顔で落ちていると表現する静香である。


 ガチャンとショーケースを砕き、ウハハと高笑いをしながら、喜色満面の笑顔で宝石を静香が次から次へとポケットに入れて回収していく。そして更なる獲物の存在にも気づく。


「お嬢様! 金庫もあるわ! 開けて中を見てみましょう」


「たすけて〜」


「わかりました。多分宝石類しかないと思うのですが」


「たすけて〜、たすけて〜」


「現金ならお嬢様にお渡しするわ」


 見つけた金庫には、多額の現金。そして宝石類があったので山分けしていく。


 第三者目線ならば、泥棒コンビ間違いなしの風景だ。


「たすけて〜たすけて〜たすけて〜」


 そしてプロムナードには宝箱も大量にあった。どうやら宝物庫扱いだった模様。喜んで、そこかしこに置いてある宝箱をレキが回収したのであった。


 一通り調べ終わったので、仕方ないなぁという感じで、静香がレストランにある大きな冷凍庫を指さす。


「これはどうする? 面倒な敵しかいないと思うけど」


 レストランの厨房奥の閉まっている冷凍庫が中からガチャガチャとドアを叩いている音がずっとしているのである。全ての回収を終えるまで無視をしていた図太い二人であった。


「中から助けてという叫びも聞こえますね」


 さっきから、うるさくたすけてと言ってくる声がウザかった。それにこの状況である。どう考えても生存者ではないだろうことは簡単に予想できる。というか、気配感知で大柄な敵がいるとわかっている。助けを求めている化物兵長さんでもいそうだ。


 バイオ的なゲームにでてきた、あの兵長さんは初見殺しであった。まさか雑魚を無限湧きさせるとは思わずに、雑魚を殲滅してからゆっくりと相手をしてやると思いながら雑魚を倒しまくり、弾が尽きてようやく無限湧きだと気づいたおっさんである。もちろんその後に兵長さんに殺されたのであった。


「開ける? これ?」


 嫌そうに静香が閉まっている冷凍庫へと視線を向ける。どうなるかわかっているだけに微妙なところだ。


「せっかくなので、開けましょう」


 まぁ、中に何がいても既に攻略適正レベルを大幅に超えているレキである。余裕であろうと考える遥はいつも通りのフラグをたてた。


 冷凍庫はカンヌキみたいな鍵がかかっていたので、うんせと外して重たそうなドアを開けたレキ。


 開けた瞬間に、チカッと光が見えたと思ったらレキの首元へと大鎌が斬りかかってきた。


「残念ですね。普通であれば即死だったのでしょうが」


 レキは親指と人差し指で、羽毛をつまむように大鎌の刃先をあっさりと簡単に止めていた。


「カカカカ、騙されたな! さあ、魂を捧げるが良い!」


 刃先を止められているにもかかわらず、余裕な表情の敵。いや、表情ではわからなかった。なぜならば、スケルトンであったのだ。目に昏き光を宿すスケルトンがボロボロの赤きローブを着込み、大鎌を持っている。


 そして、騙されたなとしゃあしゃあと言うことから、脳味噌は見た目通りにないであろうアホであることもわかった。


「ご主人様!瞬殺しそうなので、先に伝えます! あれは死神と名づけました。物理攻撃中位無効、超能力特効ですね」


 焦った表情でサクヤが口を挟んできた。流れからいって、名づけ前に戦闘があっさりと終わりそうだと考えたのであろう。


 死神はグイグイと力を入れているのだろう、掴まれた大鎌を引き戻そうと一生懸命に腕をひいているが、哀れなる雑魚である。レキの親指と人差し指だけで掴まれている大鎌はびくともしなかった。


 そうして死神が焦っているときに、白光のエネルギー弾がその昏き光を灯す目と目の間、眉間へとぶち込まれてあっさりと頭蓋骨は砕け散って、他の骨もパラパラと力無く床に散らばるのであった。


 レキがちょっとどこまで耐えられるのか確かめたかったのにという恨みを込めた視線を静香に向けると、マグナムを片手にニヤリと静香は笑った。なんだかアニメででてくる四丁しか作られなかった銃みたいな強力な銃である。


「この銃専用のエネルギー弾もあったのよ。在庫処分に使いたかったの」


 哀れ死神は在庫処分にて退場したのであった。




 戦闘が終了して、静香が疲れたように提案してきた。


「もう宝石もたくさん集まったし帰らない? そろそろ疲れてきたし、いったん帰還も良い考えだと思うのよね」


 どうやらプロムナードで大量の宝石を手に入れたので、満足した様子の静香。あとは特等乗船区画のみの探索をするつもりらしい。


「まだ、レーダーに映った謎の空間があるだろう場所を探索したいですが、いったん帰還はしたほうが良いですね」


 レキも静香の提案にたいして頷く。


「どうやら出入り口で戦闘が発生しているようです。傭兵が入り込もうとしているみたいですね」


 気配感知にて、出入り口で傭兵がゾンビたちと戦闘しているのがわかった。なんとか中に入ろうとしているようだ。おそらくはなぜ電力が回復したのかを調査しにきたのであろう。


 だが、封鎖当時と違い、ここはダンジョンとなっており、敵も強化されている。中に入るどころか、おされている傭兵軍団。ゾンビに噛みつかれている兵士も気配感知した。


 とりあえず様子を見に行くかと、帰ることを決めたおっさん少女であった。


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