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コンクリートジャングルオブハザード  作者: バッド
11章 無人島に旅行に行こう
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143話 おっさん少女は旅行に行く

 真っ白の雪世界。全ては雪に包まれており、静寂のみが世界を支配している。その中で時折ミシミシと砕ける音が響き、家が雪の重みに耐えられなくなったのだろう。押し潰されて沈んでいく。


 家が潰れるほどの雪の重みなど考慮されていない関東の家々だ。次々と潰れていき、雪の下に消えていくことが予想できる。春には多くの家が潰れているだろう。いや、ビルすらも急速に朽ち果てているので、冬が終われば寂しい風景となっているのではないだろうか。


 それはまるで人類の支配が終わり、大自然へと世界が回帰していくようであった。


 その静寂の中で、雪の上を走る何か空気を震わすような音が鳴り響き、潰れた家やビルの隙間を縫うように、雪を舞い上げ風をきりながらバイクが走り抜けていた。


 しかし、そのバイクを見ると、決して普通のバイクというには、現代の枠には納まるまい。僅かに白く輝く粒子を吹き出しながら、走っている。タイヤは無くホバーであり、風避けの風防カバーはモニター化されており、目的地までのマップが映しだされているどころか、障害物などを3Dスキャンにより検知解析もしている。後部には大型の可変ガトリング砲が2門取り付けてあり軍用バイクだとわかる。


 まるでSF映画に出てくるような、スッキリとしたメカニカルなフォルム、コードもパイプも全て滑らかな合金に覆われており中を見ることはできない目を疑うバイクだ。


 そのバイクはスピードを緩めくこともなく高速で南へと向かっていた。


 バイクには、子供にも見える誰もが振り向くだろう可愛さをもつ美少女が運転しており、その後ろには、これまた妖しく魅力的な美女がその美少女の腰に手を回して乗っている。バイクは運転する少女がちっこい小柄な身体なのに、ちゃんとハンドルもペダルもその小柄な身体に合うように作られている。


 バイクも異常なら、運転している者も異常な力をもつレキと静香であった。発言は中の人だけどレキで良いと思うのだが、どうだろう。


 二人共ヘルメットも被らずに、髪を風で靡かせながらバイクに乗り移動している。たとえ転倒しても傷一つつかない人外の二人だ。ヘルメットなど被らない。


 家を縫うように高速で移動中、モニターには時速100キロで走行中と表示されている。そうした走行の中で、また家が潰れていったのが目に入る。


「見てくださいよ、静香さん。また家が潰れましたよ。私は初めて見ました。本当に雪の重みで家って潰れるんですねぇ……」


「そうね、お嬢様。私も初めて見たわ。こんなに積雪が酷くなるとは思わなかったわね」


 へぇ〜と感心しながら、家が潰れるのを遥が横目で見ると、静香もかぶりをふって、びっくりした感じで同意した。


「これじゃあ、春は何も無くなるんでしょうか。一面瓦礫だらけになりそうですね」


「そうね、春になるのが恐ろしいかもしれないわ。家という障害物が瓦礫になると、いよいよ崩壊した世界極まれりといったところね」


 クスリと蠱惑的に唇を微笑みに変える静香。昔の世界が無くなろうと気にしないだろう微笑みだ。


「そうですねぇ、更地が増えて建設しやすくなるかもしれませんしね」


「フフフ、お互いに以前の世界を気にしない二人なわけね。寂しいことに感傷深くは語り合えないわ」


「私は崩壊前の世界を見たことはないですからねぇ。知識のみなので感傷は無いです」


「あらあら、そういうことは荒須さんの前では言わないほうが良いわ。彼女は真面目だから、お嬢様のことを想ってまた悩んでしまうわ」


「なるほど………。気をつけますよ。ナナさんの辛い姿は見たくないですし」


「そうした方が良いかもね。まぁ、私はこの世界を謳歌するだけだけど」


 バイクの風きり音も、エンジン音も気にしないで、普通に話せる二人は、語りあいながら南へと進んでいる。






 おっさん少女は静香の旅行の誘いを了承して南に進んでいるが、要塞ダム戦から撤退後、すぐに久しぶりにステータスボードを開き、各ポイントを消費した。


 割り振るのが面倒で放置していた、貯まりに貯まったステータスポイントは250もあった。なので、50ずつステータスに割り振りを実施する。もちろん無駄に用心深い遥はステータスを何回も見直して確定ボタンをポチリと押下した。二重確認は怠らないおっさんである。


 そして遂に100を超えるステータスとなったので、多分山ぐらいは素手で砕けるのではないかと、厨二病的な考えを閃いた。


 密かに誰にも内緒で、コソコソと山まで出かけたのである。


 そうして、はぁ〜と気合を入れて力を溜めて攻撃すれば砕けるのではと試したのだ。その姿は、もう気合も充分な可愛い美少女戦士ごっこをする少女にしか見えなかった。


 しかし充分な力を籠めて、右拳を打ち出しても、どこかの野菜戦士と違いクレーターしかできなかったので、がっかりしたことは秘密である。厨二病的な発想でもあったし。もう黒歴史だから秘密だねと、誰にも言わずに出かけて良かったと安心しながら帰ったおっさん少女。


 しかして、これまた密かにしっかりとカメラドローンにそのコミカルな姿も撮影されていたのであった。イベントは絶対に見逃さないサクヤである。後で、サクヤにそのシーンを見せられて、羞恥に悶えることは間違い無い決定事項であった。どこまでも懲りない遥である。


 ちなみに、ステータスはこんな凄いことになった。


朝倉レキ

筋力:130

体力:130

器用度:160

超能力:160

精神力:130


 そして次はスキルポイントである。これも60あり、スキルコアも使用して66。これらポイントも一気に使用。スキル取得の大バーゲンである。以下のスキルレベルを上げたのであった。

体術LV7→8、銃術LV7→8、念動LV7→8、装備作成LV7→8、機械操作LV4→6、人形作成LV6→8、建設LV7→8


 装備スキルも上がったので、装備を全て新規に変更。黄金の手甲とスターマテリアルを合成させて作成した星金の小手。ウォーマテリアルを使用したヴァルキリアアーマー(H)が良い感じである。特に星金の小手はレキがニコニコ笑顔になって、何度も展開させては元に戻しを繰り返して魅入っていたのが印象的であった。お気に入りの装備になりましたとお礼を何度も遥にレキは可愛く微笑み言っていた。


ヴァルキュリアライフル(H)(幻想分子弾)(乙女が使用すると最終ダメージ20%アップ)

星金の小手(O)

乙女の戦衣(防御力100)(H)(全耐性、自動修復、乙女が装備するとステータス20%アップ、短いスカートによるパンチラ度大幅アップ)

ヴァルキリアアーマー(H)(防御力300)(指輪変形可能)(空中高速機動可)(ヴァルキリーウィング展開による空中機動可。フェザービット搭載)(ヴァルキリアモード1時間に1回のみ。制限時間10分:ステータス及びスキル威力1.5倍になる)

風妖精の腕輪(風妖精タイプのエネルギー体が使用者と融合し援護をする)

雷妖精の腕輪(雷妖精タイプのエネルギー体が使用者と融合し援護をする)


 乙女の戦衣も素晴らしい性能となったので、一つを除き満足である。不満な点は策士な変態メイドの妨害があってこうなった。


 当時、リビングルームで無防備にステータスボードのボタンを押して作ろうとした時の話だが、今まさにボタンを押下する時である。


 隣で珍しくステータスボードを見ていたサクヤ。グイグイと身体をくっつけてくるのが、ふくよかな胸があたり気持ちよく、かつ照れくさかったのだが……。


「あっ! ご主人様! 私のスカートの留金が壊れたみたいです」


 唐突に全く焦らず平静な声音で、棒読みのセリフをのたまわったサクヤ。隣を見るとストンとスカートが落ちてピンクのスケスケな物が見えたので慌てて、首を背けて手で目を覆ったのだ。


 おっさんは少女姿でも、常日頃の行動は覚えていた。即ち、小説とか漫画のようにラッキーエロイベントを喜ばずに、しっかりと首を背けて目で手を覆ったのだ。たとえ、相手に非があろうともエロイベントは確実におっさんを窮地に陥らせるものだからして。こちらに非がなくとも確実に有罪なのだ。そこに同情の余地も入らない。なぜならばおっさんだからだ。


 どこかのエロトラブルに巻き込まれて、相手の服をこけただけで脱がして、胸やら何やらに顔を突っ込んでも、ゴメンですむ立場とは違うのだ。まぁ、あの主人公は絶対にワザとやっていて、偶然ですよと演技をしているのだとは思うが。


 それはサクヤには見せてはいけない致命的な隙であった。棒読みであれど、絶対に演技だとわかっていても、身体をはって行動するのであれば、何度でも引っかかるであろう恐ろしき罠であった。


 気づいたときには、ゴゴゴと作成は発動しており、サクヤはしっかりとスカートを履いていた。


 ピカーンと光り、出来上がった乙女の戦衣は基本青色で構成されたガーリーなインナーに、白いジャケットのようなトップス。かっこいいし可愛い。レキが着たら凄く似合う可愛くカッコイイ姿となることが想像できた。


 ただ一つ、極めてスカートが短かった!さすがに座るぐらいでは見えないが、昔に流行ったミニスカという死語を思い出したぐらいである。


「うにゅにゅ、謀ったな、サクヤ!」


 酷い結果となったと歯噛みする。これでは周りはパンチラが見放題になる。痴女ではないか!魔法少女は痴女の素質を持つと密かに思っているおっさんはそう思った。


 おのれぇ〜と睨むが、大喜びのサクヤには全く聞いていなかったし、嬉しさでぴょんピョン飛び跳ねていた。


「睨んでくるご主人様も可愛いですね。これもベストシーンに入れておきますね」


 無邪気な笑顔で答えてくる。全く罪悪感はない、もはや救いようがない銀髪メイドである。


 さすがにこのレベルの装備を作り直すことはしたくないケチなおっさん少女は諦めの嘆息をして使うことにしたのだった。


 対応としては、常に隠蔽スキルを使うのは面倒だなぁと、隠蔽スキルで下着はなぜか常にスカートの陰で見えない状態にしてある。これで飛んだり跳ねたりしても安心だ。ただサクヤはこの隠蔽を看破していそうな感じもするので心配だが。というか、多分突破するだろうことは間違い無い。




 そんないつものくだらない思考をしながら、静香と談笑しながらバイクを走らせていく。このバイクも新型だ。量子偏向システム搭載バイク。名前をフォトンバイクである。量子を偏向させて、常に地面の1〜5メートルを浮上して走行する。ゲーム仕様なので、何故かそれ以上は浮かべない。水上も走行可能な万能バイクである。最大時速は900キロだが、地上で普通そんな速度では走れない無駄な最大速度だ。フォトンシールドにより攻撃を防ぎ、もちろん何故か攻撃以外の小石とかに走行中当たっても、普通にコツンと小石が当たる威力程度の慣性が全く仕事をしない安心安全なゲーム仕様である。


 量子を偏向すると白い粒子が吐き出されるのだろうか? というツッコミはもはやゲーム仕様なので当たり前だから、ツッコまない。ツッコまないったらツッコまない。それにそもそも量子って、何? 聞いたことはあるんだけど……。そんなよくおっさんにはわからない物だし。


 そしてレキが操れるように、バイクは大型にもかかわらず、ちっこい手足に合わせたハンドルとペダルは作りとなっているので問題行動はない。ゲーム仕様なので、運転手に合わせて変形するハンドルなどだからして。


 走行しているうちに、ピピピと警告音がモニターからしてくるので、それに静香が気づき声をかけてくる。


「何かなっているわよ?お嬢様」


「敵ですね。そろそろ海も近いので敵も強くなったみたいです。あくまで少しですが」


 モニターには大量のミュータントが接近中となったいた。赤点がレーダーに大量に表示されており大群が来たことがわかる。


「オートシステム作動。フォトンガトリング砲起動」


 モニタに可愛くちっこいおててを翳すと、後部に備え付けられていたガトリング砲が動き出す。


 それとともに、この深い積雪の中でも気にせずにグールたちが家々の間からうめき声を上げながら、高速で走り抜ける姿が目視できた。恐らくは1000匹はいると思われる。雪の中でとっても元気なミュータントだねと遥は思う。体半分を雪の中に埋まっていながらも気にせずに走ってくるのだから。おっさんには絶対に無理な行動である。そもそも検討すらしないだろう。


 すぐさま、大型のガトリング砲が、ウィーンと稼働し始めて展開する。レーダーに従い、脅威度が高い敵へとオートにてロックオンを開始する。


 次の瞬間、2門のガトリング砲の銃口が回転し始めて、轟音とともに白き粒子を纏う量子弾がシャワーとなり、敵へと襲いかかる。


 量子弾は空中にて白きエネルギーへと化して、まるで一条のレーザー光に見えながら、敵へと飛んでいく。


 グールは障壁をはるが、もはやこのレベルの機動兵器には紙装甲であった。一瞬すらも止められず、あっさりと次々に触れられたところから、肉体を伝播して粉々になっていき倒れていく。そうして切り裂くレーザーのような銃弾は貫通して、グールたちを殲滅させていく。


 次々と倒されているグールを横目に残弾を気にするが、10万発から少しだけ減っているだけなので安心する用心深いおっさん。最大搭載10万発と書いてあったので満タンにしておいたのだ。


 数分後、1000の威容を誇るグールの軍団はあっさりと全滅したのであった。


 最終的に326発を消費した弾数。貫通して倒した敵もいるので自動制御と考えると驚異的な弾数消費の少なさだ。


「やっぱりガトリング砲は湯水のように弾丸を使うから、気をつけないとね」


 ケチなおっさん少女は、その消費数でも不満な模様。今度からは体術で倒そうと決意する。さすが未来アウト的なゲームでも高威力な数千発の弾丸を持っていてももったいないからと、最弱の弾を使ってクリアしていったおっさんだけはあるのだった。


「でも静香さんとはグールの縁がありますね。初めて会ったときもグールでしたね」


「そうね。あの時もかなり儲けられたから、今度も期待して良いと思うわよ」


「………たしかあの時は水を売りに行っただけで、金庫は依頼に無かったと思いますが」


 たしかそうだったと思い出そうとするが、おっさん脳ではよく思い出せなかった。なんだっけ? 発電機を見に行ったような、でも金庫破りに行ったんだっけと知力の無さを露呈していた。


「まぁまぁ、儲かったのだから、良いじゃない。それに予想通りなら大樹のお偉いさんも喜ぶわよ?」


「なんだか詐欺師の手法のような気がするのですが? 静香さんの職業なんでしたっけ?」


 少し呆れた表情を浮かべて、後ろに振り向いて尋ねた。もちろん静香は余裕綽々な顔で返答した。


「私は善良かつ誠実な武器屋よ? 失礼ね、お嬢様は」


 そう答えて静香は蠱惑的な妖しい微笑みを返すのだった。



 しばらく進み、ようやく目的地まで到着した二人。そこは積雪の中で凍らない水。即ち夏に遊びに来た海である。


 その海の前でガシャンとバイクを停めて、海へとテクテク歩く二人。


 人もいなくて、冬の日本海のような強い風が顔にあたり寒い。雪混じりで、ザザンザザンと波うつ海が寂しい感情を呼び起こしていた。その浜辺へとザクザクと二人仲良く凍った雪を踏みしめながら歩いていく。


「さて、到着したけど、これからどうするのかしら、お嬢様?」


 静香が隣で白い息を吐いて寒そうにする美少女に尋ねる。ここからの移動が真の目的だからだ。


 ふふんと胸をはり自慢げにその問いに答えるおっさん少女。自慢するのは大好きなのだ。おもむろに人差し指をたてて叫ぶ。


「支援要請! フォトンクルーザー」


 叫びと共に空間が歪み、距離を無視して白い外装が美しい全長40メートル級16人乗りのクルーザーがヘリに輸送されてきた。


「ツヴァイ輸送班より司令へ。フォトンクルーザーの輸送完了。ワイヤーロック解除。海面へ着水開始します」


 キリッと敬礼をして、輸送ヘリのツヴァイが報告する。


「ご苦労様。大事に使わせてもらいます」


 遥のねぎらいの言葉に、ツヴァイ輸送班は顔を染めてウィンドウは閉じた。ちなみにこの会話はウィンドウを持つものしか聞こえない。即ちおっさん少女が宙に向けて喋る不思議少女となるわけだが、通信をしているだろうことは簡単に予想できるので、静香はツッコまずにクルーザーを見渡していた。


「相変わらずの凄い財団ね。こんな物を簡単にぽんっと用意できるなんて。まさかクルーザーに乗れる日が来るとは思ってもいなかったわ。なにしろクルーザーといったら、セレブな人々が乗るものなわけだし」


 肩をすくめながら、クルーザーの威容に感心したように、頷く静香。


「整備班に頼み込んで用意してもらったんです。簡単ではなかったですよ」


 静香の言葉に反論するべく、口をとがらせて、大変だったとアピールする。何しろ、今建造している工廠に割り込む形で建造したのだ。


 頑張るナインに言いだしにくかったが、さすがはナイン。遥のことがよくわかっている。仕方ないですねぇと母のような微笑みで許してくれたのであった。どちらがマスターかわからない行動だ。


 その反論を聞いた静香は苦笑して、クルーザーから遥に視線を戻す。


「頼み込むだけで用意できるのが凄いことなんだけど、まぁ、崩壊前を知らないお嬢様には無理な話ね。お嬢様にとっては、頼み込めば用意してくれるのは当たり前の環境であったわけだし」


 何か皮肉も耳に入るが華麗にスルーする。静香は再びクルーザーへと視線を戻してその威容に気になる点があったみたいで、こちらをちらりと見てきた。


「このクルーザー、これだけ大きいのに武装が無いわね? どうして?」


 痛いところをつかれてしまったと、おっさん少女は唇を引き攣らせながら答えた。


「仕方ないのです。武装までは手がまわらなくて………」


「海にはミュータントがいないから、ご主人様は武装をつけるのがもったいなかったのですよね」


 静香に聞こえないとはいえ、余計な一言を言ってくるサクヤである。サクヤの言うとおりである。もったいないと考えてつけなかったのだ。


 だが、幸い静香は他の考え方をしてくれた。まさか使わないからもったいないと武装を取り付けなかったとは考えなかった。


「なるほど、エンジンと外装だけ変えた普通のクルーザーなのね。さすがにそこまで用意するのは無理だったようね」


 一人で尋ねて、一人で納得してくれたので一安心であるおっさん少女であった。


「でも、シールドは強力ですしパワーもあります。たしか最大時速は………」


 カンカンとバイクを片手に持ち上げながら、金属の縄梯子を登り、静香へと説明を続けるがスペックが出てこないおっさん少女。まぁ、常にフォーマットがかかるおっさん脳だから仕方ない。


「レキ様、このクルーザーは全長40メートル、最大船速120ノットの船体です。搭乗員は最大6名、乗客10名まで収容可能なホバー航行によるどこにでも航行できるキュートナイン号です」


 既に乗り込んでいた支援用ツヴァイが甲板で出迎えるために待っていたが、話し声に反応して加わってフォローしてきた。


 おっさん少女もそうだね、そのとおりのスペックだねと、ウンウン頷いて、本当に覚えていたのという梯子の下からの視線は無視をしておく。あと、さり気なく船の名前が気になる。いちいちキュートナイン号発進とか言わないといけないのだろうか。かなり恥ずかしいが、それを言うとナインが悲しむだろうから、口には出せない小心者のおっさんであった。


 甲板に乗り込むと、他に3人の女性型マシンドロイドが乗り込んでいる。こちらを見るとびしっと敬礼してきて挨拶をする。


「改めまして、レキお嬢様に挨拶を。私はキャプテンです。隣がセーラー。最後がシノブです」


「今日はよろしくお願いします。船長のミナトさん、水夫の凪さん、シノブさん。ええと名前あってますよね?」


 すぐさま、その自己紹介を聞いた遥は無難な名前をつけた。名前が無いのは怪しすぎるからして。


 その言葉を聞いて僅かに眉を動かしてから、再度挨拶を始めるキャプテンとセーラー。


「はい! 私が船長のミナトと申します」


「私が水夫の凪です! よろしくお願いします」


 凄い興奮して、ハァハァと息が荒くなる2人。かなり嬉しかったようだ。今まで適当に名前をつけてきて、少しだけ罪悪感が湧く。これからは職の後ろに適当に名前をつけることにしようと記憶しておいたおっさん少女であった。


 シノブは、この寒空でもくノ一衣装で、見ているだけでも寒そうである。船長は白い提督服、セーラーはそのままセーラー服である。


「よろしくお願いするわね、道中お任せするわ」


 静香も挨拶を返しながら微笑む。


 そうしておっさん少女と静香は挨拶を終えて、リビングフロアに行くのであった。


「ねぇ、何かヤケに興奮してなかった? あの船長たち」


 不思議そうに静香が先程の自己紹介を思いだすが


「久しぶりの航海なので後悔しないように興奮していたんでしょう」


「……。そうね、確かに航海する余裕なんてなかったものね」


 どうやら納得してくれたので、胸を撫で下ろす。あと、さり気なく冗談を言ったのにスルーされた模様。おっさんギャグをスルーしたのは優しさからであろう。


 遥はガチャガチャと、備え付けの冷蔵庫から缶ジュースを取り出して、ほいっと静香に渡しながら聞く。


「本当に島には生き残りがいるのでしょうか?」


「それを確かめに行くんじゃない。まぁ、いる可能性ならあると思うわよ」


 ふむと、可愛く顎に手をつけながら考える。確かにゾンビ映画でありがちだ。北に行くとか、シェルターに隠れるとか、無人島に逃げるとかだ。


 本当にいたらどうなるんだろうと、おっさん少女は思い描くのであった。



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