140話 おっさんは釣りをする
毎夜に雪が降るせいだろう。今年からこの地域は雪国決定な感じがする。異常気象なのかというと判断に困るところだ。
人間が減っただけで気候が変化しているのだから、崩壊前が異常気象であったと言われた方が納得できる。一面の積雪は吹雪にはならないが、少しずつ積雪があり関東でありながら春までに1メートルは積もるかもしれない。
すでに積もった雪のおかげで市場も閉まり閑散としており、若木ビルに設置してある防衛隊直属の店前に買い物客がちらほら見えるぐらいだ。寒そうに手袋を擦り合わせながら何を買おうかと迷っている。電気は使えるのだから、今頃他の人々はエアコンか炬燵でぬくぬくとしているのだろう。
そんな中で、湖釣りをしている草臥れたおっさん。名前を気にする人はこの場にはいない。
なぜならば純粋に名乗っていないからである。
湖といったら湖なのだろうか。小さめの湖、かなり大きい池といった感じで、凍って分厚い氷が張っている。そこでガリゴリとドリルで氷に穴を空けてワカサギ釣りをしている遥であった。なぜならば、冬のワカサギは天ぷらにして、ちょちょっと天つゆか塩をつけて食べると熱々でサクサクで小骨も気にならずに凄い美味しいからだ。
「ボス! 見てくれ、これを!ちょっとでかいだろ? このワカサギ!」
「そこの元気だけはありそうなしっぽ女はわかっていないのね。ワカサギ釣りはね、数が勝負なの。おっさん、私のを見なさいよ! こんなに釣れたのよ!」
バタバタとうるさく走ってきた二人。前者がアインで、確かにちょっと大きなワカサギを持ってきてニカッと犬歯を見せながら、快活に笑っている。後者が叶得でふふんと自慢げに三匹ほどのワカサギを見せていた。
ここは東北とかではない。若木コミュニティ北部に作成したワカサギ釣りエリアである。いや、ワカサギだけを釣るわけではない。これはおまけの機能、四季地形変化システム搭載の釣り堀である。渓流モードや砂浜モード、普通の川モードなどがある。ボタン一つで湖の中に丘や岩がせりあがりモードチェンジできるのである。無駄に凄いシステムだった。もはや釣り堀と呼ぶのには無理がある。
隣には水族館にそっくりな広くて10階建てのビルがある。魚の養殖場であり、不思議なゲームシステム。マテリアルを放り込むと魚が補充できる養殖場だ。
もちろん通常は実際に各階層に養殖場が設置してあるので、最初の補充以外は自分たちで増やす予定。マテリアルの補充無しに増やしてくださいよということである。
不思議なる釣り堀には浄水濾過器と水力発電器の中型が3台ずつ設置してあるので、養殖場のインフラは安心である。
一狩り行こうぜというアインのお願いを聞くために最初は釣り堀だけ作ろうと思っていた。外に出て一狩り? あり得ない。多分狩られるのはおっさんだ。たとえゾンビ相手でも負ける自信満々だ。またぞろ、バイオ的な死に方だ〜と食われるとこまで想像できる。
なので釣り堀である。敷地内に作っても良かったが、どうせならと養殖場まで建設して若木コミュニティに置いたのであった。思いついた理由は自分たちで魚の養殖場をやれば、魚も食べられる種類が増えるでしょと気軽に作ったのだ。
常に思いつきで行動するおっさん脳、気分は街づくりゲームである。
そして今は若木コミュニティの重要人物たちと自分が思う人たちを一緒に連れてきたのだ。正直美少女と二人だけなんて無理である。草臥れたおっさんには相手をするのは、難易度ベリーハードだからして。ナナたちも離れて釣りをわいわいとしている姿が見える。
「はっ、ワカサギだろうが、まぐろだろうが大きな魚が良いに決まってるだろ?」
「何言ってるのよ? ワカサギが少し大きいぐらいでお腹がいっばいになると思っているの? 数よ数!」
う〜、と歯をむき出して顔をお互い突き合わせて喧嘩しそうな二人である。なぜ対抗しようと考えるのか不明である。後、叶得の持っている釣り竿は怪しい。怪しいというか真っ黒である。なぜ仄かに釣り糸が光っているのか。イカサマの匂いがプンプンするぜ、この野郎である。
それにチラチラとこちらを見ながら、釣り竿を見せびらかすようにしているから、多分新たな発明品なんだろう。この娘はキテレツ何代目なのか。
しょうがないなぁ、気にもなるしとつっこむ。
「叶得君、その釣り竿は珍しい糸を使っているようだが?」
イカサマの釣り竿でしょ? 絶対にそうだよね、私にも貸してくださいよ、ボウズなのですよ、釣り堀なのにと内心で頼み込むおっさん。
ようやく聞いてくれたと安心したように息を吐いてから、釣り竿を掲げる叶得。テッテレ〜とBGMがどこからか聞こえそうな感じがする。
平坦なる胸をはりながら、自慢気に得意気に返答してくる褐色少女。
「これはね、バレー蜘蛛の糸を使って、鉄サソリの脚を竿にしているのよ。そうしたら何故か釣果が上がるの。気のせいではないと思うわ!」
おぉ、確かに高価な素材である。そこから作る釣り竿はゲーム的に釣り+1とかになっていそうだ。相変わらずの発明家は変わっていないと感心する。
「ふむ、素晴らしい。恐らくは超常な力が込められているのかもしれないな。これも買い取ろうじゃないか」
だから、私に貸しておくれとの副音声を内心で加える。このままでは出家間違いなしだからして。
叶得は称賛の言葉を聞いて、グイグイと釣り竿を押し付けてきた。顔を僅かに俯けて頬も薄っすらと赤く染めているので、この間リィズが言っていたことを思い出すが、まぁ、おっさんを好きになるほど物好きでもあるまい。単に照れているのだろう。そうに決まってるだろう。だからそれ以上は考えない。
「とりあえず、使ってみて! 私はもう1本釣り竿を持っているから! それじゃ私も家族のところに戻るわね! あと、いい加減貴方の名前を教えなさいよね!」
そう怒鳴るとダッシュで家族のところに向かおうとする叶得。まさか雪原を走るとは危ないんじゃと思っていたら、ステンと予想通りに見事に転んで池の上をそのままツツーッと滑っていった。その後で何事も無いようふるまいながら立ちあがり、こちらをちらりと見てから、またダッシュで走っていってしまった。怪我も無いようだ。まぁ厚着もしていたし、大丈夫だろう。
その叶得の姿を見て、アハハハと腹を抱えて大笑いするアイン。あぁ、仕方ないなぁと遥は苦笑いだ。なかなか面白い娘である。
「ボス、私も向こうで大量に釣ってくるから待っててよ!」
そう言うと、アインはダッシュで走り去る。体術スキルは仕事をしており、転ぶことなく去っていった。どうやら一緒に釣りに来たということが大事みたいで、一緒にいないで色々なところを駆け回り釣りをしているようだ。犬が雪の中で駆け回るイメージである。
以前から思っていたが、アインたちはレキと違いスキルが無くても最低限はできるんだなと推察する。レキならば、もっていないスキルは大失敗をするのだ。しかし、そのような様子は見えない。多分スキルが無いことによる詰みの状態を防ぐためだろう。マシンドロイドはスキルレベルゼロで全てのスキルを持っているのではと疑う。この考えはツヴァイたちの動きを普段見ているから、そう気づいた。まぁ、気づいただけで特に何もしないのであるが。
それを利用した裏技などがありそうだが、自分で思いつくのは無理であるし、攻略サイトが見れるわけでもない。知力ゼロのおっさんはあっさりと諦める。
つらつらとくだらないことを考えながら、のんびりと釣りをしていると、さすが超常の釣竿である。おっさんでもチラホラと釣れ始めた。釣れ始めるとなかなか面白いもので、少し夢中になっていると後ろから雪を踏む複数の足音が聞こえてきた。
今日は取り巻きを名乗る人間は誘っていないので、それ即ちおっさんを怖がるか疑う人間ばかりなのでポツンと一人で釣りをしていたのだ。アインと二人きりは嫌だと誘ってみたが、一人になってしまった哀しいおっさんである。
振り向くことも面倒なので、そのまま釣竿の僅かな変化を見逃すまいと気にせず釣りを続行していたら、隣に簡易椅子を置いてドスンと座ってくる。隣を見ると、豪族であった。後、自衛隊隊長のゴリラの人と蝶野母とみーちゃんもいた。
そういえば、この自衛隊隊長は蝶野という苗字だったらしい。以前に何回か名乗られていたが、仕事に関係ない男性の名前は友人以外は覚えなくていいと思っていたので忘れていた。
蝶野家族は座らずに遥の前に来た。家族そろって笑顔で嬉しそうであり幸せそうだ。良かった良かった、みーちゃんの父親がいて良かったねと遥も嬉しい。もちろん顔には出さないが。
「改めてお礼をと思ってな。本当に大樹のおかげだ。まさか妻と子供に再び会えるとは思っていなかった」
「私からもお礼を。可愛い救援隊を送ってくれてありがとうございました」
「ありがと~。おじちゃん!」
3人とも深々と頭を下げてくる。みーちゃんはわかってはいないが、パパの仕事が終わったのは大樹のおかげだと教えられたのであろう。
ふ~、と深く息を吐いて遥は自分では眼光鋭くみえるかもしれない可能性もあるかもしれない目つきで、感謝をしてくる家族に視線を向けて言葉を放つ。きっと眼光鋭く見えるはずだ。見えない場合は目薬をさしてでも眼光鋭い目つきに挑戦する所存だ。
「気にすることは無い、今回は私たちの戦略班のミスだ。まさかあれだけ用心深い敵とは考えてはいなかったのだ。そして助けたことは私たちのミスからなのだから当然なのだろう」
ひょいと肩をすくめて、唇をまげてたいしたことは無いとアピールする。渋いおっさんを演じることができているかドキドキの遥。なお、戦略班=おっさんなのは秘密で絶対に知られたくない。
そして、あの要塞ダムの検知方法が判明した。あいつらは火薬系に反応するのだ。厳戒態勢時に火薬系を使用すると積極的防衛行動に移るのだ。まぁ、考えてみれば当たり前だ。要塞ダムを脅かす敵はこの現代では火薬系を使用する前提をもっているのは当たり前だ。まさか、体術や超能力で攻撃してくるとは思いもよらなかったに違いない。
あの撤退戦後、数日後に牛や鶏を回収しに行ったときは、銃の一発も撃たなかったため、何も反応がなかった。拍子抜けするほど、簡単に回収できたのだ。いずれその要塞ダムの弱点をこちらは利用できるだろう。
「それでもだ。妻から聞いたが、大樹が来なければ近いうちに牧場は崩壊していたと聞いていた。危ないところだった」
「あのままなら1か月もたたないうちに崩壊していたから、本当に助かりました」
感謝の言葉を嬉しげに伝えてくるゴリラ隊長と蝶野母。
「そうかね、それならばこれからも生き残れるように頑張るのだな」
手をひらひらさせてお礼を受け流す。ちょっと照れるので内心を押し隠すので大変でもある。
そう返答したら、みーちゃんが遥をじ~っと見ている。何だろうと不思議に思ったら
「蝶野美加5歳です!」
にぱっと可愛い笑顔で自己紹介をしてくるので、その可愛さに思わず口元が緩む。
「おじちゃんの名前は?」
目をキラキラさせて純粋に聞いてくるみーちゃん。大人と違って裏表がなくて羨ましい。その内容はNGぽくなっているのに。
周りもみーちゃんの発言に押し黙っている。教えるかもと緊張感が漂っているのがわかるので苦笑交じりに答える。そろそろ名無しも限界だ。顎に手をあてながら答えてあげる。
「私の名前は……。そうだな名無しとでも呼んでくれれば良い」
おっさんは厨二的発言をした。名無しとか素面で言うのは難しかった、失笑しそうなのを口元をきつく結んで我慢だ。だが、崩壊後にはふさわしいかもしれない。ふさわしいと思ってくれ。失笑するのは止めてねと思う小心者のおっさん。
「ナナシさん? よろしくおねがいします、ナナシのおじちゃん!」
無邪気だなぁと感動する。子供は可愛いがおっさんが近づくと邪推する人間はいるし、メイドが美少女を撮影していることもある。普通に近づくだけでも難しいのだ。
なので、肩掛けカバンをごそごそと探る。今日はさすがにスーツではない。この寒空でスーツで釣りはただの変態であるからして。なので、ダウンジャケットと耳当てやら手袋をしている。
そうして、板チョコを数枚取り出して、ほいっとみーちゃんに手渡す。この厳しい世界では、サバイバルでは板チョコは常備品でしょうと思って持ってきたのだ。
「あげてもいいのかな?」
一応親に確認を取る。お菓子をみだりに与えない人もいるので。だが、それは杞憂に終わったようだ。
蝶野母が笑顔で首を縦に振る。
「良かったわね。みーちゃん。大事に食べるのよ?」
「わーい! ありがとう、おじちゃん!」
板チョコを手で掲げてぴょんぴょんと飛び跳ねるみーちゃんは、見ていてほっこりする。そうして蝶野の家族は頭を下げながら、みーちゃんは手をぶんぶんと振りながら自分の釣り場所へと戻っていった。
アットホームそうな家族だなぁと感心して、微かに微笑み見送る。
「へっ、子供には、さすがのお前さんも弱いか」
隣でドリルで釣り穴を開け終えた豪族が、からかい口調で言ってくる。豪族へと視線をちらりと向けて、再び釣竿の反応に集中しながら返答する。
「私にも赤い血が流れているのでね。まぁ、子供が可愛いことは否定せんよ」
その返答を聞きながら豪族は釣り糸を垂らしながら話を続ける。
「しかし、名無しとは気が利きすぎじゃないか? 本名はいつ教えるつもりなんだ。お前さん」
「本名ね……。それは私自身だけが知っていればいいのだよ。君が気にすることは無い」
ちょっとミステリアスなおっさんでしょ? と内心で呟きながら、口元を曲げて苦笑で返す。ミステリアスというか役どころがミスのような気もするおっさんなのだが。
豪族もこちらへとチラリと見てくるので、本題に入るべく問いただす。わざわざ隣に来たのだ、理由があるに決まっている。
「それで? 何か言いたいことがあるのかな?」
その言葉を待っていたのだろう。少し肩から力を抜きながら豪族は答える。
「養殖場ができたこと、牧場ができたこと、それらに伴う雇用が発生したな。魚や牛を育てるやつ、運ぶやつ、それらの奴らに食事を出したりするやつと色々だ。コミュニティで雇用が大分発生したことに対する礼だ。ありがとうよ」
ぶっきらぼうに言ってくるので、全然お礼には聞こえないが豪族なりの本心が混じっているのだろうことがわかる。
「気にすることは無い。こちらの事情もあるからな」
冷たく聞こえるように声音に混ぜて答える。新鮮なマテリアルで作られるのではないご飯も食べたかったのだ。たぶんマテリアルからの食料の方が美味しいし栄養もあるのだろうが、それとこれは別である。気分の問題なのだ。でも、育てる余裕なんて人員はない。それならばと若木コミュニティに振っただけである。
はぁ~と溜息を吐く豪族。何か言いたいことがまだあるみたいだ。
「この冬で、外での活動は難しくなっているからな。大量雇用が発生してよかった。だが、そこが問題なんだ。このコミュニティは1万人をすでに超えている街だ。そして外での活動ができなければ飢え死にしてしまうやつらもでちまうからな」
ふむふむと豪族の話に納得する。確かにそういう面もありそうだ。全く考えていなかったけどと遥は内心で思う。
「荒須の会社に銀行、そして五野の武器店と雇用はあるが極めて少ない。牧場と養殖場の大量雇用は渡りに船だった。だが、まだまだ問題は多数ある。こういっちゃなんだが、失業者が多すぎる。目端のきくやつは店をやって小金を貯めているし、防衛隊の連中も大丈夫だ。だが他の人間が問題だ。貧富の格差がでてきちまっている。こんなに小さなコミュニティなのにな」
呆れたような苦笑交じりに釣り竿を見ながらの、このコミュニティの現状を伝えてくる豪族。確かに80%を超える失業者がいる街だ。シムなゲームなら崩壊間違いなし、指導者はリコール確実であろう。おっさんならロード確実である。そこに迷いはない。
だが、失業者というから悪いのだ、日雇いとか派遣社員と言い換えれば、ほぼ雇用率100%なのではないだろうか。何しろ安全宣言のでたビルの掃除や物資の回収をしているのだから。と、政治家のような考えをする遥。
それに、一時は全滅間違いなし。絶望感で包まれていたコミュニティが失業者のことを考え始めるなんてねぇと、少し感慨深い。だって復興し始めてから、まだ1年たってないコミュニティである。
「貧富の格差は仕方あるまい、古今東西、どのような政府でもその格差が無くなることは無い。中世ならば貴族と平民、現代なら権力者と一般人。社会主義でも資本主義でも、いきつくところは力を持ち権力をもつと金持ちになるのだからな。絶対に格差は発生する。どうしようもあるまい」
冷酷な発言だが、いい歳をした大人なのだから豪族もわかっているだろう。それをわざわざ遥に言ってくるところがわからない。いや、なんとなく察しはつくがわかりたくない。面倒事は嫌いなおっさんなのだ。
「そろそろ、政府が必要だ。政府でなくてもそれに代わる何かが必要だ。悔しいが、もう俺たちが井戸端会議で方針を決める時期は終わっちまっているんだ。そして日本政府はもうないだろう」
「その政府に代わる何かを大樹にしてほしいということかね? 責任をとって庇護してくれる者が欲しいと?」
「あぁ、その通りだ。もう瘦せ我慢できる時期は終わっちまってるんだ。今は復興を始めて頑張る大勢で暮らすコミュニティの人間のことを考えなけりゃならん」
豪族が寂しそうな表情で釣竿を見ながら、語り掛けてくる。この会話をするのには、だいぶ苦悩したのでないだろうか。
「それは若木コミュニティ全体の意思と考えてもいいのだろうか? 君だけの考えかな?」
「いや、全体の意思と言っていいだろう。住人にこの間、大樹に所属を求めるか投票をしてもらった。その時に圧倒的多数で所属を求めるという意見となった。まぁ、すでに大樹管轄コミュニティと名乗っているんだ。今更感もあるだろうが、そろそろ未来を考える時期に入った証だな」
はぁ~、いつの間に投票などと感心する。ツヴァイたちは誰も教えてくれなかったが、興味ももたなかっだろうことはわかる。そしてレキにも教えてくれる人はいなかったが、まぁ、レキだからなぁと嘆息する。自分でもアホな美少女であることは薄々気づいている遥である。
だが、それならば自分も考える時期に入ったことになるのだろう。う~んと顎に手をあてて考え込む。
即ち本格的にシムなゲームをこのコミュニティで開始して遊ぶかどうかということだ。ゲーム脳なおっさんの頭も見てみないといけない時期かもしれない。
「その場合は大樹管轄内に入る人にはそれなりの規則を守ってもらうぞ? それと今ある居住区なども整理していくことになる。やりたくない仕事に就く者もいるだろう」
静かに平静な声音で豪族に注意をする。後から、ここは私の家だからどきませんは聞かない予定だ。ドカンと地区をブロック分けして整理していく予定である。住んでいる場合はちゃんと補償もしてあげるし、何しろ住んでいない家やビルは血だらけ、窓ガラスは割れてゴミは散乱してアスファルトからは雑草が生えている汚い場所だ。
綺麗にしたいのである。崩壊した世界を暮らすゲームだと、なぜかみんな汚い部屋とかに平然と住んでいて、道に倒れた木とか雑草が生えていても気にもしない。普通、気にするところだ。清潔好きでなくても気にするとこである。だがら、いつも崩壊した街で作る家とかなんでぼろいんだ。もっと綺麗に作れるでしょと憤慨していたものだ。 MODならできる? おっさんにはどうやればいいかわからない難しすぎる内容だ。
「あぁ、そこは上手く調整をしていきたいと思う。こちらからの代表も混ぜてもらえると助かる」
その返答に驚いて、え? 何を言っているの、この人と? 豪族を思わずまじまじと見てしまう。その視線に気づいて豪族も顔を顰める。
「こちらの代表は誰も入れてくれないというのか? それは少し困るぞ」
お願いする立場なのに、相変わらずの強硬弁に苦笑するが、意味が違う。
「違うな、代表も指導者もそちらで決めるんだ。こちらは決定事項を伝えていく。しばらくは百地さんが指導者だな」
うちの人材は自分の基地の中だけで、できるだけ使いたいのだ。常駐は何人か必要となるだろうが、後は全て若木コミュニティにお任せである。そういう事務的な面倒はお任せで、自分は月ごとに秘書から今月は黒字でした、住人の意見がうんぬんと説明されて、スケジュールをたてるだけが最高なのだ。どこまでもゲームにしたいおっさんなのだ。
「ああん? それじゃ何も変わらないんじゃないか?」
豪族がその発言に戸惑うが、全然違う。おっさんが遊ぶとなると、シムなゲームを始めるとなると全然違う。
「全然違うな。私たちが直接介入することになれば、大きく変わる。それは甘い考えだと言わざるを得ないな」
「酷い内容なら断固として拒否するぜ? 俺は」
「あぁ、そんなことは今まででよくわかっている。気にすることは無い」
豪族の言葉に冷笑を浮かべる。頑固な爺さんだとはわかっているのだから。
「話は以上かね? この案件は本部に戻って検討しよう。きっと私の言った通りになるだろう。数日で結論がでるはずだ。いい返事を待つと良い」
よっと釣竿を引くとワカサギがぴちぴちと数匹かかっていた。クーラーボックスを見ると結構な数が集まっていた。さすが叶得のイカサマ釣竿である。後でお礼を言っておこうと記憶しておく。
「さて、話が終わりならしばらくはワカサギ釣りに集中しようではないか」
にやりと口元を歪めて、おっさんはしばらくの釣りを楽しむのであった。