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コンクリートジャングルオブハザード  作者: バッド
10章 体験牧場を楽しもう
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134話 極限戦線の開幕をするおっさん少女

 全長180メートルのフェリー型装甲艦は雄大な船体を日差しを受けて煌めかせている。輸送用にと火力を制限して装甲タイルを山ほど貼ってあるので、かなりの攻撃に耐えられるだろうことは間違い無い。


 常ならば、この輸送艦に乗れば安心できる状況であるが、敵の攻撃はその防御を打ち破る火力を持っている。遥は全く安心できなかった。


 空から聞こえた轟音と衝撃。そして次にはヘリが巨大な艦を落としていったことについていけず、人々は呆然と夢ではないかと立ち竦んでいた。


 そんなことには付き合っていられないので、遥は早苗に向かって叫んだ。


「敵に感知されました。ここはもう更地にされてお終いですので、皆を連れてきてください。艦に避難しますよ!」


「艦? これはなんだい? どこから現れたんだい?」


 呆然として虚ろな理解不能なことを表情で示して、オロオロと早苗が問いかけてくる。


 だが、今は問答の時間ではないのだ。急いで行動をするように指示をしようとしたところ


「レキちゃん。段ボール箱に隠れる時がきたのね?」


 蝶野母が監視所に登ってきて、強い視線を向けて聞いていた。


「そうです。想定していたよりも敵は用心深かったようです。既にこの牧場は攻撃目標に設定されています。耐えるのは無理ですね。仕方ないので作戦を変更しました」

 

 馬鹿みたいにデカイ砲弾が山ほど降ってくるのだ。家に閉じ籠って鍵を締めてもやり過ごすことは不可能である。


 遥の言葉を聞いて強く頷き、蝶野母は早苗の肩を叩く。


「ほら、早苗さん!脱出するチャンスが遂に来たのよ。指示を出して!」


 その言葉にハッとした顔になり、早苗はバーンと自分の頬を思い切り両手で叩く。


 うわぁ、アニメとかで気合を入れるためにやるキャラクターがいるのを見るけど、実際に見ると凄い痛そうだと遥はひいてしまう。


 早苗もやりすぎたようで、頬を真っ赤に腫らして、目元に涙をためながらも我慢して、大声で指示を出し始めた。


「何だかよくわからないけど、救援隊が来たみたいだ! 門を開けな! 皆脱出するよ! 急いで中にいる子供たちを連れてくるんだ!」


 早苗の指示を聞きハッとした表情で我に返り、皆は急いで行動を始める。キャーキャーワーワーと女学生の喧騒で周りが騒がしくなり、奥さんグループは急いで合宿所に駆け込んで自分たちの子供を連れに戻る。


 その喧騒をよそに、レキは再び空へと銃口を向けて


「超技レインスナイプ」


 再度の超技を使うと、撃ち出される銃弾。


 そして、また空で一斉射撃で飛来した砲弾を迎撃する。その影響で再び空中で轟音が発生した。


 人々の喧騒と空からの轟音でもう大混乱である。


「ご主人様。今の一斉射撃にて判明した砲弾の時間は一分です。恐らくは要塞砲の砲撃に他の砲が合わせているために遅くなっているんでしょう」


 サクヤが時間を測っていましたよと、得意気な表情で胸をぽよんとはって教えてくる。


「一分か。ゲーム的にはハードかベリーハードかな?」


 攻撃の時間が短すぎるのだ。もう少し時間をかけてほしかったと、焦りながら遥は思う。イージーならきっと三分だよと。


 それでも何とかレインスナイプで、敵の砲弾の雨を防ぎきっているとようやく家から子供たちを連れて奥さんグループがやってきた。


「急いで輸送艦、ハッチ開放。全員を格納して脱出だ!」


 ツヴァイに命令をして、そのままレインスナイプを撃ち続ける。輸送艦の砲は撃たせたくない遥である。


 輸送艦は装甲重視で砲台はしょぼいのだ。多分要塞ダムまでの射程は届かないし、相手に命中しても傷もつかないだろう。


 相手の攻撃は届いて、こちらは届かない戦いなど、ゲームならば反対の立場でよくやった。フハハハ、愚かな敵陣営よと高笑いをしながら撃破したものである。もちろん難易度はべリーイージーだ。


 だが、自分が反対の立場でやられるのはノーサンキュー。お断りでルームに立入禁止なのだ。


「ツヴァイデザート班了解しました。ハッチ開放、順次避難民の受け入れを開始します」


 しっかりとした声音でツヴァイが応対を始める。


 見た目は重厚な装甲で覆われており、力強さと安心感を与えてくれる装甲艦が、うぃ〜んと重々しくゆっくりと分厚い合金のハッチを開いていく。


 外で今か今かと待っていた女子供は、わっと嬉しそうに叫んで一斉に乗り込み始める。


 昔、戦艦大和に乗っていた人々も、巨大な船体を見てこんな風に偽りの安心感を得たんだろうなぁと、乗り込む人々を見ながら遥は思い浮かべた。


 装甲艦では一斉射撃には何回も耐えられないが、そんなことを教える必要は無いのだから。


「おねーちゃん! これ、段ボール箱?」


 乗り込む前に迎撃中の遥へと、わくわく顔でみーちゃんが駆け寄ってきた。


「そうですね。無敵の段ボール箱なので安心して乗っていてください」


 ちょっと余裕がないけれど、それでも微笑みを浮かべて段ボール箱最強説を推し進める。


「わ〜い! それじゃ、安心だね! ママ、早くのろ〜」


 小さくピョンとジャンプして喜びを表して、みーちゃんは蝶野母の袖をクイクイと引っ張って催促する。


「えぇ、もう安心ね。これに乗ってお家に帰りましょう」


 蝶野母も苦笑を浮かべて、みーちゃんの頭を一撫でしてから一緒に乗り込んでいくが、乗り込む前におっさん少女へとペコリと頭を下げていった。


 あぁ、もうあんな可愛い子供がいたら見捨てることはできないなと嘆息して、引き続き迎撃をレキにお願いする。


「旦那様、エネルギーが尽きかけています。どうしますか?」


 久しぶりのエネルギー枯渇をステータスボードは表示していた。既にSPもESPも残り%がほとんど無い状態だ。


「問題ない。調合は万が一のためにスキルレベルを上げたんだ。回復薬を使うんだ、レキ」


 万が一のために各種薬は用意していたのである。今はまだ問題ない。回復していけばいいのだ。


「でも、SP、ESP回復薬は低レベル品から使っていこう」


 相変わらずの微妙にケチなおっさんであった。


 そして次の手を打つことに決める遥。


「艦砲射撃支援要請。最大射程からの主砲援護を求む!」


 再び、ポチっとなと、今度は支援内容を細かく決めて、支援ボタンを押下する。


 すぐにおっさん少女は気配感知範囲内ギリギリに空中戦艦スズメが現れたのを感じた。


「こちらツヴァイリーダー。支援砲撃、最大射程距離からの主砲攻撃を了解しました」


 金色のヘアピンを髪につけたツヴァイリーダーが興奮して頬を染めながら命令を受領する。


「ツヴァイリーダーへ。敵攻撃によるシールド減少が半分を切ったら、即座に退却することを命令します」


 壊されたらたまらないのである。だからして、絶対にシールドが半分になったら退却させるのだ。あと、ちょっとこのやり取りは司令官ぽくて格好良いねと内心で、いらんことを思うおっさんであった。


「復唱いたします。敵攻撃によるシールド減少が半分を切りましたら退却。それまでは全力戦闘でよろしいでしょうか?」


「うん、その通り。撃沈させないようにね。リーダーを信じるからね」


 おっさんよりは素晴らしい戦闘行動を指示してくれるだろうリーダーの頭脳を遥は信じている。


 むふぅと、興奮した息を吐いて、真っ赤に顔を染めて、ツヴァイリーダーが了解の敬礼をした。何だか凄い興奮しているので、信じて大丈夫だったかなと一抹の不安を持ってしまった遥であった。


 そうして、すぐに空の彼方から、白色の光線が空気を引裂き熱しながら、ビュォーとビーム音を発生させながら要塞ダムへと飛んでいった。


 空中戦艦スズメの荷電粒子砲である。要塞ダムへとその白色の光線は命中したが、やったかと確認するまでも無くダムから発生した鏡のように銀色に光るシールドが忽然と現れてあっさりと光の粒子を撒き散らしながら消えていった。


 やはりレベル差はいかんともし難い状況である。お安いスズメのパワーでは、スズメがつついたぐらいのダメージしか入らないのであろう。


 しかしめげずにスズメは荷電粒子砲を撃ちまくり、攻撃を受けたと察知した要塞ダムも反撃を始めた。


 だが、空中戦艦を狙うのは要塞砲のみなのだろう。ズンズンと砲声はするが、先程の一斉射撃のように雪崩のような連続した砲声は聞こえなかった。


 射程が他の砲だと届かないのだ。遥の計算通りである。


 これなら、荷電粒子砲をチュンチュンと要塞ダムに撃ち込んで嫌がらせができるだろう計算だ。


 要塞砲のみなら、空中戦艦はしばらくは耐えきれるはずである。


「煙幕弾使用開始! 煙幕にて船体を隠しつつ移動。主砲攻撃を続けます!」


 ウサギリボンを頭につけた参謀が、ウィンドウに映るリーダーを押し退けるように報告をしてくる。参謀の後ろで、次は私が報告しますとか、もうあなたの番は終わりでしょとか言う声も聞こえてきた。


 そんなツヴァイたちを不安な表情で見つめるが、戦艦内にいない自分には何もできることは無いので、スルーして信じるんだと強く自己暗示をかけるおっさん少女であった。




 もはや、空は要塞砲と荷電粒子砲の撃ち合いの砲撃音と飛び交う白い光線と砲弾。そしてそれ以外の砲がこちらに向けて撃ってきており、それをレキが迎撃した結果、周りに轟音をドラムのように鳴らし続けて着弾する。


 その公害とも思われる程の喧騒で一気に戦場感が空気を覆っていった。


 その戦場の空気に当てられて、恐怖に駆られ急いで人々が装甲艦に乗り込む中で、間宮と刈谷の爺さんが、焦った様子でおっさん少女に迫ってきた。


「なぁ、お嬢ちゃん。この船は私たちのコミュニティにも寄ってくれるんだろうか?」


「もちろん、寄ってくれるのだろう? 救援隊なのだろう? 助けてくれるのだろう?」


 二人共周りの轟音と巻き上がる土や木に恐怖を覚え、冷や汗をかきながら、心配そうな必死な形相だ。


 バブバブ、アタチ幼女なレキ。おじちゃんたちの言うことがわからないの。と指を咥えながら答えて誤魔化したかったが、さすがに相手が可哀想である。グッと遥は我慢して、解決策を伝えるべく、二人へと視線を向けた。


「大丈夫です。ここからは離れていますし、家に帰って窓やドアに鍵をしっかりとかけて外に出なければ問題ありませんよ」


 全く解決策ではないパニック映画における一般的全滅ルートを伝えるおっさん少女であった。


 もちろん、なるほどわかったよ、今から戸締まりをしっかりとして外には出ないようにしよう。良かった、これで解決ですねとお互いの笑顔で話は終わらなかった。


「ふざけないでくれ! 今逃げ遅れたら私たちの家族は全滅してしまう! 頼む、私たちのコミュニティにも寄ってくれ!」


 全く遥の提案に頷くこともなく、深々と頭を下げる間宮。


「お嬢ちゃん、儂からも頼む。老い先短い儂は乗れなくてもいい! 頼む! 娘や孫だけでも、乗せてくれ!」


 刈谷の、爺さんも同様に頭を深々と下げて、それを見た周りの男性も頭を下げ始めた。このまま断り続けたら土下座をするだろう勢いだ。


 遥的には、窮地に陥って助けに行って帰ってこない仲間が出るパターンは嫌いである。なんで一人を助けるために薬を取りに行って、主人公以外は全滅しても笑っていられるのかと不思議に思うのだ。おっさんなら、助けに行くなら装甲車に乗って誰も死なない状況で助けに行くぞと映画でいつも思うのだ。あれ? でもこれ装甲艦だねと気づいてしまう。


 そして、この人たちは遥が頷くまで懸命に妨害紛いのお願いをしてくるだろう。


 ええい、ままよと決心して二人に伝える。


「わかりました。最短で行きますが、まずかったら撤退しますからね。さっさと乗ってください」


 おぉと嬉しそうな表情になる二人。


「すまない! このお礼は絶対にするからな」

「ありがとう。お嬢ちゃん。娘たちは儂の宝なんだ」


 お礼を言って、頭を何度も下げながら二人も装甲艦に入っていった。


「ご主人様、大丈夫ですか? かなり危険な撤退戦になりますよ?」


 サクヤが心配気にしてくるので


「大丈夫! 多分大丈夫! 心配は明日の私に任せよう」


 遂に他人任せどころか、未来の自分にも任せるおっさん。もはや不安しか残らない状況だ。


「旦那様、敵の門が開き多数の車両が出発しています。また、ヘリらしき敵も浮上中です」


 レキの言葉はすぐに自分でも感知できた。ゲートが開いて続々と装甲車やら戦車が吐き出されていき、ヘリが出撃のためにローターを回転させている。大勢の強化サルモンキーも慌ただしく行動を始めている。大軍でこちらを攻撃するつもりなのだ。どこまでも油断しない敵らしい。


「ご主人様、この轟音で周辺のゾンビやグールが集まってきていますね、大量にこちらを目指してきます」


 サクヤまでいらない情報を告げてくる。正直敵の攻撃が連鎖しすぎだと憤る。誰か助けてよと、ゾンビハンターなドリフターとかカメラマンを援軍に欲しいところである。


「戦いは質だよ! 兄貴! 私とレキで抑えてやる!」


 半ばヤケになり雄叫びをあげて、戦いを続けるおっさん少女であった。

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