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コンクリートジャングルオブハザード  作者: バッド
10章 体験牧場を楽しもう
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133話 おっさん少女の奥多摩戦線異常アリ

 森の中にある牧場、積雪の中に集まった人々はその轟音の意味が、ただ一人以外は何を意味するかわからなかった。


 冬であるのに落雷か、それとも隕石でも落ちてきたかと呑気に考えていた。


 パラパラと吹き飛んだ土が雪の代わりに己に降ってきて、体を汚しても、なお現実だとは思えなかった。それほど予想し得ない攻撃だったのだ。


 そして攻撃を防いで、理解している一人は考えていた。


 これはどうやらまずいフラグをたててしまったねと。


 仲良くなりかける三つのコミュニティ。代表者達は握手をして、これまですまなかった。いいえ、アタシこそとか謝りながら、これからのことを話し合って、最後は皆が笑顔になるのだ。


 しかしてそれはハッピーエンドの場合。ホラー映画でお決まりのバッドエンドの場合はどうなるか?


 誰かがこの騒ぎで開けっ放しにしていた扉からゾンビの群れが入ってきたりして、え? どうしてゾンビたちがとか困惑しながら、全滅してしまうパターンである。


 そうして、主人公はこんなことになるなんてと、悔やみながら脱出する。そしてこれからの主人公の行き先はどうなるのか? とかそんな感じになる。評判が良ければ次回作も撮影されるだろう。


 おっさん少女は、そのバッドエンドのパターンに入り込んだ模様だと考えた。オアシスではわかりやすい分岐だったので、あっさりとイベントスキップができた。多分、奥多摩では先に要塞ダムを破壊しないといけなかったのだろう。


 ゲームならやり直して、ハッピーエンドを目指して攻略法を探すだろう。絶対にそうするおっさんだ。バッドエンド以外があれば、一周目ではハッピーエンドまでいくのは辛いと言われていても、苦労してやるのである。絶対にIFルートにいく所存だ。


 但し、プレイヤースキルを必要としないゲーム限定だ。ゾンビと化したカメラマンのハッピーエンドは難易度高すぎて、絶対無理だとクリア後に怒っていたものだ。あの鬼畜難易度は普通にやってもクリアに苦労したのだ。


 悪あがきをしてみようと決心した遥は動く。


「ロード、ロードは無いの? サクヤさん? ロードを希望するんだけど? これ無理ゲーレベルの難易度の気がするんだけど?」


 とりあえずロードができないか、一縷の希望を持って尋ねるゲーム脳なおっさん。


「残念ながら、時間巻き戻し系だけはスキルに無いのです。残念でした、ご主人様。巻き戻せれば、ループして何回も一緒にお風呂に入るのですが」


 非常に残念そうに、ガッカリ感満載で怖いことをさらっと告げる変態銀髪メイド。それを聞いて、時間巻き戻しスキルが無くて良かったと、心底安心した遥である。そして、もはや手はないかとガッカリする。


 おっさんの悪あがき終了のお知らせ。相変わらず降雨の後の水たまりより浅い考えであった。


「旦那様、次弾がきます」


 全くいつもと変わらない平然とした声音で、恐ろしいことを伝えてくるレキ。


 気配感知には砲声よりも速く飛翔してくる砲弾を感知した。空を見ると二メートルはある馬鹿げた大きさの流線形の砲弾が接近しているのが、人外視力ではっきりと見えていた。


「迎撃、迎撃だ、レキ。とりあえず迎撃をしよう」


 確か要塞砲は二門あったはずだ。偵察というか、ここからでも高空から余裕で見えるのだ。まるで倒れたビルみたいな砲であった。


 そして周りには針ネズミみたいに中型、小型の砲が設置してある。中型、小型といっても要塞砲に比べてであり、余裕で主力をはれる砲である。メジャーは無理だけどプロなら活躍できますよとかそんな感じだ。


 66インチ砲とかそこらへんが中型、40インチ砲が小型なのだから戦力がどれだけ高いか、簡単に想像できる。


 要塞にしても高火力揃え過ぎであると、遥はそれを見て憤ったものだ。自分もあんな要塞が欲しい。帰ったら作ろうかなと考えたが、確実に無駄になりそうなのでやめた経緯がある。


 あと、自分の家の窓から要塞砲が見えるのは、落ち着かなくてちょっと嫌だ。


「了解です。旦那様」


 眠たそうな目で接近してくる巨大な砲弾をリキッドスナイパーで狙うレキ。相変わらずの忠実なる可愛い少女である。


 レキは先程と同じく、あの巨大な質量を落とすのは無理だと推察して、迎撃方法を決める。


「撃破は無理ですね。ならば着弾点を変更させるだけです」


 可愛いおててでリキッドスナイパーの引き金を引き、シュシュッと静かなる発砲音がして、流体金属弾が吐き出される。


 空気を切り裂き、要塞砲の砲弾と比べると小さな小さな弾丸は要塞砲の砲弾の側面に命中して爆破した。


 その瞬間、砲弾は揺らいで着弾点が僅かにずれる。流体金属弾の液体化爆発の威力は確かに砲弾にダメージを与えたのだ。


 長距離での砲撃はその爆発による僅かなブレで、大幅にずれて森の中に着弾していった。


 またもや、ズカーンと周りに響き渡る人々に恐怖を感じさせる大きな音がして、クレーターが作られ、木も土も巻き上げられて、周辺に落ちていった。


「これはなんなんだ? 今のはいったいなんだ? 君は何者なんだ?」


 まくしたてるように、刈谷の爺さんが聞いてくるので


「私は謎の美少女エージェント、朝倉レキですよ」


 視線は空から揺るがず、親切に答えてあげる。可愛いでしょう? 美少女エージェントに会えるなんてラッキーですねと。


 もちろん、刈谷の爺さんはラッキーだったな。サイン下さい。後、写真も一枚いいですか? とは言わなかった。


 普通に怒って聞いてきたので、洒落がわからない頭の硬い爺さんだなぁと、遥は思った。しかし、爺さんの対応が当たり前であり普通は怒るだろう。


「そういう戯言ではないのだ。これはなんなんだ、君は何者なんだと聞いているんだ」


 刈谷の爺さんの問いかけを無視して気配感知をしていたら、やはりというか、当然というか、要塞砲が再び撃ってきた。一門ずつの砲撃なので、同じように迎撃して防ぐレキ。


 これならなんとかなるかもと、要塞ダムも攻撃の効果が無ければ、弾代がもったいないから止めようと考えるかもと、遥が希望を持ったところ、レキが呟く。


「要塞砲以外の砲も動き始めました。一斉に砲撃するみたいですね」


 まるでこれから雨が降りそうですね、というたいしたことが無いという感じで遥に教えてくれた。


 気配感知は半径50キロまで感知可能な壊れスキルだ。もちろん、いつもは使う際に大幅に感知範囲を下げて使わないと、感知しまくって意味が無いので、その馬鹿げた範囲をフルには使っていない。


 要塞ダムはここから25キロぐらいである。この場合は仕方なく気配感知の範囲を広げていたのだが、なるほど確かに備え付けてある砲が全て動き始めている。


 どうやら敵はレキ一人のために赤字覚悟で戦う模様だ。


「マジかよ、あの砲全部って200門はあるよね? ナインエモン、砲弾を防ぐ傘を用意して〜」


 左のウィンドウに映る、いつも甘やかしてくれるナインに泣きつく遥。


「マスター、遥様のぼでぃに戻られたら、誠心誠意お慰めしますね」


 甘やかす方向が違う返答をナインが笑顔で伝えてきた。どうやら死んだ後の話らしい。


「旦那様、大丈夫です。あの程度の砲弾は楽に回避して射程内から脱出できます」


 ナインのレキを信じていないだろう言葉にムッとした表情になり遥に伝えるレキ。


 ムッとしたレキも可愛いなぁと思うが、違うのだ。レキもナインも遥のことしか気にしていない。


「いや、ここの人たちをできるだけ助けないと。自業自得なら仕方ないけど、今回は私のせいだからね」


 まさか謎の美少女ごっこをして楽しんでいたら、そのコミュニティは全滅しちゃいました〜、テヘッ。というパターンはさすがに寝覚めが悪すぎる。


 周りで固まっている集団を見て嘆息して決意する。


「仕方ない。ポリシーには反するけど機動兵器大破も視野に入れて行動する!」


 口元を引き結び皆にお願いする。


「まずは一斉射撃を防ぐよ。次弾がどれくらいの時間で装填されるか、サクヤ計算よろしく」


 そういう検証系は苦手なおっさんなので。と副音声が聞こえそうな発言でサクヤにお願いする。


「了解しました、撃った後からの装填、発射時間を計算しますね。ご褒美は私がナインにお願いして作ってもらったネグリジェを着て添い寝していただくだけで充分ですので」


 デヘヘとおっさんなら逮捕確実な、怪しい微笑みを頬を染めながら伝えるサクヤ。ウググと思うが仕方ないので、頼んだよと頷く。


「エンチャントサイキック」


 次にエンチャントにて超常の力をレキに纏わせる。レキの身体を空間の歪みが覆い、力が上がったことを示した。


 それと同時に要塞ダムから無数の砲弾が発射される。数百の砲弾は正確にレキのみを狙い、周辺もその余波で確実に更地となるだろうことは間違い無い。


 その意図を理解したレキはすぐさまリキッドスナイパーにて銃弾を撃つ。


「超技レインスナイプ」


 レキの小さな呟きと共に発射された流体金属弾は飛来する砲弾と同じ数だけ分裂して細い糸となり、分裂した糸は銀色の矢と化して正確に砲弾を迎撃した。


 ドドドドとまるで空気の壁が破裂したように、砲弾と銃弾が激突した影響で、空中一面が衝撃波と轟音を生み出していった。その音は鼓膜に響き渡り、痛いほどである。


 そうして迎撃された砲弾は全てあらぬ方向に着弾していった。


 これは動画を撮って無料動画に流せば再生回数100万超えるねと、常に呑気な考えをするおっさんもいたりした。


「こ、これは……」

「なんだあれは」

「空が落ちてくる」


 人々が空からの轟音を聞いて混乱しながら、各々恐れ慄き呟き始める。なんだか最後のセリフだけコロニーが落ちてくるようなセリフだったが、気にしていても仕方ない。


 遥は久しぶりのウィンドウからの支援ボタンを押下した。


「来い! 段ボールシップ!」


 周りが凄い不安になる叫びを遥はした。突如の少女の叫びに周りがなんだろうと注目する。


 叫びと共に空間に雷光がバリバリと走り、歪みが発生すると、その中から何かが現れる。


 支援のために移動距離を無視して大型機動兵器輸送用ヘリにぶら下がった砂上戦用輸送装甲艦が空中から突如現れたのだ。


「ツヴァイ輸送班から報告いたします。司令、砂上戦用輸送装甲艦到着いたしました。ワイヤーロック解除、着地させます」


 全長180メートル、20インチ超電導砲が3連装3門、超電導バルカンが20基設置されている不可視のフィールドを発生させる装甲タイルを山程積んだ砂色のフェリー型装甲艦はその巨大な船体を日差しに煌めかせながらヘリから解き放たれて着地した。そしてヘリは再び基地へと帰るべく消えていく。


 その巨体艦の反動でズズンと大地が着地の衝撃で揺れ、積雪していた雪が舞い上がる。


「司令、ツヴァイデザート隊5名、総員配置に着きました」


 操船に必要な人数のツヴァイたちが、ビシッとした表情で敬礼をしながら報告をいれてくれる。


 ウィンドウからはサクヤとナインが、おっさん少女を心配気に見ている。支援補給はすぐに行われるが、帰還は走って帰らないといけないのだ。要塞ダムの攻撃に耐えられなければ撃沈されてしまうからである。


「大丈夫。段ボールは無敵なのだと証明するチャンスだよ」


 ニヤリと虚勢をはりながら、激戦となるだろうとおっさん少女は覚悟をするのだった。

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