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コンクリートジャングルオブハザード  作者: バッド
10章 体験牧場を楽しもう
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129話 おっさん少女は真実を知る

 間宮の家は豪邸であった。とは言っても昔の豪邸だ。古い瓦屋根の2階建て、かなりの面積がある広い家屋である。見た目柱も壁も古そうで趣きがある感じだ。ちょっと庭が広すぎる感じもする。そして崩壊時の影響なのか、木屑やら粗大ゴミっぽいのが庭に散らばっているのが目についた。


 昔ながらの地主であるということは本当なのだろう。なんかお手伝いさんとかいそうだねと遥は思う。


 それでも300人を囲い込むのは不可能である。恐らくは家々に分散して暮らしていると遥は推察した。実際に気配感知では離れた家屋に人が集団で固まっているのがわかる。


 ちょっとこの気配感知は効果範囲が広すぎなので、ゲームで人質を救え!みたいなミッションがあったら、速攻場所がわかりクリアできるレベルだ。その場合はゲームバランスブレイカーなスキルだねと憤りながら、真っ先に取得するおっさんである。


 おじゃましま〜すと内心で断りを入れて、テッテコ歩いて家の中にガラガラとガラス戸を開けて入る。


 あれ、ガラス戸が開いた音がするわよと、誰かの声が親切に聞こえたので、ここの人々はNPCとしての役どころをよくわかっているねと感心して、またガラガラと音をたてて閉めておく。


 声がしなかったら開けっ放しにしていたかもしれないので助かる援護だと勝手に現実の人々を、NPC扱いする非道なおっさん少女がここにいた。


「でも、間宮さんがどこにいるかわからないなぁ」


 う〜んと悩む遥。さすがに気配感知された相手が名前付きでわかるわけではないのだ。


 チラリとウィンドウを見るが、サクヤは笑顔のまま首を横に振る。まぁ、レキのスキル内でしか仕事をしてくれないサクヤである。気づいていても教えてはくれまい。


 しょうが無いと段ボール箱を脱いでアイテムポーチに仕舞う。そうして先程声のした方に向かうと毛布を被りながらお喋りをしているおばさん連中を見つけた。


 こんなおばさんなら楽勝だねと、壁に隠れて声だけをかける。


「おばちゃーん、間宮のおじさんどこ〜? お父さんから渡してこいって言われたんだけど〜」


 幼女の真似をしておばさんに問いかける年齢不詳ではあるがいい歳の中身おっさん。堕ちるところまで堕ちた模様。


「間宮さんなら、郷田のじっ様と二人きりで書斎で何か話しているわよ」


「ありがと〜。おばちゃん」


 お礼を言って、判明した目的地へと移動を開始する。おばちゃん連中の部屋から離れていくなかで、あれ? 今の声は誰? 沢井さん家の光ちゃんじゃない? そういえばそうねと勝手におばちゃん連中は納得してしまった会話が聞こえた。


 恐らくはあそこは監視所の役目もあるんではなかろうか。


 しかしドアの開け閉めする音を聞いても見にも来ない、いい加減さである。だからこそ声だけでも応対すると遥は確信した。絶対に寒い中、壁向こうにいる少女を確認には来ないと思ったのだ。


 寒いとはいえ、この崩壊した世界では少し危機管理にかける対応である。若木でもオアシスコミュニティでも、絶対にしないだろう怠慢さだが、周りにノロノロと動くゾンビしかいないと、ここの人たちは油断しているのだ。


 オアシスコミュニティとは対極の状況である楽観的過ぎる奥多摩コミュニティ群だと遥は思った。その中には牧場コミュニティも残念ながら入れてある。


 まぁ、それはともかく気配感知で二人きりで部屋にいる人間を調べると離れらしき場所に座っている二人の人間を感知した。


 書斎がわからずとも、この家には常に4、5人が部屋に押し込まれているので人数が2人ならば、書斎がどこか調べる必要もない。シティアドベンチャーでは使用禁止になるのが確実な気配感知であった。


 そのまま廊下を歩きながら、周りを観察すると、ガラス戸が庭に面しており、廊下も古そうな床であり、上を普通に歩けばギシギシと鳴りそうだ。まぁおっさん少女の歩法では音はならないが。


 この家屋は昔を思い出させて、郷愁を感じさせる。まぁ、窓は雨戸がしまっているし、床も少し泥だらけになっているが仕方あるまい。こんな状況では床拭きも難しいのだと遥は思った。


 テクテクと歩いていきながら通る部屋を見ようとするが、どこも障子をしっかりと閉めてあり、明かりは消しており暗くなっている。そのため、覗くことはできなかった。しかし、時折部屋から話し声がしており、この先の不安と寒さを憂う内容しか聞き取れない。


 遥は鬱な雰囲気だなぁと思いながら、書斎にそのまま向かう。

 

 書斎は話し声が聞こえないようにか、離れにあったのでのんびりと歩いていて、少し時間を食ってしまったおっさん少女。話が終わったかなと、イベントを見過ごしたかと残念に思いながら障子を自分の姿が見えないように、躊躇いなくスラッと開けた。


「ん? 誰か来たのか?」


 突如開いた障子を見て、中から痩身な30代ぐらいなのだろう男性が出てきた。キョロキョロと周りを見るが、目の前にいるおっさん少女には気づかずに不思議な表情で首を捻り、障子を閉めてまた中に戻る。


 もちろんおっさん少女も、その愛らしい子猫を思わせる小柄な身体を部屋に滑り込ませる。


 部屋の中に入ると本棚が申し訳程度に壁に立てかけてある畳の部屋であった。中には牧場コミュニティに来た爺さんが座っている。部屋の真ん中には火鉢が置いてあり、部屋を暖めていた。


 おぉ、火鉢なんて子供時代以来だと火鉢のそばにいそいそと座る潜入ミッションを舐めている行動をとるおっさん少女。見ると火鉢には燻製肉も串に刺して炙られていた。


 二人共気づかずに、また火鉢の前に座り直し話を再開する。


 もちろん、隠蔽の効果である。昔やっていたゲームでも隠蔽系を、レベルマックスまで上げてしまうと、しゃがんだだけで人々の視線が無くなり気づかれなくなるのだ。それを悪用しボスを攻撃してはしゃがみこみ、敵の警戒をとき、また攻撃をするという非道な戦いをしたことのあるおっさんである。


 そんな隠蔽スキルをフル活用して、火鉢の前で手を翳し暖まるおっさん少女。それには気づかない哀れなる二人は話を再開させた。


 間宮だろう男性が腕を組みながら郷田の爺さんに厳しい顔で、しばらく雑談をしていた。早く面白そうな話にならないかな。燻製肉美味しそうだな。食べても良いかなと思いながら、火鉢に手を翳しながら待つおっさん少女。


 しばらくして、ようやく重要な話を二人は始めた。そして、おっさん少女は焼けてきた燻製肉に興味が移っていた。


「そりゃ、本当なのかい? 郷田さん」


「あぁ、ここ数日、門前を監視していたが間違い無い。牧場の連中はどこかに灯油が貯蔵されているのを発見したようだ」


 重々しく頷きながら郷田の爺さんは間宮へ視線を返す。どうやらドンピシャリのタイミングで話を聞ける模様だと遥は喜んだ。


 と、いうかここの人たちは、さっきの見張りもそうだが、遥が来るのを待ってから会話を始めるNPCではないかと疑うレベルだ。間宮一族ゲームキャラ疑惑である。


「しかし…………。俺らは牧場連中を仲間外れにしていたんだ。うちらだけで助け合って、あいつらは無視して暮らしていた。それを今更助け合っていこうと提案するのか?」


 難しい表情を崩さずに苦渋の顔で間宮が続ける。


「郷田さんのところだって。同じだろう? 刈谷さんが牧場連中を助けようとするから、若い奴らに演技をさせて合流させないように頑張ってきたんだろ? 相手だって若い連中の演技に気づいている奴は絶対にいるぞ」


「確かにそうだ……。若い連中には嫌な役目を負わせて合流しないように気をつけてきた。今だって合流などはしてほしくない」


 はぁ〜と、苦しそうな表情で嘆息して疲れたように郷田は答えた。


「間違いじゃないのか? ガソリンスタンドから持ってきたのかもしれないぞ」


 間宮が推測から郷田に尋ねるが。郷田はかぶりをふった。


「いや、それはない。ガソリンスタンドは街のかなり中に入らないと無い。そこには化物がうじゃうじゃいるから取りに行くのは絶対に無理だ。俺らが向かう途中で諦めたんだ。それに女子供が夕方に出発して夜に帰れるほどの近くじゃない」


「う〜ん、それなら誰か灯油を貯蔵している家があったのか? 信じられん話だが……。それとも灯油を積んだタンクローリーでも見つけたか?」


 顎に手を当てて間宮が考え込む。遥はお腹が空いたねと、二人の視線が火鉢に向いていないことをいいことに、勝手に炙られていた燻製肉をとって、ちょっと固いけどアチアチで美味しいと食べ始める。視線が通らないと盗みにも気付かれない悪魔的スキル、その名は隠蔽である。


 その行動に気づかない哀れな二人は話を続ける。


「刈谷の爺さんはどうなんだ? 牧場連中が見つけた灯油と引き換えに合流しようとか言い張るだろ?」


 考え込みながら相手の様子を間宮が窺うように尋ねる。


「刈谷の娘たちが泣いて、現状を教えてる。今の現状じゃ見も知らぬ牧場連中を引き取るのは絶対に無理だと食料の残りや薪や灯油の残量を見せてな」


「で、爺さんはなんて?」


「怒鳴り合いに最終的になっちまってな。最後は孫が大泣きしたのを見て諦めた様子だ」


 う〜むと、腕を組み直し郷田の話を聞いて、どこか安心した表情になる間宮。


「そうか………。刈谷の爺さんが牧場連中を引き取れと言ってくるのは正直面倒だったから、説得が上手くいったのは良かった。だが、そのタイミングで灯油を牧場連中が見つけちまったか」


 再び苦渋の表情で悩む間宮。燻製肉を食べると喉が乾くねとアイテムポーチから果汁100%のオレンジジュースを出して飲むおっさん少女。


「お前のところもかなり厳しいんじゃないのか? ここに来る途中で解体した納屋の木材を薪にしている奴らを見たぞ」


 郷田が身体を乗り出して間宮に対して説得するために迫る。


「そうだ………。300人が冬に暮らせる燃料が物凄い量だと初めてわかったよ。昔の連中は偉大だったんだな」


 ため息ばかりついて、疲れて項垂れる間宮。もう限界なのだろうと思わせる。


 あぁ、庭がゴミだらけだったのは納屋を解体した跡かと遥は今更ながら気づいた。


「今日も苦労して家を解体したよ……。大金はたいて建てた家が解体されて薪にされるなんて御先祖様に申し訳立たないな」


 泣きそうな声音でそう言って、手のひらを顔の前でひらひらさせるが、その手のひらは、解体した時に傷つけたのだろう生傷でいっぱいであった。


 遥も、もっと炙らないとねと燻製肉を火鉢の上でひらひらさせた。


「なら、決断するしかない。あいつらを街で尾行するのは無理だ。見つかった時の騒ぎで化物共が集まるかもしれん。直接牧場まで行って交渉するしかないんだ!」


「大勢の男たちで押しかけて銃を持ちながら、女子供たちの集団に交渉か………。気乗りはしないな」


「あいつらは所詮余所者だ! どこか違う地域からたまたま牧場に来た連中だ。本来なら牧場に居座る権利もないんだ。牛や鶏は儂らの食料となっていたはずだ。それを女子供たちの集まりだから見逃していたのが儂らの優しさだ。少しばかり恩を返してもらっても構わないだろ?」


 郷田は威圧感溢れる怖い表情で間宮を睨んだ。遥もコップに注いだオレンジジュースが溢れそうなので、おっとっとと慌てた。


「それとも、お前はこのまま妻も子供も凍死して良いのか? ちょっと灯油のある場所を聞くだけだぞ!それでとりあえず、この冬は越せるかもしれないんだ!」


「わかったよ、爺さん。だが、灯油の貯蔵してある場所を聞き出すだけだぞ? それだけだからな」


 郷田の説得に頷きながら決心した顔で間宮が答えた。


 はてさて、そう上手くはいかないんじゃないかなと、聞きたいことも聞けたので家に帰るおっさん少女であった。

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