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コンクリートジャングルオブハザード  作者: バッド
10章 体験牧場を楽しもう
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127話 おっさん少女は強制農場を見学する

 毎日シンシンと降り続ける雪のお陰で、都内はかなりの積雪になっていた。どこからどこまでが道で、どこからどこまでが田畑なのかはわからないような白い景色が延々と続いている。


 今や放置された錆びついた車も、崩壊時に壊された店も何もかもが雪の下となり、惨劇があった血の跡すら消えていた、


 冬の世界は古代のように、静寂が支配をしている死の世界だ。

 

 この静寂は永遠のものとなるのではないかと、崩壊前では思い描くことすら無かった考えを、自らの未来を思い浮かべ人々は不安にかられるのだった。


 その静寂が支配して死の世界となっている雪の中でポツンとまるで場違いの色のようなことを感じさせるようにおっさん少女はいた。牧場にはシノブが代わりに化けているのである。


 ハァと吐く息は白く、寒さは常に身体をかじかませる。凍傷やしもやけになることは無いが、それでも寒い中に立っていた。いつもながらの眠そう目をした子猫を思わせる庇護欲を喚起させる小柄な可愛らしいレキぼでぃである。


「はぁ、寒いねぇ。状態異常無効でなければ凍傷とかになりそうだよ」


 可愛らしいレキの体がそんなことになれば大変だろう。多分サクヤが狂うかもしれないと想像の中でも戦慄する。


「そうですね、ご主人様。私が懇切丁寧にその場合は凍傷を治す薬ローションタイプでご主人様の身体をヌリヌリして差し上げますので。勿論レキ様の身体限定ですが」


 この銀髪メイドはどう扱ったら良いのだろうかと心底悩む遥。サクヤが正直すぎるように感じる今日この頃だ。


「マスターが凍傷になりそうなときは、私の両手で包んで、私の温かい息をふぅ~と吹いて温めますね」


 小首を可愛らしく傾げて、ふんわりとした感じで微笑むナイン。最近ナインも正直に生き始めている今日この頃だ。


「まぁ、レキの身体なら状態異常は無効なんだけどね」

 

 ふんすと息を吐いて、両手に腰をあてて可愛く威張る遥。レキぼでぃの時はひたすら愛らしい姿である。


「ですが、地形ダメージが入る場合はありますので注意してください。火傷や凍傷にかからないからといって、そのダメージも無効になるわけではないですので」


 急に真面目な顔になり、注意してくる戦闘用サポートキャラである。もっともな話だ。火山の中に入っても火傷にはならないがダメージは負うのである。当たり前の話だろう。


 わかったよと、こくんと可愛く頷いて、また寒い雪の中で辺りを見回す。


 現在のおっさん少女は森の木の頂上先端にいた。小枝のような木の先端に両足をチョンと乗せて立っている。有り得ないバランスであるし、重さで木の先端など簡単に折れるはずなのに、まるで重さが無いように揺らぎもしていない。全ては人外の力を持つ体術スキルのおかげだ。


 なんか、こういうのアニメや漫画で見たことあるよね。自分でやってみるとなんか強者という感じがして良いねと内心でわくわく思う童心に包まれている遥である。


 おっさんならばあれやこれやとなるところだが、そもそも一般人には絶対に無理なので比較することも無いのであった。恐らくバトル漫画とかの主人公とかしかできない技だ。


 そんな森の木の上にちょこんと背筋を伸ばして立っている遥は、数キロ先の遠くに見える畑を監視していた。


「お、来たみたいだよ。どうやら早苗さんの情報に間違いはないみたいだね」


 聞いた通りだねと畑に目を凝らすとその様子がはっきりと見える。高性能すぎるレキの身体は、数キロ先も注意すれば見えるのである。何しろ銃には視力が必須なわけで銃術スキルが上がった結果、スナイパーライフルも遠くまで撃てるようにと視力は高いのである。多分両目は10.0ぐらいであろう。


 遥が見ている畑の先には人々が防寒具を着こんで寒そうに移動していた。錆びた鍬や手入れのされていないスコップをもってノロノロと歩いている。その数は50数名。女性も混ざり、皆疲れた顔を隠さずに畑へと向かっていた。その周りにも30名ぐらいのバットやらゴルフクラブをもった人々が警戒しながら歩いている。


「お~、すごい数だね。あんな大人数でよく危なくないね」


「ご主人様、恐らくは危険かと思われます。あの人数ではミュータントを刺激することでしょう。この地域でなければ」


「あ~。やっぱり危険なんだ。そうだよね、それでもやらないといけないというわけだね」


 いつもの眠そうな目をスッと細めてサクヤの推測を聞く。そりゃそうだろう。森の中に隠れているのであればわかるが、ここらへんはまだまだゾンビがいるだろう場所だ。しかも積雪のおかげで白い景色の中、酷く歩く人々は目立っていた。


 畑に到着した人々はその鍬やスコップで積雪を取り除き、その下にある寒さで凍り付いた硬い土を掘り起こしている。


「うへぇ、見るだけで辛そうだ。300人の大所帯だからというわけか」


 掘り起こした土の下から芋を掘り出している模様だ。そうだろうと頷く。何しろ機械が動かないのだ。今までは専用の芋掘り機でいっぺんに採っていたのに、今や人手がなければそれも無理なのだ。普通に採り切れなかっただろうことがわかる。


「なんだか、強制労働させられているみたい……。話に聞いた間宮さんはどこかな?」


 聞いた話だと30代の頑固そうな嫌味のおっさんだと早苗は言っていた。しかし、子供の印象は第一印象で決めるから当てにならないと思うので直接見たいのだ。


「リーダーっぽい人はいないみたいですね。ご主人様」


「そうだねぇ。掘っている人も護衛している人の中にもいないようだ。なんか指示通りに動いているだけな感じ」


 サクヤの言う通り、掘っている人は目もうつろだ。寒さと重労働で疲れ切っているのであろう。だが、食料が無ければ生きていけないので頑張っているとわかる。護衛も恐怖の表情を浮かべ、周りをせわしなく見渡している。


「300人が毎日一回食べるだけでも、凄い消費だから仕方ない話だけど……。リーダーはどこ?」


 おかしいなと、きょろきょろ人々を見る。たぶん偉そうにしているはずだと当たりをつけようとするが、見当たらない感じがする。


「恐らくは家に籠っているのでは? あそこは間宮の土地と言っていましたし」


 おいおい、まじかよと遥はサクヤの予想を聞いて驚愕する。簡単に革命が起こりそうな働かせ方だ。リーダーがたとえ自分の土地とはいえ、率先して働かないと反乱まっしぐらであろう。だが、家に籠っているという。


 何か理由があるのだろうかと顎にちっこいおててをつけて考えてみるが、情報が足りない。推測はただの推測に終わるだろうことは間違いないので考えるのをやめる。


 そうして数時間をアイテムポーチから出したホットココアをくぴくぴと飲みながら眺めていると気配感知で移動をしているミュータントを確認した。


 ノロノロと歩くゾンビ10体ぐらいである。この積雪の中では静寂のみで人々の話し声も吸収されるので、たまたま徘徊している方向と同じだったか、運が悪い人々である。


 遠く離れているので、さすがに話し声も聞こえないが、ゾンビに気づいた人々がお互いに叫びあいゾンビと接敵を始めている。


 遠距離用の武器など無い彼らはバットやゴルフクラブで必死の形相でゾンビへと殴りかかっている。バットで近づいて口を大きく開けて、恐らくは叫んでいるゾンビにたいして、力いっぱい殴打している。


 だが、あんまり効き目がないみたいで、ゾンビは少し後ずさるのみである。すぐに喰らいつこうと人々に襲い掛かる。まぁ、ゾンビには殴打系は効きにくいとは思う。銃かナイフ系統でないと痛覚が無いゾンビ相手はきついはずだ。


 それでも何回も戦って慣れているのだとわかる動きで、うまくゾンビの組み付きをバットで押しのけて間合いを取る人々。そして再びバットなどで殴りかかり、ゾンビが倒れても油断せずに必死に一生懸命に叩いている。


「耐久力がバットに設定されていたら、壊れるぐらいに殴っているね。本来のゾンビ戦闘のような感じがする」


 うむうむ頑張っているねと、ココアを小さな可愛いお口に運びながら眺める遥。もちろん、木の先端にいるままだ。


「ですが、あれでは小走りゾンビは倒せないのでは? あのような戦い方ですと抑えきれないですよ」


「そうだねぇ。ここらへんは小走りゾンビも少ないみたいだし、生き残るには都内では最高かもしれないけど、それでも小走りゾンビはいるから、たぶん誰かが犠牲になっているかも」


 ちょっと声を落としてサクヤに答える。映画とかで犠牲になる人は勇敢な人が多いが現実もそうなのだろうかと思ってしまう。


 おっさんだと間違いなく犠牲になっているだろう。みんなが要領よく逃げている中で戦闘に夢中でいつの間にか自分だけ孤立して、まってくれぇ~と叫びながらゾンビに追いつかれて喰われちゃう役どころだ。


「まぁ、ラッキーだったよね、今日は私が見張っているから」


 アイテムポーチからリキッドスナイパーを取り出して、かなり人々から離れた町の道を走っている小走りゾンビを見る。気配感知に引っかかったのだが、血の匂いに誘われたのだろうか、明確に畑の人々の方向に走っている。


 5体程度だが、あの人々にとっては充分に脅威であろう。スチャッと構えスコープを覗き照準を合わせる。


 道を小走りで移動しているゾンビへとシュッシュッと静かな銃声をたて流体金属弾が撃ちだされていく。


 3キロは離れており、走っているのにもかかわらず、正確に銃弾は小走りゾンビの頭へと吸い込まれていき命中する。全ての小走りゾンビはその銃弾で爆散してあっさりと全滅するのであった。


「ふ、レキに頼むまでもないな」


 ライフルを肩に担ぎなおして呟く。遥でもこれぐらいは楽勝である。何しろすでに銃術はレベル7であるからして。使いこなせるレベルなら命中間違いなしなのだ。


「ご主人様、この敵はベレーモンキーと名付けました!」


 サクヤが唐突に叫ぶ。今倒したのは見慣れた小走りゾンビのはずなのに新たな名前を名付けてくる。


 それを聞いても不思議に思わず、遥はそっと瞼を閉じた。そうして再び開けた瞳には力を示す輝きが宿っているレキとなっていた。


「私を監視しているつもりなのでしょうか? それとも不意打ちを狙っているのでしょうか」


 何もない空間に話しかけるレキ。木の先端にいるという状況なのに、眠そうな目でぼんやりと呟くように話しかける。


 その声を聞いて空間が歪む。レキを囲むように3体の敵が宙から生み出されるように出現する。やはり木の先端に足をかけており、重さで木が揺らぐこともない。


 特殊部隊を示すベレーを被り、スリットの入ったバイザーを目につけており、全身は緑のプロテクターを着こんでおり、緑に光るコンバットナイフを片手に装備している2メートルはある巨漢の猿である。


 油断なくレキを囲み武器を構えている。先程から密かにこちらに近づいていることを超術看破で見破っていたのだ。


「防衛には徴兵と敵が近づいていないかの斥候も必要というわけですね。貴方たちの様子から見ると斥候ですか」


 レキは囲まれているのにもかかわらず、一欠片の動揺も見せずに語り掛ける。


「モンキー!」「うっきー!」「モモンキー!」


 ベレーモンキーはレキへと一斉に飛びかかってくる。飛びかかる瞬間も一般人には見ることができないだろう速度で木を蹴り、それぞれにレキの死角となる箇所へと攻撃をしてこようとする。


 レキの後ろにいたベレーモンキーが身を低く構えて足を狙い横薙ぎに斬りかかる。まずは敵の移動力を失わせようとする動きだ。油断をしない確実な戦い方である。


 まずは足を貰ったと、己の速さに自信を持つベレーモンキーは毒の効果のあるコンバットナイフを振りぬく。

 

 だが、肉体を斬り裂く感触はなく、振りぬいた先にいるはずの少女の姿はそこには既にいなかった。いたはずの場所には何もない空間だけだ。


 見失ったベレーモンキーは敵の姿を探すべく顔を上げようとする。そして顔を上げた先には小さい靴が見えた。その小さい靴はベレーモンキーの頭を踏んでくる。空気を斬り裂くような綺麗な踏み込みをそのベレーモンキーは頭を踏みぬかれながら見た最後の景色となった。


 レキは後ろを振り向くことなく、足を狙ってきたベレーモンキーをトンッと軽くジャンプして回避し、回避されて驚いているベレーモンキーの頭を踏みぬいた。


 脚を狙う仲間が瞬時にやられたことにも動揺せずに、レキの左右のベレーモンキーは襲い掛かる。


 右の敵はレキの首を狙い大きく振りかぶり斬りかかり、左の敵はレキの心臓を狙い鋭く突いてくる。木の先端しか立つ場所が無いここでは回避しにくいコンボである。


 それを見たレキは、心臓をついてくるナイフの腹にそっと手のひらを添えて、木の先端に置いてある脚を支点に体を回転させ捌き、その攻撃を受け流しずらす。そして回転したそのままの速度でもう一匹の首を狙うナイフを僅かに体をかがませてやり過ごす。


 そうして、回避したまま回し蹴りをビシッと小柄な脚を伸ばして、首を狙いにきたベレーモンキーの頭に叩き込み爆散させた。


 心臓を突きにいきあっさりと受け流されたベレーモンキーは、驚愕とともに己が敵う相手ではないと悟った。受け流されて、泳いだ体を立て直し撤退することに決める。


 脆弱そうな見かけと違い恐ろしい敵であると、主に伝えねばと瞬時に考えて逃げることに徹しようと、間合いを取るべく少女へと振り向く。そのまま落下して空中で体勢を立て直し逃走する算段であった。だが、振り向いた先にいる少女の姿を見て、その考えは甘すぎたと感じた。


 レキはまるで空中に足場でもあるように方向転換し、振り向いてこちらを見てきた残りのベレーモンキーの頭に蹴りを突き入れていた。その威力で突風が発生して、ベレーモンキーの頭には足首がめり込み、同じように爆散させた。


 僅か数秒の戦いで、グールの大群すらも相手にしない強者であるはずのベレーモンキーは頭を失くし、ドサドサと木に積もった雪を巻き込みながら落ちていくのであった。


 短いが激しい戦闘が終わりレキは周辺に敵がいないことを確認して構えをといた。


「かなりの練度です。旦那様。雑魚であるのに高レベルな体術を使いこなしていますね」


 そう告げながらもレキの口元はうっすらと微笑んでいた。新たなる強者に喜んでいるとわかる。


「さすが50000というわけだね。本格的に倒すのなら軍勢を倒す作戦を立てないと駄目だね」


 レキの忠告を聞きながらも遥は考える。遥が探索してすぐに現れた敵に対して。斥候がいるとしたらかなり面倒である。


「まぁ、相手は防衛しかしない性格だしね、斥候だけならなんとかなるし、ゆっくりと考えよう。今はコミュニティが気になるし」


 そう答えて、もうベレーモンキーの存在は忘れて、雪に積もった畑で働く人々へと再び視線を向けるおっさん少女であった。

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