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コンクリートジャングルオブハザード  作者: バッド
10章 体験牧場を楽しもう
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126話 猟銃軍団とおっさん少女

 ダダダと合宿所の床を激しく音をたてながら移動する早苗たち一行。寒い中吐く息は白く、急いで走っているので、早苗を呼びに来た女性と早苗とおっさん少女だけで、蝶野母娘は来なかった。


 合宿所と謳っているだけあり、結構な距離を走り、外に出て門前に到着する。


 外では喚いている若い男の声が門に到着する前から聞こえてきた。


 どうやら喚いているのを含めて15名だと気配感知は教えてくれている。門に取り付けてある監視所には困った顔の学生だろう女の子が立っており、早苗が来たのであからさまにホッとした表情となった。


「早苗さん、こっちです。コイツラまた来たんですよ!」


 口を尖らせて蔑むように門の外に集まっている人々を指を指す門番の娘。


 門は元からあった五メートルの格子状の鉄棒の門に板やら鉄板やらを貼り付けてある。バリケードが無くても頑丈そうだが、グールなら木っ端微塵にできそうな感じの門だ。


 その横の門柱にボロいベニヤ板でできた監視所が取り付けてあり、門の外を見れるようになっていた。


 門番の娘の横に取りつけてあるハシゴを早苗と遥は登り、門の外を見てみる。見たら50歳から60歳ぐらいだろうか老人五名集団の前にムスッとした表情で腕を組んでカラフルな蛍光色の派手なジャケットを着込んで立っているのが見えた。


 残りの10名は15〜20歳の若者たちの集まりで同じように蛍光色のジャケットを着て立っていた。


 ミシミシと音をたてて監視所に登った早苗の姿を見るなり、外にいた若者たちが騒ぎ立ててきた。


「おら、早苗! ようやく来たか、俺のおんなぁ!」


 若そうな男の中でも大柄の強そうなやつが、大声で早苗に向かって暴言を吐く。


「おら、サッサと出てこいやぁ」

「諦めてこちらと合流しろ!」

「大丈夫、俺らが守るからよ!」


 その発言にのって、ワチャワチャととうるさく叫ぶ若い男たち。ガンガンと扉も蹴飛ばしているのもいる。


 それを見て、子猫を感じさせる可愛らしいちっこい体を監視所に滑り込ませて見ていたおっさん少女は顔を俯けて震え始める。


「あ〜、大丈夫だから。コイツラはそんなにやばい奴らじゃないから」


 怖さで震えていると思い、早苗がおっさん少女の頭をゴシゴシと撫でて安心させようとする。


「あんたら、初見の子供もいるんだよ! もう少しおとなしくしな!」


 姉御肌の早苗はキップの良い叫びで若者たちへと威嚇する。


「あん? まさかまだ生き残りがいたっていうのか?」


 大柄な若者が驚いた表情でおっさん少女に視線を向けてくる。


 若者たちも早苗の言葉を聞いて、お互い顔を見合わせて、コソコソとまだ生き残りがいたのかと話しているのが聞こえた。


「その通りだよ。この子は今日まで一人で生きてきたんだよ! 大変な思いを………」


 言い淀みおっさん少女を見てくるので俯けて震えていたのをやめて、顔を上げ答えてあげる。もちろん映画で出てくるようなチンピラたちを見て、思わず笑わないよう耐えていたのである。


「はい。きっと多分メイビー、私は苦労をして生きてきましたよ」


 早苗に視線を合わせて、きっぱりと答える遥。そこに一片たりとも迷いはない模様。


「なんだよ、その返答は……。まぁ、苦労してたんだよ」


 最後の声は門の下にいる人間に向かい叫ぶ。早苗は自分言ったことなのに、なんだがものすごい不安そうだ。


「大丈夫ですよ。自分を信じてください。きっと私は苦労をして生きてきたんだと信じてください!」


 紅葉のような可愛らしいおててをからだの前でぎゅっと握り、早苗の不安を煽る遥。


 はぁ〜とため息を吐いて脱力しそうな早苗。だが持ち前の楽天さと強い精神でなんとか座り込むのを踏みとどまった。素晴らしい精神力である。


「なら、尚更だ。早苗よ。そろそろ意地をはらないで俺らと合流しな」


 今まで黙って立っていたお爺さんの一人が凄みを感じる声音で急に話しかけてきた。


 じろりと遥に向ける視線は鋭く、正直爺さんの眼光ではない。痩身ながら鍛えていそうで、動きもしっかりとしており老いを感じさせない。なんだが殺し屋みたいな人である。


 総じて、おっさんなら近づかない危険度の爺さんだ。


 多分この爺さんが刈谷であろうことが推察できる。早苗が遥の耳元に口を近づけて苦笑しながら小声でこっそり伝えてくる。


「あれが刈谷の爺さんだよ。怖そうだろ?」


「確かに怖そうです。あの人は元殺し屋か傭兵ですか?」


 失礼なことを平然と聞く遥。相手に聞かれたらどうするのであろうか。


「俺は殺し屋でも傭兵でもないぞ、嬢ちゃん」


 威圧感のある声音で遥の話し声が聞こえた刈谷の爺さんがツッコんできた。


 ニヤリと怖そうに口元を歪ませて視線をおっさん少女に向けてくる。そしてそのままジロジロと観察するように眺めてから、再び早苗に視線を戻し周りに響くように怒鳴る。


「早苗! もう限界だろう? 意地をはって、お前のコミュニティにいる人間を苦しめるのか?」


 何度も繰り返しているだろう内容なのだろうと思う。そしてそれを早苗は断ってきたのだろう。まぁ、あの若者たちがいるのでは合流しにくいだろう。


 というか、あの若者たちは馬鹿なのだろうか? 今は丁寧で爽やかな青年を演じて、合流した後にゲスい行動をすれば良いのである。映画や小説のチンピラでも演じているのなら、いまいちな演技だ。


 冷静に演技の評価をしている遥。自分が完璧なる謎の美少女の演技をしているからこその上から目線である。


「見ろ、この積雪を!寒さで凍死するやつも、このままだと出てくるぞ!」


 地面に積もっている雪を掬い上げて、早苗を見ながら正論をぶち撒ける刈谷の爺さん。


「そうだそうだ。俺らが暖めてやるからよ、早く合流しろや」


 また若者たちが余計な口を挟んでくる。絶対に合流できない理由を言ってくることにさすがに疑問に思い始める遥。


「お前ら、やめんか! うるさいぞ!」


 刈谷の爺さんが若者たちへとジロリと睨みを利かせるが、たじろいでも、なお若者たちは信じられない言葉を吐く。


「だってよぉ、女ばかりなんだぜ? 楽しそうな予感がするだろう? 刈谷さん」


「早苗さん、彼らは男たちだけのコミュニティなんですか?」


 若者たちを見ながら早苗に確認してみる。おかしいのだ。どう考えてもおかしい振る舞いなのだ。違和感が大きくなってきていると感じる遥。


「まさか。あちらは家族持ちがほとんどだよ。その中でも独身のふざけた奴らがあいつらなのさ。あいつらさえいなかったら私たちだって合流してたのに」


 軽蔑の眼で若者たちを見ながら早苗が返答をしてくるのを聞いて、遥はため息をついた。


「そうですね。刈谷さんは酷い人ですね」


「ん? 酷いのはあの若者たちさ。このまま合流したら酷い目に遭うに決まっている。こんな世界でもなるべくなら貞操は守りたいからね」


 と疑問の表情で早苗が遥の間違いを訂正しようとする。


 遥はそれには答えずに推察した。恐らくはこの不自然さに気づいている人がこちらのコミュニティにもいるはずだ。多分大人だろう。言わないのは、このコミュニティが苦境に陥るだけだからだ。


 後でさり気なく蝶野母に聞いてみようと遥は決めた。


 知力の項目が無いために、可愛らしくて愛らしい超高性能レキぼでぃには知力系のスキルがない半面、知力だけはレキぼでぃに引きずられずに推察ができる遥である。


 ハァとため息をまた吐く。刈谷の爺さんはこの不自然さに確実に気づいている。それでもこちらに合流するように訪問しているのだろう。あちらのコミュニティのリーダーとしては相応しくないが優しいことがわかる。


 やっぱり現実は映画のようには進まないねと内心で頷く遥。


「こちらにはまだまだ薪だって灯油だって備えてあるんだ! 米も野菜もある! 子供たちも大変だろう。決断しろ、早苗!」


「そうだそうだ。俺らの持つものも見たいだろ? 決断しろよぉ」


 若者たちが腰を卑猥に動かして、また騒ぎ立ててきたのを見るが遥は映画みたいだと、その姿を見て楽しめなかった。ちょっと泣けてもくる。


「悪いが状況が変わったんでね! もうアタイらは大丈夫さ。刈谷の爺さんには悪いけど、行かないよ! そこの馬鹿な奴らは右手とでも遊んでな!」


 早苗が随分と下品な応酬をして、若いのに気が聞いた返しだねと感心する。なかなか早苗には演技の見込みがあるかもしれない。でも天然だから無理かなとも思う。いつもながらのくだらないことを考える遥。


「状況が変わったって、どういうことだ?」


 今まで黙っていた後ろの爺さんが低い声音で尋ねてくるのを聞いて、遥はまずいと早苗を止めようとする。


「うちは発電機もあるし、プロパンボンベもあるんだ! 灯油だってあるし、しばらくは大丈夫なんだよ! 飯ももちろんある!」


 売り言葉に買い言葉という感じで、バカ正直に答えてしまう早苗。


 それを聞いて、眉をピクリと動かして身じろぎする爺さんたち。


「馬鹿を言え! 無いのはわかっているんだ。すぐにバレる嘘をつくな早苗! お前はリーダーなんだろう?」


「へっ! 段ボール箱に入っていたのを今まで見逃してたのさ。あぁ、私って間抜けだねぇ」


 肩をすくめてやれやれという感じを出して早苗が道化のようにおちゃらける。


 なかなかのやれやれである。次は私も負けないぞと何故か対抗心を燃やす遥。次って何であろうか。


 早苗の言葉に半信半疑なようだが、刈谷の爺さん以外はお互いの顔を見合わせる。そうして刈谷の肩を掴んで話しかける。


「おい、早苗はこんな嘘をつく人間じゃない。多分本当なんだ。また今度様子を見に来れば良い」


 刈谷の爺さんに言い聞かせると、渋々と頷いて全員が牧場から離れていった。


 この寒さで歩くのはかなりきついだろうが、皆は頑張って歩いていくのを牧場コミュニティの面々は若者たちを睨みながら見送るのであった。


「さて、次は間宮グループの先程よりももっと詳しいことを教えてください」


 少し危険なことになりそうだが。まだ大丈夫だろうと、チートなレキぼでぃの愛らしい姿で手を後ろに回して、微笑みを早苗に向ける。


 次は全く話に出てこない間宮コミュニティのことが知りたいとおっさん少女は早苗に質問するのであった。

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