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コンクリートジャングルオブハザード  作者: バッド
10章 体験牧場を楽しもう
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125話 自己紹介する謎のおっさん少女

 どう考えても無理があるだろう話を段ボール箱に入っていたと無理を通すおっさん少女である。倉庫も見逃していたと言い張るアホぶりである。自分が謎の少女であることをアピールするためか、動物たちが餓死するのを可哀そうに思い倉庫を用意したのか。


 答えは後者である。動物は好きなので餓死なんて可哀そうで見逃せなかったのだ。


 それでも、もっと上手く事を運ぶ方法があったと思われるが、面倒なので倉庫を建てたのだ。


 面倒なのでの一言で、計画性とか予定していた設定とかを全て台無しするおっさん少女であった。


 それでも自分は関わっていないですよ。凄い偶然ですねとしらを切る、ある意味頑固な精神である。


 テーブルに肘をついて、頭を抱えて早苗は何だか頭痛がする様子だ。


「あぁ〜、頭が痛い。何があったんだい? 誰か説明しておくれよ」


「疲れているのではないでしょうか? 激務をしていらしたみたいですし」


 遥の言葉を聞いて、顔を上げてお前が言うのかという信じられない表情で視線を向けてくる早苗。


「早苗さんは頑丈そうな人なのに意外と繊細なんですね」


 と小首を傾げて、頭痛の原因のおっさん少女が他人事のように心配した。


「はぁぁぁ、何だかとんでもない子をコミュニティに入れちまったみたいだね」


 呆れた表情で疲れたような息を吐いて早苗はガックリとしたが、なんとかこのアホな状況を受け入れた。


「まぁ、いいだろう。悪いことは起きていないんだ。少し顔を洗ってくるから、話はそれからだ」


 立ち上がり、気を取り直そうとしたので、さすがリーダーと感心して、遥も親切に教えてあげる。


「ついでに、お風呂も入ってきたらどうでしょうか? 沸かしておきましたよ」


「お風呂?」


 遥の親切心溢れて零れ落ちている発言に耳を疑い、かぶりをふって、聞き直す。


「どうも幻聴が聞こえたかい? お風呂と言っていたような気がするんだが」


 遥はコクコクと可愛く頷いて肯定する。


「貯水タンクは一杯にしておいたので、冷たい雪を使う必要ありませんよ。やっぱり女性は綺麗にしておかないとですよね」


 体臭を気にするおっさん少女。若木コミュニティの時と同じく臭いのは耐え難いのだった。おっさん少女がサバイバルを楽しむには少なくても、温かいご飯、綺麗になれるお風呂、ぬくぬくとくるまれるお布団が必須の模様。


 サバイバルの意味を辞書で調べてほしい立派な心構えのおっさん少女であった。


 雪をたくさん入れておいたのですと、面倒なのでそんなことをしないでアイテムポーチから、ホイっと入れた嘘八百なおっさん少女。早苗にトドメの一撃である。


 早苗に効果はバツグンだ!


「…………………………。あぁ、ご苦労さん………。それじゃあ入ってくるよ。久しぶりだし皆も入るだろう?」


 雪をどうやってあの狭い給水口に入れたのだとか、サバイバルで懸命に生き残ってきた少女なのにお風呂を気にする精神とか、色々ツッコミを入れたい。だが、どう考えてもツッコミしきれないので諦めて、がくりと足にきたボクサーのようによろめいたが立て直して、遥を褒めてから健気にお風呂まで歩いていった早苗である。


 これからもこのコミュニティをひっぱるんでしょ? 頑張ってよと内心で応援する鬼畜なおっさん少女がそこにいた。


 皆も呆然として、まだ寝ているのではないかと夢ではと疑いながらも、久しぶりのお風呂に入って綺麗に身体を洗うのであった。

 


 お風呂から皆が出てきて、なんとなく小休止の雰囲気になったので、周りの人々に改めて自己紹介するおっさん少女。


「私の名前は謎の美少女、朝倉レキと申します。今後ともよろしくお願いします」


 口元を微笑みに変えて、小柄な愛らしい体躯でペコリと可愛らしく頭を下げて挨拶する。


 自分で謎の美少女って、言っちゃうんだと周りの面々が思う中、遥は自分の発言に気づいて慌てた様子で顔の前で手を振って言い直す。


「すみません、言い間違いました。もう一回自己紹介しますね」


 皆がそうだよね、今のは変だよねと頷いて、やり直した挨拶を聞く。


「私の名前はミステリアスな謎の美少女、朝倉レキと申します。今後ともよろしくお願いします」


 そうして、深々とおじぎをして挨拶する。遥的にミステリアスも加えたかったのだ。こういうシチュエーションだから、ミステリアスも合うよねというアホな考えからであった。


 遥の発言を聞いて、周りの人々は思った。あぁ、この子はアホなんだなと。


 そして安心もした。訳のわからない不思議な出来事が起きたけど、この子が原因なら大丈夫だろうなと。


 子猫を思わせる可愛らしい小柄な体躯にアホな発言が加わったために警戒心がストップ安と幸か不幸かされたおっさん少女。少なくてもアホな印象は確定である。


 印象というか知力がないので、正しき認識なのだが。


「ありがとうね、レキちゃん。温かい美味しいご飯とお風呂。皆が助かったわ」


 遥に対していち早くお礼を言うために話しかけてきたのは、元気そうな美人だ。多分30代だろう。隣にちっこい娘も一緒にいるので親子なのだろう。子供は小学生か幼稚園児ぐらいだろうか。


「おねーちゃん。ありがとう!」


 湯上がり親子は身体から湯気をたてながら、微笑んでペコリと頭を下げてきたので、何でもないですよと答える。


 愛らしい子供は遥は好きである。見ていてホンワカするからだ。但し、おっさんの時はさり気なく他人と言える距離まですぐに離れる。おっさんと他人の子供の距離は大事なのだ。事案とか言われないように常に注意して行動する小心者である。


「気にしないでください。単に段ボール箱に入っていたのを見つけただけですから」


 いつもの眠たそうな目を親子に向けて、平然とした表情で答える遥。段ボール箱推しは絶対にやめないつもりである。全ては段ボール箱のおかげだと言い張るのをやめる気はない。


 母親は苦笑して、アホな少女のアホな発言を愛らしいと受け止めた。娘の方は、おぉ、段ボール箱って凄いねと感心しているので、親は後で娘と話し合いが必要だろう。


 母娘がお礼するのを見て、周りの人々もお礼を言ってくるので、大したことは無いですよと、少し頬を赤くして照れながら返答する。


 その照れるおっさん少女を見て、周りは益々愛らしさを感じるのだった。


 おっさんなら、ここまで好印象で周りに受け止められないだろう。何か企んでいると警戒され監視もつくかもしれない。


「私の名前は蝶野美佐江よ、よろしくね」


「みーちゃんの名前は蝶野美加です。7歳です!」


 娘の元気が良い挨拶にほっこりする。よろしくねと頭をナデナデするおっさん少女。


 おっさんなら、こんなに気軽に少女の頭は撫でられない。下手をしたら通報だと、撫でる行動もとらないし、とるとしたら頭を撫でていいですかと親に確認を入れるが、この身は美少女であるので問題はないのだと自然に頭を撫でられるのだ。


 頭を撫でられて嬉しそうな美加だが、手を痒そうにかいていることに気づいた。


 見てみると赤くなっているのでしもやけなのだろうか。


「みーちゃん、しもやけ? 痒いかな?」


「うん……。痒いの〜」


「この寒さの中、雪が珍しいからって雪で遊んでいたの。お湯を用意するのも厳しい状況だから、しもやけになったみたいなのよ」


 困る母娘の姿に、ふふふと口元をニヤニヤさせて教えてあげる。


「そういえば、昨日の物資調達で塗り薬を見つけんです。傷薬とかいてあったので、塗ってみましょう」


 塗り薬を取りに行ってから、母娘に見せる。軟膏などが入っているチューブタイプである。


 でかでかと傷薬と表面に記載されており、裏面には12回まで使用可能。ヒットポイントを8から10まで治します。欠損治療不可と書いてあった。


 この記載された内容が頭おかしいレベルの薬はもちろんレベル1の調合で作成したものだ。ガラス瓶に入ったポーションよりも、チューブタイプの普通の見かけのほうが良いだろうと、作ったのである。


 問題は誇大表記なのではと、崩壊前なら訴えられる内容が記載されていることだ。


 しかしそんなことを気にするわけが無い、ゲーム脳に侵されているおっさん少女は、せっかく作ったので早く使ってみてとソワソワとする。


 日曜日に料理を作ったから食べてみてと家族にご馳走する父親みたいな感じだ。そして、微妙な味に家族が反応に困るというシーンが発生するだろう。


 これは既にゴミ素材レベルのアイテムである。上手くいったら若木コミュニティにぼったくり値段で売ろうと画策もしている。


 大量に売り出されれば、外科医を絶滅させるアイテム間違い無しだ。全滅では無く、絶滅という未来においても外科医に就く人かいなくなる可能性大。恐ろしいアイテムである。


 そんな傷薬を見て、蝶野母は不安そうにチューブを見て話しかけてくる。


「何だか表記が変な薬ね」


「そうですね。最大ヒットポイントに対する%回復なら使えたんですが、固定数値の回復アイテムだと序盤でしか使わないアイテムですよね」


 さすがゲーム脳なおっさん少女、恐らく蝶野母が言いたいことはそれではないと思われる。


 何だかゲーム的な返答ねと不安になりながら、まずは自分の手の甲につけてみることにした蝶野母。


 チューブをおすと、にゅるりと緑に輝くクリームが出てきた。ちょっとそれ大丈夫なの? 輝いているわよと、そばで様子を見ていた他の女性が蝶野母に声をかける。


 蝶野母はそのクリームを見て、チラリとこちらを見てきてからおもむろに自分の手の甲に塗ってみる。


 勇気ある行動である。おっさんなら怪しすぎて絶対に使わないたぐいのアイテムである。ありがとう、後で使うねと机の奥に仕舞ったままにするだろう。


 塗った瞬間に体全体が淡い緑の光に包まれる蝶野母。その姿を見てびっくりする面々。


「あかぎれが治ったわ! 見てこれ!」


 この過酷なるコミュニティでは秋も深まる寒くなった時期からお湯はなかなか使えなかった。そのため、女性はあかぎれができて痛がっていたのであったが、蝶野母が手のひらをひっくり返すと綺麗にあかぎれは治っていた。


「スゴい! ママ、みーちゃんも、みーちゃんも!」


 最近母親の手がザラザラで気になっていたのに、綺麗に治ったので嬉しくなった美加は自分にもと母親の袖をひく。


「はい、みーちゃんもヌリヌリ〜」


 美加のおててに優しく傷薬を塗る蝶野母。同じように淡い緑の光が美加の体を覆い、しもやけで真っ赤になっていた手を拍子抜けするほど、あっさりと白い綺麗な肌と癒やしていった。


 私も貸してと傷薬を借りようと他の女性も集まるので、遥は親切に教えてあげる。何気にあかぎれは凄い痛いので死活問題だったのだろう。


「確か12個ほど持ってこられたので、皆さん使えると思いますよ」


 ワイワイとそれを聞いて、倉庫から持ち出してきて皆が使い始めて食堂は淡い緑の光だらけとなっていった。そして癒やされる結果を見て驚き嬉しがる声が響き渡る。


 それを見て、せっかく作った傷薬で喜んでもらえて、遥もうんうんと頷いて満足そうな表情になるのであった。


 蝶野母が信じられない表情で手のひらを本当に治ったのか確かめるように擦すりながら問いかけてきた。


「本当に凄いのね、これ。信じられないわ」


「そうですね。今の医学はここまで進歩したんですね」


 進歩した医学の結果だと誤魔化すおっさん少女。どう考えても誤魔化すのは不可能なレベルだが誤魔化すのだ。


「どこから持ってきたの、これ?」


 口元を苦笑で曲げながら、この愛らしいアホなおっさん少女に視線を向けて聞いてくる。


「それは車のトランクの中にですね」


 答えかけようとした遥の頭が後ろからパシンと軽くはたかれたので振り向くと早苗が湯上がりでタオルで髪を纏めながら立っていた。


「ダンボール箱に入っていたんだろ?」


 そうニヤリと笑い吹っ切れた顔つきになっているので、考えるのを放棄した模様である。


 遥も使えれば良いよね派なので


「その通りです。よくわかりましたね、早苗さん」


 と、眠たそうな目で平然とした声音で、早苗に視線を向けて返答するのだった。




 髪も乾かして、皆はおもいおもいに仕事をするべくバラけていき、食堂に残るのは早苗、蝶野母、美加、外見だけなら美少女なおっさん少女だけとなった。


「さて色々ありすぎて、聞きたいことも山ほどあるんだが、そこは聞かないことにしよう」


 はぁ〜と嘆息して早苗が佇まいをきちっとして話しかけてくる。


「なんか色々ありすぎて混乱するけど、再度の自己紹介といこうじゃないか。私の名前は十勝早苗。畜産科の大学二年生だ。一応ここの物資調達リーダーだよ」


「次は私ね。さっきも挨拶したけど、蝶野美佐江よ。ここでは主にサバイバル関係の知識や活動の支援係ね」


「みーちゃんは皆のおてつだいをしてます!」


 最後のみーちゃんの挨拶でほっこりしてしまう遥。でもサバイバル関係とは意外だな、一児の母であり、なんとなくおとなしそうな感じの女性だからだ。


 意外そうな表情で蝶野母に視線を向けたので、その視線に気づいて蝶野母がニコリと笑う。


「意外かしら? 私はサバイバル関係が好きなの。夫も自衛官でね、色々とそういうのを教わっているのよ」


「パパは今お仕事中だから、帰ってくるのを待っているんだよ! 強いパパなの! 今は怖い化物をたくさん倒しているから忙しいんだって!」


 むふぅと父親のことを自慢するみーちゃん。何というか辛い話だと蝶野母を見ると、顔に陰りがさして悲しげな表情で純粋に父親の帰りを待つみーちゃんを見ていた。


 はぁ、崩壊した世界であるのだ。ありふれているだろう話でもあり、こればかりは仕方ないと遥は思いながら早苗の話の続きを聞くこととした。


「この奥多摩には三つのコミュニティがある。畑を持ち、米などの物資を摑んでいる一番大きなコミュニティである間宮コミュニティ。これは一番の地主である間宮がリーダーだ。何回か話した感じだとリーダーとしての器はなさそうだけどね」


 ふぅと息をついて、早苗は話を続ける。


「もう一つは猟銃を持っていて、今は自由に猟ができるようになった刈谷グループ。もちろん畑だってもっている。このグループは猟友会でリーダーも幹部も編成されている。上が皆爺さんばかりで、かなり厳しいコミュニティだ。ここが厄介な奴らでね。猟銃を持っていても罠猟がメインで狩猟をしているみたいだけど、あいつらはいつも私たちに絡んできてね。正直困っている」


 腕を組み困った表情を早苗がみせる。猟銃を持った厄介なコミュニティなんて、凄い楽しそうな響きじゃないかとわくわくするおっさん少女。


「そしてアタシたちのわくわくふれあい牧場コミュニティさ。動物の飼料もなくて、女子供ばかりで、どこかのへんてこな少女が来るまで厳しい生活を余儀なくされていたグループだね」


 なんだか、このコミュニティだけ可愛らしい名前だ。もう少しかっこいい名前がインパクトを与えるのではと考える遥。いったい誰にインパクトを与えるというのかは不明である。


 そしてへんてこな少女は酷い。ミステリアスな謎の美少女と自己紹介したじゃないかと内心で憤るおっさん少女。


「それで、何で厄介なんですか? 彼らは」

 

 もっとその刈谷グループの情報をくださいと頼み込む遥。面白そうであるからして興味津々なのだ。


「それは奴らが――」


 教えてくれようと、口を開きかけた早苗だったが、食堂のドアがバンと荒々しく開けられて女性が焦った表情で入ってきた。


「十勝リーダー。大変です。また刈谷達がきました!」


 そう叫び声が食堂に響き渡り、緊張した表情になる面々を見て面白そうなことが始まりそうだとおっさん少女は密かに微笑むのであった。

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