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コンクリートジャングルオブハザード  作者: バッド
9章 東京観光をしよう
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121話 おっさん少女のわくわくパジャマパーティ

 湯上がりでリビングルームのソファに座って、濡れた髪を乾かしてもらっているおっさん少女。


 タオルで水気をきってから、トリートメントをして、それからドライヤーで乾かすんだよとナナがお世話をしてくれている。


 今はドライヤーで軽く温風で乾かしている最中である。ナナがドライヤーを持って、おっさん少女の髪を優しく梳かしながら乾かしてくれている。


 温風は気持ち良いなぁと思いながらも、疑問は解かれない。


 お風呂イベントだ! やったぜとソワソワと頷いて入ったのは覚えている。脱ぐときにレキちゃん!その下着はまだレキちゃんには早いよ! とナナが訴えてきたのも覚えている。


 ゴシゴシとリィズの背中を洗ったりお湯にノンビリ浸かったことも覚えているのだが、問題はただ一つ。


 全てが真っ暗であったのだ。お風呂イベントなのに肌色が見えなかったのだ。どういうことなのこれ? と内心でパニクる遥。


「旦那様、浮気は許しません」


 ぽそりと小声でおっさん少女の口から声が聞こえた。


「何か言った? レキちゃん?」


 ナナが不思議そうに聞いてくる。


「いえ、なんでもありません。ドライヤーは暖かいなぁと呟いたのです」


 自分の髪をそっと触り、飄々とそう答えて誤魔化す。


 そして内心では、うぬぬと歯がみして悔しがる遥。予想はしていたがレキの仕業のようである。どうやら家族以外の肌色キャッキャッイベントは許してくれないらしい。こんな時だけ主導権を持っていき、お風呂は目を瞑り気配感知で全て片付けられた模様。


 だが、悔しながらもホッとする。もしも肌色キャッキャッイベントがあった場合、次におっさんぼでぃの時にナナたちに会ったら挙動不審になることは間違い無い。


 その不審さだけでも、ただでさえエリートなおっさんを演じているのに、また碌でもない策謀をたてているのではないだろうかと疑われるだろう。


 もしかしたら、ただの草臥れたおっさんだとばれるかもしれない。まぁ、草臥れたおっさんだとばれるのは別に気にしないが。


「ねぇ、レキちゃん? お風呂に入った時は、いつもどうしているの?」


 髪の乾かし方も知らないのにもかかわらず、常にキューティクルで天使の輪っかを作れるゲームキャラなレキである。しかし一般人から見れば、なんで本人は手入れの仕方も知らないのに綺麗なのだろうと不思議になる。


「お風呂も、あとの身だしなみも全部お世話係がしてくれるんです」


 その発言を聞いたナナはグイッと顔を近づけてきて、真面目な表情で問い詰めてきた。


「お世話係って、まさかスーツの男じゃないよね? いや、あの人がそんなことをするとは思えないから、まさか他の男性? お風呂とかもその男性が!」


 ドライヤーを置いて、レキの肩を掴み、ゆさゆさと揺らしながらの尋問である。なんで、男性一択なのだ、無垢な美少女を洗う男性とは、かなりの背徳感がある。世が世なら間違いなく逮捕される事案である。


「違います。私のお世話係はメイドさんの二人です。一人は私より少し年上で、もう一人は私と同い年です」


 ナナの妄想を打ち破るべく、苦笑いを浮かべて、お世話係のことを説明する。


 心配をかけないように、一人は盗撮も堂々とする変態ですとは言わない。


 その答えを聞いて、ナナは胸を撫で下ろし安心して、再び置いておいたドライヤーを拾いレキの髪を優しく乾かし始めた。


「そうだよね〜、あのスーツの人はそこらへんはきちっとしていそうだもんね」


 もっと危険な銀髪メイドのことを凄い話したいが、グッと我慢した遥である。


「それじゃ、全部メイドさんがやってくれているの?」


 首を僅かに傾げながら、ナナはおっさん少女の日常生活を聞いてくる。


「はい。私は戦闘しかできませんので、生活関係は全部メイドさんがやってくれているんです。そうだ、うちにはジャグジーバスもあるんですよ」


 あれは良いものだ。アワアワなお湯の感触が気持ちよくて長湯してしまうのだ。ついつい自慢してしまうのだ。


 ジャグジーバスのことを自慢しているおっさん少女を、静かな声音で乾かしたよとナナが告げる。


「ねぇ、レキちゃん? なら、なんでお店ごっこをいつもするのかな?」


 母性溢れる優しい微笑みを表して、ナナは何か遥にはわからない不思議な表情で問いかけてきた。


「それは私がやってみたいからです。なので、休日にはお店屋さんをやってみたいのです。皆が私の売る物で喜ぶ姿は、見ていて私も嬉しいのです」


 たまに、計画性も売上も何もかも忘れて突発的にやるのが楽しいのだ。これが仕事なら、毎日接客業なんかやってられんと、速攻やめるおっさんである。


 なので、ニコリと嬉しそうな表情で無邪気な笑顔でナナに向かって答える。


「そっか、そっか、優しいね、レキちゃんは。優しいレキちゃんは戦闘しかできないなんて事は絶対に無いよ? 今度メイドさんたちには、自分で身だしなみを整えたいので教えてくださいと言ってごらん?」


 そうして、おっさん少女に母性溢れる視線を向けて頭を優しく撫でてくるナナである。


 マジかよ、そんな面倒くさいことは勘弁してくださいと内心で絶叫する。だって女性のお風呂も身体の洗い方も、髪の洗い方も、乾かし方も凄い面倒なのだ。男に生まれて良かったと、思うほど面倒なのだ。全てメイドにお任せコースなおっさん少女なのだ。


 なので、自分で少しはやりなさいと怒られたので、恐る恐るナナを見上げて小さな声で聞いてみる。


「自分でやったほうが良いのでしょうか? 私は何もできませんよ?」


 本当にできないのである。また、覚える気もさっぱりなおっさん少女。何しろおっさん少女に知力の項目はステータスには無い。なんと辛い仕事をナナはやらせようとするのだと戦慄する。


 怒られるかと戦々恐々していたら、ぎゅぅと力強くナナが抱きしめてきた。おぉ。何だ何だとナナに視線を向けたら、目に涙を溜めていた。


「そんなことは無いよ……。今はまだ私の言っていることを理解できないかもしれない。でもきっといつかはわかるようになるから、ううん、きっと私がわかるように教えてあげるから!」


「ん、私も協力する。レキが好きなように生きていけるように頑張る」


 隣にいたリィズも、ぎゅぅとおっさん少女を抱きしめてきて、そんなことを宣言してきた。


「わたくしも、微力ながらお手伝いをしたいと思います」


「僕も色々と教えてあげるよ!」


 水無月姉妹も話にのってきて、おっさん少女の自分で身支度ぐらいできるように覚えなさい同盟は結ばれたみたいであった。


 四人の見えない威圧感に、うぐぐ、少しは覚えるかなと遥は嘆息したのだった。




 四人の包囲網を、宥めすかして、なんとか逃れたおっさん少女。今はパジャマパーティのために、皆でリビングルームにお布団を敷いていた。


 ふんふんふ〜んと、鼻歌を歌いながらナナがご機嫌な様子で布団を敷いていく。もちろん他も皆で敷いていく。


「レキはお姉ちゃんの隣ね」


 ぽんぽんと敷いた布団を叩いて、リィズはおっさん少女が隣で寝るように可愛くアピールする。


 はぁいと頷いて、布団をリィズの隣に敷いた。肌色キャンペーンが無ければどうやらレキは邪魔しないみたいである。


 それじゃ私はレキちゃんの反対側で寝るね。いや、わたくしが寝ますので、いやいや僕がと、おっさんではあり得ない争いが少し起きて皆は布団を敷き終わった。


 おっさんなら争うのは、おっさんを部屋から追い出す四人とおっさんという形になっていただろう。おっさんは惨敗確定間違いなしだ。


 ちなみに、皆はジャージである。遥もリィズのパジャマを借りたが、やはりジャージであった。ジャージな理由は簡単だ。いつなんどき何か不測の事態が起こっても逃げられるようにだろう。


 こんなところまで、世界崩壊の影響が出ていたかとガッカリする遥。ちょっと期待していたパジャマパーティーは崩壊した世界の現実を如実に表していた。


「ん、リィズのとっておきをだす」


 後は布団を敷いて寝るだけかと思ったら、お菓子パーティーをするようだ。リィズがお菓子の袋をたくさん出してきた。ポテチにチョコレート、非常食のチョコレート味のカロリーバー。


 私も出すねと、それぞれが出してくるが、そのお菓子などは少し袋が汚れていたりするので遥は気づく。これは大樹の販売している嗜好品ではない。


 その疑問が表情に出たのだろう。


「あぁ、これ? ほら大樹は嗜好品が凄い高いでしょう? だから、放棄されたコンビニとかから持ってきた人たちが若木市場で売っているんだよ」


 いつもの人懐こい笑顔でナナが説明してくる。


「実はうちでも購入しています」


 と、小声で穂香が悪いことをしているかのように教えてくれる。


 なるほどねぇと納得の遥。お酒などは腐りにくいし、結構賞味期限は持つ。お菓子も賞味期限は結構あるのだ。廃墟から持ってくる人間は少なからずいるのだろう。


「危険なことをしていませんか? 大丈夫なんでしょうか?」


 少し心配する。ハンターギルドは無くなったが、それで無謀な人間がいなくなったわけではないのだ。


「アハハ、えっと………。実は防衛隊の物資調達班の主戦力品なんだよね」


 目をそらしながら、恥ずかしそうに言いづらいだろうことをナナは話してきた。


「もう一万人の街でしょう? だから資金繰りも厳しくて…」


 小声でもじもじと指を絡めて恥ずかしそうに言うナナ。


「恥ずかしがることは無いと思いますよ? 大樹からの物資の仲卸や現金などの現地調達だけでは厳しいでしょうから。でも人々から、不満は出ませんか?」


 防衛隊だけが先に良いところをとっているのだ。不満に持つ者もいるだろう。


「それは今のところ大丈夫!防衛隊は命懸けの危険な職業なうえに、そういった報酬が無いと防衛隊の皆は無給だと人々はわかっているからね」

 

 顔の前で両手を振って、慌てたように焦りながら否定するナナ。


 今のところかと遥は思う。ナナの慌てようから本当は恐らくは少しはあるのではないかと推察する。多分私の耳には入れたくないのであろう。


 だが、不満を訴える人間とは、今の危険を忘れている人間ということだ。しかし、脅威はコミュニティから少し離れれば、ゾンビという形ですぐにわかるのだ。もちろん、その代価は己の命であるが。


 それならば、しばらくは不満も噴出はしないし、大丈夫だろうと推察した。


 それじゃあ私もお菓子を出すかなと、もはやアイテムポーチを隠す気もなく出していく。ただし、量はそんなに無い。飢餓にならないように入れておいた簡単なものばかりである。


 サラミにチョコレート、ピーナッツに魚肉ソーセージ。おっさんにふさわしい彩りのお菓子である。後はサイダーとオレンジジュースで終わりだ。自分が出したレパートリーの酷さには気づかないおっさん少女。


 お酒のツマミにピッタリなレパートリーである。普通の少女の好きな食べ物ではない。


「レキちゃん、このお菓子を用意したのもメイドさん?」


 口元を引き攣らせながら、出てきたお菓子を指さしてナナが尋ねてくる。


「はい。年上のメイドが用意してくれました」


 ナナの様子が変なので、自分で選んだレパートリーにもかかわらず、サクヤのせいに平気な顔でするおっさん少女。


 ハァと溜息をして、ナナが強い口調でおっさん少女に言う。


「今度、そのメイドさんに会えるかな? 色々とレキちゃんの教育方法について語り合いたいの」


 教育しているのは私のような感じがするんですけどと反論したいが我慢して、今度聞いてみますねと答えたおっさん少女である。


 その後しばらく皆で談笑していく。とはいえ、中身がおっさんな遥は聞いているだけだが。若い女性と共通な話などないのであるからして。


 そのために、うんうんと水飲み人形みたいに相槌するおっさん少女。


 まぁ、その中にはリィズの超能力一発芸も見させてもらった。


「はぁぁぁ、我に満ちる奇跡の力よ、その偉大なる力にて、我が指し示す力を発揮せよ!」


 やはり詠唱に力が多く入っているイマイチな文章であったが、超能力は発動した。

 

 布団の上に置いておいたポテチがぷるぷると震えたのだ。


「リィズの力は以前より凄く強くなった。ポテチを一分間も震えさせることができるようになった」


 むふぅと両手を腰にあてて、平坦な胸をはり背をそらすリィズ。以前は十秒ぐらいだったとのこと。確かに強くなっているし、超能力だ。しかし微妙である。手品師のほうがもっと劇的に動かせるだろう。


 まぁ、そんなことは言わないので、凄いです、お姉ちゃんと可愛らしいおててでぱちぱちと拍手をして、リィズがむふぅと鼻息荒くご機嫌になったのだが。


 そんなこんなで幾分か時間が経過してからだろうか。ふ〜、と息を吐いて嬉しそうな表情で布団に寝そべりながら晶が言った。


「パジャマパーティーができるようになるとは、僕全然考えてなかったよ」


 しみじみとした声音でゴロゴロと寝っ転がり始める。


「そうですね。わたくしもそう思います。二度と平和が来ないと考えていました。それが今やオデン屋を経営することになるとは考えもしなかったですね」


 足を崩して女座りで頬に手を添えて、ゆったりとした口調で穂香が晶に同意する。


 そうだね、私も美少女になって、パジャマパーティーに参加する日がくるとは想像もしていなかったよと内心で答えるおっさん少女。そんな想像をしていたら変態なおっさん間違いなしである。


 うんうんと約一名のおっさん少女を抜かして、皆が頷いて同意する。


 そこでポツリとナナが呟いた。


「本当に以前とは比べようがないよね。ねぇ、レキちゃん?」


 何か思い詰めた表情である。何かを言おうとして躊躇っている感じもする。


 こわごわと己の考えを喋りだしたナナ。


「レキちゃんはもう戦う必要は無いんじゃないかな? 悔しいけど、全てを認めることはできないけど、大樹のやることは凄いよ。死ぬ寸前だった私たちを助けて、今やパジャマパーティーだよ? 信じられないよね」


 そこで一息ついて、視線をおっさん少女に向けてまた話を続ける。


「もう頑張らなくて良いんじゃないかな? 後は大人たちが少しずつ安全な地域を増やしていけば良いんだよ。一万人を超えるコミュニティに若木はなったんだよ?」


 顔を俯けて、はぁ、と空気を吐く。そして再び顔を上げて叫んだ。


「レキちゃんが幾ら強い力を持っていても子供だよ? もうオデン屋で良いじゃない! ゆっくりと暮らしていこうよ。後は大人たちに任せていこう? もう文明は復興し始めているよ!」


 素面であるのに、ナナは強い口調で目に光を灯して遥を説得しようとしていた。ナナの発言にゴクリと誰かが息を呑む音が聞こえた。


 答えを待つようにナナが視線を遥に向ける中、遥はゆっくりとした口調で答える。


「ナナさん………。それは新しい地域を探索するのを諦めろということでしょうか。私にしかできないことを止めろということでしょうか」


 そうして、ゆっくりと立ち上がり窓ガラスに近づく。


 カラカラと窓ガラスを開けると、寒い空気が入ってきた。そしてチラチラと白い雪も入ってくる。


「雪が降ってきましたね……。この雪の中で未だに生存者が寒い思いをして凍死を恐れながら生きているかもしれません。人々が助けを求めているかもしれません」


 窓の外を見ていながら話していた遥はクルリと振り返り、ナナへとしっかりとした強い目力を籠めて視線を向けた。


「私は大樹の理念に従い、文明復興のために戦い続けます。探索をこれからも続けていきます。たとえ命懸けの探索になろうともです」


 そこで、目元を緩めて、フッと微笑む。


「それにナナさんらしくないですよ。私はナナさんを尊敬しています。その善良さと行動力をいつも尊敬しているんです。だから、そんなに悲しいことを言わないでください」


 淡い消えそうな微笑みで呟くように答えるのだった。


「そうだね、レキちゃんはそういう優しい子だよね。もちろん私もレキちゃんを尊敬してるよ」


 そう言って目元の涙をナナは拭うのであった。



 しばらくして布団に入り皆が寝入る中で遥は思った。


 さっきのやり取りは主人公ぽくて良かったなぁと。でもナナさん、ごめんなさい。私はこのチートな力で、この世界を遊んでいきたいのです。と内心で謝りながら寝るのであった。


 相変わらずのゲーム脳なおっさん少女であった。

 

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