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コンクリートジャングルオブハザード  作者: バッド
2章 初めての生存者と遊ぼう
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11話 人々は生き残っている

 ガチャリというノブを回す音がして、昼ご飯のトレイを持った同僚がドアから現れた。


「どうよ? 何かいたか?」


トレイを受け取りながら、生活安全課に配属されていた私はいつも通りの返答をした。


「何もいませんよ。化物以外はね」


期待もしてなかったのだろう。

同僚もそうかと言って隣で昼食を食べ始めた。


「また芋ですか?」


マッシュポテトしか乗っていないトレイをスプーンでツンツンとつつく。これで5日連続の芋である。


「文句を言うなよ。荒須。こんなんでも一応戦闘班は食えているほうなんだぞ」


気まずくなったので、芋を口に放り込む。


パサパサして不味い。

ペットボトルの水で口の中の芋を無理やり流し込む。


「そういや水の配給も減るらしいぜ」


それを見ていた同僚が、嬉しくない情報を教えてくる。


それを聞いた私は、芋を流し込むため、ゴクゴク飲んでいたペットボトルから口を離す。


「はぁ、いつになったら救助隊は来るんですか? そろそろここも限界ですよね?」


ウンザリした顔で私が言ったからだろう。同僚は皮肉げに返してきた。


「俺たちが救助隊だったろ?荒須ナナ巡査」


そういえばそうでしたねと、そのことをすっかり忘れていたナナは眼下に広がる絶望を見ながら、また芋を食べ始めた。


30階建ての出来立ての市庁舎の屋上から。


下界を彷徨う化物たちを見ながら。



 どうしてこうなったのかとナナは自問する。20歳になって、警官になって新人として配属されたのは生活安全課だった。


覚えることがたくさんで大変な思いをしていた、あるお昼のことだった。


その日は通り魔が出たということで、主だった同僚が出払っていた。


「何か通り魔の通報が多すぎじゃないですか?そこら中から応援要請入ってますよ」


5歳歳上の女性の先輩がわくわくした顔で言ってくる。


「テロかもよ? 同時に騒ぎを起こしているのかも!」


生活安全課はテロがあっても、出て行くことは無い安全な部署だ。不謹慎なことを言う先輩だとは思ったが、なんとなく気持ちはわかるとナナも思った。


所詮生活安全課にとっては、対岸の火事なのだ。ちょっとしたイベントみたいな感じなのだろう。


「先輩、不謹慎ですよ」


一応注意しましたよ? という感じでナナは予防線を張った。


 今の時代、どこに情報を流す人がいるのかわからない。そうですね。とか返答した二人の女性警官の動画が流れたりしたら大変だ。ナナは1年目のド新人なのである。


 雰囲気で言いたいことを感じたのだろう。

その話を掘り下げることなく、先輩は何らかの報告書の作成の続きを始めた。


 自分も同じように書類仕事をしようとしたところ、他の部署から知らない先輩が飛び込んできた。


「誰か手が空いている人はいないか? 市庁舎でも通り魔だ!」


ビックリしたナナは入ってきた先輩を見る。

他の人もビックリしているので、滅多にない事なのだろうと思った。


「石川さん、ここは生活安全課ですよ? ヘルプを求める場所を間違えていませんか?」


さっきの先輩が、呆れた声で返答する。


「人が全然足りないんだ! 誰でも良い! 署長の許可は貰っている!」


そこまで言ってくるとは思わなかったのだろう、先輩はビックリしながら、未だ戦力になっていない新人のナナを見る。


え、私?とナナは驚いて周りを見たが、面倒そうな仕事だと感じたのだろう。皆が納得した顔で私を見た。


そして私が向かうことになった。


今でもそれがラッキーだったのか、アンラッキーだったのかナナは、考えてしまう。


生き残っている方が、ラッキーなのかと。


さっさと死んだほうがラッキーではなかったかと。




 ナナは、知らない先輩と一緒に市庁舎に向かうことになった。


「通報があったんですか?」


出来立ての高層ビルに市庁舎が入ったことは知っている。確か上階が全て市庁舎だったはずだ。


「すごい数だよ。どうなっているんだこりゃ」


ウンザリした顔で見知らぬ先輩は答えてくる。

乗っているパトカーの無線にも、ひっきりなしに応援要請が入ってくる。


「こちらも現場に向かっているところだ! 応援には向かえない!」


ドライバーの先輩が怒鳴るように答えている。


「騒ぎは現場で起きているんだ! 会議室じゃない!」


と、一昔前に流行ったドラマの有名なセリフをもじってナナの横に座っていた先輩がドライバーの先輩と笑いあった。


ナナも釣られて軽く笑い窓の外を見てみる。


パトカーや救急車がそこら中を走っている。


「テロですかね?」


少し不安になったナナは真面目な顔をして先輩に聞いてみる。


ピタリと先輩達の笑いが止まり


「わからん!」


と強めな返答がきた。


先輩たちも、今の現状がおかしいと気づいている。

それを冗談を言うことで誤魔化していたことに今更ながら、ナナは気づいた。


すみません、と小声でナナは謝り、誤魔化すために再度窓の外を眺めた。




 市庁舎の階層までエレベーターで上ったナナ達が見たのは地獄だった。


「助けて!」


誰かに組み伏せられている女性が、エレベーターから降りたナナたちに助けを求める。


「待ってろ!」


見知らぬ先輩が組み伏せている人を後ろから羽交い締めにする。


「すごい力だ! 手伝ってくれ!」


ドライバーだった先輩の方が急いで駆けつける。


「コイツ! 離れなさい! 警官だ!」


腕を掴んで、襲っていた人に呼びかけるドライバーの先輩。


「手錠を!」


見知らぬ先輩の方がナナに指示をする。


「は、はい!」


持ってきた手錠を慌てて犯人につけようとするナナ。


初めて手錠を使うナナは、慌てて犯人の確保されていない方の腕を持とうとする。


「うあぁ〜」


まるで、昔見たゾンビ映画のゾンビのように犯人はうめき声をあげながらナナに噛み付こうとした。


ヒッとビックリしたナナは手錠を床に落としてしまった。


「何やっているんだ!」


先輩に怒鳴られるが、こんなの初めてですし、と思いながらナナは涙目になり手錠を拾おうとする。


手錠はリノリウムの床を滑っていき壁の側に設置されていたベンチの下に潜り込んだ。


 あぁ、もう!と羞恥と焦りでナナは慌ててベンチの下に潜り込んだ。

手を伸ばしても届かなかったので寝そべり体をベンチの下に入れる。


「取れました!」


と、ようやく手錠を手に取れたので振り返り、先輩たちを見た。


振り返ったナナは先輩達が他の人に襲われているのを見た。


「は、離しなさい!けいか」


警官だぞ!と怒鳴ろうとした見知らぬ先輩の首に齧り付く人間。


「私、こんなの見たことある………」


勿論現実ではない。映画の中でだ。


ガタガタ震え、慌ててベンチの下に完全に体を押し込んだ。


「ゾンビだ!ゾンビだ!」


震えながらナナは呟く、理性はゾンビなんているわけは無いと頭の中で叫んでいる。


早く助けに行かないととも思う。


無理だ。どう見てもゾンビだもの。


ナナはみつからないように、手の中の手錠が全てから守ってくれる御守かと思うように握りしめ息を潜めた。


しかし


「がぁぁ」


とうめき声と共にベンチが浮かび上がる。


「だ、だずげて〜」


自分がこんな声も出せるんだと思うほどの泣き声で叫んでベンチの脚を掴んで、ベンチを取られないようにする。


ガタガタと凄い力で持ち上がるベンチ。


ナナがその力に耐えきれずにベンチの脚を離したら、ベンチが吹っ飛んでいた。


「うあぁ〜」


目の前にうめき声をあげながら襲いかかろうとするゾンビがいた。


ヒィッ、悲鳴は声にもならず、ナナは後退り壁に背中を押し付ける。

逃げる場所など無い。


「がぁぁ!」


襲いかかってきたゾンビ。それを見てナナはぎゅっと目を瞑る。

(もう駄目だ!もう駄目だ!)

夢なら覚めてとナナが祈りゾンビがナナの肩に掴みかかったところタタタという軽い音がした。


「え?」


恐る恐る目を開けたナナの前にゾンビが血を出しながら死んでいた。


「救急車? え、救急車?」


と混乱するナナを、誰かがグイッと腕をひいた。


すわ、またゾンビか!と振り向いたナナは掴んだ相手が警官だと気づいた。


「大丈夫か! ここを離れるぞ!」


すぐに離れていく警官。


服装を見るに特殊部隊だ。

サブマシンガンを構えながら階段出口に向かっている。


「ま、待って!」


おいていかれては堪らないと、ナナは急いでその警官についていく。


階段付近には他の特殊部隊もいて、市民を上階に避難させていた。


ナナも市民に紛れて、上階への階段を急いで登ろうとする。


「まて!お前は警官だろ! 市民を避難誘導しろ!」


助けてくれた警官がナナに怒鳴る。


警官でも怖いものは怖いんです!と言いたかったが、助けられたのだ。しかも自分は警官の制服を着ている。


助かった後に避難誘導もせずに、さっさと逃げていた女性警官とか動画に流れたらクビになるかもしれない。


嫌々ながらナナは指示に従う。


「こちらです。走らないで!押さないで!」


避難誘導は火事などの時と同じ形でやっていく。


「仙崎さん!限界です! 暴徒が下から大量に来ます!」


下から上がってきた特殊部隊の人がナナを助けてくれたひとに向かって叫ぶ。


「限界か! 俺たちも上に上がるぞ! シャッターを閉めろ!」


ナナは残っていた人たちと一緒に階段を駆け上がった。後ろから防火扉を閉鎖します、と自動アナウンスが流れて、シャッターがガシャンと閉まる音がしたのだった。


その音を聞きながらナナは一緒にきた先輩達の名前を最後まで知らなかったな、と場違いではあるが考えたのだった。



 そして今の現状がある。

ナナは警官ということで戦闘班扱いとなったのである。


とはいえ、戦闘なんてできるわけではない。一般人より多少護身術ができるくらいだ。


しかしナナを助けてくれた今ではリーダーとなった特殊部隊の隊長さんは、皆が警官なら大丈夫という安心感を持たせるためにナナを戦闘班にした。


ナナは屋上から助けがこないか、ビルの周りに危険なことは無いかを監視する仕事が割り当てられたのだった。


(まぁ、これで一般人よりご飯が多いんだから贅沢言えないよね)


と心に思いながら再度屋上から監視を再開する。


 市庁舎には災害時対策で大量に食べ物のほか、様々な物資が備蓄されている。避難した人々はそれらで食いつなぎながら救助を待っていたのだ。


しかし避難した人々が、多かった。封鎖できた階にいる人々で部屋は一杯だ。なんとかしろという怒鳴り声はしょっちゅうで、子供や赤ん坊の泣く声も聞こえる。


このコミュニティも限界が近かった。


多分、現状を打破するために近いうちに防火扉を開けて、下に向かうことになる可能性が高いだろう。


自分がそのメンバーに選ばれませんようにと祈りながらナナは変わらずゾンビだらけの下界を眺める。



そんなナナが選抜隊に選ばれるのは、僅か2日後のことであった。



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