116話 おっさん少女と砂漠に潜むもの
ごぅんごぅんとエンジン音はなっていないし、艦内も揺れもせずに航行している空中戦艦スズメ。本当に動いているのかが不安になる高性能かもしれない戦艦である。
その艦長席にてレキはコントローラーを握って、宙に映るモニターを見てTPS視点で艦を操っていた。
戦艦はフヨフヨと浮かびながら、時折地上からのレーザー攻撃を受ける。
レキはそれを見て、コントローラーの主砲攻撃ボタンをポチポチと押して、地上へ荷電粒子砲を放つ。荷電粒子砲は十メートルの長大な砲である。それが三列三門に砲が並び前甲板二十門、後甲板に10門設置されている。
その砲が白く輝き凝集された光が一斉に発射されている。戦車をも一撃で倒せる極太のビームが射出され、射線上の空気は赤熱し焼き尽くされ、高熱の空気へと変貌していく。地上から攻撃を行っていた鉄サソリはその攻撃を受けて、欠片も残さずに光に包まれて消滅していく。そして着弾した場所は大きく爆発音と爆風を起こして、砂がこの高熱で硝子化したクレーターを作っていった。
はっきりいってオーバーキル過ぎであった。しかし主砲攻撃ボタンを押すと全て砲が発射されるのだ。
しかもご丁寧に敵への効果的なダメージを与える僅差遅延射撃で発射されるために、微妙に各砲弾の着弾がずれて爆発していく。なので、掘削機が如く、クレーターは穴をどんどん深くしていき、水が溜まったら小さな池になりそうであった。
「これ、どうにかならないの? 砲弾が勿体無いし、どんどん環境破壊しているよね?」
遥が困って呟く。攻撃のたびに砂漠保全団体に怒られそうな勢いで、大穴を絶賛作成中な空中戦艦スズメなのだ。
「旦那様、仕方ありません。敵への攻撃を対処しないとシールドが破壊されてしまいます」
レキがいつもの平然とした声音で答える。確かに鉄サソリは侮れない攻撃力を持っている。スカイ潜水艦と同等の装甲、強力な尻尾レーザーによる攻撃を持っており、生半可な攻撃では倒せないのだ。体格の違いからスカイ潜水艦と同等の耐久力を持っていないことだけが救いだろう。
そのために、鉄サソリが攻撃してきたら、すぐに主砲で反撃しているのだ。燃費悪すぎなゲーム仕様戦艦であった。
「ツヴァイシールド担当から報告します。司令、艦のシールド出力は全回復いたしました」
シールド担当からの報告を聞いて、モニタを見ると敵の攻撃が終わったのでシールドが自動回復して全回復していた。
空中戦艦スズメの防御フォトンシールドは敵の攻撃をその重力変位で無効化するが、エネルギーを食うのである。ゲームにありがちな敵の攻撃を受けたら自動回復が一定時間停止するシステムだ。
そのために鉄サソリからチクチクとレーザー攻撃を受けるとシールドが破壊されてしまうので、倒す必要があるのだった。
「意外と超電導バルカンが弱いことが誤算だったな。最低の空中戦艦だけはあるか」
所詮建設レベル4で作成された工廠から建造された空中戦艦であった。そのためにバルカンの火力では鉄サソリを倒せないのだ。
そうこうしているうちに、またWARNINGとモニターに映る。
「司令、ツヴァイレーダー担当が報告します。新たなる鉄サソリ四体を発見いたしました」
さすがエンカウント率高すぎの砂漠エリアである。その多さにうんざりする遥。
「ツヴァイ主砲担当が報告します、司令。主砲砲弾再装填完了。再度の発射に問題ありません」
キリッとした顔で、嬉しそうに口元を微笑みながら主砲担当が告げる言葉に、なんで荷電粒子砲に弾が必要なんだろうと疑問を持つ遥。荷電粒子砲って、たしか電気とかのエネルギーが集まる弾じゃない? と考えるが今更だ。ゲーム仕様なのである。
消耗しないエネルギー兵器だと攻撃力が低いのだろう。そのため、このレベルの主砲に消耗するタイプの弾が無いと一気に弱体化するから、スルーすることとした。
空中戦艦スズメのフォトンレーダーは気配察知よりずっと強力だ。なんと十キロ先もレーダーに映るのである。その高性能っぷりに泣きたいおっさん。この主砲は30キロの射程があるのに、レーダーはその程度と開発者の頭を覗いてみたい気持ちがするのであった。
「主砲攻撃開始します」
レキがいつもの冷静にして平然とした声音で、攻撃を告げて艦を地上に向けて、主砲を発射する。上手な操作である。もちろんレキの体なので、遥も同じことに近い動きができる。
おっさんだと、そのまま地上に激突する操作をしてしまうだろうことは間違いない。リモコン操作は苦手なのだ。
オペレーターのツヴァイたちもノリノリで、攻撃準備良しとか、敵の動きに異常は見られませんとか、楽しみながら叫んでいた。
何か、ちっこい可愛らしいレキが、モニタの前でコントローラーを握りしめて、えいえいぴこぴこと操作をしているので、ゲームをしている美少女とそれにノリノリな女性たちといったごっこ遊びな感じであった。
隣のサクヤはフンフンと鼻息荒く、レキの艦長ごっこを可愛い可愛いと嬉しそうに撮影していた。
ズドンと荷電粒子砲が発射され一撃で鉄サソリは溶解して消滅していく。そして減っていく砲弾数。鉄サソリを倒せば強力なマテリアルが手に入るので、砲弾は余裕で黒字になるのだが、問題は現状である。
「あぁ、まずい。この調子だと目的地に到達する前に砲弾が無くなってしまう!」
焦る遥である。何しろカチカチと砲弾の残り数が減っていくのだ。それならば高度を上げれば良いのではと思うのだが、地上から百メートル以上は浮かべないという弱点を持った空中戦艦スズメ。ぎりぎり鉄サソリのレーザーが届く射程でもあった。戦闘を回避させないという思惑が見える性能である。
「ゲーム仕様にも程がある!というか、本物のスズメでももっと高度を上げられるでしょ!」
プンプンと口を尖らせて、不満いっぱいですと頬を膨らませて怒るおっさん少女。
「ご主人様、もう少しこちらに目線をお願いします!」
口を尖らせて怒るおっさん少女を満面の笑顔でカメラ撮影をして、なおかつ注文をつける銀髪メイド。
「マスター、もう少しレベルが高い戦艦でないとステルス系は残念ながらつかないのです」
予想通りの姉の動きに溜息をついて、教えてくれるナイン。
「くぅ、やはり建設レベルを後で上げないと駄目かぁ。だけど戦闘機や戦車だと鉄サソリを倒せないしなぁ」
サソリに負ける戦車たちである。レベルが低い機動兵器なので仕方ないのだ。
「全速前進! 最大出力で移動するんだ! 敵の攻撃をできるだけ回避しながら進もう」
航行速度も遅いスズメである。最高速度40ノットなのである。何しろ戦艦なので速度もノット表記でウィンドウに表示されているのだ。そして40ノットでは海では物凄い速さであろう。しかし地上では遅い。鉄サソリは余裕で100キロを超える速度で近づいてくる。40ノットは大体70キロちょいの速度なので、空中を移動するには遅すぎるのであった。
戦闘機型ミュータントがいたら、タコ殴りにされて撃沈間違いなしであろう。まぁ、頑丈な船体と高火力な砲台があるので、そんなに簡単にはやられないと思うけどと、大艦巨砲主義はロマンの塊だよと信じるおっさんである。戦艦大和はロマン兵器なのだ。
「しょうがない、砲弾が厳しくなったら、素手で倒しに行こう」
レキが地上で雑魚を殲滅して空中戦艦を先導する方法だ。これならば敵の攻撃も緩和されるが、なんだかおかしな戦い方である。戦艦を守る少女、何のための戦艦なのかわからない。
「了解!最大船速、戦闘機による高熱発信型デコイにより敵の誘引を開始します」
きびきびとウサギリボンをつけたツヴァイ参謀が叫んで、戦闘機の発進を命じる。
そういえば、そんな機動兵器も載せていたねと思い出す遥。自分で戦艦を守るために作成したのに、性能を把握していないのでツヴァイたちの方が上手に使えそうである。
だが、予想通りの結果だ。ツヴァイリーダーや参謀を作って良かったと自画自賛のおっさん少女。自分の知力がないことなんて、先刻承知なのだ。というか、それができるなら早くやってほしかったと思う。どうもこのツヴァイたちは自分と一緒に戦闘をするのを楽しんでいたのではないかと疑いが頭をもたげる。
「ツヴァイ戦闘機隊、出撃します」
前面モニターの横にちっこいウィンドウが分割されて映し出されて、パイロット用スーツとヘルメットを装備したツヴァイたちが映し出される。
「うむ、ツヴァイ戦闘機隊、出撃せよ!」
なんだか、かっこいいよねと、おっさん少女は席を立ちあがり指をピシッと指して戦闘機隊に命じる。
「可愛いです。ご主人様、私も発進します!」
ちっこい指をビシッと指して、可愛い声で小柄な少女が艦長ごっこをする姿にボルテージが最高潮のサクヤである。どこに発進するというのか、邪魔をするならどこかに発進してもいいよと思う遥である。
超電導戦闘機が順次出撃していく。カタパルトから射出されるときに、それぞれのツヴァイたちが出撃します! と一回一回言ってくるので、そのたびに出撃せよ! と命じる遥。ちょっと面倒なので、こういうのはオペレーターの役目ではないかと思うのだが、ツヴァイたちも楽しそうなので仕方がない。
超電導戦闘機が青い光を噴出させ、音速で飛んでいく。確かマッハ2が最高速度のはずである。巡航速度がマッハ1.3だった。一応スペックを読んでおいたのだ。そして戦闘機隊は音速の壁などないように衝撃波を発生しないで飛んでいく。たぶん実際に音速の壁は謎パワーで発生していないと思われる。
グングン速度を上げて、視界から消えていく戦闘機。レーダーが10キロしか索敵できないタイプなのになぜか、モニターの片隅にそれぞれの戦闘機の飛翔している姿が映し出されている。まぁ、ゲーム仕様はそういうものだよねとおっさん脳はスルーした。
そうして、戦闘機は赤いデコイミサイルを発射していく。シュドーンと煙をたてながら地上すれすれを飛翔していくデコイミサイル。その高熱反応に鉄サソリは反応して、一斉にぞろぞろと移動していく様がみえた。
戦闘機なら鉄サソリを倒せるかなぁと考える。あの速度なら大丈夫かもとは思うがレーザーは食らいそうであるので、やっぱり無理かと諦めた。
何にしろ、前方の敵は誘引されていなくなったので、安心して移動をするスズメであった。
以前に砂漠を探索していたおっさん少女。叶得の助言もあり、砂漠の地下入り口を探していたが、エリアは広いし、地下入り口はまったく見つからないという悪循環であった。
そのため、地下入り口を見つけるために発想を変えたのである。何を変えたのかというと
「ツヴァイリーダーより司令へ報告。目的地に到着しました。全砲門準備良し。攻撃目標を固定しました」
ウィンドウに前髪を金色のヘアピンでとめているツヴァイリーダーが映る。自分のマップにも砂漠エリアの大体真ん中あたりにいると表示されていた。
「よし、全砲門開け。目標、地上の砂漠。全てを吹き飛ばす勢いで攻撃せよ」
遥は司令席から移動して、戦艦スズメの船首甲板にいた。意外と強い風が吹いており、日差しは焼けるように暑い。周りには砂が漂っている。その中を小柄な体躯で立っていた。
そして、空中戦艦スズメは砂漠のど真ん中にいた。崩壊したビル群もなく、ただ砂漠の砂が地上にはあるのみだ。
だが、ここはあからさますぎる。ビルもないのだ。何もないのだ。これは地下に何かありそうなフラグである。
ここを遥は目を付けていたが、鉄サソリのエンカウントは激しいし、何より地下入り口を探すために、調べるを連打するつもりもない。
ゲーム仕様なのに、ゲームではない現実なので、調べるをこの何もない砂漠でやるのは苦痛しかないのだ。
「全砲門開け。一斉射撃開始!」
キュォォォと荷電粒子砲に光が凝集されていき、周辺を白い光に包み、一斉に発射されていく。そのビームが飛翔していく先は砂漠である。
ドーンドーンと砂が滝のように吹き飛ばされて空中に漂う。そして、ドンドンとクレーターを作っていく。その穴は広がっていき、深くなっていく。
「はずれだ。次の目標地点に攻撃開始!」
遥の命令で、ツヴァイたちは次の目標地点をどんどん攻撃していく。そのたびに穴が増えていく。どうやら砂漠保全団体を恐れなくなったらしいおっさん少女。
暫く撃ち続けていたところ、クレーターだけではない、ズズッと周りを巻き込んで大穴ができた。その穴は周辺は高熱化して硝子化した砂だが、奥はコンクリートが見えていた。
「どうやら見つけたみたいだね」
コンクリートを見つけて、ホッと一安心の溜息をつく遥。砲弾が尽きる前に良かった良かったと、その大穴を確認する。
見つけられなかった地下入り口みたいである。こんな砂漠の何もない地点にあっても見つけられるわけないだろと憤慨するおっさん少女。
ここにありますみたいなヒントとかが必要な入り口だ。北に何歩、西に何歩とヒントをどこかにおいてほしかったとゲーム脳なおっさんである。
なので、面倒なので艦砲射撃で怪しい場所を全て吹き飛ばそうと考えた遥。
どうやらその考えは成功した模様。艦砲射撃の繰り返しでクレーターだらけになった中にようやく地下の入り口も見つけたのであった。
後は地下に入っていくだけかなと思っていたら、地下から何かでかいミュータントがでてきた。
ぞろりと長い胴体を這わせながら現れた敵をみて、ズルをしたペナルティかなと気まずくなったおっさん少女であった。