115話 おっさんは艦長となる
皆とのコントを終えて遥が外を見ると、もはや地平線が見えそうな広さである。
既に拠点拡張をlv7に上げたのであった。
パレスマテリアルは思った以上に強力なマテリアルだったのである。もしかしたらURとか他のゲームならそれぐらいの希少価値があったみたいだ。
そして、拠点をレベル7にしたところ、地下10キロメートルのコロニー型階層式居住地と半径30キロメートルの更地が更に追加されたのである。
そうして、新たに作成したのが船舶作成工廠だ。
ドーンと直径5キロメートルはある、ごつい長方形の船舶ドックであり、中にはそこそこの船を建造するために、未来的な重力変位トラクタービーム使用のクレーンや三メートルくらいの大きさのブルドーザーに機械の手を取り付けたオートマシンが何機も備えられている。
他にもフヨフヨと宙を浮くボール型ドロイドなどが何機も存在し、見学するだけでもわくわくする施設である。
男心をくすぐるロマン溢れる船建設専用の工廠であった。
まぁ、建設するのにはいつもの如く、レシピからポチリとボタン押下で後何時間後に作成されますと表示されて、時間経過でできるので、様々な機材も使用もできるが遥にとっては、その施設の中身も飾りになる悲しい建設物なのだ。
そうして、こんな拠点となったのである。
拠点:マイベース 拠点lv7
維持コスト:0
防衛力:50
防衛兵:50機 内訳、戦闘用20機、車両操作用10機、農業10機、装備作成10機
施設:戦略支援指令センター、広域レーダ施設、武器工廠、大型機動兵器作成工廠、調薬研究所、軍専用車両用大型ガレージ、マシンドロイド専用兵舎、銀行、船舶作成工廠
スキル:拠点聖域化
まぁ、新たなる船舶作成工廠は建設レベルが4で作った工廠なので、そんなに性能は良くない。
でも、一覧に空中戦艦、小拠点として使用可能と書いてあった戦艦があったので、これはロマン溢れる乗り物だぞと、テキストを読まずに、ポチッとなと作成をした。
その際に大量のレアマテリアルが消えていったが、使用可能を示す文字表記となっていたので、よく見ずに作ってしまったのだ。
相変わらずの刹那的な思考をするおっさんであった。
ゲームでもよくやる罠だ。それで周回しないと一度しか手に入らない素材をゴミ装備に使ってしまい、後悔をしてまた数十時間もかけて周回するということをした覚えがあるおっさんである。
だが、今回は奇跡的に成功のようだった。成功したのはこんな空中戦艦であった。
小拠点:マイシップ
維持コスト:0(拠点聖域化の影響)
防衛力:100
防衛兵:50機 内訳、戦闘用30機、車両操作用20機
拠点の種類:空中戦艦スズメ
搭載機:超電導ヘリ3機、超電導戦闘機3機、超電導戦車2機、空中強襲艇トンボ2機
戦艦の名前がすごい弱そうな感じだ。何だかカラスとかに捕食されそうである。
名前を変更できないかと思ったがデフォルトのまま変更不可である空中戦艦スズメ。チュンチュン鳴きながら飛びそうな感じだと遥は思う。
全容は全長一キロの空中戦艦であり、フォルムは金属のスズメに似ている。まぁ目とか脚がないスズメのようなフォルムである。名前を気にしなければかっこいいと思うだろう。
名前を知ってしまうと、えぇ~と残念な気持ちになってしまうが。
それでも直径1キロメートルの巨大戦艦である。本来は1000人以上の搭乗員が必要ではないのかと思ったが、そういうことはなかった。
僅か10名で火力管制も可能なゲーム仕様戦艦である。三列三十門の名前は大型荷電粒子砲、副砲としてハリネズミのように一二〇基の超電導バルカンが守っている。そして、翼の部分にはカタパルトが設置してあり小型の機動兵器を射出できるようになっていた。
「空中戦艦スズメは空中戦艦では最低の戦艦ですが、それでも現状ではかなり強いですよ、マスター。おめでとうございます」
最低レベルの戦艦でも、祝ってくれてニコニコふんわり笑顔でちっこいおててで拍手するナイン。勿論、遥も名前をスルーして、空中戦艦の雄姿を見て喜んでいたので、紅葉のようなおててで拍手する。そしてサクヤがカメラで撮影をしながら、デヘヘと笑うという、いつものパターンである。毎回見ても飽きない癒させる風景であった。
「小拠点である空中戦艦スズメには、私たちも搭乗可能ですが戦艦が撃破されると私たちは拠点に転送されてしまいますので、ご注意ください。また、サポートは今まで通り、マスターのスキル内でのサポートとなります」
そして遥と目と目を合わせて、瞳を輝かせた。
「しかし、これからは私たちも戦闘に加わることがある程度できるので、お喜びください、マスター。私はとっても嬉しいです。ようやくお手伝いができるので」
そんな嬉しいことを言ってくれるナインにデレデレ遥である。そんなぁ~、私も嬉しいよ? と両手を体にまわして、くねくねと頬を染めて照れるのはレキの身体なので可愛らしかった。サクヤがバタンとその可愛さに倒れるぐらいにである。
おっさんぼでぃで同じことをしたなら、ちょっときもいので照れる描写もないであろう。
「それと拠点聖域化の維持コストゼロだけの影響を受けていますので、燃料系、インフラ系は消費しません。注意するのが砲弾や防御シールドは消費すること。無敵な拠点ではないことと戦闘可能なことと撃破もされてしまう可能性があることですね。運用にはお気を付けてください」
きりっとした真面目な表情になり注意を促してくるナイン。遥も空中戦艦のようなかっこいい機体を破壊されるつもりは全くない。気を付けようと心に刻むのであった。
ゲームでは戦艦がやられたらロード一択であるので、現実だと怖い遥である。でも、この戦艦を破壊できる敵って、かなり怖いなと思う。
そのため、ツヴァイを50機追加。そして機動兵器を多数作成。指揮官としてツヴァイリーダーと参謀、そして自分がいない時のエースが防衛できるようにアインを強化したのである。
作った機動兵器も多数である。遥の本気がわかる内容であった。一部名前が気になる弱そうな兵器もあるが、それでも十分な火力ではないかと考える。
実際はこの10倍は兵を乗せることができるのだが、これで充分だとツヴァイたちが反対したのである。仕方ないなぁと妥協して50機に抑えたのであった。
一休みして、遥ぼでぃに変えて戦艦に搭乗する遥。珍しく外に出ているのだ。まぁ、外といっても戦艦内だが。
戦艦内に移動するのは、レキならばファストトラベルで移動できるが、おっさんには無理である。そのため、空中強襲艇トンボという4基のトンボの羽のようなフォトンエンジンで動く艇に乗り、空中戦艦スズメに搭乗したのだった。
廊下を歩きながら、わくわくといい歳をして子供のように目を輝かせて見学をするおっさん。
まぁ、ロマン溢れるSF映画に出るような戦艦なのだ。普通の人でもわくわくするだろう。
廊下は遥の恐れていた内装ではなかった。即ち、よくSF映画の洋画とかで見る、廊下はパイプやら何だか蒸気がそこらへんから吹き出ているといった物ではなかった。
パイプだらけでも雰囲気はでるけど、やっぱり乱雑な内装を見て、もっと綺麗なほうが良いと思っていたのだ。廊下とかもきっちりと綺麗な金属の壁で覆われていて、スッキリとしたパターンの内装であった。
こっちの方が良いよねとスキップをしようとして、謎の足踏みをしながら、見学をしてブリッジに機嫌よく向かうおっさん。
ブリッジに入ると真っ暗なタイプのブリッジではなく、白い壁の内装に各所に未来的な空中に浮いているモニタがついているオペレーター席が配置されており、前面に大型スクリーンが設置されていた。
暗いブリッジも良いけど、明るいのも良いよねと艦長席によいしょと座る年寄りじみたおっさん。
そこに座るには貫禄も知性も何もかも足りないと思われるが、残念ながら反対する人間はいなかった。
本来であれば、戦艦で働く名前も無いおっさん兵士であり、敵の攻撃で外壁が破壊されたら、その爆発で吹き飛ばされて、ぐわぁと叫ぶのが唯一のセリフで死んでいくだろう脇役っぽい小物のオーラが出せるおっさんだ。
左右に不自然に設置された席にメイドたちが座る。そしてオペレーター席にツヴァイたちが座っていく。まぁ、人数が少ないので三十席はあるオペレーター席には五人しか座っていない状況ではあるが。残りは戦艦内の各所に配置されている、たった十人で稼働できるゲーム仕様戦艦である。
「艦長、フォトンエンジンの出力は問題ありません。艦のステータスは全てオールグリーンです」
オペレーターのツヴァイがはりきったきびきびとした声で報告を開始する。空中に浮くウィンドウにはスズメ出港準備良しと表示がされている。名前がやはり不安感を強烈に喚起させる戦艦だ。
そしてフォトンとは白い光を噴射して稼働するのであろうか、多分違うよねと、なんちゃってフォトンエンジンにはツッコミを入れないゲーム仕様に慣れている遥であった。
「良し! 各員に告ぐ。これより空中戦艦は処にょ航行となる。問題ないか注意をして安全に出港だ!」
処女航行を言えないヘタレなおっさんである。よく艦長は照れないで言えるよねと自分が艦長になって感心してしまう。
「マスター、どうぞ、カフェオレです」
ナインが艦長席の机にカフェオレを置いてくれる。コーヒーよりカフェオレが好きだと、遥の好みを理解しているナイン。そのまま席に戻らずに、遥の膝の上にチョコンとのった。
「出港しましょう、マスター」
頭を振り向かせて上目遣いでナインが催促するので、ウムと重々しく見せようと無駄な演技をしながら頷いて、ナインの触り心地の良いサラサラの髪の毛を軽く手で撫でながら合図を出す。
「出港せよ! 空中戦艦!」
空中戦艦の名前は言わない遥である。了解と返事がしてツヴァイリーダーが戦艦を操作する。
ちなみにどこかで見たようなゲームのコントローラーで操作している。リモコン操作なら遥が操ることは不可能であろう。やけに簡単なゲーム的な操作方法であった。
他のオペレーターはキーボードとマウスである。射撃はコントローラーよりマウスの方が良いよねと、その最新式の操作方法にガッカリする遥である。どうやら机に表示されているSFチックなタッチパネルやら光るボタンやらは飾りらしい。
そして遥はゲームでもヘリとかを操作するのは凄い苦手なのである。大体はヘリを上手く操作できないで敵の周りをウロウロして撃墜されるのだ。というか大体のゲームのヘリは操作が難しすぎると思う。
そして出港する空中戦艦スズメだが、内心はこの可愛らしい生き物はなんなの? と艦の出港の感動も全て膝に乗っているナインの体温の温かさにもっていかれるおっさんであった。
ちなみにサクヤはウィンドウを開いて、欠伸をしながらポテチを食べて、サイダーを机に置いて何かの映画を見ていた。男女が最新の豪華客船に乗って、ウフフアハハとイチャイチャする恋愛映画みたいだ。本当にこの銀髪メイドはあからさますぎる態度なのだった。
戦艦は空中を雄々しくその雄大な船体を陽射しで煌めかせながら航行を開始する。
空中戦艦スズメの後ろの噴射口からは白い光が大量に噴射されているのが、モニターから見える。モニタ越しに外の音を聞くに極めて静かな駆動音だ。そして艦も揺れずに本当に動いているのかと疑うほどである。
本当は動いてないで、モニタのみに動いている映画を映すアトラクションなのではないだろうかと疑ってしまう。
何かガタゴト椅子が動いて、前面のモニターが宇宙を進むアトラクションがどこかの遊園地であったと思い出す。
まさか、からかわれていないよねと、そんな想像をしたせいで急に不安感に襲われ、ソワソワ周りの人々の様子を窺う小心者のおっさんであった。
「大丈夫でふよ、ごひゅひんさま。問題なく航行していまふから」
モグモグと大福を食べながら、サクヤが伝えてくる。どうやら遥の不安感を見抜いたらしい。何気に気のつく銀髪メイドである。
「そうですよ。よろしかったら甲板に出れば航行しているのがわかると思います」
ナインも同じく遥に告げてくるので、安心するおっさんである。メイド二人を信頼はしているのだ。
数時間は拠点周りをウロウロして、艦長ごっこをやって遥は満足した。途中で艦砲射撃もしようかと考えたが、砲弾が勿体無いし、周辺には若木コミュニティもあるのだと自重したのである。
だが、これで行き詰まった砂漠をクリアしようと決心したおっさんであった。