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コンクリートジャングルオブハザード  作者: バッド
9章 東京観光をしよう
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113話 少女と少女

 施設がポツポツと乱雑に建設されており、後は畑と更地と思われる大きな基地である。その中心近くに庭付き、ガレージ付き、家庭菜園付きのお洒落なレンガ風の豪邸が建っている。周りが軍基地のような場所にあるので、違和感が半端ない。


 その豪邸のホームパーティができそうなリビングルームで、ゴロゴロと寝転がりながらテレビを見ている少女がいる。


 黒髪黒目のショートカットで子猫を思わせる庇護欲を喚起させる小柄な美少女朝倉レキである。


 いつもの眠そうな目でテレビを見ながら、人形をぎゅぅぎゅぅと抱きしめながらゴロゴロと寝っ転がっている。


 いつもは常に傍にいるメイドもいない珍しいリビングルームである。そこでレキはテレビを見ながら、口元をニヨニヨさせていた。


 珍しく嬉しそうな幸せそうな表情である。


 なんのテレビを見ているかと言うと、様々な戦闘シーンである。キングモンキーと戦ったとき、オデンの騎士と戦ったとき、無上と戦ったとき、サクラレシアと戦ったとき、そして最近の機動兵器戦だ。


 レキのお気に入りは、無上戦からだ。あれから旦那様との結婚生活が始まったのだと固く信じている。


 共同作業だとプロポーズを受けたのだ。受け入れたので自分は新婚さんである。


 また、ゴロゴロとしながら、作った旦那様の人形をぎゅぅぎゅぅと抱きしめて幸せいっぱいになる。


 そんなレキがゴロゴロしている家には誰もおらず、外の基地にもアインたちは存在しない。


 何故ならば、ここはレキが密かに作り上げた精神世界であるのだから。





 最初はただぼんやりと自分はしていた。なんだか真っ暗な中に自分は存在していて、旦那様の呼び声に従い、戦闘の補佐をするだけであった。


 しかし、戦闘が激しくなって、敵が強くなってくればくるほど、旦那様の呼び声は大きくなり、自分はどんどん自我が形成されていったのだった。


 そうして光り輝く世界が自分の前に作られていったのである。今は自分の世界を作ることもできるようになったのだ。


 常に絶対の信頼を持って自分を頼るのは旦那様だけだ。


 うふふと、また口元をニヨニヨさせて微笑む。いつもの平然とした表情はそこにはなく、頬を薄らと染めて可愛く微笑む少女がそこにはいた。


 ゴロゴロするのも大好きだが、旦那様に頼られるのはもっと大好きだ。


 たまに旦那様が精神世界で頭をナデナデしてくれるのは大好きである。もう精神世界で旦那様と一緒に暮らしていけば良いのではと思うが、それは旦那様が嫌がるだろうからやらない。


 それにその系統のスキルも無いし仕方ないのだ。


 そんなことを思いながら、この間の化物の容姿を思い出した。


 あの容姿を思い出し、レキは自分の胸を見て、溜息をつく。両手で簡単に覆える大きさである。というか平原に近い。


 不満そうな表情になり、この間の化け物を背負ったときの背中に胸が当たったときの旦那様の嬉しい感情を思い出す。


 むぅ~と口を尖らせて愚痴を呟く。


「もう少し胸はあっても良かったと思うのですが。それと背丈とかもあって、妖艶な感じで」


 そうすれば、旦那様も精神系のスキルを取って、レキと精神世界で暮らしていこうと考えたかもしれない。ずっと二人きりで暮らしていくのだ。夢のようではないかと幸せな妄想にうっとりとする。


 だが、どうやら私は旦那様がその外見を愛でるために作られた容姿らしい。愛でてくれるのも嬉しいので、難しい問題だと思う。


 そうこうするうちに深夜の眠る時間になったのだろう。精神世界の寝室に旦那様が現れる感触があった。現実世界で寝ると、精神世界に来てくれるのだ。そしてそのまま精神世界で寝るのである。何か不思議な感じもするが、そうするとよく寝れると以前に旦那様は語っていた。


 私に異論があるはずがない。何しろ精神世界は二人きりなのだから。


 そう思って、いそいそと寝室に行く。可愛い姿が大好きな旦那様なので、猫のぬいぐるみみたいなパジャマに着替えてである。もちろん、耳もついているパーカーつきだ。


 ニャーと可愛く鳴いて、添い寝をしようと寝室に入ろうとする。


 寝室に入ると旦那様がいた。ニヨニヨとまた口元をさせて、近づいていく。


「あぁ、レキか。おいでおいで」


 半分寝ている感じでぼんやりと言ってくれる。精神世界でも旦那様は優しいのだ。はい、と頷いて横に添い寝しようとする。


 しかし、この二人しか入れないはずの精神世界にはお邪魔者がいた。そのお邪魔虫を見て、むぅと不満顔を表す。


 そのお邪魔者は既に旦那様の左で寝ていて、ぴっとりと身体をくっつけている。


 スヨスヨと可愛い寝息を立てている小柄な体躯の金髪ツインテールである。このあざといメイドは精神世界でも添い寝をしようと入ってくるのだ。


 その点、尊敬と忠誠しか無い銀髪メイドは精神世界まで押しかけてこない。


 きっとこの金髪ツインテールはストーカーというやつなのだとレキは思う。


 でも、今は旦那様はお休み中なのだ。寝付くまでは待つ予定である。


 旦那様の右側にはいり、その子猫を思わせる小柄な体躯でぴっとりと体温を感じるようにくっつく。脚も絡めて離れないようにする。


 そうして、旦那様の寝息がして完全に寝たことがわかると、レキは絡めていた脚をほどいた。


 むくっと起き上がり、旦那様の隣にいる異物を放り出そうと考える。


 ナインも旦那様の体に脚を絡めているので、ぐいぐいと引っ張ってほどいて、放り出そうとする。


 えいえいと旦那様の体に絡めている脚を引っ張ると寝ているフリをした邪魔者が目を開く。


「私はマスターの体温を感じるのに一生懸命なので、邪魔しないでもらえませんか?」


 何を言っているのだと、レキは憤慨する。現実世界でも添い寝をして、二人きりであるはずの精神世界でも添い寝をしようとは欲張りすぎる。


 怒ったので、その小柄な身体の健康的な脚を振り上げる。バレエのように自分にくっつくぐらいに振り上げて、思い切り寝ているナインに向けてかかと落としを入れた。


 ズドンと音がして、ベッドに脚がめり込む。しかし、ナインの姿はなかった。


「しょうがない人ですね。マスターが起きたらどうするんですか? 正妻の邪魔をしないでもらえますか? 愛人さん」


 いつの間にか、私の後ろから声がした。油断も隙も見せなかったはずなのに、ナインが後ろにいたのである。


 すぐに振り向きざま回し蹴りを繰り出す。風を切り、生身の足が繰りだした蹴りであるのに、ビュオッと音がする。


 しかし、ナインは左手を掲げると、あっさりとレキのまわし蹴りを受け止めた。


 そして受け止められたと思ったら、基地の更地に移動していた。


 瞬間移動の超能力である。


 このサポートキャラは全てのスキルを覚えているのだ。サポートキャラゆえに、あらゆるサポートができるようにと。


 基地内ならば物理世界でも精神世界でも、その力を本当は行使できることをレキは知っている。旦那様も薄々気づいているが、適当な性格なのでそれを確かめない。それにサポートキャラが主導してスキルを使ってくれないことも知っている。あくまでも旦那様の持っているスキル内での行動しかしないのだ。


 だが、レキに対してこの金髪のツインテールは情け容赦なくスキルを使用してくる。


「最初は私のほうが好きだと思ったのですが」


 いつも思う。この娘は最初は私のボディが好きだったはずだ。


「そうですね。でも、段々とマスター自身を好きになっていったのです。何故だか自分でもわかりませんが」


 恋とは、そういうものですよねとナインが聞いてくるので、うんうんと頷いて同意する。


「私のは既に愛です。もう結婚しましたし」


 主張するのだ。もうプロポーズもされたのだ。新婚なのである。後は夜の営みだけだが、それは後8年は必要だと旦那様が思っているので、我慢するのだ。


「私は既に愛を超えています。サポートキャラはマスターと常に一心同体なのです。早く同体になりたいのですが、時間はありますので、ゆっくりとアタックしていきます」


 ニコリと男を騙す癒しを感じさせる笑顔をしてナインが言う。その笑顔で、旦那様をいつも騙して、頭をナデナデしてもらっているのだ。ずるい、私は精神世界でたまにしかしてもらえないのにと不満の表情をする。


「では、仕方ないですね。いつものように実力行使ということで」


「何度やられてもこりませんね、レキさんは」


 そう言いあって、私は身体を半身に構える。拳を上げて呟く。


「獅子の手甲展開」


 猫のパジャマが消え去り、いつもの戦闘姿と変わる。そしてカチャカチャとお気に入りの手甲が右腕を覆う。


 私が戦意を高揚させ、身構えているのに、この金髪メイドは構えもとらずにこちらを薄らと微笑みながら見ている。腕を上げることもせずに、たたぼんやりと立っているのみである。


 隙だらけにしか見えない。自分のスキルをもってしても隙だらけにしか見えない。だが、スキルが隙だらけであると理性に告げても、私は誤魔化されない。


 初見ではないのだ、この戦いは。あまりにも体術のスキルに差があるために相手が隙だらけであると誤認をしてしまっているのだ。自分の体術スキルもレベル7であるはずなのに信じられないことではある。


 それでも、まずはナインの体勢を崩し本当の隙を作るために、私は地面を蹴る。


 力を籠めて空気の波動が生まれるほどに地面を蹴り、ナインに一気に肉迫する。


 第三者が見たら、瞬間移動をしたと思われる速度である。一瞬でナインの懐に入り込む。


 私は隙だらけに見えるナインに対して、すぐさま、右ジャブ、左ジャブ、右アッパーとコンボを組みながら、拳を繰り出す。


 薄らと微笑みながら、ナインはそっと手を掲げる。その手を狙っているわけでもないのに、不思議とその手が、こちらの攻撃を全て軽々と受け止めていく。全く体幹も揺るがず、手も何か軽く受け止めたような感じで震えも痺れもしていない。


 ただ、ドンドンと受け止めた際の風圧が発生することが、私の攻撃が弱くないことを教えてくれる。


 くじけずに、残像ができるほどの速度で身体を震わせ拳を繰り出して蹴りを行い、その防御を打ち破ろうとするが、全て受け止められてしまう。


 行動を止めた私とナインの間に風が大きく生まれ弾け飛んでいく。


 防御を崩すことは無理と判断し、超技を繰り出すことにする。


 右拳に黄金の粒子が集まり、周辺を染める光が生まれる。


「超技獅子の牙」

 

 黄金に包まれた右拳を繰り出し、全てを貫く必殺の牙を撃ちだす。


 だが、常に敵を撃ち貫き引き裂いてきた必殺の牙は、ぺちっと可愛い音がして、あっさりとナインの右手で防がれた。


 受け止められ消えていく黄金の粒子。周りに散らばっていく光の粒子が美しい。


「超技黄金剣の舞」


 まだまだ私はやれるのだと、次の必殺を繰りだす。右手の指をピシッと伸ばし手刀の形にする。


 全てを斬り刻む私の剣の舞だ。黄金の剣と化した右腕で高速でナインの体に対して右袈裟斬りを仕掛ける。


 黄金の軌跡が生まれ、金髪メイドにその軌跡が斬り裂こうと近づいていく。


 ひょいとナインは人差し指をたてて、その黄金の軌跡の前に防ぐように掲げた。


「えいっ」


 その人差し指にすべてを切り裂くはずの私の剣が当たる。ただ、切り裂くこともなく、黄金の剣は人差し指を揺るがすこともできずに受け止められた。


 それだけで、私の黄金の剣は弾かれて、その黄金の軌跡も砕かれて消えていく。


「まだまだですね。レキさん。もっと頑張ってください、マスターのために」


 そう呟いて、私の額に指を近づけて


「やあっ」


 と可愛く声を上げて、デコピンをしてくるのであった。


 その攻撃で私の意識はあっという間に暗くなる。精神世界なのに気絶をするという不思議な現象を感じながら私の意識は沈み込んでいくことを感じたのだった。



 むくっと起き上がると、旦那様の横に私は添い寝されていた模様である。旦那様の隣でスヨスヨと寝ているフリをして、旦那様の体温とか匂いとかを感じているだろう金髪メイドがやったのであろう。


「今日は負けましたが、次は負けません」


 そう呟いて、旦那様の隣にコテンと寝そべる。そしてぎゅっと抱きしめて脚をその体に絡めて親猫にくっつく子猫のように睡眠を始める。


 うとうとと旦那様の体温を感じながら、もっと強くなるのだと決意をしながら、少女は寝るのであった。



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― 新着の感想 ―
[一言] 強いだろうとは思ってたけど、想像以上だった。 レキの速さにドローンが常にスカートの中身追いかけてる時点でおかしいもんねぇ。
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