108話 おっさん少女にハンターされちゃうギルド
反乱が起きましたというナインの言葉を聞いて、心躍らせて若木コミュニティに急いで戻った遥である。
遥にとってはシムな気分で楽しんでいたコミュニティである。こういうイベントも無いとねと、お気軽な気分で様子を見に行ったのだった。
それに防衛隊は特製ワッペンを装備しているし、主人公な人たちの集まりだ。怪我人は出ても死人は出ていないでしょうと楽観的でもあった。
怪我人がいたら、ほいさっとヒールをかけてあげれば、すぐさま治ってしまう崩壊前ならテロリストが発生しないだろう環境である。
若木ビル前に行くと人々が集まっていた。ザワザワと喧騒が響き人々の悲鳴や嘆く声がそこら中でしている。
とは、なっていなかった。この寒いのに厚着をして食い物屋が豚汁を熱くて美味しいよ〜と元気に声をはりあげて売っている、コーヒーを売り歩いている人もいて、ゴザを敷いてワハハと笑いながら酒を飲んで宴会をしようとしている集まりもあった。
どうやら反乱とは名ばかりの大したことが無さそうな感じである。しかもお祭り騒ぎになっているようだ。
その人々の姿を見て、楽しそうだねと、お祭り騒ぎに加わろうと遥も簡易展開型木製小屋を出して、いそいそとお店を始めようと考えた。
この間作成したオデンも飲料水も作りすぎたので、まだまだ大量にあるのだ。劣化しないので入れっぱなしなのであった。実に無駄にアイテムポーチの枠を埋めているおっさん少女である。
ネットゲームでも、ゴミ素材を大量に入れっぱなしにしておいて、ボス戦後のドロップアイテムが、枠がいっぱいで手に入らなくなりそうになった経験のあるおっさんである。
展開した店に入り、オデンを火にかけてグツグツと煮えてきて、飲料水も横に置いて、それを見ていた人々がオデンを食べようと並び始めて、準備万端、さぁ、開店だとおっさん少女が店を開こうとした時に後ろからグイと首周りの服を引っ張られた。
もぉ、そろそろ開店だから少し待ってよと、ここに来た目的をすっかり忘れて後ろを振り向くと、豪族が額に青筋をたてながらおっさん少女を見ていた。
「来たと思ったら、お姫様は何だか楽しそうなことを始めていやがるじゃねえか?」
相変わらずの怖そうな顔も赤くして、額に血管を浮き出しており、ちょっと怒っている模様である。
「こんにちは、豪族さん。何だかお祭りみたいなので、私も加わろうと思いまして」
いつものように眠たそうな目を豪族に向けて、何か問題がありましたか、という表情で飄々と答える遥である。
「連絡を受けて、様子を見に来たんじゃないのか! お前は」
怒鳴る豪族に対して、おぉ、そういえばそうだったと、来た目的を思い出す遥である。
「騒乱となっていれば、介入せよと指示を受けていました。お祭りのようなので、お店を始めて介入しようと思ったんです」
アホな言い訳を平然とするおっさん少女である。可愛らしい小柄な女の子だからこそ許されるだろう言い訳である。
おっさんが同じ言い訳をしていれば、豪族に殴られていたかもしれない。まぁ、それ以前に反乱と言われたら近づきもしないが。
「何でそんな考えに至るんだ! まぁお祭り騒ぎになっているのは否定せんがな。とにかく、こっちにこい!」
グイグイと首周りの服を豪族に引っ張られる遥。
「ちょっと待ってください。もうお客さんも並んでいるんですよ」
ちっこい指を並んでいるお客さんに指差すと、周りのお客さんも、うんうん、もう楽しみに待っているんだよと頷いてきた。
ハァと溜息をついて、豪族は周りを見渡す。そうしたところ、人混みの中に見慣れた姉妹を見つけたので声を掛ける。
「そこの水無月姉妹!こいつの代わりに店をやっておけ!」
何だか最近は若木コミュニティに入り浸っている姉妹は、豪族の指示を受けて、はぁいと了承する。
「ごめんなさい、レキさん。代わりにお店はやっておきますので頑張ってください」
穂香が苦笑しながら、それでも店をやるつもりなのだろう、遥に伝えてくる。
「僕たちも頑張って店の売上を上げておくからね〜」
晶が元気よくブンブンと手を振り、穂香が開店しますねと店の周りに並んでいるお客さんに言って、人々はドンドコ店に入っていくのを見ながら遥は叫んだ。
「よろしくお願いしますね、穂香さん、晶さん。料金設定は以前と、同じで〜す」
豪族に子猫のように引きずられながらも、ブンブンと可愛いおててをふりながらおっさん少女は姉妹にそう伝えるのだった。
若木ビルから少し離れたビル前に、豪族に引きずられながら来ると防衛隊の面々が困った表情で腕を組みながら、そのビルを見上げていた。
十階建てのビルである。恐らくは崩壊前は雑居ビルであろう。防衛隊が見上げている視線の先には、屋上で何人かの子供たちがデモで使われる看板のプラカードを持って何か叫んでいた。
「我々は一部の官僚の支配、そして軍部との癒着を防ぎ、民主主義を取り戻さんとする者たちです! 皆さん、再び民主主義を打ち立てようではありませんか! 聞いてください、皆さん!」
なんだか、昔よく聞いた野党の演説に似た発言をしている子供である。多分昔の演説からパクったと思われる。
よくよく見ると、いつか見た元生徒会長であった。以前に会った時よりもやつれており、目も窪んている。お風呂は仮設ではあるが大量に設置したので、銭湯みたいに若木コミュニティは管理はしているが、入るのに困ることは無いはずなのに髪の毛もボサボサで、服装も薄汚れて身だしなみも気にしていないようである。
集まっている人たちも生徒会長の取り巻きであった体育会系の子供たちである。
一万人を超えるコミュニティとなったのだ。こういう主張もあるだろうね、でも身だしなみには気をつけないと、そういう発言は人々は聞いてもくれないよと遥は思う。
きちっとした服装なりなんなりしていないと、ただでさえ日本人は政治にほとんどの人々は無関心なのだ。
その身だしなみを見て、何か危ない人たちだと発言を聞いてもスルーするだけだろう。しかも今は崩壊した世界なのだ。自分たちが暮らすのに精一杯なのである。
発言者が、未だ子供だからこそ、人々はお祭り騒ぎで頑張んなよと無責任に騒いで、お祭りをする理由にしているのがわかる。要は全く相手にしていないのだ。
こんなの放置でいいでしょうと、豪族へ視線を向けるおっさん少女。勝手に叫ばせておけばいいでしょう、私はお客さんでいっぱいだろうオデン屋に戻りますと考える。
おっさん少女の視線の意味に気づいたのだろう、豪族は溜息をしながら語ってきた。
「言いたいことはわかる。甘ったれた子供達の言い分だ。他の子供たちは、自分たちのできる範囲で一生懸命に頑張っている。だが、あいつらは一獲千金だなんだと、夢ばかり見て現実を見ようとしねえ」
そうだろうねと、遥も思う。彼らは異世界物の小説でも読みすぎたのではないだろうか? ハンターギルドを作り、そしてミュータントを倒し人々の生活を守り、財宝を獲得して成り上がる。よく見る話である。
だが、現実は厳しかった。既に救出された時には防衛隊があり、訓練された人々がミュータントを倒し人々の生活を守っている。
財宝を獲得しようにも、自分たちの武器では、とうてい都内などを探索することはできないのだ。
グールの群れにショットガン片手に立ち向かうことなどできない。ゲームのように、襲われてもお腹を押さえるだけですんで、ハーブを食べて回復とはいかないのだ。
そうして追い詰められたハンターギルドは、今度は民主主義を思いついたのだろう。
だが、子供たちらしい考え方である。大人はこのコミュニティがまだ税金すら集められない過酷な環境だとわかっている。人々を守ってくれているのは、善意による者たちの力のおかげだと理解しているのだ。
税金すら払ったことの無い、お粗末な考え方しか持てない子供たちだからこその発想だろう。
それに民主主義になるとして、誰が指導者になるんだろうかと遥は思って、防衛隊の中にいる主人公なナナを見た。多分圧倒的票を集めて、彼女が当選する予想が簡単にできる。
というか、その成り上がりのルートを突き進んでいるのはナナであったりもするのだ。
どちらにしても、彼らの生活は自分が頑張らなければ変わらないのだ。チートな美少女に頼れて、チートな力を行使できるおっさんとは違うのである。
「普通なら放置する内容だ。しかし、あいつらは武装している。しかも………。あぁ、あれを見ろ」
遥が見ると、確かにショットガンを取り巻きも生徒会長も背負っていた。だが、あの背負い方だとすぐには構えられないだろう素人っぷりがよくわかる。
そして、ガリガリと苛立つように頭をかきながら、豪族は生徒会長達の後ろを指で示した。
遥が豪族が指で示した生徒会長の後ろをなんだろうと見てみると、縄で手首を縛られている静香が立っていた。こちらの視線に気づいたのだろう。縛られた両手をふって、にこやかに妖艶な笑顔を向けてくる。
「きゃぁー、軍部の癒着先と言われて捕まってしまったわ。お嬢様しか私を助けられないわー。たすけてー」
物凄い棒読みでそんなセリフを叫んでくる。学芸会の練習だろうか? 俳優にはなれそうもないなと遥は思った。
「あの、女狐め! 何であそこにいやがる!捕まるようなやつじゃねぇだろ。何か裏があるに決まっていやがる!」
豪族の言葉に同意して頷く遥。どうやら彼女の口ぶりからおっさん少女に用事があるらしい。多分碌な用事ではないだろう。
「わかりました。静香さんの相手は私がしましょう。まずはハンターギルドの面々を制圧しましょう」
そういう遥にホッとした表情で緊張感がとける豪族。
「悪いな。あの女狐はお姫様とは別のコミュニティだ。気をつけろとは頼むこちらとしては言いにくいが、気をつけろよ」
ハイと、頷いて雑居ビルに防衛隊と突入を開始するのだった。
途中で罠もなく、あっさりと屋上に到着した面々である。
到着したこちらを睨みながら、憎々しい表情で生徒会長が待ち構えていた。静香は生徒会長の後ろでニコニコと何を考えているかわからない笑顔をしている。
「よく来たな、独裁者共め!」
大声で怒鳴ってくる生徒会長。しかし周りの取り巻きは武器を構えることもなく、カードを片手にオロオロしていた。
オロオロするぐらいなら、まず武器は持ってくるなよ、子供たちよと遥は思う。日本人だからまだ良いが、これがアメリカとかなら即射殺されていたかもしれないのだ。
「僕たちは負けない! 皆で民主主義を復活させるんだ! お前たちに富の集中は許さない!」
富って、そこを言うんだと呆れてしまう遥である。崩壊前は今以上に富の集中が酷かったでしょと思う。
ぱんぱんと手を叩いて、豪族が話しかける。
「おら、お遊びはおしまいだ。まぁ、武器も構えているわけじゃないから、厳罰にはせん。そら、解散だ、解散。今すぐに解散せんとお姫様のオデンを食いそびれるぞ」
子供たちに言い聞かせるように言う豪族。おっさん少女のオデンを持ち出すのは説得力はあるのだろうかと首をひねって考えてしまう遥である。
「オデンなんて馬鹿にするな! 我々は民主主義を――」
真っ赤に顔を怒りに染めて生徒会長が怒鳴りかける。だが、豪族はその怒鳴り声に自分の怒鳴り声を被せた。
「民主主義? 状況がどれだけわかってねぇんだ! テメエは!今ここに生き残っている奴らはな。単なる生存者の集まりなんだよ。税金も官僚もねぇんだ! どこかに役所でもあるのをテメエは見たとでも言うのか!」
そう気迫を伴い言い放つ豪族に、生徒会長は今更気づいたのだろう表情で驚きながら掠れた声で聞いてきた。
「でも、貴方たちが人々を守って、物資を購入したりしていて……」
「俺たちはな、税金など無いから無給なんだよ! 指導者ではあるが、金を貰ってやっているわけじゃねぇ! 自分たちで稼いで、人々の頼みを聞きながら何とか騙し騙しやっているんだよ!」
豪族の怒鳴り声が辺りに響き、シーンと周りに静寂が広がる。
そして、子供たちの方からカランと音がした。見るとそれはプラカードを取り巻きが捨てる音であった。
プラカードを捨てた取り巻きが疲れた表情で生徒会長を見ながら話す。
「百地のおっさんの言うとおりだよ。お前には世話になったから、今まで付き合ってきたけど、そろそろこんなこと止めて真面目に働こうぜ。もうお前につきあうのは疲れたよ。俺はもうやめるわ。レキさんのオデン屋に早くいかないと無くなるかもしれないしな」
一人が生徒会長にそう言い放ち、こちらに歩いてくるとすみません、迷惑をかけましたと頭を下げてくる。そして何故オデン屋を口に出すのだと遥は思う。そんなにオデンは重要なのだろうか。
その子供にナナたちが頷いて、武器は危ないから回収ねと言うと、素直にショットガンを背中から外して手渡して去っていく。
それを見た他の取り巻きも、プラカードを捨てて同じように謝りながら武器を防衛隊に渡して去っていくのであった。
子供だから見逃すとは、甘いなぁと思ったら、そう思っていたのが表情でバレたのだろう。ナナがおっさん少女の耳元にコッソリと話しかけてきた。ナナの息がかかるのでこそばゆいと遥は思いながら話を聞く。
「大丈夫。総隊長が後で地獄の訓練に彼らを参加させるから」
おぉぅと、脳筋らしい罰だねと、うんうん頷いて納得する。まぁ子供たちに与える罰らしい感じがするし、武器は背負っていただけなのだ。まだまだ甘いと思うが別にこのコミュニティの一員ではない遥が口を出すことでもない。
取り巻きたちがプラカードを捨てて去っていくのを見た生徒会長が怒鳴りながら叫ぶ。
「なんでなんだよ! なんで上手くいかないんだ。僕は優秀だ。高校でも生徒会長もやり、模試の結果も高かったんだ! 両親には期待されていたし、将来は官僚になる予定だったんだ。なんでこんなことになっているんだよ!」
そう叫んで頭を抱えてうずくまる。それを見た豪族はノシノシと近づいて蹴りを生徒会長に入れた。
ズササッと床に蹴られて飛ばされて倒れ込む生徒会長。コンクリートに身体が擦られたので、かなり痛そうである。
「ふん! 青春映画じゃねぇんだ! そんなありがちな悩みで周りを振り回してきたのか、テメエは!」
身体がコンクリートに擦られて倒れ込み痛さで呻く生徒会長に腕を組んで見下ろしながら豪族が怒鳴る。
「そんな考えでハンターギルドを作ったのか? 上に立ちたいから友人を巻き込んで人々を勧誘していたのか? 人の命をもてあそぶ遊びをテメエはしていたんだ!」
血管が額に浮き出て、顔を赤くして更に話を続ける豪族。
「はっきりと言ってやろう。テメエは崩壊前なら優秀だったかもしれない。お偉い官僚になって俺らを顎で使う人物になっていたかもしれない!」
そこで、ハァと息をついてトドメの言葉を怒鳴った。
「だが今のテメエは雑魚だ! お前が見下していた能力の無い雑魚なんだよ!」
おぉぅ、はっきりと言うね、豪族よと遥は思った。青春映画みたいに、よしよしお前の気持ちはわかるぞとか言って、抱きしめながら説得すると思っていたのだ。まさか蹴り飛ばすとは思っていなかった遥である。
豪族の本音を聞いて、生徒会長は泣き出した。
「わかってた。わかってたんだ。上手くいってなかったことぐらい! 漫画や小説みたいにいかないってことぐらい」
それを聞いた豪族が脚を振り上げてまた蹴っ飛ばした。また、ザザッとコンクリートを擦って吹き飛ばされる生徒会長。全く容赦が無い男である。映画だと批判がでそうな展開だ。
「わかってたんなら、やめとけ! この馬鹿野郎! 頭が良かったんだろうが!」
うぅと生徒会長は泣き続けて、他の隊員が豪族のはっきりと言う言葉に苦笑して、生徒会長から武器を回収して今回の騒動は終わりみたいである。
とっても面白かった、来て正解だったよ、生演技はやっぱり違うねと劇を見ていた気分の遥はそう思って満足した。これで終わりだね、さっさとオデン屋に戻らないととそう思っていた。忘れていた真の問題児の言葉が無ければ。
「あらら、青春映画はこれでおしまいかしら? でもこんな終わり方も良いわね」
すっかり忘れていたが、何故か人質に取られていた静香が腕を組みながら、蠱惑的な妖しい笑顔で面白がるように、視線をおっさん少女に向けて口を挟んできた。いつの間にか手の縄も解けていた。
その言葉を聞いて驚く生徒会長。自分の後ろに静香がいるとは思っていなかったらしい。
「フフフ、彼らは私の存在に最初から気づいていなかったの。凄いでしょう? この武器の効果」
静香が腕を上げて、人差し指に嵌まっている指輪を自慢するように見せた。何やらメカニカルな金属の回路が組み込まれており回路が光っている指輪である。
「遠くからは気づかれるけど、近くの人は私に気付かないの。使い方次第でこんなこともできちゃうのよね、この指輪」
フフフと、また妖しく微笑む、遥以外でゲーム仕様を唯一使える静香がそう言った。
「と、すると、このガキ共はお前が人質になっている演技すらも気づいてなかったというのか?」
豪族が静香に怒りながら聞く。静香がいるから警戒して生徒会長たちに豪族たちは近寄れなかったのだ。怒るのは当たり前である。
「そうなの。でも怒らないでね、百地さん。悪気は少ししか無かったのよ」
飄々と悪びれずに、笑顔で豪族に視線を向けて静香は答えた。そして頭をふりながら、またおっさん少女に視線を戻す。
「仕方ないの。上からの命令なのよね。肥大化する大樹を上は見逃せなくなったみたい」
静香に上司なんていないことは、遥は知っている。もちろん、それを遥に知られているのも静香は知っている。
これは防衛隊へのパフォーマンスなのだろうと警戒して静香に眠たそうな目を向けて遥は問いかける。
「それが後ろに隠れている三人というわけですか?」
そう遥が尋ねたことを聞いたのだろう。何もいないと思われた静香の後ろから、ガシャリと足音をたてながら三メートルはあろうパワーアーマーっぽいのが、ゾロゾロと姿を現した。
「その通りよ、お嬢様。そろそろ私たちも交流するべきではないかと上は考えたみたいね」
どうやら物騒な交流みたいですねと、おっさん少女は演目が青春映画から近未来バトル物に変わったことを感じるのであった。




