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コンクリートジャングルオブハザード  作者: バッド
9章 東京観光をしよう
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106話 ダンボール的おっさん少女

 警視庁。誰もが知っている国民を犯罪から守る警察の本部である。映画やドラマなどでも、頼りになりそうな立派に聳え立つビルと犯罪を許さないことを示す警官の制服の姿を見て人々は安心したのであった。


 そのような勇姿も過去形ではあるが。今は砂漠に埋もれかけ、人々を守るべく聳え立つビルは今や壁はゴツゴツとした石灰岩に覆われて窓には血のようなシミのついた鉄格子がついており見る人に不気味さを与えている。


 犯罪を許さないことを示す制服は金属の鈍い色を放ち、着ている人間は既にミュータント化している。体中に不気味な血管が網のように浮き出ており、筋肉の鎧でできており、体躯も三メートルぐらいなっていた。そして大型のガトリング砲を構えて廊下をノシノシと徘徊していた。


 そんな元警察の本部に一人の少女ではなく、一つのダンボール箱が通路をうろついていた。ガタゴトと音をたてながら進んでいた。ダンボール箱だから、そんなに大きな音をたてないはずなのにガタゴトと音をたてながら移動していた。


「こちら蛇なレキ、侵入作戦は多分成功。大佐、指示を頼む」


ダンボール箱から可愛い声がして、オペレーターに問いかける。


「ご主人様、先程の敵はマッスルポリスと名付けました!」


 サクヤがニコニコと名付けができたので嬉しそうな表情で答えてくる。ダンボール箱の中の少女はむっとした表情になり、口を尖らせてサクヤに注意をする。


「大佐、今は潜入探索中です。静かにお願いします」


 そうして、またガタゴトと音をたてながら、血のシミだらけの廊下を移動していく。


「マスター、このダンジョンはかなりの広さだと思いますので、そろそろ普通に移動をしたほうが良いですよ?」


 困った表情で小首を傾げながら、可愛い子供に諭すように、注意をするようにナインが話しかけてきた。相変わらず癒やされる金髪ツインテールである。


「大丈夫だ。問題ない。スニーキングしながら、サイレントキルでこのダンジョンは進むから」


 ナインの忠告を無視して、聞き分けの無い子供のような態度をとる、どこまでも駄目なおっさん少女である。


 そうした話し合いのようなオペレーターの説得が続いていたところ、廊下の角からマッスルポリスがノシノシと現れる。


 すぐに移動をやめて、ダンボール箱は立ち止まる。その際にガタゴトと大きな音ももちろんした。


 すぐにそのダンボール箱に気づいて、全くの戸惑い無く、マッスルポリスはガトリング砲をダンボール箱に向けて、そのごつい不気味な筋肉の指で引き金を引く。近づいてダンボール箱を確認するというゲーム的行動はしないようである。


 ダララララと銃弾が嵐を形成し、空薬莢がバラバラとばら撒かれていく。床はばら撒かれた空薬莢で山ができていく。嵐となった銃弾はダンボール箱に命中して破壊していく。そして、ただの紙屑へとダンボール箱を一瞬で変貌させた。


 パラパラと紙吹雪と化したダンボール箱である。しかしマッスルポリスは、その筋肉に埋もれた窪んだ目で不思議そうにその残骸を見る。


 中身もバラバラの肉塊になると思っていたのに、中には誰もいなかったのだ。血すらも流れていないのだ。


 そうして、不思議に思い肉に埋もれている首を傾げようとして、そのままずるりと首は離れて地面にゴトンと落ちていった。


 頭を無くしたマッスルポリスがずずんと地面に倒れ伏すと、その後ろから少女が現れた。


 黒髪黒目の眠そうな目をしている子猫を思わせる庇護欲を喚起させる小柄な少女、可愛い朝倉レキである。


「これで三個目のダンボール箱が破壊されましたね、旦那様」


 レキは少ししょんぼりした表情で、多少顔を俯かせている。撃たれた瞬間に段ボール箱から脱出してマッスルポリスをその手刀で斬り裂いたのである。


「仕方ない、まだまだダンボール箱はあるから大丈夫だよ」


 レキを慰めながら、遥が後ろを振り向くと今まで進んできた通路にはマッスルポリスが死屍累々と転がっていた。全て見つかってしまい撃破したミュータントである。敵に見つかる発見率100%であった。


 もう一人の自縛霊と同じ扱いで良いと思う人格のおっさん。


 スニーキングである程度進もうと余計なことを考えついた元凶である。


 砂漠はエンカウント率が高すぎるし、警視庁ダンジョンの雑魚はレキには弱すぎるので、無駄な戦闘を避けるためにスニーキングで進もうと考えたのであった。レキなら大丈夫と思ったのだ。


 その考えに従い、雑魚でもあるので戦いもする必要は無いと判断したレキはスニーキングをしたのだが、久しぶりに弱点を露呈させたのだ。


 即ち覚えていないスキルに関係する行動は大失敗するというゲームキャラならではの弱点である。レキの人格が生まれてもそこは変わりはしなかったのである。


 そのため、常にガタゴトと移動するという騒音の塊が作られてしまい、敵に見つけてくださいと言っているような移動をし始めたのである。


「ご主人様、そろそろ諦めましょう。しょんぼりレキ様も可愛くてよろしいですが、このままでは全く進めませんよ?」


 珍しくレキぼでぃの時は全肯定の銀髪メイドが困った表情で説得する。メイド二人が説得するほど、全く進めなかったのだ。


 二人の意見を聞いて、レキが頑張るので黙って付き合っていた遥は仕方ないとスキルを取得することにした。まぁ、砂漠でのエンカウント率を下げるためにも、そろそろ取ろうと考えていたスキルでもある。


「隠蔽レベル4取得!」


 いつものスキル一覧から探すのが面倒なので音声取得する遥である。身体に知識が満ちてきて、隠蔽が使えることがわかった。これで残りスキルポイントは1である。


 しょんぼりしていたレキが再びぼでぃの主導権を握る。その目には強い光が宿り自信に満ち溢れている。


「旦那様、ありがとうございました。では行きます」


 口元を微かに笑みに変えて、いつもの眠そうな目をしているレキはスチャッとダンボール箱を被る。そしてすぐにしゃがみ込む。実に凄いかっこ悪い姿である。子供のかくれんぼを彷彿させたレキである。おっさんならアウトな放送事故レベルのかっこ悪い姿であった。


 だが可愛らしい小柄なレキがやると、可愛い美少女属性も加わるのであったのでまだ緩和されたのである。


 そしてその行動をレキが行った途端にダンボール箱は周りの風景に紛れ込み、その姿が消えるように印象が薄くなった。


 すぐにトトトとダンボール箱は動き出す。しかも廊下を高速で滑るように、まるでタイヤでも箱の下にあるように高速で走り出した。


 もはやダンボールカーという新たな車である。原動力は可愛い小柄なレキである。


 スタタタと移動し、廊下にマッスルポリスが現れると壁を走り、通路を塞いでいるマッスルポリスがいたら、壁から天井へ駆け登る。そうして天井に逆さまになって、塞いでいるマッスルポリスの頭上を進んでスルーして先に進むのだった。マッスルポリスはその姿に一切気づくことは無い。


 マッスルポリスでは、隠蔽レベル4のレキを見破ることは不可能なのである。


 数時間後、ダンジョンの宝をコッソリとダンボール箱からちっこいおててを出して、宝箱に翳して中身を回収していく。中身はプロテクターマテリアルやバレットマテリアルで、以前にボスが持っていたレアなマテリアルである。このレベルだと普通のアイテムになるらしかった。序盤貴重なアイテムが普通のアイテムになるゲームあるある話だ。


 手に入れたマテリアルで新装備でも作ろうかと、遥が考えていたらレキの歩みがピタリと止まった。


 ん? と遥が思ったら、廊下の先には機動隊員のようなプロテクターとヘルメットを装備したマッスルポリスと二メートルはあるマッスルポリスと同じように筋肉に包まれたドーベルマンがその後ろの階段を守っている。


「なるほど、駅前ダンジョンのボスが中ボスか。犬もいるし面倒そうだね」


 隠蔽スキルを手に入れたレキは、敵に見抜かれるかどうかも判断できるようになったらしい。さすがレキである。


「恐らくは犬の方に気づかれると思われます」


 眠そうな目で平静な声音で焦りもしないでレキが告げる。


「ご主人様!犬はマッスルドッグと名付けました!」


 サクヤがいつもの名付けをわくわくした表情で行う。まぁ、マッスル系で揃えたい気持ちはわかる遥だ。


 ふむと頷いて、特にサクヤにツッコミを入れずに観察すると、マッスルポリスはガトリング砲、マッスルドッグは背中にガトリング砲をつけていた。どうやら狭い通路を面制圧するための武器みたいである。そして遥から名付けのツッコミが無いので不貞腐れている業の深いサクヤであった。


「面制圧のためとは考えられている装備だけど、レベルが低いから無意味だね。ここからはダンボール的少女は中止にして、いつもの華麗なる戦いで行こう」


 その華麗なる戦いは、いつものようにレキに任せるおっさんである。常に戦闘はレキ任せなのだ。遥は音ゲーをやるようにほいっとタイミングよく超能力を使い補助をするだけである。


 コクンと可愛くて頷いて、レキは隠れていたダンボール箱をアイテムポーチにしまい、すくっと立ち上がる。


 そしてトンッと軽く廊下を蹴り、前に進み始めた。すぐに廊下を進むレキに気づくマッスルコンビ。即座にガトリング砲をレキへと向けて、弾幕を作ろうとした。


 だが、レキに焦点を合わせようとした一人と一匹は既にレキが前方にいないことに気づく。廊下を進むレキの身体がブレたと思ったら消えてしまったのだ。


 動揺して周囲を探索しようと考えた二人は周りを見ようと首を巡らせようとした。


「その反応速度の遅さがワタシと貴方たちとの力の差ですね」


 マッスルコンビの並んでいる間から声がしてきた。焦るミュータントが横を見ようと首をまわす。


 横にいたのは先程の少女であった。右手を身体と水平に伸ばしている。すぐにガトリング砲を撃ち込もうと行動をしようとする。


 しかし、マッスルポリスもマッスルドッグも視界が斜めに見え始めたことに気づいた。


 何が起こっているのかと己の身体を確認しようとしたマッスルコンビたちは、そのままバラバラの肉片となり床に落ちていくのだった。


 残るのは手刀にて敵を一瞬で切り裂いたレキのみであった。戦いとなると華麗なレキである。


 ウィンドウにサクヤがパチパチと拍手をしながら目を輝かせているのが見える。サクヤにはレキの行動がしっかりと見えていたようである。どれぐらいサクヤが強いのか確かめたいような怖いような感じがする遥であった。


 そしてマッスルコンビが守っていた階段をテッテコと可愛い脚で登っていくのだった。


 テッテコ登ると、豪華な絨毯が床いっぱいに敷かれている。そしてフロア全部の壁が取り払われている大部屋であった。


 キングモンキーの時と同じ作りの部屋であった。


 きょろきょろと廻りを確認すると部屋の奥にどでかいテーブル、その後ろに座っている何かの姿が見える。


 ボスみたいだねと近づいてみる遥。ぽてぽてと絨毯を踏みながら歩いていくと、段々と姿が確認できた。


 それは人間型ではなかった。座っているように見えたのは座高が低いからではなくて、単に機械だったからだ。


 三メートルぐらいのお饅頭の横に均等にカニ脚が四脚付いており前方には細長いスリットの入ったカメラアイがついていた。未来の警察が使用していそうな警備ロボットぽい。


「これがボス? 15000の経験値とはいえ弱そうじゃない?」


 そんなに強大な力を感じなかったので、ついつい遥は可愛くコテンと首を傾げながら疑問の表情で言葉にしてしまった。


 そして、ハッと気づく!


「しまった! フラグを立てちゃった! レキ、すぐにここから離れるんだ!」


 このような言葉を発言すると思わぬ強敵が現れるというアニメの法則である。


 レキはすぐに床を蹴り、饅頭メカから身体を翻して遠く離れようとする。ふわりとスカートが翻り、カメラドローンがその下をくぐり抜けて撮影して、レキは二十メートルは離れた場所に着地する。


 なんだか余計な物が目に入ったような気がするが、気のせいであろう。


 遥の予想は当たっており、饅頭メカの周りの床から無数の機械のコードがぐにょぐにょと出てくる。そして饅頭メカを包んでいく。


 側にいたら巻き込まれていたかもしれないと、遥はホッと息を吐く。


 気持ち悪い機械のコードに包まれた饅頭メカは丸いコードの繭になった。そしてすぐに再びコードが花のように開き始めた。


 そこには饅頭メカを花芯とするコードの塊で形成された桜の花びらが生まれたのである。


「いや、桜の代紋はわかるけどグロいから! 気持ち悪さしか感じないから!このエゴって何が原因?」


 機械のコードの重なりでできた花びらである。気持ち悪いことこの上ない。しかも花びらはぐにょぐにょと蠢いている。


 だが不気味ではあっても、卑猥でないことが救いだと、相変わらずのおっさん脳は考えたのであった。そして何が原因なのかはさっぱりわからない。多分警視総監は何かのエゴを持っていたのだろうと予想するだけである。


 と言うか、桜よりもラフレシアにしか見えないのであった。


「ご主人様!閃きました! あれはサクラレシアと名付けました!」


 おぉと感心する遥。パチパチと拍手をちっこい紅葉のようなおててで拍手をする。


 「なかなか気の利いた名前だね、サクヤにしては珍しく」


 と可愛く微笑み感心した表情をサクヤに向ける。


「それほどでもありますね。これからも私にお任せください。あと、ご褒美は添い寝で満足しますね」


 ぽよんとふくよかな美しい胸を張ってサクヤが調子に乗った発言をする。少し褒めるとどこまでも調子に乗るサクヤであった。


 どうやらボス戦開始らしいとおっさん少女は思って体を半身に構えるのであった。

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