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コンクリートジャングルオブハザード  作者: バッド
9章 東京観光をしよう
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99話 おっさん少女は天然の力を見る

 バタバタとドアを開けて外に走っていく面々。護衛官と天然超能力少女である。ついでに無上も走っている。いやリィズは走ってはいなかった。護衛官の背中に背負われている。


「私たちも行くわよ!」


 周りが走って行く中で、叶得もそれを見て遥に怒鳴ってくる。褐色少女はやっぱり怒鳴るのがデフォルトらしい。そうして走り出して一行についていく。


 遥もわかりましたと頷いて、コンパスの短い可愛い脚を一生懸命に動かすフリをして、体を傾けて頭を気持ち下げながらついていく。


 愛らしいレキぼでぃでの演技がどんどん凝ってくる遥であった。


「ここに入ってくるミュータントがいるみたいですね?」


 確かに稀に侵入してくるミュータントがいるとは聞いていたが、おっさん少女が天然超能力者と面会している時とはナイスタイミングである。意図的なのかと、チラッと無上を見たら視線があった。


「田舎者の超能力者よ。真の超能力者の力をとくと見るが良い。その力に感動しひれ伏すが良いぞ」


 ドヤ顔で上から目線でおっさん少女に言ってくる無上。それを見て、あぁ、この人は演技できなさそうだなと思ったのだった。どうやら何かの仕組まれた罠ではないらしい。


 まぁ、たとえ罠でもレキが踏み潰していくんだけどねと、強気の遥である。


 


 外に出てしばらく移動すると門が見えた。昨日通過した門である。その門は閉じており、上から護衛官が何かに攻撃している様子が見える。短銃をパンパンと撃ちながら、汗をかいて怒鳴りながら必死な形相で戦っている。


「ここを抜けられたら、あいつらもヤバイからね。必死なのよ」


 隣を並走しながら叶得が門の様子を見て言い放つ。


 なるほどと頷いて、期待の天然超能力者は何をするのかと視線を向ける。


 その天然超能力者は、ゼーゼーと息をきり、汗だくになって走っている護衛官の背中の上でお菓子を食べていた。


 まだこの娘はお菓子を食べてるよ、と驚く遥。これから危険な戦闘があるのに、なかなかの胆力である。それか、自分の力によっぽど自信があるのだろう。


「よく守った諸君!さぁ門を開け給え、姫の登場だ!」


 汗一つかかずに平然とした顔で、到着してからすぐに叫ぶ無上。手振り身振りも激しく動かして舞台俳優みたいなリアクションである。


 ようやく来たかと護衛官から歓声が上がり、今まで必死に守っていた門を開けていく。軋みながら徐々に開いていく門。あっさりと開けるところを見るに、だいぶ姫とやらを信頼しているのだろうことがわかる。


 そして開いてくる門の後ろには砂トカゲの巨体が存在していた。凶悪な視線をこちらに向けてくる。


 おっさん少女なら楽勝だが、この天然超能力者はどうなのだろうと興味津々で見学するつもりの遥。


 ギャースと叫ぶ砂トカゲ。10メートルはあるのだろう体躯、開けた大きな口には人を一撃で噛み切れそうな牙が見える。砂色の皮膚も今まで護衛官の銃弾を受けていたにもかかわらず傷一つ見えない。


 そんな砂トカゲに余裕綽々な態度で護衛官の背中から降りて立ち向かう天然超能力者である。


 否が応でも楽しみになり、体を乗り出すように食い入るように見学する遥。


 そんな天然超能力者ことリィズは砂トカゲに向かって両手をつきだした。


「我が力よ。魂に眠る大いなる力よ。今こそ我に力を貸し、その力を顕現せよ!」


 何か詠唱らしきものを唱え始めるリィズ。さっきまでのおとなしいコミュ障っぽい娘はどこにもいなかった。

 

 そこには厨二病患者がいただけである。


 おおぅ、そうだよね、子供の頃から超能力を使えたら、その歳なら厨二病になるよねと納得である。後、詠唱に力が多すぎである。脚本のセンスはないと思われた。


 フンスと鼻息荒く、ウヌヌと唸り眉をよせ、超能力を行使しようと頑張るリィズ。


 何だか小柄な身体もあいまって、学芸会で演技を頑張る子供を応援する気分になる遥。遥に子供はいないが、そんな感情を喚起させる。ハラハラしながら上手くいくか、つい応援してしまう。


 どうやら厨二病だけではなく、本当に力があったようであり、つきだしている両手に超常の力が集まっていく。


 問題はその力が僅かなことだけである。


 遥の基準で考えると、あの程度では全く砂トカゲには歯がたたないレベルだ。多分レベル1ぐらいだろう。まぁ、それでも一般人レベルなら凄いことではあるが。


 どうするのだろうと見ていたら、


「ハァッ! リィズサウンドストーム!」


 力一杯に叫んで、リィズは超常の力を解き放った。


 その波動は空間を震わせて、砂トカゲの頭に向かっていく。


 砂トカゲは、その威力を想定し傷も受けないと余裕綽々なのだろう。回避もしないで直撃を受けた。


 喰らった途端に苦しみ始めのたうち回る砂トカゲ。


 見えない何か凄い力でもあったのかと、遥は驚く。のたうち回るレベルの攻撃ではなかったのだ。


 苦しんだ砂トカゲは慌てて、こちらに背を向けてドタドタと足音荒く砂煙を巻きながら逃げ始めた。


 わぁぁと周りから歓声が上がる。それを見て遥は状況がわからずに戸惑う表情を見せた。


 それを見たリィズがドヤ顔で、こちらを下にみる態度で近づいてきた。得意満面な表情で遥に話しかけてくる。


「どう? リィズの振動を操る超能力は? 貴方にできる?」


 なるほどねと、振動と聞いて納得する遥。どうやら力ではなく技の勝利らしい。そしてサウンドと技名を言っていたことから推測する。正解があっているか、リィズに確かめてみる。


「リィズさんは、あいつに騒音をぶつけたのですか?」


 コクリと可愛く頷くリィズ。周りの歓声に頬を染めて鼻息荒く目をキラキラさせながら、こちらを見ている。


「凄いです。頭脳派な戦い方ですね!」


 そうリィズに伝えて、おぉ〜と拍手する遥。確かに凄い。彼女は天然の害獣を追っ払う騒音使いのようである。力はしょぼいが頭を使っているので感心してしまう。おっさんは常に力押し一辺倒だからして、そういうのは純粋に凄いと思うのだ。


 おっさん少女の感心した姿を見て、ますます鼻高々のリィズ。皆の称賛の嵐で絶好調である。


「この戦い方は無上が考えたの」


と無い胸を張って、ふんぞり返りながら伝えてくる。どうやら頭脳派ではないみたいだ。


 後、父親を呼び捨て?と疑問にも思うが、日本人な無上と外国人なリィズである。多分孤児だったリィズを、無上が引き取ったとかそんな感じだろうと考える。


 奇異な力を使う娘を捨てるか、売るか本当の両親はしたんではなかろうかと思う。よくアニメである話だ。


 おっさんのよくある話にはアニメや小説もデフォルトで入っているのである。


「悔しいけど、この娘の力は必要なのよね」


 と叶得までもが称賛している。力は認めているみたいだ。そしてこのリィズの素直に喜ぶ姿を見て、やはり悪いのは、そこの無上だろうなとあたりをつける遥。


 よく小説等で見る、素直で力を持つ者を操る小物な感じである。まぁ、それぐらいなら問題は無かったのだがと溜息をつく遥。


「どうかね? 我が娘の力は!我が研究の成果は!」


 無上もこちらに近づいてきて、やはりドヤ顔で遥の返答を聞いてくる。


「素晴らしいですね。天然でこれだけの力を持つなんて驚きです」


 眠たそうな目を無上に向けながら返答をする。


「そうだろう、そうだろう!我が研究の結晶! そしてもうすぐ私もこの力を得ることができるだろう!リィズの細胞から力を持てる薬を開発しているのだ。私が史上最初の作られた超能力者……。いや、待て? 今何とお前は言った? 天然でこれだけの力を持つなんて?」


 遥の言い方に疑問を覚えたのだろう。無上はこちらに疑問を浮かべた表情で聞いてくる。


「リィズさん、あれはどんな音が苦手なんですか?」


 無上の問いかけを無視して、門の空いた先の中空を指差すおっさん少女。


「あれ? なんの話?」


 首を捻りながら、おっさん少女の指差した中空を見るリィズ。


「隠れて近づいてきているあれです」


 そう言うとおっさん少女は地面に転がっていた小石をヒョイと拾い上げて中空に腕を振りかぶって投げた。


 弾丸のような速さで飛んでいく小石。何もない空間を通り過ぎていくと思われたときに、突如何かにぶつかったように弾けた。


「え、何?」


 その現象を見て、周りが不思議そうな表情をする。


 だが、その表情はすぐさま恐怖に取って代わられた。


 空間が歪み、隠れて接近していた鉄サソリが滲み出るように現れたのである。


 ギャーと、その姿を見た人々が喧騒を巻き起こし狂乱に陥る。


「なんでオアシスにこいつが!」


「鉄サソリだ! 逃げろ!」


 どうやら人々は鉄サソリを見たことがあるようだった。それならば恐ろしさもわかっているのだろう。そしてまたもやミュータントの名前が同じである。やはり単純な名前が一番なのだろうか。


 腰が抜けて座り込んでいる男性。震える手で短銃を鉄サソリに向けている護衛官。我先にと目の前の人間を押し退けて逃げ始める奴など様々な行動が発生した。


「リィズ! 奴を追い払え!」


 どこかの巨人に命令するように、焦った顔の無上がリィズに命令する。追い払えであり、倒せではないところが、リィズの力をよくわかっているのだろう発言である。


 その言葉で鉄サソリを見て呆然としていたリィズが超常の力を集め始める。


「サウンドストーム!」


 リィズも、焦っているのだろう。今度は詠唱無しで即座に攻撃する。


 再び空気が震え、鉄サソリに騒音が発生する超常の力が迫っていく。砂トカゲと同じように頭を目掛けて飛来するのを、鉄サソリはやはり力が大したことが無いと判断したのだろう。回避をする素振りは見えない。


 鉄サソリの頭にサウンドストームが命中する。それを見て、砂トカゲと同じようになってくれと、音に嫌がり逃げてくれと人々は祈った。


 しかし、鉄サソリは砂トカゲと格が違うのである。当たったサウンドストームは発動もせずにパチンと軽い音をたてて消えてしまった。


「くっ、これなら!」


 その様子を見たリィズはすかさず次の振動を操りだす。今度の振動は炎を生みだし鉄サソリに火炎放射器の炎の如く飛んでいく。


 しかし先程と全く同じであった。炎は鉄サソリを焼き殺さんと飛んでいくが、水でもかけられたように鉄サソリに当たると同時に消えていく。


「やぁっ」


 めげずに今度は分子の振動を止めたのだろうか、キラキラと空気が輝き冷気が生み出されて鉄サソリに飛んでいく。そしてやはり同じように消えてしまった。


 多彩な攻撃である。振動を操って様々な攻撃ができるように訓練したのだろう。恐らくはグールなら倒せるレベルである。


 しかし鉄サソリ相手には力が弱すぎた。全て発動すら許さずに無効化されていく。悲しい力の差であった。


「リィズの力を持っていけー!」


 叫んで、リィズは先程よりも力をこめ始める。恐らくは全ての力を注いでいるだろう超常の力の集まりを感じた。


「超振動波!」


 放つ波動は空気を弾き、砂煙を巻き起こして地面をえぐりながら鉄サソリにぶつかった。その攻撃を受けて衝撃が発生し、鉄サソリから爆発したような爆風が生み出される。そして鉄サソリは砂煙に巻かれて見えなくなった。


「やったの?」


 叶得が言ってはいけない言葉を叫んでしまった。なぜ叫んだのかと遥はツッコミたかった。貴方は漫画やアニメでの有名な言葉を知らないのかと。


 だが周りも同じ気持ちだったようである。叶得を周囲の人々は、なんでそんなことを言うの? 馬鹿なの? という批判の表情で責めるように視線を向けていた。


 その視線に気づく叶得。常に強気なその態度で周りに怒鳴る。


「なによ? なんなのよ? つい言っちゃったのよ! ごめんなさい!」


 頬を羞恥に染めながら謝る様子から、叶得も言ってはいけない事だとわかったらしい。


 そして勿論の事、フラグはたっていた。モクモクと発生していた砂煙は収まり鉄サソリは全くの無傷であった。


 まぁ、そうだよねと思う遥。例えて言えば攻撃力が10から15になっても防御力が100はありそうな鉄サソリは倒せないのだ。ダメージが防御力を下回るとゼロになってしまうタイプである。


 見せ場とばかりに格好つけたリィズには悪いけどと視線を彼女に向けると涙目になり震えていた。どうやら今のが最強の攻撃だったらしい。自信がそれなりにあったのだろう。無傷とは思わなかったみたいである。


「あぁ、そんな……。もうリィズたちはおしまい?」


 絶望に包まれたように、地面にへたり込むリィズ。周りも動きを止めて絶望の表情だ。無上だけは元気にリィズにまだまだ戦えると怒鳴っているが、こいつは壊れているので例外である。


「皆、逃げるのよ!」


 芯が強いのだろう、めげずに手をふり叶得が周りに怒鳴る。


 だが、周りが動き出す前に鉄サソリは攻撃態勢に入った。無傷とはいえリィズを見逃せなかったのだろう。尻尾を持ち上げて尖端の針に超常の力を集め始める。


 レーザーの発生する前振りである。


 誰もが動けない中で、あっさりとレーザーは発射された。リィズ目掛けて撃ち出され、あっという間にレーザーでやられた焼死体が出来上がるはずであった。


 まぁ、そうはならないんだけどねと、遥はリィズを守るために立ちはだかる。


「念動障壁」


 呟き超能力を発動させる。レベル7の防御念動である。水晶のような美しい障壁が空間の歪みから現れる。


 チュインと撃ち出されたレーザーはあっさりと障壁の前に消え去った。先程の鉄サソリへのリィズの攻撃と同じように。


 鉄サソリはチュインチュインと撃ち出してくるが、その壁は強固であり砕ける様子は全く見えない。


「お疲れ様でした、リィズさん。続きは人工の超能力者が請け負いましょう」


 平然と眠たそうな目を驚愕の表情をしているリィズに向けておっさん少女は告げるのであった。

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