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第四十話 二人の恋の物語

 しかし二時間近くあるとなると、さすがにしんどいな……。とりあえず、なんとなく駅前まで戻ってきてしまった。駅の人目につかないところで、少しボーっと考える。

 だが、そこはインドア派の俺。暇潰しの内容なんて思いつかず……。完全に行き詰っていた。


 ほんの数分前までは、それこそ夢のような時間を過ごしていたのに。ドキドキすることの連続だったけれど、とても楽しかった。幸せっていうのは、ああいうことをさすんだろうな。

 そして、今は天国から地獄。智里のやつ、何の用事があるのやら。普通、途中抜けすることあるか? いっそのこと、解散にでもしてくれれば――というのは、少し寂しい気がしてしまった。


 とにかく、もう家に帰ってしまおうか、とすら思ってしまった。往復すると丁度良さそう。だが、それはちょっと気が引けるというか……。

 とりあえず手持無沙汰になって、俺はポケットからスマホを取り出した。実は何度か震えていたんだが、鬱陶しくて電源を落としたのだった。さすがにデート中なのに、スマホをいじるのはマズいというのはわかる。


 見ると、耕太からいくつかメッセージが入っている。実は彼には今日の話を相談していた。ノーガードで今日を迎えるには不安がありすぎたから。今日の服装も彼のアドバイスによるもの。やはりイケメン、こういうことは頼りになる。今度、何かを奢ることになったが代償としては安いものだった。


『順調みたいだな、幸運を祈る』


 色々とメッセージは来ていたが、最後はこう締めくくられていた。二時間ほど前。ちょうどあの喫茶店に入ったあたりだろうか。とにかく、頼りがないのは何とやら。耕太の中では俺たちは上手くいっているということらしい。


『実は今――』


 謎に放置されていることを手短に伝えた。そして、何か上手く時間を使う方法がないか、と彼に教授願うことに。


『はあ、あいつもよくわかんねー奴だな……』

『なんかやったんじゃねーのか?』


 矢継ぎ早にスマホが躍動した。しかし、そう言われても心当たりはないわけで……。


『冗談、冗談。深刻に考えんなって』

『いやでもさぁ』

『暇潰しってんなら、なんかプレゼントでも買ってやれば?』


 プレゼント……それはまさしく目から鱗だった。やはり耕太は頼りになる。……彼女いたことないらしいのに。本当なのか疑わしくなってきた。


『何がいいんだろ』

『適当にアクセサリーでも買ってやれよ。駅ビルになんか入ってるから』

『ええ……行ったことないんだけど』

『お前な、不破のこと好きなんだろ?』

『それは、まあ……』

『だったら頑張んな!』


 最後に親指をぐっと上げたスタンプが送られてきた。彼なりの励ましなんだろう。とてもありがたい。しかし、心に重たくそのアドバイスはのしかかった。


 果たして、何を贈ったら智里は喜ぶだろうか。スマホで関連情報を検索しながら、とりあえず歩き出す。まずは店探しから、か。二時間上手く過ごせるといいけど。





        *





『記念公園の時計台広場に来て!』


 そんな連絡が来たのは、町の大きな本屋二階のカフェで一休みしている時だった。しかし、いつの間にこんなものができていたのやら。日々この街も進歩しているということか。改めてこの街を離れていた期間の長さを思い知らされる。

 とにかく、今は急ぎ足で南に下っていた。流石に昔住んでいたこともあり、今さら迷うことはない。そのうえ、今はスマートフォンなる便利なものがあるわけだし。


 夕暮れが近づきつつある時間帯なのに、公園は未だに活気があった。北の入り口から入って細いアスファルトの道を通って、中央の広場を目指す。

 そこは周りよりも少し高くなっていた。壇の中央には巨大な白い時計台。それを囲む様にして、点々とベンチが置いてある。


 さて、智里はどこにいるだろうか。ここもやはり人通りが多い。さらにこの薄暗さ。とてもすぐに見つかるとは思えない。


『着いたけど、どこにいる?』

『時計台の真ん前よ』


 彼女の居場所を確認したところで、俺は石畳の階段を上っていく。やがて上の広場の様子が見えてきたのだが――


「と、智里、だよね?」

「うっわー、彼女の顔を忘れるとか酷くない?」

 少し面喰う俺を彼女がくすくすと笑った。


 時計台の前に確かに智里はいた。どこかあどけなさを残した顔立ち。それは見紛うことはない。しかし、その髪の色が――


「その頭は?」

「これ? ほら、うちの高校茶髪禁止だから」


 彼女は自らの髪の毛を少し触ってみせた。その色はすっかり変わっている。明るい茶色は、本来の彼女由来の黒髪に戻っていた。

 確かに校則では黒髪以外は禁止されている……半ば形骸化しつつもあったが。現に学年に何人か彼女以外に髪を染めた生徒はいる。


「黒染め、だけどね~。地毛に戻すのは時間かかるって」

「もしかして用事ってこれのこと?」

「そうそう。髪の色、そろそろ戻しておきたかったの。大翔くんのお陰でサボり癖も遅刻癖も直ったしさ」


 テストが終わった後も、彼女が寝坊することはなかった。であれば、俺が迎えに行くこともないはずだけど、まだ不安ではあるらしい。今もそれは続いている。

 俺と登校するわけだから、必然的にサボることは無くなった。体調が悪かったあのときくらいだ。智里が欠席したのは。無論、俺が学校をサボったのも。


「成績も少しはまともになったし、ここいらで真面目な智里ちゃんに戻るのも悪くないかと」

「いや、でも……無理することは――」

「無理してないよ。自分がこうしたいからしてるの。だって、校則違反は悪いことだもん。でしょ?」

「まあ、それは」

「元々茶髪に拘りがあったわけじゃないしね。それに性格まで一気に真面目に変わるわけじゃないし」


 にこっと笑うその姿に、迷いはどこにもないようだった。どこか吹っ切れたようなすっきりとした感じが伝わってくる。

 本人が良いといっているのなら、それ以上とやかく言う権利は俺にはない。それに、彼女の生活態度が改まってきて、そろそろその髪の色についても話題にしようと思っていたのは事実だ。


「……でも俺はどんな智里も好きだから」

「朝も聞いたけど、嬉しい。あたしも大翔くんのこと好きだよ。少しずつちゃんとやっていけるのはあなたのおかげ。本当にありがとうね」

「そんな、俺は何も……」


 ただ放っておけなかっただけだった。初恋の人ががらりとその姿を変えてしまったことが。それを是正したいと思うのは俺のエゴだ。でも彼女は感謝してくれた。それだけで嬉しかった。


「――そうだ、智里。これ」

 

 俺はずっと手に持っていた小さな紙袋から、長方形の包みを取り出した。それを彼女に突き付ける。


「なにこれ?」

「プレゼント。今日のお礼というか、暇だったからというか……」

「ホント!? 嬉しいなぁ、開けていい?」

「もちろん」


 俺が買ったものは銀のペンダントだった。飾り気に乏しいシンプルなもの。駅ビルのアクセサリー屋で、店員に勧められるがままに買ったものだ。かなり緊張したのは黙っておこう。

 それを目にした智里はその顔をとても上気させた。パーッと笑みが全体に広がる。それは今までに見たどんな笑顔よりもかわいかった。


「ううん、あたしから上げられるものは――あっ、そうだ、目を瞑って?」

「え? ……あ、ああ」


 どぎまぎしながら静かに目を瞑る。すると――唇に柔らかいものが触れた。そして遅れて、彼女が抱き着いてくるのがわかった。


「これからもよろしくね。あたし、またいつ不真面目になってもおかしくないからちゃんと見ててよ。……もう勝手にどこにもいかないでね」

「ああ、約束する。ずっと智里の側にいるよ」

 

 俺も彼女を抱きしめ返す。今度は絶対あんな愚かなことはしない。永遠に彼女の側に誓おうと、群青色の空似強く深く誓うのだった。


 やがて、長い間があった後に――


「そうだ。明日、部屋の片づけ、手伝って?」

 彼女はおずおずと顔を上げると、ちょこんと舌を出した。

 

 どうやらまだまだ俺の闘いは続きそうだな。呆れると同時に、でもこれからの毎日も退屈しなさそうと思うと、とてもワクワクするのだった――

尻切れトンボ感、そしていまいちまとまっていない気もしますが、これにてこの物語はおしまいです。

多くのブクマ、評価等、今まで本当にありがとうございました。

ここまで続けようと思えたのは、皆さまのお力あってのことです!


最後になりましたが、3/23の午後八時頃に新作ラブコメ投稿予定です。

よければそちらも見に来ていただけるとありがたいです。

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