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第三十八話 運命の結実する日

 テストが終わって二回目の金曜日。すっかり返却は済み、後は得点通知表兼順位表を受け取るだけ。今日まで、智里はテストの結果を教えてはくれなかった。


「真柴は……うん、立派立派!」


 得点通知表を受け取る時、俺は担任にそう褒められた。ちらりと目を落とす。学年順位は三位。だいたい前の学校の時と同じくらい。

 当然、席順的に俺が最後なわけで席に着くと、先生が帰りのホームルームの再開を告げる。すると騒がしかったクラスメイトたちもすぐに静かになった。

 その後、簡単な期末考査の講評が行われた。クラス平均点、学年平均点等々――うちのクラスは全体で二番目らしい。担任は少し誇らしげに話していた。


「起立、礼!」


 号令係が放課後前最後の儀式の終わりを告げる。そして、学生は授業という拘束力の強い呪いから解放された。真っ先に誰かが教室を去っていた。たぶん帰宅部のエースだろう。


「で、何位だった?」

 耕太は片付けもせずにいきなりこちらに身体を向けてきた。

「はー、さっすがだなぁ、大翔! そんな頭いい奴、初めて見たぜ」


 順位を聞いた彼は目を丸めながらも、とても感心しているようだった。腕を組んだまましきりに頷きを繰り返している。

 そんな反応をされるのは初めてのことだったので、俺は少し照れてしまう。親から、というのはあるけどこうして友人からというのは……。どうしていいかわからず、はにかみながら頬を掻く。


「なになに? あたしを差し置いて盛り上がってるじゃない?」

 やはりというか、隣席の智里が割り込んできた。

「大翔、学年三位らしいぜ?」

「へー、すっご! やっぱり自慢の彼氏だなぁ」

「へいへい、お熱いこって。ごちそうさん!」

「やめてくれよ、智里も、耕太も……」


 すっかりバカップル認定されている気がする。智里のやつ、人目を気にせず妙な言動をしてくるからなぁ。耕太だけでなく、綾川や戸田も俺たちのことをそう思っている節がある。

 さらに、付き合い始めてから二週間も経つので、すっかり俺と智里の仲は噂になっているみたいだった。クラスメイトはあんまり絡んでこないからいいけど。でも体育の着替えの時間とかは、一気に地獄と化すが。


「それより、二人はどうだったんだ? 勉強会の成果は出た?」

「ああ、もちろん。これで成績悪かったら合わせる顔ないからな」

 

 耕太は自らの順位表をびしっと見せてきた。二十八位――前はギリ三桁いかない程度、と言っていたからそこから考えると凄い進歩だ。まあ、彼が頑張っていたのはよく知っているし、自頭もいいからなぁ。

 そして――


「智里は?」

「ほれ」


 得意げな顔をして、彼女もまた小さな紙を突きつけてくる。少しのけぞって自慢げに胸を張っている。

 うん、見たところ赤点はない。それどころか、全科目平均点を大きく上回っている。学年順位は百位を少し超えるくらい。


「やればできる子だから、智里は」

「……それ、自分で言うんだね」

「あんま調子に乗るなよ、不破」

「どうしてこう、素直に喜んでくれませんかね、この男たちは!」


 微妙な反応を見せる俺たちに、彼女は少し憤りを覚えているようだった。鼻息を荒げて、ぐっと目を細めて睨んでくる。


「おっと、怖い怖い。後は彼氏に任せた。じゃあな、二人とも!」


 そう言うと耕太は颯爽と教室を出て行った。自分の机は下げずに。恐るべし逃げ足の速さだな。


「で、大翔くん。約束、守ってもらえるよね?」

「……デートのことだろ? わかってるけどさぁ」

「なんか乗り気じゃなさそう。まあいいわ。さ、遊びに行こ? 今日も早く優佳ちゃんに会いたいなぁ」

「うちに来るってことね、はいはい」


 ということで、俺たちも鞄を持って教室を出ることにした。もちろん、ちゃんと二つ分の机を教室後方に下げて。





        *





「……はぁ。またあたしが一番抜けかぁ」


 智里は悔しそうに首を横に振ると、コントローラーを床に置いた。肩を落として一つため息をつくと、恨みのこもった視線を俺に向けてくる。


 智里の希望に従って、今日は俺の家で遊ぶことにした。いや、()()()か。このところ、ずっとユウと三人で放課後はゲームをしている。

 その前だと、ファミレスでくだらないことを延々と喋っていたりもしたが。『たまには、ユウもにいと遊びたい』珍しく妹がそんな主張してきたので、それを智里に話したらこうなった。


「ともおねえちゃんって、ゲーム下手なんだね」

 

 くすりと、ユウは笑みをこぼす。もう智里に対して苦手意識はないらしい。家族の前と変わらない態度で過ごしている。


「優佳ちゃんが上手なのよ。……ていうか、大翔くんもう少し手加減してくれてもよくない?」

「いや、俺にだけ言うなよ……」


 ライトなタイプの格闘ゲームに興じているんだが、智里の下手なこと。ここ数日、毎日のようにやっているというのに。まあ今までの人生であまりやってこなかったらしいから仕方ないか。


「ともおねえちゃん、特訓あるのみ、だよ!」

「うぅ、お手柔らかに」


 意気揚々と次のゲームを始める妹と、おずおずとコントローラーを握る智里。この極端な構図は見ている分には面白い。


 その後、何度も何度も試合を重ねた。もちろん手を抜いてみたものの、智里が勝利を得ることはなかった。かわいそうなことで。


「あーもー疲れた! ギブギブ!」

 やがて彼女は悲鳴をあげた。そのまま後ろに倒れ込む。

「……楽しくなかった、ともおねえちゃん?」

 それをみて心配そうに妹が寝転がる女の顔を覗き込む。


「ううん、疲れただけ。また遊ぼうね、優佳ちゃん!」

「うん!」


 智里は一気に起き上がった。そして、ユウの頭を何度か撫でる。まるで仲睦まじい姉妹のようだった。

 思わず俺の頬も緩む。


「じゃああたし、帰るね」

 そのまま彼女はすくっと立ち上がった。


 俺も彼女に続いて玄関へ。もう、午後六時になりそうだった。そろそろうちの母が帰ってくる頃だ。

 ちなみに、あの人も毎日パートではないため、智里とは何度か顔を合わせている。母は彼女のことを絶賛していた。


 そのまま靴脱ぎにて智里と向かい合う。彼女は笑みを絶やさない。口角が柔らかく上がっている。


「じゃあ大翔くん、明日朝十時に待ち合わせね」

「……はい!? あの何の話でしょう?」

「鈍いなぁ。デートよ、デート!」

「どこに行くとか、結局決めてないじゃない」

「だいじょーぶ! あたしに考えがあるから」

 

 そういうと彼女は踵を返してドアの方を向いた。そして、顔をこちらに向けて悪戯っぽく笑うとそのまま、外に出ていくのだった――

遅くなりました、すみません。

それと唐突ですが次の二人の初デートで物語を閉じようと思っています。

一応残り二話、です。予定なので、次でいきなり終わるかもしれませんが、よろしくお願いします。

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