第8話「服を買おう」
今日はいい面接日和だ! オレは数年ぶりに両親に買ってもらった足長スーツを着込み指定された面接会場でもあり支社でもある隣町の紺色のビルの3階に入り面接を受けた。
が、有難いことに面接は想像していたような多対1ではなく1対1ですぐ終了した。あれだけ考えた志望動機、自己PR欄も特に聞かれることはなかった。どうやら現場に出る前に数日研修を受けないといけないようだがその研修でも給料が出るらしい。ありがたい話なので母には悪いが明日も送ってもらってここから数週間、土日は研修を受けることになった。
さて、その帰りあまりにも早く終わったので予定よりずいぶん早いが検査も済ませたオレは自分の町ではみられないような高い建物を見上げつつ歩いていた。こんな目的のないような歩き方をしているが行き先は決まっている………………洋服店だ!
流石に期待の初デート! 今日はスーツだけど普段のようなジャージやシャツ1枚といった服装ではまずいだろう! 櫻井さんだけではなく運転手さんもいるのだ! ! 逆に言えばここでバッチリ2人にモテモテの格好良くてクールなセンスのいい服を着ていけば株が上がるというものだ! ! !
何と有難いことにこれまでオレは服を滅多に欲しがらず心配されていたようで服を買うというと喜んでお金を出してくれた。もしかすると何か気付いたのかもしれない。
景色を楽しみながら支社から歩くこと数分、一層大きな建物であるデパートに辿り着く。このデパートは3階建てで1階は食料品店、2階はブティック、3階は映画館となっている。
残念ながらゲームを取り扱っている店はないので母の買い物の付き添いかたまに映画を見に行くくらいで2階は縁のない場所で通過するくらいだったが今回は目的地がその2階というのだから人生何が起きるか分からない。
店内に入ると優雅なBGMが耳に入る。服を買いに来たとあって何か貴族にでもなった気分だ! そのままエスカレーターに向けて直進して右側に乗り止まる。ここのデパートでは休日は混みあうからと店員が「エスカレーターは2列に並んで歩かないで欲しい」と側でアナウンスをしていた。
エスカレーターに乗り数十秒、2階に辿り着く。みると先ほどから2階で下りている人は心なしか皆オシャレで行く先が決まっているようだったのだがオレは違った。
「えっ、なんでこんなに店があるの………………? 」
何と洋服屋は洋服屋でも1店舗ではなく1つの階に複数の店が存在しているのだ! 慌ててフロアマップを確認する。そこには聞いたことのあるような店名から聞いたことのないような店名まで様々だった。
「ハハ………………どこにいけばいいかわからない」
ここで参っていても仕方がないので見て回るとしよう。
そうしてみて回ること数分、再び問題に突きあたる。
「高い服のほうがいいのかなあ? 」
当然と言えば当然なのだが店によって服の値段が場合によっては一桁違うほどバラバラでどこで買えばいいのか分からないのだ! 思わず頭を抱える。やはり高い服は質感やワンポイント他の服とは違ったりとオシャレな感じがするのだがやはり高い。
こちらとしては1回のデートで終わらせるというわけではなく数回分は使い回すことのない様にしたいのだけれど次に繋がるかどうかは初回にかかっているわけでそれならまずは次に繋げるためにも奮発するところだろうか?
「よし! 」
とオレは覚悟を決めて高級な服を取り扱っている店に向かった。
「お、これはオシャレっぽいぞ! 」
目についたのはゆったりとしていて足元に向かうほど幅が大きくなっている青色のズボンだ。最近の流行はこういったものなのだろう。
無論、オレもオシャレの秘策はある! ! どうやら服の色の組み合わせというものがあるらしく組み合わせも様々だがトリコロールカラーが記憶に残っていた。
幸い赤い上着と白いシャツは家にあるからひとまずここではこれを買おう! いやその前に試着か! ズボンを取り試着室へ向かおうとしたその時だった。
「あれ、修三君? 」
聞き覚えのある声にふと足が止まる。振り返るとそこには櫻井さんがいた。