表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/82

「運命の再会」

 私達以外は誰もいない屋上前の場所で私は1人虐められていた。誰も助けてはくれない。それでも構わなかった。あと数日の辛抱だから、そうやって何度も自分に言い聞かせた。今日もそうやって自分に言い聞かせて耐えようとしたその時だった。


「皆可愛いんだからこんなこと止めなよ、勿体ないよ」


 少し変わった制止の声が響き渡った。



「……あれ」


 目が覚めるとそこはいつもの私の部屋だった。カーテンから差し込む日差しが眩しい。


「またあの夢か」


 忘れもしない私が虐められていた中学生の時の夢、それを良く私は夢に見ていた。でも、その夢を見るのも少し楽しみだった。彼に会えるのだから。


「今どこにいるんだろう」


 彼のことを考える。彼とは中学を卒業して以来で連絡先も交換していなかった、それ以来何度か耳にしたことのある彼の家の前まで足を運んではみたけれどそこから先彼にかける言葉が見つからず踏み出せずにいた。

 あれから数年、ようやく決意は固まったけれどもう大学を卒業した年齢で彼が何処にいるかも分からなかった。


 彼に会って謝りたい、そしてできることなら……


 私は贅沢な悩みだと唇を強く噛み締めるとベッドから降りた。



 〜〜

 階段を降りると丁度リビングにある電話機が軽快なメロディを奏でているのが耳に入った。


 なんだろう?


 慌てて受話器を手に取る。


「はい、もしもし櫻井です」


「申し訳ございません美里様」


 突然始まる謝罪の言葉、声の主はお手伝いさんのようだった。


「どうかしましたか」


「実は体調を崩してしまいまして……本日お休みをいただきたいのです。申し訳ございません」


 そう言うとお手伝いさんはゴホゴホと激しく咳き込む。かなり具合が悪いようだ。


「畏まりました、お大事にしてください」


「誠に申し訳ございません」


 お手伝いさんのその言葉とともに通話は終了した。


「お手伝いさんがお休みかあ……これも花嫁修業の一環かな」


 これを機に料理ができるようになればと考えると私は献立を考えたその時だった。


「どうかなさいましたか? 」


 不意に声をかけられたので振り向くとそこには今来たのだろう斎藤さんが立っていた。事情を説明すると斎藤さんは頷いて微笑む。


「それでは私の出番のようですね、あのお方には負けますが私も料理には少々自信がありまして」


 意外な提案だった。瞬間私の脳内で「私が作る」と伝えるか否かのせめぎ合いが始まる。


「それでは……お願いします」


 結局、トラウマが蘇り斎藤さんに甘えることにした。


「畏まりました、ではしばらくしたらお買い物に行って参ります」


 そう言って背を向ける斎藤さんを慌てて呼び止め伝える。


「いえ、それは悪いので私が行きます」


「いえいえ美里様にそのようなことは」


 今度は斎藤さんが慌てる番だった、私はにっこりと微笑む。


「丁度良い気分転換にもなるので」


「そう言うことでしたら……しばらくしたらお車の用意をさせて頂きます」


 斎藤さんは折れたようで車庫へと向かって行った。


 〜〜

 スーパーの駐車場で斎藤さんに車を停めてもらい財布とメモの入ったショルダーバッグを片手に自動ドアを通って店内に入る。大学を卒業してからこの町に帰ってきて1年経つというのにあまり外へ出なかったため数ヶ月ぶりに訪れたスーパーだ。だから私にはゲームコーナーもエスカレーターも新鮮に思えた。気分ははじめてのおつかいだ。


「えーっと野菜は……ここでマヨネーズは……どこ? 」


 周りに人がいないのを幸いとキョロキョロとひたすら辺りを見回しても見つからない。

 仕方がないのでしらみつぶしに一列ずつ探していき発見することができた。


「あ、もうこんな時間」


 時計を見て思いの外時間が経っていたことに驚いて声を出す。

 これじゃ本当にはじめてのおつかいみたい、と苦笑いをしながら私はレジへと向かった。


「いらっしゃいませ、こんにちは」


「こんにちは」


 店員さんに挨拶をしてカゴを出すと彼女はテキパキとバーコードを探し当ててピッピッと認識した商品を別のカゴへと移している。


 速いなあ


 感心しながら見ているとふと横に人の気配がした。ぶつかったらいけないと慌てて前へ進みながらもチラリとその人を見たその瞬間、私はその場に凍りついた。


 ウソ、どうして……


 涙が溢れそうになる。私は真横の黒いジャージに身を包み寝癖がついているボサボサの髪に眼鏡をかけた

 男性を……私が会いたかった彼、坂田修三君を見つめた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ