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エイプリールフール編「素敵な嘘をついて悶々作戦! 」

 今日はエイプリルフール前日、オレは自宅の勉強机の前で考え事をしていた。勿論エイプリルフールにつく噓についてだ!

 しかし問題が1つあった。


「美里さんって頭が良いんだよなあ」


 言葉通り美里さんはかなり頭が良く生半可な嘘では見破られてしまうだろう。


「オレの家が燃えてる! なんて嘘ついても心配させるだけだなあ」


 更にどうせ嘘をつくなら彼女を傷つけずにかつロマンチックなものがいいという欲もある。故にオレはこうして数時間程机の上で頭を抱えているのだ。



 良い案がなかなか浮かばないのでスマホで調べると色々とロマンチックな解答が出てきた。


「『結婚してください』、といって嘘じゃないというのもあるのか! 素敵だなあ」


 しかしこれは今のオレには実現不可能だった。というのも厳密にエイプリルフールは午前中に嘘をついて午後にそれを明かすというのだけれど、明日買い物以外の約束をしていないので当日誘うことになり予定が埋まっていた場合は嘘だと思わせたプロポーズもしくは「嘘じゃないよ」と明かすどちらかをメッセージアプリですることになってしまう! プロポーズは直接したいというオレの拘りだ。更にエイプリルフールにいきなり誘うとなると彼女に勘付かれる恐れもある。残念だからこの案は却下だ。


「オレは今、病にかかっている! 君への恋の病だ! 嘘だと思うなら近寄ってオレの胸の鼓動を確かめてくれないかい……ダメだ言うのが恥ずかしい」



 こうして考えていると気付けば空は綺麗な夕焼け空だった。


「嘘、なんかないかなあ嘘」


 呟きながら具を包んだ夕食の春巻きを揚げる。


「おおそうだ! 買い物途中に適当な野菜の語源で嘘をついてロマンチックな意味を教えるというのはどうだろう……」


 考えるも途中で断念する。美里さんに知識量で勝負するのは無謀というものだろう。少し意地悪なところがある彼女のことだからオレが考えたロマンチックな嘘の説明をひとしきり終えた後に微笑みながら「嘘だよね」と指摘してくる姿が容易に想像できた。


 夜もひたすら嘘について考えているとオレの元に神が降臨したようで素晴らしいアイデアが閃いた。


「そうだ、『好きだ』これで行こう! 」


 外国では毎日のように「愛している」というらしい、それは海外のドラマで妻との電話を終えるときに「愛してるよ」と毎回言うシーンもあったので信憑性は高い! これならプロポーズともいかずカップル男女間では普通のことだろう。

 言葉にするだけでもロマンチックなのに加えてエイプリルフールに送ったとなれば櫻井さんは


「え、修三君から『好きだよ』って来たけど今日はエイプリルフールだから本当か嘘か分からないよ~」


 と可愛らしく悩むことになるだろう!


「櫻井さん、数時間後のエイプリルフールが待ち遠しいよ! 」


 自室で1人勝ち誇った笑みを浮かべる。


 だが万が一、櫻井さんからも嘘が送られてくる場合もある、その場合彼女のついた嘘に情けない話翻弄されてしまうかもしれない。こういうのは先攻が有利だ! シンデレラタイムの開始は22時だがエイプリルフールばかりは櫻井さんも起きているかもしれない、0時00分00秒ジャストにメッセージアプリのパインで送信しよう!


 時は流れ23時58分、オレは右側にパインの画面に『好きだよ』と打ち終えたスマホを置きながら、左手に持った腕時計を凝視していた。


 このような状況になった理由はただ1つ! スマホの時計では秒針が分からないからだ! この場合の時間というのはシビアなもので1秒でも遅れると櫻井さんに嘘をつかれる可能性があるので文字通り1秒たりとも遅れるわけにはいかないのだ! 念のために腕時計を1分進めてあるのは事前に確認済みだ!


「23時59分……38、39……40……」


 残り1分を切ったところで人生で一番長いかもしれない60秒のカウントを始める。既に右手の人差し指は腕時計の長身が真上を指した時にすぐさま下ろしてメッセージを送信できる位置に設置していた。


「58、59、60! ! ! ! ! ! 」


 オレは高らかに叫ぶと同時に右手を振り下ろしてメッセージを送信する。


「勝った……」


 何の勝負かは分からないけれど達成感を味わい椅子にもたれる。


 もし櫻井さんがシンデレラタイムを無視していたとしても一手遅い! 今頃はオレからのメッセージが本当か嘘か分からず悶々としているだろう。眠っていた場合はそうなるのも時間の問題ということだ! しかし待てよ……今起きていてオレのメッセージで悩んだ末に一睡もできないなんてことになったら…………


「しまった! そこまで考えていなかった! 」


 急いで起き上がりスマホを手に取る。ただこの場合何と送信すれば良いのか……あれ既読ついてる?


 いつの間にか既読がついていると気付くのとほぼ同時にスマホが「パイン! 」となり彼女からのメッセージが表示される。


『ありがとう』


 思ったよりも淡白な反応だ。それでもこの反応なら寝不足にはならなそうで良かった。


 安心したその時だった、画面上の本来あり得ない表示がみえて身体が凍り付いたように固まる。パインは日付が変わって最初のメッセージの前に日付が表示されるのだけれどどういうわけかそれが美里さんのメッセージについていた。加えてオレのメッセージの横には『23:59』という表示がある。


「やってしまったああああああああああああああ! ! ! ! 」


 頭を抱える。何ということか、腕時計の短針の調整はしたものの長針の調節はしておらず、昔引き出し付き腕時計に憧れ何度か時計を停めて遊んでいた結果一周したのか、現実の時間より数秒だけ早い時間を指していたのである!


 これじゃあただの告白じゃないか……


 結果オーライと思いながらも顔が熱くなるのを感じる。


「まあ、気持ちを口にするのは大切というし良かった良かった」


 スマホを置き眠ろうとするもふとその手は止まる。


 美里さんからの返信は0時過ぎ、つまり4月1日のことだ。ということは……


 そのことに気が付いた時に追撃をするかのようにスマホが「パイン! 」となりメッセージが表示される。


『私も修三君のこと好きだよ』


「ああああああああああああああ! ! ! ! どっちだ! 嘘か? 本当か? どっちなんだ美里さあああああああああああああああん! ! ! ! ! 」


 こうしてオレは悶々とした気持ちで一夜を過ごしたのだった。








次回4月2日更新予定です。

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