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第53話「試験官はお母さん! ? 」

 「こんにちは、坂田さん」


 目の前に櫻井さんによく似た女性はオレに愛想よく笑顔で微笑みかける。


 これは一体どういうことなのだろう? 櫻井さんに姉がいるという話は聞いたことがないが母親にしては若い気がする。となると……彼女は一体誰なんだ? いや消去法で答えは1つしかない。


 オレは女性の正体に1つの確信を得て自信ありげに挨拶をする。


「こんにちは、貴方が櫻井美里様ですね。よろしくお願いいたします」


 そう、姉もおらず母でもなさそうということは彼女の正体は美里さんに他ならない! 声も少し落ち着いた感じに作って化粧をし試験後に正体を明かそうという魂胆なのだろう。しかし甘かったね美里さん!


 さらりと変装を見破られ正体を突き付けられた美里さん? はクスリと笑った。


「坂田さんって聞いていた通り面白い方ですね、私は美里ではなく美里の母の真仁(まさみ)と申します」


 見破られてもなお演技を続けているのか本当なのか判断に困ったオレは斎藤さんにアイコンタクトで助けを求めると斎藤さんは額に汗を浮かべながら「あの方は美里様のお母上様です」というように頷いた。


 なるほど、斎藤さんの反応を見るに彼女は本当に櫻井さんの母親のようだ。となると……


「失礼しました、あまりにお若いので美里お嬢様かと勘違いしてしまいました」


 オレのしたことはものすごく失礼なことだったと焦り即座に斜め45度に上体を曲げて謝罪する。すると彼女は笑いながら再び


「本当に面白い方ですね」


 と言った。


 危なかった、失礼なことを言って一発アウトは免れたようだ。敬語を保ったお陰で勘違いで櫻井さんの知り合いだと知られないようにしようという気遣いをも無駄にしてしまうのは済んだのは幸いだ。


「それでは、自己紹介も済んだところですし試験を始めましょうか」


「はい! 」


 オレは好印象を与えるように【元気よくハキハキと】を意識して返事をする。


「そうねえ…………隣町のデパートまで運転してくださる? 」


「はい! 」


「高いを英語で? 」


「はい! ……え? 」


「うふふ、それじゃあいきましょうか」


 彼女は愉快そうにそう言うと後頭部座席へと回った。


 櫻井さんのちょっとお茶目なところは母親譲りかな?


 そんなことを考えながらも急いで運転席の扉を開き車内へと入った。


 まずはボタンを押して後頭部座席のドアを開く。櫻井さんはドアサービスを嫌うというのは家族にも周知の事実とのことだ。つまりオレにとってここのボタンプッシュ、これが最初のミッションだ! 以前のオレはここで数回程誤ってボンネットを開いていた、しかし今のオレは違う! 確実に開いて高得点を取りに行く!


 自らの成長を噛み締めながらボタンを押すとドアが開く音がする。しかし数秒しても入ってくる気配がないので振り返って驚愕する。


 開いたのは、試験官の彼女が立っていたドアとは逆の右側のドアだった。


 いつも右側から入ってくる想定で練習をしていたからつい右側を押してしまったあああああああああああああああああああ!


「失礼しました! 」


 謝罪しながらドアを閉め左側のドアのボタンを押すとすぐに彼女が乗り込んでくる。既に試験は始まっているのか彼女は何も言わない。


「出発します」


 その言葉を合図に車庫から車を出す。門の前で一時停止するとセンサーが車を感知し自動で門が開く。再び車を発進させ曲がり角で上下左右の安全確認を済ませると道路へと走り出した。


 運転し慣れた道を法定速度を守って進んでいく。後ろから車が追い付いて迫ってきたりするもそこで慌ててはいけない。櫻井さんに快適に過ごしてもらわなければならないのだ! 故に曲がり角ではしっかりと事前にスピードを落としてから曲がり途中でブレーキを踏んだり急に曲がることで彼女に負担をかけないようにする。また、停車時もガクン! とならないように静かに徐々にスピードを落としながら優雅に停車をするのだ。MTだと交差点で右折するときなどスピードを落とす時に誤ってエンストしてしまわないかとか不安だったのだけれどこの車はATなので安心だ。


 斎藤さんに教えてもらった通りの運転で何事も起きずに隣町の以前櫻井さんと映画を観たデパートへと到着する。


 ここまでは順調、あとは帰り道だな……なんだってえええええええええええええええええ!


 ついつい気が緩んだところを駐車場のある表示によって冷水をかけられたような気持になる。駐車場の黄色い案内板には赤い電光文字で「満車」と表示されていた。


 オレは車を停車させて空くのを待ちつつ身をすくめる。


 …………気まずい。


 運転している最中は手を動かしながら周りにも気を配りとやることが多々あり気にならなかったけれどこう一気に減ると気まずさが押し寄せてくる。こういうとき、美容院やタクシードライバーは話を振ればいいのだろうけど何を話せばいいのか……


「お嬢様ってどのような方なのですか? 」


 とりあえず当たり障りのなさそうな質問をする。加えて櫻井さんのことをあまり知らない他人だとアピールも出来て我ながら良い質問だと思った……のだけれどそれを聞いた真仁さんは眉を顰めた。


 しまった、マズかったかな。早くも雇い主である櫻井さんを狙う男に見えてしまったのだろうか?


「美里は強くて優しい子ですよ」


 しばらくするとそういった答えが返ってきた。心の中で頷く。


「そうでしたか、お会いするのが楽しみです」


 そう言ったところで一台車が出て来たので入れ替わるように駐車場へと入り駐車をする。駐車はうまくいったもののあることに気が付いてハッとする。


 勢いで入ってしまったけれどこの駐車場は出るためには買い物をするか映画を観ないと有料だったはずだ。いや、30分以内は無料だったかな? だとしてもこんな満車の時間帯に入ったと思ったらすぐ出るなんて後ろに並んでいた人たちに申し訳ないし冷やかしも良いところだ! いや、待てよ……


「お買い物されるのですか? 」


「ええ、しばらくここで待っていてください」


 思った通りこれからショッピングのようで「かしこまりました」と言い後部座席のドアを開くと真仁さんはバッグを抱えて店へと向かっていった。


「疲れた~」


 真仁さんが見えなくなったのを見てシートに崩れるようにもたれかかる。フカフカとした感触が心地いい。


 こういうお買い物などの時間、運転手は好きに使って良いという話なのだけれどいざそうなるとどうするべきか困るものだ。


「気分的には一睡したいけどそれで真仁さんが来ても起きなかったらマズいしなあ」


 今のオレにはここで眠ったら絶対に数時間は起きないだろうという変な自信があった。そうなると真仁さんが帰ってきても起きず彼女はオレが起きるまで車にも入れずなんて羽目になり一発アウトだろう。


「どうしようかな~」


 オレは頭を抱えた。

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