第38話「カツカレーステーキ」
「櫻井さん、どうしてここに! ? 長い間来ていないんじゃなかったの? 」
「修三君こそ! 」
オレ達は相席というのもあって2人で1つのテーブルに向かいあって座っていた。斎藤さんはオレがいるのを確認すると何故か車へと戻って行ったようだ。
それにしてもどうして彼女がここに? 今日が約束の日なんてことはないわけで偶然下見しようと来ただけなのに
しかし、正直に下見に来たと本人に言うのも何か違う気がする。ここは……
「ごめん、実はオレこの店の常連だったんだ」
嘘には人を不幸にする嘘と幸せにする嘘が存在する。これは櫻井さんを幸せにするための嘘……だと信じたい。
「そうだったんだ、それならそう言ってくれればよかったのに! 」
どうやら彼女は信じてくれたようだ。それならば、今度はこちらの質問に答えてもらうとしよう!
「それで櫻井さんはどうしてここに? 」
オレの質問を聞いて彼女は「しまった」というような顔をした後に黙ってしまった。数分後に彼女が口を開く。
「あ! 実は私もこのレストランの常連なんだ~」
何その「あ! 」って今考えたみたいなやつは……もしかして櫻井さんもオレと同じで下見に来たのに咄嗟に嘘をついて!
とオレが不審に思ったその時
「お待たせしました、カツカレーとステーキ、それからメロンソーダアイスになります」
オレの目の前に注文していた料理が並べられる。
「え、修三君っていつもこんなに食べるの! ? 」
なんてこった! 常連ということはつまり毎回これを食べているってことになったじゃないか!
元々残すつもりはないとはいえこれで完全に残すという選択肢はなくなってしまった!
「勿論さ、なんせオレは常連だからね! 」
嘘を認めて謝罪したらしたで本当のことも話し辛いので強行するためにナイフとフォークを手に取った。ステーキと同じくらいボリュームのあるカツがこうなると恨めしい。しかし、現在手元にはナイフとフォークとスプーンがあるわけだけれどこれで良いのかな? ステーキとカレーを1度に食べたことなんてないので正解が分からない。
もはやこれまでか……
観念して頭を上げ櫻井さんを見る。すると彼女と目が合った。
いや、まだ誤魔化せる!
「実はいつもこの2つ頼むんだけどギリギリでさ、よければ櫻井さんどちらか食べてくれない? ステーキなら今からライス頼むから」
息を吸うように嘘をつきつつ提案する。それを聞いて彼女は申し訳なさそうに言った。
「ごめんね、私今日天丼が食べたいんだ。冷めちゃうとまずいから先に食べていて」
天…………丼………………それって…………オレは何のためにカツカレーとステーキを頼んだんだあああああああああああああああああああああ! ! ! ! ! 一番重要な櫻井さんの好きな食べ物を聞くという行為を怠ってしまったああああああああああああああああああああああああああ! ! ! ! !
思わず頭を抱えたくもなるのを彼女の前だからグッと堪える。叫ぶ代わりにオレは覚悟を決めてナイフとフォークを駆使してステーキをカットし1切れ食べる。噛んだ瞬間柔らかい肉がフワッと口の中で溶けるのとともに肉汁が広がる! これは……良い肉だ!
お次はカレーだ! 素早くナイフとフォークを置きスプーンを持ちカレーを食べる! 甘っ! ! でも辛い! ! 甘さの後に辛さが来る素晴らしい味だ。そんなカレーにボリュームを与えるのがとんかつ! 正にベストマッチだ。
「修三君って凄い美味しそうに食べるよね」
頬杖をつきながらオレの食べっぷりをみていたらしい彼女が言った。オレはそれを聞いて途端に恥ずかしくなり箸ではなくスプーンが止まる。しかしとあることに気が付いた。
ん、『美味しそう』?
『美味しそう』というのは食べてみたいという意味で前回はそれで「あーん」をしたから『美味しそう』というのは…………
つまり「あーん」して欲しいということか! !
オレはそう彼女の意思を汲み取ると即座にフォークを手に取りステーキに刺して彼女の口元へと運んだ。
「はい櫻井さん、あーん! 」
「しゅ、修三君! ? 」
オレの予想に反して彼女はアタフタしていた。しかし、オレがフォークを引っ込めないでいると観念したのか口を開いた。
「うん、このお肉美味しいね! ありがとう修三君」
恥ずかしそうになりながらも彼女はオレにお礼を言った。
予定外の形になってしまったけれど何とか上手くいったようだ。あとは……
オレはまだかなりの量が残っているカツカレーとステーキを見て苦笑いする。
これらを完食するだけなんだけれど出来るかなあ。