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第24話「念願の……」

 櫻井さんとハグをしようと決めた翌日、オレは机で頭を抱えていた。


「マズいぞ……もう時間がない! 」


 時刻は既に13時を回り約束の15時まであと2時間と迫っていた。


「ちくしょう! 何がプリクラでハグすれば良いか、だ! 余りに大雑把すぎる! 何でそれでイケると思ったんだ昨日のオレは! 」


 そう言いながらドン! と机を軽く叩く。


 プリクラでハグをするというのはカップルなら冗談を言い合いながらイケるだろうがいかんせんオレと櫻井さんはまだ付き合ってすらいないのだ! プリクラでハグなんて不可能に決まっている! それをさも簡単にできると判断してしまうのだから深夜テンションというのは恐ろしい。


 そもそもプリクラってどうやって取るんだ! ? 今からプリクラでハグするのを考えてプリクラの取り方を調べるなんて出来るのか! ? いやまずは、こう考えている時間がもったいない! 集合写真を除けばこれが櫻井さんとの初めての2ショット写真なんだ、絶対に成功させなくては! !


「まずはプリクラの取り方及びポーズからだ! 」


 オレはスッと起き上がりスマホを起動しプリクラの撮り方を検索する。


「わひゃああああああああああああああああああ! ! ! ! 」


 途端にオレは顔を手で覆いながら奇声をあげる。


 何と画像で表示されているプリクラを取っているカップルの姿は背負っていたり腕を組んでいたりと様々だったがどれも身体が密着していたのだ!


「オ、オレが櫻井さんを背負ったり2人で腕を組んだり………うわああああああああああああああああああ! ! ! ! 」


 思わず椅子から転げ落ちる。背中を打つもその時のオレは痛みを感じなかった。


「櫻井さんをおんぶ………櫻井さんと腕を組む………なんて幸せなんだろう」


 それから30分程、オレは甘い妄想に浸るのであった。



 30分後


「バカやろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! ! ! ! 」


 ハッと我に返り勢いよく起き上がる。


 ここを逃したらそんな機会が遠のくというのに思わず30分も無駄にしてしまった! 再びポーズを調べるのを再開する。2人でハートを創ったり念願のハグをしたりとどれも仲睦まじそうで羨ましい。


「でも全部無理そうだよな」


 残念なことにオレ達は付き合っているわけではないためこんなふうにラブラブそうな写真は撮れないのだ!

 検索ワードにカップルを混ぜたらカップルばかりがヒットするのは当然だがそれは参考にはならないようだ。ならば───


「そうか、カップルを外せばいいんだ! 」


 至極簡単なことだった。友達同士で撮っているのを参考にすればよかったのだ! 検索ワードからカップルを除外すると女性同士でとっているものが表示された。


「なるほど、こういうポーズが流行っているのか」


 オレは人差し指を立てたりピースを作ったりと身体に覚えこませるように10パターン程候補を選び何度も何度も練習をした。


「完璧だ………」


 繰り返すこと30分、順番を何度バラバラにしても10パターンのポーズを即座に出来るようになったオレは達成感を得る。


「よし、次はプリクラでハグをする方法だ! 」


 1歩前進したのだがすぐさま次の作戦に取り掛かる。オレはノートを開きシャープペンシルを持ち何でもいいからとりあえず浮かんだものを書き出していた。


 作戦その1

「ハグすると美容効果があるんだよ~」と出まかせを言う。


 櫻井さんに美容関係の知識で適うはずもないので却下。


 その2

 問答無用! 撮影寸前にいきなり抱きしめる。


 付き合うことができたらいつかやりたいな。


 その3

「せっかくの男女でのプリクラなんだから恋愛ドラマごっこやろうよ~」と誘う


 恋愛ドラマ詳しくないので却下。


 その4

 いっそプリクラ撮る時に告白しちゃう!


「いっそ」ってなんだよ! 告白は綺麗な夜景とかオシャレな景色を見ながらしたい!


「……しょうがない、その場のムードに合わせるか」


 結局良い案が浮かばず出来もしないであろうに上級者みたいなことを言いながらオレは愛車でスーパーへ向かった。


 スーパーで櫻井さんといつも通り合流をして買い物をする。


「修三君、このあと一緒にプリクラ撮ろうね」


「うん、勿論だよ」


 そのためにオレは色々と調べてきたのだ! しかし、肝心のハグの方法は浮かんでいない。


 思えば女の子はおろか両親にもハグはされたことはなかったのだけれど外国の人は別れの挨拶とかでしちゃうなんて慣習というのは凄いなあ。


 購入したものをバッグに詰めている櫻井さんを眺めながらここが外国だったならと悔やむ。しかし、その時だった。オレの脳裏に稲妻走る、そして生まれる起死回生の一手だった。オレがその閃きに思わずニヤリと不敵に笑ったその時、櫻井さんがこちらを振り向いて尋ねた。


「最初に修三君と会ったとき鶏肉買っていたみたいだっけど何を作ったの? 修三君? 」


「い、いや何でもないよ。えーっと櫻井さんとここで出会ったとき作っていたのは松風焼きだよ。給食で良く出ていたケーキみたいに綺麗な形をしていてゴマが振ってあるやつ」


 松風焼きはオレの中では櫻井さんとの再会やその後の行動も含めて思い出深くあの日作ったということはこの先忘れることはないと考えられないと思うほど鮮明に覚えていた。


「松風焼きかあ…………懐かしいなあ」


 これはまさかの櫻井家の今日もしくは明日の献立のメインは松風焼きかな?


 そう考えていると彼女は頼み込むように手を合わせながら意外なお願いをされた。


「ねえ、修三君が良かったら、悪いんだけど明日松風焼きの作り方教えてもらっても良いかな? 」


「? レシピなら送るけど」


 オレが即答すると彼女が両手を振る。


「違うの、その…修三君とできれば修三君のお家で一緒に松風焼きを作りたいなあって。ほら、私の家だとお手伝いさんがいてお料理させてもらえないから……」


 それを聞いて頭の中が真っ白になる。


 彼女の今の言葉を1から整理をしよう。彼女は料理を作りたい、しかし自分の家では作れない。だからオレの家で作りたい…………


 …………念願のお家デートだああああああああああああああああああ! ! ! !


 脳内でファンファーレが鳴り響く。


 まだ早いと思っていたお家デートをまさか、まさか櫻井さんから提案してくれるだなんて!


 異性の友人と料理を作るのは良くあることなのかもしれないが自然と笑顔になる。その笑顔のまま「よろこんで」と答えた。


「良かった! じゃあ明日よろしくね! ! また明日! ! ! 」


 そう言って彼女は手を振りながらいつもより早く店内で別れの挨拶を済ませ駐車場へ向かって歩き出した。






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