お百度参り
夏休みの ある朝
わたしとお母さんと お母さんの友達二人合計四人で 朝早く 車で一時間ほどのところにある 地元で有名な神社へ行くことになりました。
なぜ朝早くなのかというと
朝早く行かないと道路も神社も混むので
混む時間をさけることにしたのです。
お母さん達はいつも朝早く出かけて 混み出す頃 帰るというパターンです。
でも今回は 午後から みんな予定があるので さらに早い時間でした。
お母さんが 車を運転して 助手席にわたしが座って お母さんの友達二人は後ろの席に座りました。
毎回 神社のそばにあるお店で土産品を見てまわったり お土産を買うのが とっても楽しみで ワクワクしてます。
朝早い道路は 人も車もまばらで スイスイ進みます。
予定より早く到着しました。まだ駐車場もほんの数台の車がとまってるくらいで ガラガラです。
神社の入り口の近くにとめて 車から降りました。
いつもと同じ おごそかな空気が流れています。
この 朝早い清々しい風とおごそかな雰囲気につつまれて歩くのが わたしはとても好きです。
お土産屋さんや食べ物屋さんは まだ開いてません。
お母さんと手をつないで お母さんはわたしのペースに合わせながら 長い石の階段をのぼります。
お母さんの友達は 少し早めのペースでのぼり お母さんとわたしより 先に進んでいます。
一番上までたどり着きました。
すると お母さんの友達の一人が 急に 笑いだしました。
びっくりして なんで笑ってるのかと見回すと 境内で 白い着物を着て 裸足で 神社の参道を走っている女の人が 目に飛び込んできました。
その女の人は 拝殿の中央の 大きな鈴のところで立ち止まり 白い こよりを一本置くと 手を合わせ 今度は 後ろを振り向き 鳥居の所まで 走って行きました
鳥居のところに着くと また 振り返り大きな鈴のところまで 走って行き白いこよりを置き手を合わせてました。それを何度も何度も 繰り返し繰り返し しています。
その姿を見て もう一人の お母さんの友達が
泣いていました。もうすでに 顔は 涙でくしゃくしゃになってます。
お母さんを 見てみると
お母さんは無言で 固まっていました。でも視線は白い着物を着た女の人を追ってます。
つないでいたワタシの手をぎゅうっと握りしめました。
わたしも ぎゅうっと握りかえしました。
社務所のところに 神主さんが居ました。
そのすぐ横に すごく怒っている人がいました。
おまいりが出来ないと。
白い着物を着た女の人を指差しています。
神主さんは困った顔。
それと同時に
社務所のそばの物陰から 若い女の人が
白い着物を着て走ってる女の人を心配そうに見ているのことに気づきました。
そして 境内の中では
ひそひそ 話してる人達もいました。
冷ややかな視線を送る人も。
無関心に歩いてる人も。
少し離れた 手前の祠では 般若心経を一心によんでる人もいます。
白い着物の女の人から 視線をそらしてるうちに
いつのまにか
その白い着物を着た女の人はいなくなっていました。
お母さんとお母さんの友達が「お百度参り 終わって帰ったのかな」と言ってました。
お百度参り
テレビや映画 物語で見知ってはいたものの 実際に見たのははじめて。
このあと お母さん達と おまいりしました。
帰りには お店も開き始め おまんじゅうや おせんべいを買って 朝ごはんがわりに その店で ざるそばを食べてから帰りました。
家に帰ったあとでも あの白い着物を着た女の人の あの場面を思い出して頭から離れませんでした。
わたしにも いつか そういう日がくるかもしれない。
なぜだか そう思いました。
夜 自分の部屋で一人になった時
あの女の人の 願いが叶いますように と
手を合わせて願いました。